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第30話 待ち合わせ
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「本当、すごい人の多さだな……。これ、ゆっくり回ってたらちゃんと楽しめ無さそうだけど大丈夫かな……?」
出店は街道の両サイドにそれぞれ並んでいる為、単純に全ての店を見て回るなら相当広いこの城下街の表通りを二週もしなければならない。
何故なら、スムーズに観光客が移動できるように丁度街道を半分に分ける形で内側と外側で進める方向が逆になっているからだ。
ヒカリと回るのに彼女が好きそうな出店を少しでもリサーチしておけば良かったと思っても完全に後の祭りになってしまっているクリアは、今更足掻いても仕方ないので流れに身を任せる事にしたのだった……。
ようやく約束の場所にたどり着いた時、広場に設置されているアナログ式の時計の針は待ち合わせ時間の五分前を指していた。
しかし、『待ち合わせの時間を決めているなら、少し早めに行ったほうがいいわよ。大抵の女の子は時間より早く来て待ってるものだからねぇ』という助言をくれたロザリアの言う通り、ヒカリは既に待ち合わせの噴水のベンチの上に座っていた。
……何故か、何処かの店で購入したらしきクレープを小動物のようにはむはむという擬音が似合うように口に運んで食べているミヤと一緒に。
そんなミヤの頬に付いたクリームを拭ってあげているヒカリは姉の様で。
噴水を背景にした二人の様子は、何故一緒にいるのかという疑問を忘れさせるような、まるで一枚の絵画のような光景であり、ついクリアは目を奪われた。
ミヤは普段のドレス調の服ではなく、襟元から縦ラインにフリルが付いた白い半袖のブラウスに、桜色の細いリボンを結んでおり、茶色のロングスカートという組み合わせのお嬢様な雰囲気を残しつつもいつもよりカジュアルよりの服装だった。
一方でヒカリは、普段は明るい色の私服を好むのに対し、今日は黒レースの長袖のブラウスに同じく黒のフレアスカートという服装で大人っぽい雰囲気を醸し出している。
それがよりミヤと対比になって姉の様に見えるのかもしれない。
更に、珍しくミヤはいつものチャームポイントである大きな黒いリボンを付けておらず、二人ともハーフアップにし、前髪を一房編み込んで下ろしているお揃いの髪型にしていた。
まるで二人の周りだけ違う世界が広がっている様な光景に、クリアは少しだけ胸の高鳴ったような感覚を覚えた。
……どうやら、二人に視線を釘付けにされているのはクリアだけでは無いようで。
あちらこちらで、その場にいた男性の人々がクリアと同じように二人に目を奪われていたり、中には声をかけようかとそわそわしているのが伺える。
しかし、そんな他の男性陣は眼中に無いのだろうか。
全く視線を気にすることも無く、クリアの到着に——まるで気配を感じ取ったかの様だった——気が付いたヒカリは、いつもの様に呼びかけようと手を大きく上げて。
……そのまま、はっとした表情を一瞬浮かべると、恥ずかしそうに視線を下に落として上げた手を下ろしてしまった。
そんなヒカリに、「あらあら」とクレープを口から離してミヤは空いている手を口に当てにこやかに微笑んでいる。
いつもの明るい感じのヒカリは何処へいったのかと言わせるような態度に疑問を持ちつつ、クリアは小走りで二人の元に歩み寄る。
「ごめん、結構待たせちゃったみたいだね」
クリアの謝罪に、ヒカリはまだ少し赤い顔を上げて首を横に振って返す。
「ううん、大丈夫。私たちもさっき来たところだったから。ね、ミヤちゃん?」
「……そうですね。ええ、今きたところですよ、お兄様~。……ふふっ」
ヒカリの言葉に意味深な笑みを浮かべながらそれだけ相槌を返すと、ミヤは再びクレープを口に運んで食べ進める。
——……今のミヤの間はいったい?
