エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

文字の大きさ
23 / 94

第22話 迷い

しおりを挟む
「ぐぁ!」

 クリア達の足元に何かの力で吹き飛ばされてきたのは、先程の逃げ出したゴールドの姿だった。

 服装も破れたり焦げたりしてボロボロになっており、この天候の中で飛んできた時に地面を転がったせいで体中泥だらけになっていた。

 そして、こちらに飛んできたゴールドを追いかけてゆっくりと大鎌を肩にかけてまるで死神の様にこちらに歩いて来る者の姿が見えた。

 その姿は紛れもなく、『ディールーツ』の幹部の一人、通称『雷鎌ライレン』のライズ・グリッドだった。

「おい小僧~。この森にあるはずのルーツを持って来いって言ったよなぁ? この森のじゃなくてもレッドとグリーンって奴らからでもいいってよぉ。持って来られなかったっていうなら……村の奴らがどうなってもいいって捉えていいのかぁ?」
「クソォ……! 村のみんなに手ぇ出すんじゃねぇ!」

 そう叫びながらゴールドは雷撃をライズに向けて放った。
 が、直撃しているにも関わらず全く効いている様には見えない。

 現状、【風雨の雲レインズクラウド】で雨が降って周囲は水浸しであり、雷属性の者なら分子作用が強まるはずなのに、だ。

 むしろ気持ち良く受けているように見えるのは、気のせいではない。

「は、やっぱりテメェ如きの雷の威力じゃ俺にはエレメントを譲ってるだけになってんだよ! ほんとよえーなお前はよぉ!」
「ちくしょう……オレの力じゃアイツを倒せねぇ……!」

 ゴールドは己の無力感故か、肩で呼吸をしながら拳を握りわなわなと振るわせている。

 この世の理は時として理不尽とも思えるものがある。

 まさしく今繰り広げられている〈雷属性の者〉同士の戦いがその代表例だ。

 人は体を動かす際に雷のエレメントを信号として作用させ、動かす部位に送る事で体を動かしている。

 雷属性のエレメント分子を放出して扱う雷撃系の攻撃は、先刻のレッド達が動きを封じられたように受けた相手の体に残り、その信号の伝達を阻害する影響を与える作用がある。

 これを『帯電』と言うのだが、雷属性の者がそれを受けた時、自分のキャスティングできる力量より弱い術式や雷撃の威力だと、逆に吸収され相手に力を与えてしまうことになってしまう。

 つまり、ゴールドは身体強化バフ以外でライズに戦う手立てがない事が今この場にいる全員に明らかになってしまっているのだ。

 ——しかし、まだ大丈夫だ。

 ……そう、クリアは考えていた。

 ゴールドは生きていてくれたし、クリアが自分の権限を行使して一度ライズを止める。

 いくらライズがクリアと馬が合わなかろうと、流石に組織の人間として権限に逆らってまで戦おうとはしないだろう。

 そして、村人達を解放もしくはどうなっているか聞けば村の損害以外はどうとでもなるはずだと。

「ライズさん、クリアです! その手を止めて下さい!」

 その言葉に「おお、やっときたか」と言わんばかりの表情で、すっとクリアの前に飛んできたライズは自慢の下ろすと首にかかるぐらいの長さの逆立てた金髪に付いた水滴を少し払うとにやっと笑ってクリアに話しかけてきた。

「よぉ、大将、遅かったじゃねぇか! だが悪いねぇ、今仕事中でさぁ」
「仕事だって……? 勝ち目がない人を痛ぶっているだけのこれが仕事だって言い張るんですか⁉︎ それに、村の人達はどうしたんですか? それに村だってこんなにめちゃくちゃにして!」

 レッド達すら——と言っても顔を合わせたのはまだ二回目なのだが——見たことのない完全に怒りを露わにしたクリアは、その怒りをぶつけるようにライズに叫んだ。

 そんなクリアに対して、ライズは「そういうと思ったよ」と言いたげな顔をしながら面倒臭そうに自分の端末を取り出し、何かを操作するとクリアに放り投げた。

「オレはこれの通りに仕事してただけだぜ。文句は……ねえよなぁ大将?」

 クリアは「いったいなにを……」と言いたげにライズを睨み付け、受け取った端末に表示されてる司令文書を読み進めていく。

 そして、次第に自分の顔が青ざめていくのがクリア自身でもわかった。

『今回のルーツ回収の任務遂行にあたって、ライズ・グリッドに全指揮権を与えるものとする。
なお、後ほど合流するクリアがライズ・グリッドの指揮に異を唱えた場合、速やかにこの文を提示し、ルーツ回収に成功するまたは失敗するまでクリアはライズ・グリッドのルーツ回収作業のサポートをするために行動すること。 以上 ガウス・ウィル』

 これが、ライズの端末に表示されていた文書の内容だった。

 送信主は、間違いなくガウスからのアドレスであったため、偽装の考慮の余地すら無かった。

「何……で……?」

 ライズに指揮権を与えたら、万が一村なんて発見したらこんな悲惨なことになることをボスがわからないはずがない。

 そんな気持ちでいっぱいになってしまい、ポツリとクリアは声を漏らしたのだ。

 ——理解、できない。

 クリアの思考力は、この雨天の中未だ微かに燃える残火のように徐々に徐々に消えていく——。

 そんな、固まってしまったクリアに見かねたのか。

「……ここまで一緒に来てなんだが……、俺達はゴールド側につかせてもらうぞ。始めからそのつもりでここまで来たんだからな」
「あ……」

 グリーンはそれだけ言うと、クリアの返事も待たずライズの方へ風の長刀エレメンタルアームズに手をかけながら飛び出していった。

 そんなグリーンに、クリアは言葉を返すことができず。

「なあクリア。お前が何を見てそんな風に動揺してるかは知らないけどさ、俺はやっぱり自分が正しいって思えることをするよ。……こんなこと、許せないしな」

 いつの間にかここに合流していたレッドもグリーンに続き、クリアにそれだけ言うとゴールドの前まで行きライズに火の大剣エレメンタルアームズを構えて立ちはだかった。

「おい大将さんよぉ! ぼーっとしてねえでさっさとサポートしてくれや!」

 流石にエレメンタルアームズを持つ二人とは分が悪いと思ったのか、イラついた様にライズはクリアを呼ぶ。

 ——そうだ、ボスの、ボスの言う通りにしないと。

 固まっていた体をなんとか動かし、跳び上がってライズの前にクリアは着地した。

「……それがお前の答えなのかよ、クリア」
「…………」

 「いいのか?」と言いたげなレッドの問いに、クリアは答える事ができなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...