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一章 旅を始める
宿場町攻略
しおりを挟む「これ、本当にやるのか・・・・・・?」
―――ああ、もちろん。
修行をしたり、リトルフェンリル十五体を相手取ったりと忙しかった日の夜。ケイは今、近くの宿場町に来ている。
困惑の色が滲む呟きはケイが放ったものだ。
「俺はやりたくないんだが。」
―――いいだろ。危なくなったら俺が助けてやるから。
「なんだその、骨は拾ってやるから的な言葉は・・・。」
もう一度改めて言う。
ケイは、着飾った状態で夜の宿場町に来ている。
「この宿場町を攻略するのにこんな小細工はいらないと思うが。」
―――まあそう言わず。
「だってそうだろ。俺とリオンがいればいいじゃないか。」
どうせ平和ボケしてまともな力なんか持ってないんだから、と続けるケイをにやりと笑ってラクラスが見やる。
―――情報収集がまだまだだな、ケイよ。今回は、白髪じゃないかと噂がある上級騎士が来ているのだよ。しかもそいつは男色家だ。
この国では男色は高貴なものとされ、異性間の愛よりも歓迎されている節がある。
「おいおいおい・・・!まさかだけどそれに捧げられる、なーんてわけは、ないよなぁラクラス?」
―――それがあるんだなぁ。
「ふざけんなてめぇ!」
ケイがラクラスに食ってかかる。動いた拍子に細かい意匠の施された腕輪と耳環が玲瓏な音を立てた。
―――しゃらしゃら言ってる・・・。
「・・・・・・・・・。もうやだ・・・。」
―――頑張れよ、ケイ。お前には魅力があるから大丈夫だ。俺もついててやる。
その髪と目にも偽造をかけてやるから、と笑う。完全にやる気のラクラスに、十分ほど睨み合いをしてケイが折れた。
「分かった、分かったよ、やればいいんだろ・・・?やるから、潜入するから、行ってくるから・・・。」
―――途中までは俺も付き人だからな。
現在ケイの目の前にある宿場町はかなり大きい。この国でも五指に入るだろう。
宿場町は、大きければ大きいほど、夜になるとその姿を変える。旅人や冒険者の疲れを癒し籠絡する、花街に変わるのだ。
―――渡りの陰間ってことにしとくから。ほらこの布被っていくぞ。
ケイの頭にばふんと被せられたのは、黒地に金糸で細かい縫い取りがされた大きな上着。それを頭から被り、ケイとラクラスは宿場町に足を踏み入れた。
「なんて美しいんだ・・・。」
街の人々が感嘆のため息を零して見つめる先には、二人の旅人の姿があった。
「着ている服もすごく高価だ。」
「見ろよあの肌の白さ。見たことねえ。」
「あんなに綺麗な陰間が来るのは久しぶりだなあ・・・。」
誰もがほう、と見とれて目が離せなくなる二人組は、もちろんケイとラクラスだ。
ケイは、体のラインが見えるぴったりとした黒い、金糸銀糸をふんだんに使って縫い取りしたシャツに、これまたぴったりとした黒いズボン。その上に先程被せられた服を被いて鮮やかな紅が差された唇だけを覗かせている。伸びるに任せてざんばらだった白い髪は丁寧に梳られ、流れるような金髪に色が変わっていた。
ラクラスは、ゆったりとした裾の長い服を着て帽子を目深に被っている。体の各所にまとわりついていた金髪は頭頂で一つに纏められ、ポニーテールに結い上げられていた。時折ひらひらとめくれる服から、鍛え上げられた鋼の体が覗く。
優雅に歩いていたケイ達に、立派な身なりの騎士が近づく。
「おい、あいつら将軍様のお呼びだぜ。」
「ああ、あの男色家の人か。しかし、あんなに綺麗ってことはバカ高いんだろうなぁ、あれを侍らせられるのはすごいよ。」
「バカヤロ、だから将軍様なんだよ。」
艷麗な雰囲気を醸すケイ達を囁きが取り囲んだ。そこで、ケイは被っている衣から、一度目元を覗かせた。
「うわ・・・!あんなに綺麗だったのかあいつ・・・・・・。」
「ありゃ将軍様も虜になるさ。」
「見ているだけでご利益がありそうだね・・・・・・。」
後ほど、朝が来る前に町を去ったケイとラクラスに神の美しさを見出した町民は、その二人を“奇跡の二人”と呼んだ。
以後、この町では奇跡の二人の伝説が語り継がれることになる。
一方、将軍が止まっている宿に案内されたケイとラクラスはすぐに通された。
「お前、絶対手ぇ回してただろ・・・?」
―――バレた?
館に到着してからのあまりの手際の良さに、ケイが目をすがめて唸る。対してラクラスはケロッとしている。
―――いやー、まさかこんなに早く通されるとは思わなかったよ。
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