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第22話 迷い
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「ぐぁ!」
クリア達の足元に何かの力で吹き飛ばされてきたのは、先程の逃げ出したゴールドの姿だった。
服装も破れたり焦げたりしてボロボロになっており、この天候の中で飛んできた時に地面を転がったせいで体中泥だらけになっていた。
そして、こちらに飛んできたゴールドを追いかけてゆっくりと大鎌を肩にかけてまるで死神の様にこちらに歩いて来る者の姿が見えた。
その姿は紛れもなく、『ディールーツ』の幹部の一人、通称『雷鎌』のライズ・グリッドだった。
「おい小僧~。この森にあるはずのルーツを持って来いって言ったよなぁ? この森のじゃなくてもレッドとグリーンって奴らからでもいいってよぉ。持って来られなかったっていうなら……村の奴らがどうなってもいいって捉えていいのかぁ?」
「クソォ……! 村のみんなに手ぇ出すんじゃねぇ!」
そう叫びながらゴールドは雷撃をライズに向けて放った。
が、直撃しているにも関わらず全く効いている様には見えない。
現状、【風雨の雲】で雨が降って周囲は水浸しであり、雷属性の者なら分子作用が強まるはずなのに、だ。
むしろ気持ち良く受けているように見えるのは、気のせいではない。
「は、やっぱりテメェ如きの雷の威力じゃ俺にはエレメントを譲ってるだけになってんだよ! ほんとよえーなお前はよぉ!」
「ちくしょう……オレの力じゃアイツを倒せねぇ……!」
ゴールドは己の無力感故か、肩で呼吸をしながら拳を握りわなわなと振るわせている。
この世の理は時として理不尽とも思えるものがある。
まさしく今繰り広げられている〈雷属性の者〉同士の戦いがその代表例だ。
人は体を動かす際に雷のエレメントを信号として作用させ、動かす部位に送る事で体を動かしている。
雷属性のエレメント分子を放出して扱う雷撃系の攻撃は、先刻のレッド達が動きを封じられたように受けた相手の体に残り、その信号の伝達を阻害する影響を与える作用がある。
これを『帯電』と言うのだが、雷属性の者がそれを受けた時、自分のキャスティングできる力量より弱い術式や雷撃の威力だと、逆に吸収され相手に力を与えてしまうことになってしまう。
つまり、ゴールドは身体強化以外でライズに戦う手立てがない事が今この場にいる全員に明らかになってしまっているのだ。
——しかし、まだ大丈夫だ。
……そう、クリアは考えていた。
ゴールドは生きていてくれたし、クリアが自分の権限を行使して一度ライズを止める。
いくらライズがクリアと馬が合わなかろうと、流石に組織の人間として権限に逆らってまで戦おうとはしないだろう。
そして、村人達を解放もしくはどうなっているか聞けば村の損害以外はどうとでもなるはずだと。
「ライズさん、クリアです! その手を止めて下さい!」
その言葉に「おお、やっときたか」と言わんばかりの表情で、すっとクリアの前に飛んできたライズは自慢の下ろすと首にかかるぐらいの長さの逆立てた金髪に付いた水滴を少し払うとにやっと笑ってクリアに話しかけてきた。
「よぉ、大将、遅かったじゃねぇか! だが悪いねぇ、今仕事中でさぁ」
「仕事だって……? 勝ち目がない人を痛ぶっているだけのこれが仕事だって言い張るんですか⁉︎ それに、村の人達はどうしたんですか? それに村だってこんなにめちゃくちゃにして!」
レッド達すら——と言っても顔を合わせたのはまだ二回目なのだが——見たことのない完全に怒りを露わにしたクリアは、その怒りをぶつけるようにライズに叫んだ。
そんなクリアに対して、ライズは「そういうと思ったよ」と言いたげな顔をしながら面倒臭そうに自分の端末を取り出し、何かを操作するとクリアに放り投げた。
「オレはこれの通りに仕事してただけだぜ。文句は……ねえよなぁ大将?」
クリアは「いったいなにを……」と言いたげにライズを睨み付け、受け取った端末に表示されてる司令文書を読み進めていく。
そして、次第に自分の顔が青ざめていくのがクリア自身でもわかった。
