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一章 旅を始める
訓練3
しおりを挟む「ラクラス?大丈夫か?」
突然座り込んだラクラスを訝しむようにケイが駆け寄る。
―――お前がやったのはまた次の段階だ。普通はそこまで行けないぞ・・・?
「そうなのか・・・。」
特に感慨なく自分の腕を見下ろすケイ。
―――よし、じゃあ実戦訓練だ。
「は?」
―――地上に戻るぞ!もう魔物を狩ろう!
半ばヤケになってラクラスが叫ぶ。それぐらい、彼にとってこの出来事は衝撃的だったらしい。
「あ、待てラクラス。地上にどうやって戻るんだ?」
そもそも、ここは地下ではなくケイの精神世界なのだから、本当に地上というのかは疑問だが。
そこはとりあえず脇に置いておいて、ケイは戻る方法をラクラスに問いかける。
―――戻りたいと思えばいつの間にか戻ってるぞ。
「ん・・・、じゃあこうか。」
ざぁぁっとケイを清涼な風が取り囲む。それらに押し上げられるような感覚を覚えたあと、いつの間にか地上に戻っていた。
最後に感じたものより少し温みの増した風が頬を撫ぜる。
「おか、えり・・・。どうだった・・・?」
「まあまあだな。」
口ではそう言っているが、彼の口元に浮かんだ笑みを見て、リオンはなにか進展があったことを悟る。だがそれをあえて追求せず、彼を魔物狩りに誘った。
「これから、ユスリと、魔物狩り、にいくの・・・。一緒に、行こ・・・・・・?」
「俺もそうしようと考えていた。」
嬉しそうに笑うリオンを見て、ケイが更に嬉しそうに笑み崩れて頭を撫でる。傍から見るとまるで兄弟のようなその行動に、見守っていたユスリは心が温かなもので満たされていくのを感じていた。
以前のリオンは、あんなに穏やかに笑う少女ではなかった。それどころか笑うことすら忘れていたのだ。
彼女の産まれた村は、国で主に信じられている宗教の「ユビシュ教」を厳格に信じる排他的な村で、白髪の者を忌み嫌う傾向が特にあった。ユビシュ教の教典には、
「白髪の者生まるる時、それは親の責任にあらず。その者の前世の業により報いを受けたもの。さすれば、その者にとって一番の救いは自らを産んだ親の手で始末させてもらうことである。」
とある。習慣として、白髪白眼又は白髪の赤子は、満二歳までに殺されていた。
だが、リオンの母親だけは違った。彼女を守り、村の者に背いて彼女を大切に養育していたのである。しかも、リオンを殺したものとして。
だがその嘘は直にバレる。彼女は森の近くにある大きな木の虚にリオンを入れて二年近く養育していた。毎日森に向かうリオンの母親を訝しんだある村の男が彼女の後をつけたのだ。
そこからは、幼いリオンにとって衝撃的であり、一生忘れることの出来ない記憶となった。
まず怒り狂った村人は、リオンの目の前で母親を惨殺した。彼女を釜茹でにした後、五体をバラバラにして切り刻み野山にまいた。その後、狂っているとも言える魔手をリオンにも伸ばしたのである。
そこで、ユスリがリオンを助けた。
心身共にボロボロのリオンに言葉を教え、笑うことを思い出させ、生きる力を与えたユスリの努力は凄まじいものがある。それと同時に、ここまで“普通の子供”のようになったのは奇跡と言っても過言ではなかった。
「ユスリ、森に入ってくるからラクラスにも伝えといて。」
回想に浸っていたユスリを、ケイの声が現実に引き戻す。
「ラクラスはどこに行ったんだ?」
「知らない。どっかいるだろ。」
素っ気なく言うと、ケイはリオンと森に分け入っていく。その華奢な背中を眺めながら、ユスリは強制召喚された時のことを思い出していた。
時刻は深夜を回り、夜に活動する魔物でさえも眠り始める頃。そんな時、ユスリとリオンは突如浮き上がった転移魔法陣に吸い込まれた。
魔法陣は、術者の器によって込められる魔力量の上限が決まっている。また、自分より力量が上の者に作用することが出来ない。
リオンとユスリは、単体でも生半可な力量ではない。それを一度に、しかも抵抗する間さえ与えることなく二人も転移させるとは・・・。
ケイは、何者だ?
本当に、ただラクラスの加護を受けただけの青年か?
ラクラスは堕天使の中でもトップクラスの実力を誇る。だが、その堕天使に庇護され力を分け与えられたからと言って、単純にあそこまで強くなれるだろうか。
ケイ
ラクラス・ガリエラ
彼らの正体は、なんだ・・・?
思考の海に沈むユスリを、気配を断ったラクラスが見つめていた。
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