決めるのはあなた方ではない

篠月珪霞

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一目惚れとはこれいかに

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「カメリアさん、ずっと見てました! 結婚してください!!」

街に納品に行く途中、行く手を遮ったかと思うと、唐突な求婚。
面食らったキアラは普通の反応だろう。カメリアも驚きを隠せずにいる。当然だ。
キアラは眼前の男を遠慮なく値踏みする。
年の頃、20歳前後、顔立ちは悪くないが整っているわけでもない。中肉中背。鍛えてるわけでもなさそう。服装も含め、その辺にどこにでもいる平民男性とみた。
カメリアが返事をすべく前に出ようとするのを制し、キアラは質問した。

「あなた、収入は?」
「え、っと、君じゃなくて、後ろのカメリアさんに、」
「いいから答えなさい」

キアラの圧力に負けたのか、男はしぶしぶ口を開く。

「…1年で160万ほどです」
「家族構成は?」
「祖父母に父母、妹、…です」
「全員同居なの? メイドは?」
「メイドとかは…いませんけど! 家族みんなで助け合って家事とかもしてます!」
「論外です。…行きましょう」

これ以上聞く必要はないとばかりに、カメリアを伴い、店に向かおうとすると、男が慌てて回り込んできた。
なんだ、この国の男性は自分の主張が通るの当たり前で話しかけてくんの?(カメリアに以前の元夫の話を聞いた)

「何故、関係ないあなたが答えるんですか! それに僕は誰よりカメリアさんを愛してます!!」
「──関係ない、ですって?」

その言葉に反応したのはカメリアの方だった。
静かに怒りのオーラを纏いながら、キアラの背に隠れるようにいたカメリアが低い低い声を出した。
あ、お嬢様が切れた。

「か、カメリアさん…?」
「気安く名前を呼ばないでもらえるかしら。名前も知らない、今後も知る必要のない、通りすがりの人」
「あ、す、すみません、僕は、」
「結構。覚える気なんてないから」

おそらく名乗ろうとしたのであろう男を、ぴしゃりと撥ねつけるカメリア。

「キアラは、わたくしの家族同然、いいえ、この世界で一番大切な人なの。あなたなんかと比べようもないくらいね」
「そ、そんな…」
「わたくしを愛してるですって? 笑わせないで。わたくしの何を知っているというの。──二度とその顔見せないで」

カメリアに促され、歩き出す後ろで打ちひしがれた男の姿があった。













「何か最近、ああいう手合い増えましたね」
「ああいう手合い?」

自宅に帰って何気なく話を振ると、カメリアは首を傾げた。本気で何のことか分かっていないのだろう。
何故なら、この街に来て、もう二桁目の求婚者だったからだ。
警邏が定期巡回していて犯罪も少ないのを理由にこの街を選んだが、護衛を雇うことを視野に入れた方がいいだろうかと真剣に悩む。

「まあカメリア様は、外見だけじゃなくて内面も美しいので、見惚れるのも妻にしたい気持ちも分かりますけど」
「キアラったら、またそんなこと言って」

自己肯定感が低いのは、ひとえに元旦那(とも認めたくない)のせい。

「いいえ! カメリア様は女神のごとき美しさをお持ちなのですから、魅了される男性がどれほどいようと不思議ではないのです!!」

力説するが、カメリアは笑うばかり。
さすがにキアラの言葉を否定することはないが、身内の欲目くらいに思っていそうで。
キアラはお世辞など言っていないのに。

それもこれもあれも、あのクズのせいだと怒りが再燃する。
小さい頃から天使だったカメリアに対する暴言、未だにキアラは忘れていないし、許すつもりはない。
あれだけ長い期間、容姿を貶され、人格もろとも否定されてきたら、自信がなくなるのも当然だとは思うが、危機感とかも危ういのは考えものだ。

昼間の男性のような甲斐性なしではなく、カメリアがずっと笑っていられるように、大切に、幸せにしてくれる男性しかキアラは認めない。
愛があればお金なんて、などという台詞は、苦労させないことが前提としてあるものだ。
しかし、そういう男性が現れるまで、カメリアが無事でいられるだろうか。
考えた結果。

「カメリア様、一度うちの実家に来てみます?」

取り敢えず、護衛の伝手がないか実家に聞こうと、誘いをかける。現在のキアラには伝手どころかまったく…なので、男爵家なら少しはどうにかならないだろうかという希望を持ちつつ。
カメリアは二つ返事で、むしろ目を輝かせて頷いてくれた。可愛い。













「カメリアさん、結婚してください!」

なんて既視感。
実家に着いて、家族を紹介後のこの台詞。
キアラの兄で、次男の言葉に。

「お・に・い・さ・ま」
「き、キアラ…?」

普段、お兄様などと呼ぶことのないキアラの圧に怯みつつ、次男が物陰に強制連行される。

「あ、カメリア様、ごゆっくり。私はちょっとコレと話がありますので」
「え、ええ」
「お母さん、カメリア様を、くれぐれも、よろしく」
「…分かったわ」

丁重に扱わないとどうなるか分かってるよね?という意思を正確に読み取った母は、溜息をついた。










まずは暗がりでキアラは次男の鳩尾に一発入れた。ぐふうっとか聞こえたがきっと気のせい。

「どういうつもり? まさか本気じゃないでしょうね。いや、嘘なら嘘で万死に値するけど」
「それ、どっちに転んでも俺の命、危なくない?」
「あら? そのかるーい頭でも理解できたのね。よかったよかった」
「いや、何もよくないけど…」

