再会した御曹司は 最愛の秘書を独占溺愛する

猫とろ

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「んっ、ふっ……!」

驚き目を見開く。
重なる黄瀬社長と私の唇。
初めはそれが苦しくて、酸素を求めて口を開くとそこに冷たい水が口の中に入り込んで来た。

その清涼感が心地よくて、ごくっと水を飲み込む。もっと欲しいと思った。

すると冷たい唇が離れた。
そして黄瀬社長はまた自ら水を煽り。再び私に口付ける。また口の中に水が流れ込んできて、それをごくりと飲み込む。

「んっ、んんっ……」

水が口からこぼれて顎を伝うのが気持ちいい。
冷たいキスに酔いしれてしまいそうになる。
でも、これは私に水を飲ませるための行為だろう。

愛情からではない。

なのに柔らかに肩を抱く手に、唇と舌先で丁寧に水を渡されるたび、恋人同士みたいな錯覚に囚われる。こんなの気のせいだ。
ただの救護だとわかってるのに体がキスに反応してしまい、羞恥で胸が締め付けられた。

そうして幾度なく、冷たくも熱いキスを交わしたあと。体に熱はまだ渦巻いてはいるが、喋れるぐらいには回復した。

「わ、私……」

「よし。少し良くなったみたいだな。今すぐ救急車を呼ぶから、もう少し頑張ってくれ」

そっと枕の上に頭を置かれて、黄瀬社長はジャケットからスマホを取り出して救急車を呼ぼうとしていて──意識がはっとする。

「っ、ダメですっ。救急車なんか呼んだら、赤井社長に、悪い噂を流されてしまうかもしれないっ……!」

「悪い噂だと?」

ピタリと黄瀬社長の手が止まる。

そうだ。これはきっと赤井社長が仕組んだ罠かもしれない。

社長とパーティーに同席した秘書の私。

パーティ会場の上のホテルの客室から秘書が緊急搬送されてしまうなんて、しかも。

その秘書は怪しいサプリを飲んでいた。

そんなことが世間的に知れ渡ると、黄瀬社長率いる『キセイ堂』ブランドに傷が付く。

そんなの秘書として許せない。
私をどうにかすることじゃなくて。ひょっとしてこれこそが、赤井の真の目的かとも思ってしまい歯噛みするが──。

ドクンっと、ふいに胸が高鳴り。体が反応してベッドにうずくまる。

「あ、ぅっ」

「大丈夫かっ。悪い噂がどうしたって言うんだ。苦しんでいるお前を放っておける訳がないだろっ」

「い、意識はあります。だ、大丈夫。一人でこのあと病院に行きますから……」

はぁはぁと荒い呼吸をしながら言った。

そう。意識はちゃんとハッキリしている。
いや、ハッキリし過ぎてきたとうべきか。  とうとう体がしっかりと疼き始めた。

体を思わず丸めてしまう。
そこに、黄瀬社長が「ダメだ。病院に行こう」と、私の肩をきゅっと再び抱くと。その刺激にビクッとしてしまい。

「あんっ!」 

と、甲高い声をあげてしまった。凄く恥ずかしくて枕に顔を埋める。黄瀬社長の顔が見れない。

しかし、黄瀬社長に変な誤解されたくないと思い。
枕から顔を盗み見るように。赤井社長が私に飲ませたサプリは性欲を刺激するサプリらしいと、なんとか伝えた。

すると黄瀬社長は凛々しい顔を曇らせた。

「性欲を刺激するサプリだと? 汚い真似を。ふざけるなっ……! そんなモノどうやって……そうか。美容クリニック院長の赤井なら、その手のモノを海外から、サプリとして容易に手に入れる訳が出来るってことか」

私もそうだと思い、こくりと頷いた。

「今、だから体が熱いんです。ちゃんと病院に行くので、……お願いします。ひ、一人にして下さいっ……」

恥ずかしいけど、迷った上で私の状態を告げた。

先ほどのキスは救護行為だと理解しているけど、キスを何度も受けて、私の体は今まで以上に感じやすくなっていたのだ。

黄瀬社長の涼やかな瞳が、私の身体をじっと見つめていると思うだけでそれだけで体が切ない。

我慢しようと体に力を入れてみると、下腹部がきゅんと甘い疼きを訴えて、ビクンッと体が揺れる。

こんな状態で病院に行けない。とにかく体に渦巻く性的な欲求を鎮めたかった。

なのに──。

「だったら、手伝う」と、黄瀬社長は言った。

「なっ」

冗談かと思ったがその眼差しは真剣そのもの。

黄瀬社長のいつもの涼やかな瞳が情熱的に見えて、私の心を射抜くよう。

「体を鎮めてから病院に行くというなら、早い方がいい。すぐに病院に行けるように、俺の知り合いの医院に受け入れを整える。タクシーも手配する。赤井に勘づかれないようにする。紗凪を絶対に守るから、俺に任せてくれ」

「きせ、社長……」

紗凪。
下の名前を呼ばれて不覚にも胸がときめいた。

「でも、そんなの……ダメです。私達、社長と秘書なんですよ」

「──お前は大事な俺だけの秘書だ。それに……俺は昔のことを後悔している。あのことを忘れられなかった。だから紗凪を守らせて欲しい。手荒にはしない。大事にするから、今だけは俺のことを恋人だと思ってくれないか」

前半の言葉はか細い声で聞き辛く。もう一度聞き返そうとすると、黄瀬社長はベッドの上に身を乗り出して私の頬に触れた。

「……っ」

静かな部屋にギシッと、微かに軋むベッドの音が生々しく感じた。

胸の奥に高校生のとき抱いていた気持ちが蘇る。
当時、私は太っており。
容姿に自信のない私に、カッコいい黄瀬が告白してくれて嬉しかった。

その後、告白は罰ゲームと言うことがわかり、それっきりになった淡い恋の思い出。

あのとき。
罰ゲームなんかじゃなくて。
本当に恋人同士になれたら。小さな恋はこうして実ったのかもしれない。

これは所詮、ワンナイトにすらならない。私を助ける為だけの行為。

それでも私は──と思い。

頬に触れていた黄瀬社長の手に。

サプリのせいではなく、自分の意思で自ら手を重ねたのだった。

※※※

──少し時間はさかもどる。
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