バーサーカー戦記 ~転生した文系男子が学問の力で切り開く道~

むじょう

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「準備」は整った

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活気に満ち溢れるブラジュ領。

人々は、少しばかり早い収穫を終え、いよいよ戦支度にとりかかる。
とはいっても、鎧や武器の手入れは日課だ。
また、ブラジュ人は普段から鎧をあぜ道において農作業をしており、
命令さえあればいつでもどこにでも駆けつける用意ができている。

動員体制はばっちりだ。

それでも、着剣の儀を終えたばかりの子供たちは、準備に必死だ。
これが初陣となるケーヴァリンもまた、初めての戦いに向けて、神力を確認している。

ケイブがいるのは、訓練所の一角。
鉄でできた案山子が林立している場所だ。
案山子と言っても、ご丁寧に手や足があるわけでは無い。
かろうじて胴体と頭部らしきものを分けている溝が刻まれた、円柱型の非常に武骨な物体だ。

その鉄の塊に対して、一人の子供が打ち込みをしている。
すでに、木製の剣が2本折れており、今握っているのは鉄製の剣だ。

「ケイブ、神力はうまく扱えそうか?」
「はい、問題ありません、父上。
まるで昨日と同じ応な感覚です。」
「そうか、それは良かった。
たまに、神力を持て余して、自分の腕の骨を折ってしまう子もいるからな」
「いや、それを先に行ってよ。」
「ハハハ、すまんすまん。
でも、なじんでる様子だったから、大丈夫だと思ってな」

苦笑せざるをえないケイブ。
文句はあっても、それが気にならないくらい、ケイブは、自分が得た力を確認し、全能感を感じていた。
いざ自分が体験してみるとよくわかる。

身体能力が全体的に向上したのだ。

腕力だけではなく、足の速さや視力など、軒並み向上している。
とはいっても、それはギリギリ人間をやめる一歩手前で踏みとどまっている程度だ。
当然、馬などの筋肉だるまと力比べをしたら、当然負ける。

それを、毎日の血が噴き出るような訓練によって、鉄で無ければ武器が耐えられないような、強烈な一撃を会得するのだ。

「それで、ケイブの神力はどんなものだ?
頭に能力の概念が浮かぶはずだが。」
「『鳥瞰』が思い浮かびました。
どうやら、この地上を、上空から眺めるような視点で見下ろすことができるようです。」
「ほう、それは珍しい。少なくとも、私は聞いたことが無い力だ。」
「そうなんですか?」

ブラジュでは、この基本的な基礎能力の向上を「神力」とは言わない。
特に能力の向上が顕著な、ほとんど特殊能力と呼ぶべき授かった力を「神力」という。

「ああ、だから俺には「鳥瞰」について詳細はよくわからない。どこまでの範囲を見下ろせるのだ?」
「この辺一帯、行ったことのある場所は鮮明に見えます。
ただ、行ったことのない山奥は、ここから見える範囲は靄がかかったようにぼやけます、
さらに遠く、ここから見えない場所で行ったことのない場所は、濃い霧に覆われてるように全く見えません。」
「そうか、まあ何にせよ、これから使い続けて慣れるんだな」
「はい!」

この能力、いうなれば、戦略シュミレーションゲームの視点、と言った方がわかりやすい。
とはいっても、敵の拠点がどこにあるだとか、その拠点の「戦力」や「耐久力」なんかが見えるわけでは無い。

(まあ、道には迷わない程度でもありがたいけど、活用方法は研究するべきかな。)

「地の利」という言葉がある。
GPSが普及した現代社会人はすでに忘却の彼方だろうが、
GPSの無い社会で、「行ったことのない土地」を歩くというのは、不便なものだ。
さらにそこが敵対勢力の土地で、いつ襲い掛かられるかわからないとあっては、なおさらだ。

ケイブは、新たに好奇心を満たす研究対象ができたと、ワクワクしながら剣を振り続けていた。

「では、少し時間があるから、私が少し稽古をつけよう」
「父上、こんなことやって大丈夫ですか?」
「なに、戦の準備は整っている。少しの間体を動かすだけだ。」

いつの間にか、ヒムシンは短剣を手に持っている。
片手剣ともいうべき、幅広の刃の曲剣だ。

(莫邪、来い!)

心で思うと同時に、手には剣の握りの感覚がある。
黒い刀身に、少しそりのある片刃の短刀。
その形状は日本刀そのものだ。

―どこから出したのか?

それは本人にもわからない。
しかし、この剣が自分の分身である神器であり、文字通り「肌身離さず」持っていることはわかっている。

着剣の儀を知った幼い時、てっきり腰に剣を指す儀式だと思っていた。
しかし、それにしてはこれまで見たブラジュ人の腰に、短剣が差されていない。
ということは、どこかの自宅に飾られており、着剣というのは何か儀式的な意味なのかと思っていた。

ところが、今ならよくわかる。
着剣とは、文字通り「剣を身に着ける」という意味だ。

「いくぞ、ケイブ」
「はい、父上」

さっそく親子で訓練の剣撃を繰りだす。
神器は例え落としてたりして手から離れても、体から離れることは無い。
つまり、いつでも手元に神器を出現することができる。

そのため、ブラジュ人にとっての短刀術は、短剣にあまり固執せず、体術も絡めたものだ。
一度でも相手の体に触れる位置に手を置けば、容易に刃を相手の体に突き刺すことができる。
相手の関節をキメたり、投げ飛ばしたり、顎や鳩尾などを打撃したり。
決して受けには回らない、攻撃的な戦い方だ。

(ああ、うん。この剣術も脅威だ。)

今まさに、目の前の父親にボッコボコにされながら、身をもって体験するケイブ。
相変わらず、子供であっても容赦がない。

「ケイブ、短刀術はまだまだだな。
もう少し体が大きく成長すれば、本格的に稽古していこう。」
「あの、もう少し、手加減できないですか?さすがに痛いです。」
「何を言う、手加減してるぞ?」

―――だって、息があるではないか。

ブラジュ人と戦って、命があるということは「手加減」されているということ。
というか、そもそも息子を相手にボコボコにするなと言いたいのだが、これもブラジュ人の愛情表現の一つでもある。
すでに慣れっこだ。

「まあ、今日はこれくらいにしよう。」
「はい。じゃあ、私はもう少し神力を使ってます。」
「ああいや、俺はケイブを呼びに来たんだ。
さっきほど、今年の子供たち全員の『着剣の儀』が終わった。
分家の連中と手分けして、なんとか昼食の時間前には終われたからな。」
「わかりました。じゃあ僕も戻って昼食の手伝いをしますね。」
「何を言っている?昼食もそうだが、他にお前も準備が必要だろう。」
「え、そうですか?」
「ああ。さっき、言っただろ?」

―――「戦の準備は整っている。」と。

「戦支度をしろ。ケイブ。出陣だ」

ケーヴァリンの初陣の時がやってきた。
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