ぽりぽりと頬をかく次男。暢気そうな顔に殺意が湧きそうになるキアラである。

「とにかくね! カメリア様には、容姿は言うまでもなく、財力もあって包容力もあって、誠実で優しくて、カメリア様だけを愛してくれる、暴言暴力のない、完璧な男性しか相応しくないの!」

「…完璧はともかく、暴言暴力は、男として最低じゃね? 女性に向けること自体、なくない?」
「……だったらよかったけどね」

それがありえたから、カメリアは今こうしているのだ。
言葉だけの愛など、誰にでも語れる。
実際、カメリアの(絶対に認めないが)元旦那がそうであったのだし。

「いい? 兄さんもその辺をきっちり頭に叩き込んだら、二度とカメリア様を惑わすようなこと言うんじゃないわよ!!」

と、でっかい釘をこれでもかと次男に刺したつもりだったのだが。













「ねえねえキアラ」
「何ですか、カメリア様」

カメリアはキアラが使っていた部屋を一緒に使うことになった。正直カメリアに窮屈な思いをさせたくなかったので、客室を勧めたのだが、ここがいいと言われてしまっては。
目の前の美しい人は、実家なのにカメリア様がいるだけで、家具すら高級品に見えるわーなどと内心でキアラが思っているとは思うまい。

「カイさんってどんな人なの?」

がっちゃん。
その美しい人から、愚兄の名前が唐突に出た衝撃で、手に持っていた皿をキアラは取り落とした。

「キアラ?! すごい音がしたけれど、大丈夫?! あ、お皿…!」

ぎぎぎ、と振り返ると俊敏な動作でカメリアに近寄る。

「どうしたんです、何かあったんですか? 愚兄? 愚兄が何かしたんですか?」
「お、落ち着いて、キアラ、何もされてないわ」
「本当ですね? 本当に何かされたわけではないんですね? 私の実家だからって遠慮してるわけじゃないですね?」

こくこく頷くカメリア。
嘘ではなさそうだというか、カメリアはキアラに嘘などつかない。

「だって、キアラのお兄様でしょう? 軽い気持ちで求婚なんかしないと思うのよ」
「……………まあ、そう、ですね」
 
確かに、人は悪くない。容姿も悪くない。端正とは言い難いが。だが、カメリアを幸せにできるかと言われれば。

「……………………………………」
「…ごめんなさい、聞いちゃいけないことだったかしら…?」
「いえ、そんなことはありません」

申し訳なさそうな顔などさせるつもりは微塵もなかったキアラは、即否定した。

「じゃあ、教えてくれる?」

笑顔のカメリアに乞われると、何でもしたくなるキアラであった。
















「それで、なんでこんなことに…!」

今日はカメリアと愚兄の結婚式だ。
あれから、着々と距離を詰め、改めて求婚したらしいカイに頷いたと聞いたときのキアラの心境たるや。

「…キアラ、似合わないかしら?」
「いえ、カメリア様はどんな装いも似合いますが、今日は世界一と言って過言でないほどお美しいです。ただその…」
「お兄様との仲が認められない、とか…?」
「違います! 私は、カメリア様に幸せになっていただきたいだけで…!」

兄との結婚をキアラが反対しているのかと、悲しげな顔で問われてしまえば、全力否定しかない。
兄がカメリアを幸せにできるかどうかが不安なだけで、それ以上でも以下でもないのだ。

「…わたくし、キアラがいなければ、きっともっと前に命を絶ってたと思うの」
「カメリア様、そんなこと…!」
「キアラに出逢えてよかった。キアラのお兄様、カイ様とも」

カメリアが微笑む。美しい顔で、幸せそうに。

「キアラが、わたくしに幸せをくれたの。みんな、みんな、あなたがいたから…」

微笑みながら、カメリアが涙をこぼす。とめどなく伝う涙に、キアラもいつの間にか泣いていた。

「そんなの、私だって、私だってそうです…! 私もカメリア様の側にいられて、ずっと幸せでした…!!」

カメリアを抱き締めて、2人してぼろぼろ泣いていたら、戻ってきたメイク担当の侍女が悲鳴を上げた。
メイクやり直しですー!!と怒りの侍女にキアラは追い出された。










結婚式は、家族だけのこじんまりとしたものだったけれど。

「キアラ、わたくし、幸せよ!」

そう言ってブーケを投げたカメリアの笑顔が、今まで見たことないほど幸せそうだったから。

「カメリア様、おめでとうございます…!!」

キアラは心から、祝いの言葉を言うことができたのだった。















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