妙な間に気にはなったが、既に口に食べ物を含んだミヤに話しかけることを躊躇ったクリアは、とりあえずヒカリに先程浮かんだ忘れかけていた疑問の一つを聞くことにした。
「そう……? それならよかった。それにしても、なんでミヤがヒカリと一緒にいるんだい?」
一応もう一度自分の記憶を掘り返しても、クリアが今日誘ったのはヒカリだけだったはずだ。
それに、ミヤはガウスと一緒に国王と王女に謁見するため城下街の祭りに参加せず一日中城で過ごす予定だったとクリアは記憶していたが。
不思議に思うクリアに、ヒカリは複雑な表情を浮かべながら手招きしてきた。
これは、クリアとヒカリがあまり声を大にして話せない事柄がある時に耳を貸してほしいという意図の合図だった。
クリアが手招きに応じてヒカリに耳を近付けると、こっそりと現在の状況になった事情をヒカリは説明し始める。
「実はね、先方の王女様が今朝から急に行方不明になってしまったらしくて……。一応書き置きがあったらしいのだけど、事情が事情なだけに謁見が王女様が戻るまで後回しになっちゃったんだって。それでミヤちゃんの時間が空いちゃったから、組織の区画で暇そうにうろうろしてたの。流石に可哀想で見てられなくてつい声かけちゃったんだ。……せっかく誘ってもらったのに勝手なことしてごめんね」
さらっととんでもない情報が入って来たことは表情に出さないようにしながら、申し訳なさそうに教えてくれたヒカリにクリアもヒカリの耳元で囁く様に返す。
「なるほど、そんな事が……。むしろ、ミヤを誘ってくれてありがとう、だよ。毎年謁見ばかりのスケジュールで城下街のお祭りに来たことなんてなかったはずだから、ミヤすごく嬉しかったんじゃないかな」
立場上仕方がないとはいえ、ミヤが毎年謁見ばかりでお祭りで遊ぶ暇もないことをクリアも気にしていた。
だからこそ、二人きりでは無くなってしまったが、それよりもヒカリの心遣いがクリアも嬉しかった。
……それにしても、いったいどんな思惑で王女は行方をくらましたのだろうか。
事情を聞いた人全員がそう思ったに違いないとクリアは思うが、皆目検討など付くはずもなく。
クリアは時間が勿体無いと思いながらも、その思考を王女の行動理由に割くことになってしまった——。
出店は街道の両サイドにそれぞれ並んでいる為、単純に全ての店を見て回るなら相当広いこの城下街の表通りを二週もしなければならない。
何故なら、スムーズに観光客が移動できるように丁度街道を半分に分ける形で内側と外側で進める方向が逆になっているからだ。
ヒカリと回るのに彼女が好きそうな出店を少しでもリサーチしておけば良かったと思っても完全に後の祭りになってしまっているクリアは、今更足掻いても仕方ないので流れに身を任せる事にしたのだった……。
ようやく約束の場所にたどり着いた時、広場に設置されているアナログ式の時計の針は待ち合わせ時間の五分前を指していた。
しかし、『待ち合わせの時間を決めているなら、少し早めに行ったほうがいいわよ。大抵の女の子は時間より早く来て待ってるものだからねぇ』という助言をくれたロザリアの言う通り、ヒカリは既に待ち合わせの噴水のベンチの上に座っていた。
……何故か、何処かの店で購入したらしきクレープを小動物のようにはむはむという擬音が似合うように口に運んで食べているミヤと一緒に。
そんなミヤの頬に付いたクリームを拭ってあげているヒカリは姉の様で。
噴水を背景にした二人の様子は、何故一緒にいるのかという疑問を忘れさせるような、まるで一枚の絵画のような光景であり、ついクリアは目を奪われた。
ミヤは普段のドレス調の服ではなく、襟元から縦ラインにフリルが付いた白い半袖のブラウスに、桜色の細いリボンを結んでおり、茶色のロングスカートという組み合わせのお嬢様な雰囲気を残しつつもいつもよりカジュアルよりの服装だった。
一方でヒカリは、普段は明るい色の私服を好むのに対し、今日は黒レースの長袖のブラウスに同じく黒のフレアスカートという服装で大人っぽい雰囲気を醸し出している。
それがよりミヤと対比になって姉の様に見えるのかもしれない。
