この手に楽園を

蓮ゆうま

文字の大きさ
17 / 29
一章 旅を始める

訓練

しおりを挟む

「だって、ユスリ、疲れているだろ、とか言って、教えて、くれないもん・・・。私、結構寂しい。もっと、構って欲しい・・・。」

いじいじと髪を触りながらリオンが訴える。

―――うっ、それは、まあ事実だが。

「私だって、戦えるよう、に、なりたいよ・・・?」

リオンが上目遣いでユスリを見上げる。ぺたっと尻を地面にくっつけて座り、太ももの前に置いた片手と服の間から見える白磁の肌は、堕天使でさえも酔わせる。
触りたい。守ってあげたい。抱きしめたい。そばに居たい。
その無意識にやっている(!)ポーズは、誰であろうとその者の本能をくすぐる。

―――目が・・・。

静かに呟かれたその一言が、全てを語っていた。
とても可愛い。
その微笑みは万人を魅了し、愁いを帯びた瞳は見る者の心を震わせる。将来、彼女は微笑み一つで世界を動かす女にもなり得るだろう。
王妃として国王の側に侍り。
女郎として寝物語に夢を語る。
あるいは、その美貌を持ってして多くの者を纏め上げ、女帝として君臨する。
その白髪さえ、なければ。
違う色ならば。

―――ケイ。訓練するぞ。

「え?ちょっと待て今そんな流れじゃなかったぞ。引っ張るな。」

―――いいからここに座禅を組め。

「あ!ほら、アウラの世話しなきゃいけないだろ?」

―――そんなの俺が適当に使い魔召喚してやらせればいい。

「・・・・・・ラクラス。」

ケイがラクラスを睨む。しかしそんな視線を歯牙にもかけず、ラクラスはケイの意識を、彼の精神世界へと叩き落とした。

「うあっ・・・。」

―――今お前の精神世界へ落下している。意識をしっかり保てよ?

ケイは硬い地面に為す術もなく叩きつけられた。立ち上がってそこを見まわす。
そこは荒れ果て、生命の気配が全くしない荒野だった。

―――ここはお前の精神世界。深層心理とも言うな。よってここは今のお前の状態を一番よく映し出す。

言われて、ケイは足元に転がる石の一つを手に取ってみた。それは少し力を加えると砂のようにもろく崩れ去る。
同時に、自分の中から何か大切なものが消えていくような気がした。

―――こら、不用意に触るな。ここにある全てはお前を構成している大切な一部(パーツ)だ。さっきみたいに小さな石だったからいいが、地面を抉ってでもしてみろよ?お前廃人になるからな。

「へえ・・・。なんか俺も知らないことをお前はよく知ってるな。」

―――どうだ、恐れ入ったか。

「いや全然。」

あっさりとしたケイの回答にラクラスがバランスを崩してズッコケる。一度咳払いをして仕切り直したラクラスがもう一度ケイに座禅を組ませた。
そして、自分の内に秘められた魔力を感じ取るよう言う。

―――これが今のお前の心だ。いいか。
感じろ、お前の感情を。
操作しろ、自分の心を。
巡る魔力が分かるだろう?

ケイが深く息を吐いた。


ふーーっ。


今度はゆっくりと息を吸う。


すーーっ。


やがて深呼吸を繰り返すケイの呼気に、金色の霧氷が混ざり始める。
霧のように軽く、実体を感じさせず。けれども触れれば痺れるほど冷たく、それが氷だということをやっと思い出させる。
呼気と共に吐き出されるその霧氷は段々その量を増していき、辺りに漂いながら渦を巻き始めた。

―――・・・・・・。

それがケイの体を覆い隠すほどの量になった時、ケイがゆっくりと目を開いた。
それは、ケイと似て非なるものだ。
その眼は世界の法則を映し、唇は宇宙の心理を語る。
“大いなるもの”そのものだった。

「たい・・・ん、らい、の。げ     き・・・・・・てお、た    ?」

―――お陰様でね。やっぱり君か。

「か、づいて・・・る、ら・・・さっ    とよ、だせば・・・よい   に。」

―――それは出来ないんだよ。こっちにも都合っていうものがあるから。

「よ、く・・・うわ。ど    せ、たすき・・・・・・・・・うご、とる     んだろう。」

―――それは君に話すことじゃない。そろそろ立ち去ってくれ。

「今しばらく、さらばだ。」

今までよく聞こえなかった言葉が、最後の一言だけやけに明瞭に紡がれる。
その言葉を紡ぎ終えると、その“大いなるもの”は去り、代わりにケイが目を輝かせて語る。

「ラクラス!体を巡る魔力が分かる!全身を循環して胸に来て、核を一周してからまた全身に行き渡るのが分かる!すごいな、これ!」

―――お前そんな所までのぞいたのか。

「は?どういうことだ?」

―――いや、なんでもない。

ラクラスが覗いたのは、ケイすら知らないケイの秘密。
その秘密はやがて、世界を動かす。







大分大きな伏線を張りましたが、回収するのは予定だとかなり先になりそうです。
これからも「この手に楽園を」をよろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...