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あとがき
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――あとがき
「カンニバル事件の解決にあたり、柊このみ特別捜査官に二等勲章を授与する」このみは勲章を首に掛けられる。彼女は深く頭を下げる。右手がある場所には、心もとなく垂れさがるスーツの袖があった。このみはホールの奥に目をやった。白い肌の少年が彼女を見ていた。
カンニバル事件は被疑者死亡により幕引き、事件に関わって殉職した隊員たちに向けて黙とうがささげられた。このみと西城は全治一か月のけがをしたが、一週間で職場復帰をした。東は脳に異常があると、入院が長引いている。このみは見舞いに行こうとしたが、面会拒絶で会うことが出来なかった。
「柊さん」西城の声。「勲章の授与おめでとうございます」
「ありがとう、西城もおめでとう」西城も三等勲章を授与している。叙勲は名誉他、給与に関わってくるため、純粋に喜ばしい事である。「東は?」
「まだ、入院中です。脳に異常があるって、医者はそれしか言わないし、東さんからのメールにもそうとしか書かれていなくて……まぁ、その内戻ってくるでしょう。ただの仮病かもしれませんからね」
「えぇ、東だもの、ねじの一本や二本、締めて戻してもらった方がいいわ」
西城は笑って頷く。「それもそうですね、まぁ、休めるときに休むのも重要ですから、仮病でもなんでもいいから、休んでおいて欲しいです」
「優しいわね、西城は」このみも笑う。「ねぇ西城、昼は食べた?」
「まだです」
「シャワルマ食べに行かない? いい店知ってるの」
「いいですね、ひこねたちも呼びましょうか」
その昼、彼女たちは黙々とシャワルマを食べた。
「東さん、無理のし過ぎです」
「いいだろ、惚れた女を助けるためだ」
「格好いいですけれど、もう彼女のことを守れないじゃないですか」
「そんなことはない、だってお前がここにいるからな」
「ふむ、したたかですね。そして強欲だ」
「だが、お前の予想通りなんだろ?」
東の言葉に御堂はにやりと微笑んで消えた。
カンニバルは問うていた、愛とは何か。理解とは何か。だが、元カンニバルである葛城も、現カンニバルであるメメも、自らの答えを持っていなかった。いや、メメにおいては時間が足りなかったのだ。彼はカンニバルになってから三日もたっていない。
そして、三日後、ぼくは魔導警備の地下室にいた。そこはどんな光も入り込まない、真っ暗な空間であった。ただ、空調なのか、ぼんやりと熱を帯びた空気が奥の方から立ち上ってきていた。不気味と言えば不気味であるが、落ち着くと言えば落ち着く雰囲気だった。気配があった。何かが生まれそうな気配があった。ぼくはゆっくりと歩を進め、目的の場所へとたどり着いた。
カンニバル! 彼は囚われて灰色の腹の中にあった。そして、ぼくはちょいと、その腹をつついた。繊細な黄身を突き破るように。その振動は微々たるものであったが、刻を知らせるのには充分であった。カンニバルの魔力が噴き出る。鉄の鎖が崩壊する。これが伝道師の再来。カンニバルは復活した。その顔には仮面がつけられていた
カンニバルはこちらを見て言う。お前は誰だと。
ぼくは答える。アニソフェ。アニエカヘタグフェフ。カンニバルはその言葉に怒りを表す。
マァタホフェフシャニ。
ぼくは天を指さして言う。テケスノツリィ。トゥダン。
カンニバルはぼくに襲い掛かってくるが、ぼくはその身体を五つに分ける。
右手、左手、右足、左足、そして、胴と頭。ぼくはそれらを五つの肉の塊に変えて、一つずつ、タッパーに入れた。これらが使われるのはもう少し後の話、それまで冷凍庫で保存しておこう。
これは、魔法黎明期以後の物語である。そして、魔法を取り締まる人間たちの、愛と狂気の物語である。
