この手に楽園を

蓮ゆうま

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一章 旅を始める

新たな出会い

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ユスリと呼ばれた女は、悠然と腕を組んで微笑する。小首を傾げた際にたっぷりとした金髪がはらりと零れて月光を反射した。

「白い人、見つけた・・・やった、一緒に、闘いたい、いい・・・?」

不思議な喋り方をする幼女はじっとケイを見つめている。

「俺と一緒に闘いたい?なぜ。」

「髪、白いから。」

フードを被っていた幼女がゆっくりとフードを剥いでいく。やがて僅かな月の光に晒された髪は、ボブショートほどの長さの白髪だった。

「私、リオン。仲良く、してね・・・。」

闇に浮かぶ大きな瞳は青灰の静かなそれで、雪の如く白い睫毛がそれをより鮮やかに彩っている。ケイと同じ身の上なのか、肌は日光に当たっていないのが明白に分かる白さのそれで、小さな唇はあまり動かない。
可憐で清楚な美少女だ。

「俺はケイ。リオンは旅をしているのか?」

「そう。故郷は、酷い人、ばっかりだから、嫌になって・・・。」

やや俯きがちに話すリオンを見て、ケイの笑みが深くなる。
彼自身、仲間がいたと知って嬉しくなったのだ。

―――初めまして、ケイ殿。確か貴殿は今日村を脱出されたと記憶している。我々は半年ほど前に隣の村から脱出した者だ。私はユスリという。ラクラスの仲間だ。

―――俺より先に魔界堕ちした天使でな。色々と教えてもらったよ。

―――こんなに力が強いのに堕落してきたやつは初めて見たよ。

二人で顔を見合わせて楽しそうに笑う姿を見て、ケイは二人(リオンとユスリ)への警戒を解いた。

「俺と一緒に闘うって具体的にどういうことだ?」

「一緒に、旅をする・・・?」

「なんで疑問形なんだよ・・・。」

彼女が言うには、王都の近くの森で狩りをしていた所を、今夜突如強い力に引き寄せられこの村にやってきたのだという。

「引き寄せられ、ってどういうことだ?自分の意思でやってきたんじゃないのか?」

「気がついたら、ここにいた・・・。召喚、されたのかも・・・・・・?」

そこまで詳しいことは本人にも分からないらしい。

―――ラクラスか、ケイ殿の力だろうね。

「つまり、俺かラクラスがお前らを引き寄せたということか?」

―――それで間違いないだろう。

考え込んでみるも、全く心当たりがない。

―――まあ、悩んでも仕方ないんじゃねえの。それより、ここを離れることが先決だろ?

ラクラスの言葉で一同がハッと辺りを見まわす。周りを見れば、人の屍肉につられた魔物が集まってきていた。それらは、ケイ達も喰らい尽くさんと牙を剥く。

「逃げよう。」

三十六計逃げるにしかず。
ケイが魔力圧に干渉しようとすると、ラクラスがそれを手で制した。

―――俺達にも翼はあるぞ?

ニヤニヤと笑ったラクラスとユスリの背から、漆黒の濡れた翼が勢いよく飛び出す。一対のそれらに魔力を纏わせると、彼らはそれぞれの主を捕まえて飛んだ。

「おいおい、あんまり高度上げんなよ?お前ほど丈夫じゃないんだから。」

―――お前はもう人間じゃないから大丈夫だ。

さっくり言ったラクラスの言葉に、ケイは一瞬虚を突かれた顔をした。やがて深々と息を吐き出す。

「そうだったな。そうだったよ。ああ、そうだったよー。」

ケイがぷくっと頬を膨らませて拗ねた。眠気と疲労が限界に達している彼は最早小さな駄々っ子と同じだった。

―――おいおい。お前そんなに疲れてるのかよ。

「はっ!疲れてるのはどっちだよ。」

目を閉じてうとうとしながらケイが毒づいた。その安心しきった寝顔にラクラスが唸る。

―――お前眠いのか?

「あたりめーだろバカ・・・。」

ユスリとリオンがゴクッと息を呑む。
実は、ケイからは異性は勿論、同性でさえ惑わす、匂い立つような色香が放たれていた。

―――これは俺んだぞ。

脇の下に入れていた腕を入れ換え、ラクラスはケイを姫抱きにした。
華奢な体格のケイとラクラスの逞しい身体が相まって、それこそ絵になるような美しさだ。黒い衣服から覗く雪のような白い肌もまたケイの美貌を引き立てる。

―――行くぞ。

不機嫌さが少し増したラクラスの声色の理由は、一体何故だったのか。
あるいは警告。
あるいは無防備な大切な者に対する諌め。
いずれにしても、ラクラスとケイはもう離れられなくなっていた。
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