更に、珍しくミヤはいつものチャームポイントである大きな黒いリボンを付けておらず、二人ともハーフアップにし、前髪を一房編み込んで下ろしているお揃いの髪型にしていた。
まるで二人の周りだけ違う世界が広がっている様な光景に、クリアは少しだけ胸の高鳴ったような感覚を覚えた。
……どうやら、二人に視線を釘付けにされているのはクリアだけでは無いようで。
あちらこちらで、その場にいた男性の人々がクリアと同じように二人に目を奪われていたり、中には声をかけようかとそわそわしているのが伺える。
しかし、そんな他の男性陣は眼中に無いのだろうか。
全く視線を気にすることも無く、クリアの到着に——まるで気配を感じ取ったかの様だった——気が付いたヒカリは、いつもの様に呼びかけようと手を大きく上げて。
……そのまま、はっとした表情を一瞬浮かべると、恥ずかしそうに視線を下に落として上げた手を下ろしてしまった。
そんなヒカリに、「あらあら」とクレープを口から離してミヤは空いている手を口に当てにこやかに微笑んでいる。
いつもの明るい感じのヒカリは何処へいったのかと言わせるような態度に疑問を持ちつつ、クリアは小走りで二人の元に歩み寄る。
「ごめん、結構待たせちゃったみたいだね」
クリアの謝罪に、ヒカリはまだ少し赤い顔を上げて首を横に振って返す。
「ううん、大丈夫。私たちもさっき来たところだったから。ね、ミヤちゃん?」
「……そうですね。ええ、今きたところですよ、お兄様~。……ふふっ」
ヒカリの言葉に意味深な笑みを浮かべながらそれだけ相槌を返すと、ミヤは再びクレープを口に運んで食べ進める。
——……今のミヤの間はいったい?
妙な間に気にはなったが、既に口に食べ物を含んだミヤに話しかけることを躊躇ったクリアは、とりあえずヒカリに先程浮かんだ忘れかけていた疑問の一つを聞くことにした。
「そう……? それならよかった。それにしても、なんでミヤがヒカリと一緒にいるんだい?」
一応もう一度自分の記憶を掘り返しても、クリアが今日誘ったのはヒカリだけだったはずだ。
それに、ミヤはガウスと一緒に国王と王女に謁見するため城下街の祭りに参加せず一日中城で過ごす予定だったとクリアは記憶していたが。
不思議に思うクリアに、ヒカリは複雑な表情を浮かべながら手招きしてきた。
これは、クリアとヒカリがあまり声を大にして話せない事柄がある時に耳を貸してほしいという意図の合図だった。
クリアが手招きに応じてヒカリに耳を近付けると、こっそりと現在の状況になった事情をヒカリは説明し始める。
「実はね、先方の王女様が今朝から急に行方不明になってしまったらしくて……。一応書き置きがあったらしいのだけど、事情が事情なだけに謁見が王女様が戻るまで後回しになっちゃったんだって。それでミヤちゃんの時間が空いちゃったから、組織の区画で暇そうにうろうろしてたの。流石に可哀想で見てられなくてつい声かけちゃったんだ。……せっかく誘ってもらったのに勝手なことしてごめんね」
さらっととんでもない情報が入って来たことは表情に出さないようにしながら、申し訳なさそうに教えてくれたヒカリにクリアもヒカリの耳元で囁く様に返す。
「なるほど、そんな事が……。むしろ、ミヤを誘ってくれてありがとう、だよ。毎年謁見ばかりのスケジュールで城下街のお祭りに来たことなんてなかったはずだから、ミヤすごく嬉しかったんじゃないかな」
立場上仕方がないとはいえ、ミヤが毎年謁見ばかりでお祭りで遊ぶ暇もないことをクリアも気にしていた。
だからこそ、二人きりでは無くなってしまったが、それよりもヒカリの心遣いがクリアも嬉しかった。
……それにしても、いったいどんな思惑で王女は行方をくらましたのだろうか。
事情を聞いた人全員がそう思ったに違いないとクリアは思うが、皆目検討など付くはずもなく。
クリアは時間が勿体無いと思いながらも、その思考を王女の行動理由に割くことになってしまった——。
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