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一章 旅を始める
訓練
しおりを挟む「だって、ユスリ、疲れているだろ、とか言って、教えて、くれないもん・・・。私、結構寂しい。もっと、構って欲しい・・・。」
いじいじと髪を触りながらリオンが訴える。
―――うっ、それは、まあ事実だが。
「私だって、戦えるよう、に、なりたいよ・・・?」
リオンが上目遣いでユスリを見上げる。ぺたっと尻を地面にくっつけて座り、太ももの前に置いた片手と服の間から見える白磁の肌は、堕天使でさえも酔わせる。
触りたい。守ってあげたい。抱きしめたい。そばに居たい。
その無意識にやっている(!)ポーズは、誰であろうとその者の本能をくすぐる。
―――目が・・・。
静かに呟かれたその一言が、全てを語っていた。
とても可愛い。
その微笑みは万人を魅了し、愁いを帯びた瞳は見る者の心を震わせる。将来、彼女は微笑み一つで世界を動かす女にもなり得るだろう。
王妃として国王の側に侍り。
女郎として寝物語に夢を語る。
あるいは、その美貌を持ってして多くの者を纏め上げ、女帝として君臨する。
その白髪さえ、なければ。
違う色ならば。
―――ケイ。訓練するぞ。
「え?ちょっと待て今そんな流れじゃなかったぞ。引っ張るな。」
―――いいからここに座禅を組め。
「あ!ほら、アウラの世話しなきゃいけないだろ?」
―――そんなの俺が適当に使い魔召喚してやらせればいい。
「・・・・・・ラクラス。」
ケイがラクラスを睨む。しかしそんな視線を歯牙にもかけず、ラクラスはケイの意識を、彼の精神世界へと叩き落とした。
「うあっ・・・。」
―――今お前の精神世界へ落下している。意識をしっかり保てよ?
ケイは硬い地面に為す術もなく叩きつけられた。立ち上がってそこを見まわす。
そこは荒れ果て、生命の気配が全くしない荒野だった。
―――ここはお前の精神世界。深層心理とも言うな。よってここは今のお前の状態を一番よく映し出す。
言われて、ケイは足元に転がる石の一つを手に取ってみた。それは少し力を加えると砂のようにもろく崩れ去る。
同時に、自分の中から何か大切なものが消えていくような気がした。
―――こら、不用意に触るな。ここにある全てはお前を構成している大切な一部(パーツ)だ。さっきみたいに小さな石だったからいいが、地面を抉ってでもしてみろよ?お前廃人になるからな。
「へえ・・・。なんか俺も知らないことをお前はよく知ってるな。」
―――どうだ、恐れ入ったか。
「いや全然。」
あっさりとしたケイの回答にラクラスがバランスを崩してズッコケる。一度咳払いをして仕切り直したラクラスがもう一度ケイに座禅を組ませた。
そして、自分の内に秘められた魔力を感じ取るよう言う。
―――これが今のお前の心だ。いいか。
感じろ、お前の感情を。
操作しろ、自分の心を。
巡る魔力が分かるだろう?
ケイが深く息を吐いた。
ふーーっ。
今度はゆっくりと息を吸う。
すーーっ。
やがて深呼吸を繰り返すケイの呼気に、金色の霧氷が混ざり始める。
霧のように軽く、実体を感じさせず。けれども触れれば痺れるほど冷たく、それが氷だということをやっと思い出させる。
呼気と共に吐き出されるその霧氷は段々その量を増していき、辺りに漂いながら渦を巻き始めた。
―――・・・・・・。
それがケイの体を覆い隠すほどの量になった時、ケイがゆっくりと目を開いた。
それは、ケイと似て非なるものだ。
その眼は世界の法則を映し、唇は宇宙の心理を語る。
“大いなるもの”そのものだった。
「たい・・・ん、らい、の。げ き・・・・・・てお、た ?」
―――お陰様でね。やっぱり君か。
「か、づいて・・・る、ら・・・さっ とよ、だせば・・・よい に。」
―――それは出来ないんだよ。こっちにも都合っていうものがあるから。
「よ、く・・・うわ。ど せ、たすき・・・・・・・・・うご、とる んだろう。」
―――それは君に話すことじゃない。そろそろ立ち去ってくれ。
「今しばらく、さらばだ。」
今までよく聞こえなかった言葉が、最後の一言だけやけに明瞭に紡がれる。
その言葉を紡ぎ終えると、その“大いなるもの”は去り、代わりにケイが目を輝かせて語る。
「ラクラス!体を巡る魔力が分かる!全身を循環して胸に来て、核を一周してからまた全身に行き渡るのが分かる!すごいな、これ!」
―――お前そんな所までのぞいたのか。
「は?どういうことだ?」
―――いや、なんでもない。
ラクラスが覗いたのは、ケイすら知らないケイの秘密。
その秘密はやがて、世界を動かす。
大分大きな伏線を張りましたが、回収するのは予定だとかなり先になりそうです。
これからも「この手に楽園を」をよろしくお願いします!
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