3 / 6
第3話 終焉の幕開け
しおりを挟む「――あっ、勇者様!おかえりなさい!……あれ?あいつはどうしたんですか?」
日が落ち真っ暗になった森の奥から1人で戻ってきた勇者に、焚き火で暖をとっていた魔法使いが首を傾げながら尋ねた。
それに対して勇者は気味の悪い薄ら笑いを浮かべながら、飄々とした様子で語り始める。
「あぁ、あのゴミなら森の奥で念入りに焼却処分してきたよ。あんな奴でも焼き殺せば自然に還って肥料になるかもしれないからな」
「えっ!?こ、殺したんですか……?さすがに仲間を殺したことが国にバレたらヤバいんじゃ……?」
魔法使いは顔を途端に青くして、震える声でそう言った。
それに対して、魔法使いの隣で話を聞いていた武闘家がニヤリと口角を吊り上げる。
「そんなの、魔物に殺されたということにしておけばいいだけじゃない。……そんなことより、これで邪魔者はいなくなったわけだし、これからは楽しい旅になりそうね!」
「ああ!俺たち3人の冒険はここから始まるんだ!張り切っていこうぜ!」
「それもそうですね!あんな奴がいなくても戦闘には全く問題ないですし!」
皆、神官が死んだことに一欠片も悲しみの感情を抱くことはなかった。それどころか、死んだことを喜び、互いに顔を合わせて声を出して笑い合っている。
――そんな彼らの様子を、神官はすぐ近くで無表情のまま見つめていた。
神官は表情を微塵も動かすことなく、ずっと見つめている。その表情から神官の感情を読み取る事は出来なかったが、彼の瞳の奥で猛り狂う憎悪は心の内を雄弁に物語っていた――。
神官はゆっくりと、着実に、彼らに歩み寄っていく。
そして、森を覆い尽くす闇の中から音もなく彼らの眼前に現れた神官の姿が、焚き火の揺らめく炎に照らされた。
「――ッ!!?」
死んだと思っていた神官が突如目の前に現れたことに驚愕した3人は立ち上がり、反射的に身構えると同時に息を呑む。
だらりと垂れた両腕に、気味の悪いほど青白く感情のある人間とは思えないほどの無表情。さながら幽鬼のようだ、と彼らは感じたことであろう。
だが、様々な状況での戦闘を行ってきた勇者たちはすぐに冷静さを取り戻した。
「……神官の死体に憑依型のアンデッドが取り憑いたのか?いや、それじゃ怪我がなくなっている説明がつかない……」
「死体そのものが再生能力を持った高位のアンデッド化した可能性もあるわね。一応、あれでも世界一の神官だったから可能性はあるかも。……どう?あなたの魔法でそろそろこいつの正体も分かったんじゃない?」
武闘家は魔法使いをチラリと見て、問いかけた。
この魔法使いは、敵の種族や大まかな強さを把握することができる魔法を使える。毎回、戦闘の最初に発動し、情報共有することがこのパーティの暗黙のルールとなっていた。
しかし、今回は普段であればとうに情報共有がされている時間であるが、魔法使いは顔を青くしたまま固まっている。
「どうしたんだ、早く情報をくれ」
「勇者様、気をつけてください……!こいつ、『リッチ系』です……!」
「『リッチ系』!?こいつが伝説のアンデッドになったってのか!?」
勇者が驚いたのには、ある理由がある。
この世界のほとんどのアンデッドは、大きく2種類に分けることができる。
ひとつは『死体系』。いわゆる『ゾンビ』と呼ばれる種類のものだ。こちらに属するアンデッドのほとんどは肉体が腐敗しており、噛まれたり引っかかれるなどの外傷を負うことで感染する。そうして次々と数を増やしていくのが特徴である。
そして、もうひとつが『霊体系』と呼ばれている。
こちらは実体を持たないのが特徴のアンデッドで、物理攻撃を完全に無効化することで知られている。しかし、実体がないため物理攻撃を行うことができず、魔法による攻撃しか行えない。加えて、単体では非常に非力である。
……だが、この2種類に分けることが出来ないアンデッドも極々稀に存在する。そういったアンデッドを人々は『リッチ系』と呼称される。
『リッチ系』のアンデッドは数百年に一度現れるかどうか、と言われる程度の出現率であり、その姿を実際に見た者は既に残ってはいない。
しかし、一度でもその姿を人々の前に見せる時、それは後の伝承や文献に『大災害』として記録されることとなる。
――手を払うだけで空は割れ、魔法の衝撃で地は砕け散る。
そこに存在するだけで、周辺の海は死の海と化し、森からは全ての生命が消える。
『リッチ系』の詳しい能力に関しては、こうして伝えられてきた伝承、文献から推測するしかない。
その人知を遥かに超えた力に人間、そして魔族は為す術もなく破壊されてきたのだ。そういった存亡の危機を前にしても、人類と魔族はこれまでの歴史上、一度も手を組んだことはない。
思えば、この頃から人類と魔族の因縁は続いているといえる。
魔法使いは強ばった表情のまま、話を続ける。
「あれが『リッチ系』ということは分かったんですが……その……強さが測定できないんです」
「測定不能なんてこと、今まで1回もなかったよな?どういう条件でそうなるんだ?」
勇者の問いかけを受けた魔法使いはさらに表情を強ばらせ、数瞬の間を空けた後、意を決したように話し始めた。
「……敵の戦闘力が非常に高く、私との間に大きな実力差がある時、です」
それを聞いた勇者と武闘家は目を見開き、信じられないといった様子で顔を見合わせた。
彼女は人類で最も優れた魔法使いなのだ。それが、仮に伝説の『リッチ系』になったとしても相手は神官、実力で負けるはずがない。……そう考えていた。
「どうやらこいつ、アンデッド化した際に能力が大幅に強化されたみたいね」
「へっ、なるほどな。こんな奴でも伝説の『リッチ』は名前だけじゃねえってことだな!おもしれぇ、それじゃ生前の時と、伝説のリッチ系になった後の強さを比較させてもらおうかァ!」
勇者は鬼のような形相で叫びつつ、流れるような動作で鞘から剣を勢いよく抜き放つ。
と、同時に魔法使いと武闘家も一瞬の隙すら与えない本気の構えを見せる。これはすなわち、アンデッドと化した神官を強敵と見定めた、といえるだろう。
勇者は、剣の切っ先を神官へ真っ直ぐに向ける。
「もういっかい、てめぇを殺してやるよ」
狂気じみた笑みを浮かべながら、神官に対し冷徹に言い放った。
その言葉を受けても、神官の死人のような表情はピクリとも動かない。
――だが、憎悪で既に塗り潰された彼の感情が、今の発言を聞いて猛り狂わぬはずがなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる