5 / 6
第5話 終わることのない悪夢
しおりを挟む「そ、そんな……」
武闘家は地面にへたり込む。
世界で最も優れた魔法使いが「打つ手なし」と言い切ったのだ。もはや、自分たちではどうすることも出来ないのだと悟った。
身体を動かすことも出来ず、言葉を話すことも出来ず、悲鳴も助けも呼ぶことも出来ず、時間の流れも感じることが出来ず、生きながらに全身が朽ちていき、その想像を絶するような苦痛をこれから先、永久に受け続ける――。
勇者は、永遠に終わることのない悪夢を見始めたのだ。
魔法使いは己の無力さに苛立ち、悔しげに唇を噛み締め、顔を俯かせている。
己の無力さに苛立ちを感じているのは武闘家も同様だった。
そして、人間はこういった耐え難い絶望を、哀しみを、無力さを感じた時。
――憤怒で塗り潰そうとする。
「なんで!?なんとかしてよ!あなた、世界一の魔法使いなんでしょ!?」
「そんなこと言っても出来ないんだからしょうがな――ッ!!!」
魔法使いは突如、その表情を凄まじいまでの恐怖に染めた。
顔から血の気は引き、全身が細かく震えている。その揺れる視線は、武闘家の後ろに真っ直ぐ固定されている。
まるで、視線を逸らしたいにも関わらず、何かがそれを拒んでいるかのように。
武闘家はゆっくりと振り向き、そして、視界に飛び込んできた光景に思わず小さく悲鳴をあげた。
彼女達の視線の先には――。
仰向けに転がっている、目を見開き強ばったままの勇者の顔を、感情の消失した恐ろしいまでの無表情でじぃと覗き込む神官がいた。
理解が追いつかない。
一体どこから現れた?
さっきまでは絶対にいなかったと、断言できる。
転移魔法による移動先を読まれていた可能性が頭に浮かんだが、そんなことはどれだけ魔法を極めようともできることではない。
そして今、武闘家の中の生存本能が、未だかつてないほどに危険信号を鳴らしているのが聞こえた。
今、彼から視線を逸らせば、殺される――。
言葉で説明できない、いくつもの死線をくぐり抜けてきた者が身に付ける、第六感というものがこの日初めて役に立った。
この第六感は、武闘家の死の可能性と同時にあることを告げていた。
――殺らなければ、殺られる。
武闘家がそれを理解した時、足は既に神官の元へと動いていた。
常人が見ればその場から忽然と姿を消したように見えるであろう超人的なスピードで、神官に急接近し武闘家が持つ技の中でも最も威力の高い蹴りをその顔面に叩き込んだ。
その瞬間、蹴りによる打撃音……いや、もはや爆発音と表現した方が良いほどの轟音が響く。同時に、周囲の木々を薙ぎ倒すほどの強烈な衝撃波が襲いかかった。土煙がもうもうと舞いあがる。
神官の姿は見えないが、武闘家は確かな手応えを感じていた。
ニヤリと笑い、土煙が晴れるのを待つ。
だが、しばらくして土煙の中から姿が現れたのは、頭部から血を流している勇者だった。
「――ッ!!!?」
魔法により空中に無理やり固定されていた勇者は、魔法が解かれたことで支えを失った人形のようにどちゃりと崩れ落ちた。
驚愕のあまり目と口を大きく開いたまま、硬直した武闘家と魔法使い。
しかし、武闘家はすぐに我に返り周囲をぐるりと見回した。
そして後ろを振り返ると、あの神官のおぞましいまでの青白く感情の消失した顔がすぐ目の前に現れた。
武闘家は反射的に殴打による攻撃を繰り出そうとした。だが、それよりも早く神官は、武闘家の腹部に魔法陣を展開し――発動した。
瞬間、武闘家の体はその魔法陣に飲み込まれるかのように消えていった。
それを見た魔法使いは全身を震わせ、まともに立つこともままならない。
――次は、自分が殺される。いや、ただ殺されるだけならまだいい。
もしかしたら、今の勇者のように目覚めることのない悪夢を体験し続けることになるか、武闘家のように消されてしまうか。恐らく武闘家も悪夢の中へと引きずり込まれたに違いない。
そんなのは嫌だ。
死ぬ覚悟はこの旅に出た時に出来ている。だけど、こんな死に方は、死ぬことすら許されない地獄を永遠に彷徨うのは嫌だ!!!
魔法使いは震える手足を必死に動かし、足元に魔法陣を展開させた。
この魔法陣は転移魔法。転移先は、この惨劇の全ての元凶と言っても差し支えない、全ての始まりの地……王の城だ。
魔法使いは恐怖からか、仲間を見捨てる罪悪感からなのか、とめどなく溢れてくる涙を拭うこともせず、転移魔法を使用して戦線を離脱した。
0
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる