エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

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第51話 舞い戻りし黒

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「つ……ああ……」
 
 言葉にならないうめき声が、術式に飲み込まれ石壁に叩きつけられたクリアの全身を襲う痛みによって口から漏れ出す。
 
 それは、クリアにも理解できないことだった。
 
 というよりも、『所有者ホルダー』全員すら予想していなかっただろう。
 
 確かにクリアは途中までその術式竜巻吸収していたのだから。
 
 クリアが突如感じ取った、術式に新たに組み込まれたエレメント。
 それは、この闘技場の中で戦っていた誰のものでもなかった。
 
 なにせ、クリアが全く知らない未知・・のエレメントだったのだから。
 
 それがただ組み込まれているだけなら問題はなかった。
 
 あの日・・・もそうだったように、クリアの【力】は別にクリアが認知していないエレメントでも問題なく【吸収】自体はできるのだ。
 
 しかし、その新たに唐突に組み込まれたエレメントはそういう作用なのか。
 エレメント同士の構成の結び付きをより強固にする、言うなればエレメント分子の接着剤のような作用を持っていた。
 
 故に【分解】しきれず、クリアに術式が直撃する事態となったのだ。
 
 今まで味わった事のない身体へのダメージは、あまりにも大きく。
 
 そのままえぐれた石壁にもたれかかるように体を預けるクリアは、徐々に薄れゆく意識の中で、残り少ない体に入れられる精一杯の力を使い王族達の席に目を向ける。
 
 そこには、闘技場に向かって手を伸ばしている王と、そんな王を見て口に手を当て驚く王女の姿があった。
 
 ——この闘技場、外部と内部どちらからも干渉できない・・・・・・んじゃなかったのか……。
 
 恐らく戦っていた者の中で誰も望んでいない顛末に、ブルーですら戸惑っているように見える。
 
 ——……これがこの国の王族のキャスティングする属性か。
 
 ……今更認知したところでもう遅い。
 
 クリアには、わからない。
 このまま意識を手放した後、自分は死んでいるのか——。
 
 ——まだなにも果たせていないというのに。
 
 そんな思いがそうさせるのか、クリアの頬を温かい感覚が走った。
 それは、悔しさ故の涙だった。
 
 体の感覚はまだ残ってはいる。
 
 しかし、全くと言っていいほど体は頭からの指令に従ってくれなかった。
 
 ——ここまで、なのか……?
 
 久々に感じた「諦め」という感情をクリアが受け入れかけた時だった。
 
『おィ、もォくたばるとかいうんじゃねェだろうなァ?』
 
 突然、頭の中に直接聞き覚えのない低めの男性のような声が響く。
 
 しかし、その特徴的な話し方にクリアは聞き覚えがあった。
 
 ——……ザ・クロ?
『よォ、久しぶりだなァ! 元気してたかァ?』
 ——……さっきまでは。
 
 あれだけアプローチをかけた際には全く反応を見せなかっただけに、突然頭の中に直接話しかけてくるザ・クロに、クリアは戸惑う。
 
 そして、不思議なことにザ・クロとの会話は心の中で思うだけで成立するらしい。
 
 さらには、あれだけ手放そうとしていた意識も、ザ・クロに対してだけははっきりと向けていられる。
 
『今、なんで意識がはっきりとしてきたかって思ってるだろォ?』
 ——……うん。
『それはなァ、既に体の主導権がお前に無いからだよォ』
 ——……え?
 
 そういえば、とクリアは思う。
 
 ザ・クロに言われたように、体の感覚はザ・クロが語りかけてきた時から既に無くなっていた。
 あれだけ全身に走っていた激痛も、今は感じられない。
 
 まるで心だけがここにあるような、そんな感覚だった。
 
『お前の体は既に俺のものになってるぜェ。まァ、別に死にそうだったんだしいいよなァ?』
 ——キミの凶悪さを知ってるボクから言わせてもらえば良くは無いけどね……。
 
 ミヤの体を乗っ取った時、ザ・クロは人に対して大きな憎悪を持っているようだった。
 
 だからこそ、体の主導権を取られたのはかなりよろしく無い事態となっているかもしれないのだ。
 
『まァ、お前はここでどうなるか見てるんだなァ』
 ——なにを⁉︎
 
 その言葉を最後に、クリアへのザ・クロからの声は途切れた。
 
 そのかわりのように、突然体を乗っ取ったザ・クロが得ている視覚や聴覚が直接クリアの心に情報として流れ込んできた。
 
「クリア……? お前、その髪と顔……」
「クリアァ? 誰それ? 俺ザ・クロ。どうもルーツの『所有者ホルダー』どもォ!」
 
 レッドの反応と、聞き覚えのあるザ・クロの返しにクリアは戸惑いながらも何となく察する。
 
 ——ボクの髪が黒くなってきていたのって……お前が目覚める兆候だったのか?
 
 クリアが心の中から思い語りかけてみるも、ザ・クロからの返事は無かった。
 
 どうやら、完全に表に出たザ・クロには届かないか、答えてくれないらしい。
 
 クリアに流れてくる視界は、明らかに変貌した元クリアに戸惑いを見せる『所有者ホルダー』達。
 
「お前はクリアでは無いな? ザ・クロと言ったか? 何者だ」
 
 グリーンの問いに、ザ・クロは面倒臭そうに返した。
 
「お前らが愛用しているルーツのお仲間だぜェ。今からお前ら全員ボコボコにするからよろしくなァ」
 
 そう言うや否や、ザ・クロは挨拶と言わんばかりに右手からお得意のあの黒いレーザーを薙ぎ払うように放つ。
 
 以前クリアが見た時より細く形取られているため、明らかに発生する速度がクリアと戦っていた時より早く。
 
 ……それは、絶妙にレッドを除く三人に当たらないよう全員の頭の上スレスレを走るように軌道を描いていた。
 
 そして——。
 
「枷を破壊した?」
 
 レッドにクリアがなんとか取り付けた枷をいとも簡単に取り外はかいした。
 
 それはつまり、ザ・クロの放った一撃が、『所有者ホルダー』全員の反応速度を上回っていることを意味していた。
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