愛があれば、何をしてもいいとでも?

篠月珪霞

文字の大きさ
7 / 10

留学先にて

しおりを挟む
その声が会場内に響いたのは、ファーストダンスを終え、挨拶を交わしているときだった。


「シャーリー・エキナセナ、お前との婚約を破棄する!!」

それほど声を張り上げなくとも、目的の人物と思しき女性には聞こえたでしょうに…とセレスリアは思った。少し離れた位置からも内容がはっきり分かるくらいだったので。
特定は容易だった。声の主はおそらく、婚約者同士でもどうか、というほど密着した男女のうち、男性の方だろう。

「お前はこの俺の真実の愛の相手、ミシュアを孤立させ、他の女たちと一緒になって苛め抜いたそうだな! 彼女が子爵令嬢だからと、身分をふりかざし散々貶め、ドレスを汚し、私物を壊した! そんな醜い心根の女は、我が侯爵家には相応しくない!! よってお前との婚約を破棄し、この愛らしく健気なミシュアを妻に迎える!!!」

口上は大層なものだが、要約すると不貞の上での一方的な契約反故といったところ。男の主張が正しかったとしてもだ。
仮に侯爵令息にべったりくっついている子爵令嬢が、エキナセナ嬢に苛めを受けていたとしても、不貞は不貞である。婚約者がいる状態で他の異性と距離を間違えれば、その事実に変わりはない。
しかも侯爵家とは。
ここがどういう場か、理解していない時点で貴族に向いてない。男はそれ以前の問題な気もするが。同調するものは少なくともこの場にはいないし、視線の大半は面白がっているか、冷ややかなものだ。

パチパチパチと殊更大きな音で拍手してみた。

男が振り返る。
というより、周囲の注目を一身に浴びてしまった。


「素晴らしい余興ですこと」


本当に、共に舞台に立っているかのよう。


「なんだお前は! 部外者は引っ込んでろ!!」
「まあ確かに部外者に違いありませんが、わたくしを楽しませようとした上での行動なのでしょう?」
「はあ!? 何言ってる!」
「でなければ、王家主催の、わたくしを歓迎する目的のパーティで、このような演劇が始まる理由がないのではなくて?」
「演劇だと?! 馬鹿にしてんのか!!」

この男、この時点で不敬罪に問われるとは思ってもいないんだろうなあと冷めた目で見る。
高位貴族なのに、私の顔を知らないのもいかがなものか。
この国、ベリエラの貴族院に短期留学することも、本日が私の紹介も兼ねたパーティであることも。

「──私の婚約者に、随分な口の利き方じゃないか」

氷点下の声がしたのは、背後から。

「お、王太子殿下っ! え、婚約者とは…」

さすがに自国の王太子の顔は知っていたようだ。エラルドにまで暴言を吐いたらどうしようかと思った。

「君は、今日が何のために開かれたパーティなのか、知らないのか?」
「え、と…その、今着いたばかりで…」
「先ほど私の婚約者、セレスリア・ラジュワルド皇女殿下が言っていたけれど、彼女の歓迎パーティだよ」
「皇女、殿下…?」
「そう、隣国ラジュワルドの皇女殿下」
「ま、まさか、その女が、」

知って尚不敬を重ねる男に、エラルドの柳眉がぴくりと反応する。

「もういい。──連れて行け」
「はっ!!」

いつの間にか来ていた衛兵が、侯爵令息と、密着していた子爵令嬢を拘束、断罪されていたエキナセナ嬢を誘導している。ぎゃあぎゃあと喚きたてながら強制連行されていく男女と反して、エキナセナ嬢は最初から最後まで取り乱すことなく落ち着いていた。保護者を交えて別室でお話合いか。侯爵家、大丈夫?
そういえば、こんな騒ぎになったのに、侯爵夫妻はどうしたのだろう。王太子であるエラルドが出る前に、諫めるなり退出させるなりできたと思うのだが。

「皆の者、騒がせてすまない。しかし、今宵は私の婚約者のためのパーティだ。先ほどの余興は忘れ、存分に楽しんでくれ」

問題のものたちが連れ出された後、エラルドがよく通る声で宣言すると、群がっていた人々は思い思いに散らばっていく。

「…すまないね、セレス。よもや王家主催のパーティでこんな事態になるとは」
「誰も予想できませんわ。お気になさらず」
「後程、双方から話を聞くが、同席するかい?」
「そうですわね。あの様子では期待はできませんが、機会は与えるべきかと。留学早々、高位貴族に重い罰を与えるのも心証がよくないでしょうし。侯爵令息の言動次第で寛恕も視野に入れましょう」
「君にあんな無礼を働いた時点で、重罪に問いたいけどねえ」
「ほどほどにお願いしますわ」
「善処はするよ」

にっこりとらしからぬ笑みは、穏便に済ませてくれるとはとても思えないものだった。













─────*─────*─────*─────*─────*─────


さっくり終わらせようと思います。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。

しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。 相手は10歳年上の公爵ユーグンド。 昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。 しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。 それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。 実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。 国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。 無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。  

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

正当な権利ですので。

しゃーりん
恋愛
歳の差43歳。  18歳の伯爵令嬢セレーネは老公爵オズワルドと結婚した。 2年半後、オズワルドは亡くなり、セレーネとセレーネが産んだ子供が爵位も財産も全て手に入れた。 遠い親戚は反発するが、セレーネは妻であっただけではなく公爵家の籍にも入っていたため正当な権利があった。 再婚したセレーネは穏やかな幸せを手に入れていたが、10年後に子供の出生とオズワルドとの本当の関係が噂になるというお話です。

【完結】有能外交官はドアマット夫人の笑顔を守りたい

堀 和三盆
恋愛
「まあ、ご覧になって。またいらしているわ」 「あの格好でよく恥ずかしげもなく人前に顔を出せたものねぇ。わたくしだったら耐えられないわ」 「ああはなりたくないわ」 「ええ、本当に」  クスクスクス……  クスクスクス……  外交官のデュナミス・グローは赴任先の獣人国で、毎回ボロボロのドレスを着て夜会に参加するやせ細った女性を見てしまう。彼女はパルフォア・アルテサーノ伯爵夫人。どうやら、獣人が暮らすその国では『運命の番』という存在が特別視されていて、結婚後に運命の番が現れてしまったことで、本人には何の落ち度もないのに結婚生活が破綻するケースが問題となっているらしい。法律で離婚が認められていないせいで、夫からどんなに酷い扱いを受けても耐え続けるしかないのだ。  伯爵夫人との穏やかな交流の中で、デュナミスは陰口を叩かれても微笑みを絶やさない彼女の凛とした姿に次第に心惹かれていく。  それというのも、実はデュナミス自身にも国を出るに至ったつらい過去があって……

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

処理中です...