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第4話 永久の苦痛
しおりを挟む先制攻撃は武闘家だった。
武闘家の装備は防御力よりも、身軽に動ける点を考慮されている。その身軽さを生かして敵からの攻撃は躱し、そして隙のできた敵の懐に潜り込み強烈な一撃をぶつける。
今回も、武闘家はその戦法を選択した。
残像を残す勢いで神官へと急接近し、右手の渾身の突きを繰り出した。
その繰り出した拳は、神官の胴体を完全に貫通した。
それと同時に、攻撃によって発生した強烈な衝撃波により正面の木々は文字通り吹き飛ばされ、視界の遥か向こうまで続く一本の道が出来上がる。
手応えは確かにあった。
しかし、土煙が晴れた瞬間、勇者たちは驚愕のあまり目を見開いた。
武闘家の拳が胴体をすり抜けていたのだ。
「――ッ!?」
武闘家は咄嗟に後ろに飛び退き、神官から距離を取った。
すり抜けた様子を見た勇者はすぐに冷静さを取り戻し、神官について分析する。
「なるほど、あれは実体を持っていない。『リッチ系』の伝承にあった特徴通りだな。……とすると、物理攻撃、魔法攻撃は効かないわけか」
「そ、それじゃあ……」
「だが、『リッチ系』とは言っても『アンデッド』には違いない。対アンデッド用の武器を使用する」
そういって勇者は空中に手を伸ばした。すると、空間が裂け異次元へと繋がる裂け目が出現した。
そこに勇者は手を入れ、奥から神々しい雰囲気をまとった長剣を取り出す。
「『聖剣エクスカリバー』……俺がこの世界に来る時に、神から授けられたものだ」
そう言い放つと、その勢いのまま神官の首元に思い切り斬りかかった。
目も開くことができないほどの衝撃が発生し、魔法使いと武闘家は顔を手で覆う。
この一撃で決まっただろうと思ったが、手を下げた彼女たちが目にしたのは衝撃の光景だった。
「刃が……通らないっ!?」
そこには神官の首にエクスカリバーの刃を当てている、勇者の姿があった。勇者は何度も攻撃を加えるが、一度も刃は通らない。
そのうち、神官は片手で剣の刃を掴み、空いているもう片方の手をそのまま勇者に伸ばした。
勇者は咄嗟に剣の柄から手を離そうとする。
……しかし、
(手が……離れない!)
それだけではない。
既に勇者は手だけでなく、全身の身動きが取れなくなっていた。
考えられる原因は、神官が『動きを止める魔法』を唱えた、という可能性だ。
しかし、この勇者は状態異常や能力低下の魔法に対してかなり強い耐性を持っていた。普通に唱えたのではまず効果がない。
だが、それでは今の状況を説明できない。
何故だ何故だと頭の中で繰り返す勇者は、ある可能性に気がついた。
(……まさか、剣を通して魔法を直接流し込んでいるのか!?)
強力な呪いなどは『相手に直接触れること』という厳しい条件が設けられている場合がある。
生命には本来、呪いを拒絶する力が生まれ持って備わっており、呪いをかけるにはその拒絶される基準を超えなければならないからだ。
そのための『相手に直接触れること』という条件だ。
そうすることで呪いの効力は最大限発揮され、ようやく呪いがかかる基準に届く。
これと同様に、耐性を持つ相手にデバフ効果を持つ魔法をかけたいのであれば、直接触れるか相手が持っている物を通して唱えることが有効であると、理論上はなっている。
理論上は。
だが実戦で、理論上可能であるからといって、敵に触れながら、状態異常や能力低下魔法を唱えることが出来るのか?
……普通の者は「否」と答える。
自分の生命を懸けてまでする価値はないと、すぐに気が付くからだ。
――しかし、この神官は違う。
限りなく膨張を続ける憎悪に支配され、もはや理性は欠片も残っていないであろう彼は、平気で己の魂を賭けてくる。
……いや、彼はまるで『自分が彼らに殺されることはない』と、分かっているようでもある。
――そして、神官はゆっくりと勇者の胸に手を置いた。
瞬間、複数の魔法陣が勇者の胸に展開する。
勇者は目を限界まで見開き、仰向けのまま地面に倒れ込んでピクリとも動かなくなった。
それを見た武闘家は瞬時に動かなくなった勇者を救出し、魔法使いの元へと戻る。
「離脱して!!!早くっ!!!」
武闘家の悲鳴にも似た叫び声を受けた魔法使いは、希望の場所へと瞬間移動する事ができる『転移魔法』を使用した。
~~~~
先ほどの場所から数百キロ離れたところにある森の中へと転移してきた勇者たち。
だが、彼らの状況は極めて切迫していた。
「――どうなってるの!!?早く魔法を解いてよ!」
必死に訴える武闘家の願いも虚しく、勇者の状態は依然として変わらない。
そんな切実な叫びを受ける魔法使いは、血の気が引いた青白い顔を武闘家に向けた。
そして震える声を絞り出すように話し始めた。
「い、今、勇者様には……『体感速度極限低下の呪い』、『全身が朽ちる呪い』。そ、そして……」
「『不死の呪い』がかけられてます……!これらの呪いの解呪魔法は……あ、ありません」
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