『今回のルーツ回収の任務遂行にあたって、ライズ・グリッドに全指揮権を与えるものとする。
なお、後ほど合流するクリアがライズ・グリッドの指揮に異を唱えた場合、速やかにこの文を提示し、ルーツ回収に成功するまたは失敗するまでクリアはライズ・グリッドのルーツ回収作業のサポートをするために行動すること。 以上 ガウス・ウィル』
これが、ライズの端末に表示されていた文書の内容だった。
送信主は、間違いなくガウスからのアドレスであったため、偽装の考慮の余地すら無かった。
「何……で……?」
ライズに指揮権を与えたら、万が一村なんて発見したらこんな悲惨なことになることをボスがわからないはずがない。
そんな気持ちでいっぱいになってしまい、ポツリとクリアは声を漏らしたのだ。
——理解、できない。
クリアの思考力は、この雨天の中未だ微かに燃える残火のように徐々に徐々に消えていく——。
そんな、固まってしまったクリアに見かねたのか。
「……ここまで一緒に来てなんだが……、俺達はゴールド側につかせてもらうぞ。始めからそのつもりでここまで来たんだからな」
「あ……」
グリーンはそれだけ言うと、クリアの返事も待たずライズの方へ風の長刀に手をかけながら飛び出していった。
そんなグリーンに、クリアは言葉を返すことができず。
「なあクリア。お前が何を見てそんな風に動揺してるかは知らないけどさ、俺はやっぱり自分が正しいって思えることをするよ。……こんなこと、許せないしな」
いつの間にかここに合流していたレッドもグリーンに続き、クリアにそれだけ言うとゴールドの前まで行きライズに火の大剣を構えて立ちはだかった。
「おい大将さんよぉ! ぼーっとしてねえでさっさとサポートしてくれや!」
流石にエレメンタルアームズを持つ二人とは分が悪いと思ったのか、イラついた様にライズはクリアを呼ぶ。
——そうだ、ボスの、ボスの言う通りにしないと。
固まっていた体をなんとか動かし、跳び上がってライズの前にクリアは着地した。
「……それがお前の答えなのかよ、クリア」
「…………」
「いいのか?」と言いたげなレッドの問いに、クリアは答える事ができなかった。
クリア達の足元に何かの力で吹き飛ばされてきたのは、先程の逃げ出したゴールドの姿だった。
服装も破れたり焦げたりしてボロボロになっており、この天候の中で飛んできた時に地面を転がったせいで体中泥だらけになっていた。
そして、こちらに飛んできたゴールドを追いかけてゆっくりと大鎌を肩にかけてまるで死神の様にこちらに歩いて来る者の姿が見えた。
その姿は紛れもなく、『ディールーツ』の幹部の一人、通称『雷鎌』のライズ・グリッドだった。
「おい小僧~。この森にあるはずのルーツを持って来いって言ったよなぁ? この森のじゃなくてもレッドとグリーンって奴らからでもいいってよぉ。持って来られなかったっていうなら……村の奴らがどうなってもいいって捉えていいのかぁ?」
「クソォ……! 村のみんなに手ぇ出すんじゃねぇ!」
そう叫びながらゴールドは雷撃をライズに向けて放った。
が、直撃しているにも関わらず全く効いている様には見えない。
現状、【風雨の雲】で雨が降って周囲は水浸しであり、雷属性の者なら分子作用が強まるはずなのに、だ。
むしろ気持ち良く受けているように見えるのは、気のせいではない。
「は、やっぱりテメェ如きの雷の威力じゃ俺にはエレメントを譲ってるだけになってんだよ! ほんとよえーなお前はよぉ!」
「ちくしょう……オレの力じゃアイツを倒せねぇ……!」
ゴールドは己の無力感故か、肩で呼吸をしながら拳を握りわなわなと振るわせている。
この世の理は時として理不尽とも思えるものがある。
まさしく今繰り広げられている〈雷属性の者〉同士の戦いがその代表例だ。
人は体を動かす際に雷のエレメントを信号として作用させ、動かす部位に送る事で体を動かしている。
雷属性のエレメント分子を放出して扱う雷撃系の攻撃は、先刻のレッド達が動きを封じられたように受けた相手の体に残り、その信号の伝達を阻害する影響を与える作用がある。
これを『帯電』と言うのだが、雷属性の者がそれを受けた時、自分のキャスティングできる力量より弱い術式や雷撃の威力だと、逆に吸収され相手に力を与えてしまうことになってしまう。
