この手に楽園を

蓮ゆうま

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一章 旅を始める

訓練2

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魔力は人の体を常に循環している。一般人はその流れを感じ取ることが出来ないが、修行をすれば感じることが出来るようになる。

「魔力が指先や爪先まで行き渡っているのが分かるんだ。とても面白い。」

―――そうか。なら魔力を纏ってみよう。

「魔力を纏う?」

胡乱げにケイが眉を寄せる。

―――俺が地上に昇る時にやってただろ?翼に魔力を纏わせるやつ。

「お前普通に翼で飛べないのか?」

―――それをしようとすると、胸筋とかの筋肉がすごい必要になってくるの。

「そうか。堕天使にも物理的な要素っているんだな。」

―――一応生きてるからな?

ひくっと頬を引き攣らせたラクラスが釘を刺す。別に魔物だからと言って青い血が流れている訳でもないし、一応心臓は動いて赤い血が流れている。

「そうだろうな。」

―――当たり前だ!えーと、魔力を纏わすだったな。じゃあまず、右腕に魔力を持っていく感じで。

ケイが目を閉じて集中する。やがて、ケイの魔力が右半身に移動し始めた。左半身は最低限の循環に留め、右半身を中心とした循環を新たに形作る。
ラクラスやユスリなど、彼ら堕天使には、物に宿る魔力が見える。それは、彼らが堕ちる代わりに得た能力とも言われていた。
だから、ケイにとっては丁度いい練習相手なのだ。

「こう、か・・・?」

確かに、ケイの右腕には魔力が纏われていた。
高位の冒険者でさえ軽く凌駕するケイの魔力のほとんどが。

―――おまっ、それ悪いって訳じゃないけど・・・!なんかもっと加減するとか出来ないのか?

「なんか減らそうとすると一気に減っちゃう気がして・・・。」

―――いいからとりあえずやってみろ。

体の構造を隅々まで理解し、各所に適応させるように魔力を滑らせていく。
細心の注意を払い、心の琴線を細く細く削り、必要な量だけの魔力だけを腕に集中させた。

―――上手くいってる。

「・・・・・・良かった。ああ今日も疲れたよなんでまたこんなことを・・・。」

―――そりゃお前が魔力圧をより使えるようにするためだ。あの類は精緻で細かい魔力操作が必要とされるからな。

「あー、だから昨日もあんなに精神的に疲労したのか。」

―――そういうことだ。まあ慣れてないことをやったら誰でも疲れるけどな。

ケイが、一仕事終えたとばかりに地面に座り込む。そんなケイを薄く笑いながら見つめてラクラスが言った。

―――大丈夫だ。まだまだ練習するぞ。

「・・・・・・は?」

ケイが愕然とした表情をする。

「嘘だろ?あんなに疲れたのに?もうあんなもの二度とやりたくないと思っていたのに!」

―――大丈夫だ。やればやるほど慣れるから疲労は消える。どうしようもなくなったら相手してやるから。だけど、この場所は絶対に壊すなよ?

ラクラスが修行の場所をケイの精神世界に選んだのは秘密がある。
ケイは筋はいいが、呑み込むのはあまり早い方ではない。おまけに気が長い方でもないので、上手くいかないと力に任せて解決してしまいがちな部分がある。それをもし地上で行えば甚大な被害が出ると同時に、ケイ自身にも大怪我をさせる危険性があった。
ラクラスとしては、そんな事態は何としてでも避けたい。
だからこそ、傷つけてはならない場所でわざと練習させ、その集中を高めようとしたのだ。

すーーっ。

ふーーっ。

「多すぎず、少なすぎず、丁度よく・・・。」

ケイがラクラスの言った言葉を呪文のように復唱している。
だが彼がイメージしていることとは対照的に甚大な魔力が彼の右腕に集まる。ダメだったか、とラクラスが諦めかけた瞬間、それらがふっと霧散した。
同時に、ケイの右腕がその姿形を変える。
白く滑らかだった肌は虹色に輝く鱗に変化し、その爪は鋭く長く尖った。手首から肘までは金色を帯びた美しい羽毛が一列に並んで生え、腕全体が清冽なオーラと光を放っているようだった。

「どうだ、こんな感じか。」

得意げにラクラスを見たケイは、次の瞬間ぽけらっと口を開けたラクラスを見て虚をつかれたように目を見開いた。

「ラクラス?おーい、ラクラス?お前大丈夫か?」

ケイが形状の変化した右腕をラクラスの目の前で振ると、やっと彼は別次元から帰ってきた。

―――お前はやっぱりそういう奴だよなぁそうだよなぁ・・・!

ラクラスはまるで腰が抜けたように、かくりと地面に座り込んだ。
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