……to be continued
「カンニバル事件の解決にあたり、柊このみ特別捜査官に二等勲章を授与する」このみは勲章を首に掛けられる。彼女は深く頭を下げる。右手がある場所には、心もとなく垂れさがるスーツの袖があった。このみはホールの奥に目をやった。白い肌の少年が彼女を見ていた。
カンニバル事件は被疑者死亡により幕引き、事件に関わって殉職した隊員たちに向けて黙とうがささげられた。このみと西城は全治一か月のけがをしたが、一週間で職場復帰をした。東は脳に異常があると、入院が長引いている。このみは見舞いに行こうとしたが、面会拒絶で会うことが出来なかった。
「柊さん」西城の声。「勲章の授与おめでとうございます」
「ありがとう、西城もおめでとう」西城も三等勲章を授与している。叙勲は名誉他、給与に関わってくるため、純粋に喜ばしい事である。「東は?」
「まだ、入院中です。脳に異常があるって、医者はそれしか言わないし、東さんからのメールにもそうとしか書かれていなくて……まぁ、その内戻ってくるでしょう。ただの仮病かもしれませんからね」
「えぇ、東だもの、ねじの一本や二本、締めて戻してもらった方がいいわ」
西城は笑って頷く。「それもそうですね、まぁ、休めるときに休むのも重要ですから、仮病でもなんでもいいから、休んでおいて欲しいです」
「優しいわね、西城は」このみも笑う。「ねぇ西城、昼は食べた?」
「まだです」
「シャワルマ食べに行かない? いい店知ってるの」
「いいですね、ひこねたちも呼びましょうか」
その昼、彼女たちは黙々とシャワルマを食べた。
「東さん、無理のし過ぎです」
「いいだろ、惚れた女を助けるためだ」
「格好いいですけれど、もう彼女のことを守れないじゃないですか」
「そんなことはない、だってお前がここにいるからな」
「ふむ、したたかですね。そして強欲だ」
「だが、お前の予想通りなんだろ?」
東の言葉に御堂はにやりと微笑んで消えた。
カンニバルは問うていた、愛とは何か。理解とは何か。だが、元カンニバルである葛城も、現カンニバルであるメメも、自らの答えを持っていなかった。いや、メメにおいては時間が足りなかったのだ。彼はカンニバルになってから三日もたっていない。
そして、三日後、ぼくは魔導警備の地下室にいた。そこはどんな光も入り込まない、真っ暗な空間であった。ただ、空調なのか、ぼんやりと熱を帯びた空気が奥の方から立ち上ってきていた。不気味と言えば不気味であるが、落ち着くと言えば落ち着く雰囲気だった。気配があった。何かが生まれそうな気配があった。ぼくはゆっくりと歩を進め、目的の場所へとたどり着いた。
カンニバル! 彼は囚われて灰色の腹の中にあった。そして、ぼくはちょいと、その腹をつついた。繊細な黄身を突き破るように。その振動は微々たるものであったが、刻を知らせるのには充分であった。カンニバルの魔力が噴き出る。鉄の鎖が崩壊する。これが伝道師の再来。カンニバルは復活した。その顔には仮面がつけられていた
カンニバルはこちらを見て言う。お前は誰だと。
ぼくは答える。アニソフェ。アニエカヘタグフェフ。カンニバルはその言葉に怒りを表す。
マァタホフェフシャニ。
ぼくは天を指さして言う。テケスノツリィ。トゥダン。
カンニバルはぼくに襲い掛かってくるが、ぼくはその身体を五つに分ける。
右手、左手、右足、左足、そして、胴と頭。ぼくはそれらを五つの肉の塊に変えて、一つずつ、タッパーに入れた。これらが使われるのはもう少し後の話、それまで冷凍庫で保存しておこう。
これは、魔法黎明期以後の物語である。そして、魔法を取り締まる人間たちの、愛と狂気の物語である。
……to be continued
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