つまり、ゴールドは身体強化以外でライズに戦う手立てがない事が今この場にいる全員に明らかになってしまっているのだ。
——しかし、まだ大丈夫だ。
……そう、クリアは考えていた。
ゴールドは生きていてくれたし、クリアが自分の権限を行使して一度ライズを止める。
いくらライズがクリアと馬が合わなかろうと、流石に組織の人間として権限に逆らってまで戦おうとはしないだろう。
そして、村人達を解放もしくはどうなっているか聞けば村の損害以外はどうとでもなるはずだと。
「ライズさん、クリアです! その手を止めて下さい!」
その言葉に「おお、やっときたか」と言わんばかりの表情で、すっとクリアの前に飛んできたライズは自慢の下ろすと首にかかるぐらいの長さの逆立てた金髪に付いた水滴を少し払うとにやっと笑ってクリアに話しかけてきた。
「よぉ、大将、遅かったじゃねぇか! だが悪いねぇ、今仕事中でさぁ」
「仕事だって……? 勝ち目がない人を痛ぶっているだけのこれが仕事だって言い張るんですか⁉︎ それに、村の人達はどうしたんですか? それに村だってこんなにめちゃくちゃにして!」
レッド達すら——と言っても顔を合わせたのはまだ二回目なのだが——見たことのない完全に怒りを露わにしたクリアは、その怒りをぶつけるようにライズに叫んだ。
そんなクリアに対して、ライズは「そういうと思ったよ」と言いたげな顔をしながら面倒臭そうに自分の端末を取り出し、何かを操作するとクリアに放り投げた。
「オレはこれの通りに仕事してただけだぜ。文句は……ねえよなぁ大将?」
クリアは「いったいなにを……」と言いたげにライズを睨み付け、受け取った端末に表示されてる司令文書を読み進めていく。
そして、次第に自分の顔が青ざめていくのがクリア自身でもわかった。
『今回のルーツ回収の任務遂行にあたって、ライズ・グリッドに全指揮権を与えるものとする。
なお、後ほど合流するクリアがライズ・グリッドの指揮に異を唱えた場合、速やかにこの文を提示し、ルーツ回収に成功するまたは失敗するまでクリアはライズ・グリッドのルーツ回収作業のサポートをするために行動すること。 以上 ガウス・ウィル』
これが、ライズの端末に表示されていた文書の内容だった。
送信主は、間違いなくガウスからのアドレスであったため、偽装の考慮の余地すら無かった。
「何……で……?」
ライズに指揮権を与えたら、万が一村なんて発見したらこんな悲惨なことになることをボスがわからないはずがない。
そんな気持ちでいっぱいになってしまい、ポツリとクリアは声を漏らしたのだ。
——理解、できない。
クリアの思考力は、この雨天の中未だ微かに燃える残火のように徐々に徐々に消えていく——。
そんな、固まってしまったクリアに見かねたのか。
「……ここまで一緒に来てなんだが……、俺達はゴールド側につかせてもらうぞ。始めからそのつもりでここまで来たんだからな」
「あ……」
グリーンはそれだけ言うと、クリアの返事も待たずライズの方へ風の長刀に手をかけながら飛び出していった。
そんなグリーンに、クリアは言葉を返すことができず。
「なあクリア。お前が何を見てそんな風に動揺してるかは知らないけどさ、俺はやっぱり自分が正しいって思えることをするよ。……こんなこと、許せないしな」
いつの間にかここに合流していたレッドもグリーンに続き、クリアにそれだけ言うとゴールドの前まで行きライズに火の大剣を構えて立ちはだかった。
「おい大将さんよぉ! ぼーっとしてねえでさっさとサポートしてくれや!」
流石にエレメンタルアームズを持つ二人とは分が悪いと思ったのか、イラついた様にライズはクリアを呼ぶ。
——そうだ、ボスの、ボスの言う通りにしないと。
固まっていた体をなんとか動かし、跳び上がってライズの前にクリアは着地した。
「……それがお前の答えなのかよ、クリア」
「…………」
「いいのか?」と言いたげなレッドの問いに、クリアは答える事ができなかった。
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