エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

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第53話 痛み分け

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「「【紅爆真空波動スパイラル・オブ・クリムゾンバースト】‼︎」」
「【黄金雷電砲撃ゴールデン・サンダー・キャノン】‼︎」
「【タイタニクス・ウェーブ】‼︎」
 
 迫り来る強大な闇に対して、レッドとグリーンはこの土壇場で二重術式デュアルキャストを繰り出す。
 
 見た感じ、火球を風のエレメントで作り出した巨大な竜巻で覆い、目標に当たるインパクト時に自らを包む風のエレメントの分子反応により火球の威力が最も高まるように計算されて作られた術式のようだった。
 
 そしてクリアも認めている破壊力を誇るゴールドの切札の術式。
 
 最後に、超巨大な津波を作り出しシンプルに相手を飲み込む、エレメンタルアームズもとい、ルーツの力ありきのブルーには似つかわしくない力技の水の術式。
 
 それらは恐らく、今持てる全身全霊をかけて迫り来る脅威に対抗するため放たれた。
 
 しかし、そんな彼らや術式を嘲笑うかのように。
 
 単純な、本当に単純な多量の闇属性エレメント分子の塊は、一切押し戻されることもなく。
 
 本来属性の分子反応的に苦手とする火のエレメントも、雷のエレメントの分子反応もものともせずに、——放たれた直後よりは進行速度は少し劣っていたが——その威力は衰えることなく『所有者ホルダー』達、そして後ろの観客席まで達して激しい音を鳴り響かせた。
 
 ——そんな……レッドさん達が……。
 
 ザ・クロの術式が破壊のかぎりを尽くしたであろうその道筋は、激しい土煙に覆われて『所有者ホルダー』達や観客席の様子は見ることを阻まれている。
 
 だが、視界からの情報に頼らずとも、クリアの頭にはその惨状が容易に想像できた。
 
 もはや、何も残っていなくてもおかしくない。
 そう思わせるほど、ザ・クロの術式は明確な殺意を含んで敵対者を襲った。
 
 同じ体を共有しているからなのか、クリアにはその殺意がひしひしと伝わってきたのだ。
 
 そしてこの殺人行為は、実質的にクリアが行ったに等しい。
 
 ——ボクに力が無かったばかりに……。
 
 己の無力感に打ちひしがれるクリアに、再び直接ザ・クロの声が届く。
 
『……チッ、仕留め損ねちまったみてェだなァ』
 ——……え?
 
 ザ・クロの声にクリアが送られてくる視覚情報に注意を向け直す。
 
 土煙が晴れ、その中の光景がクリアの頭の中に流れ込んでくる。
 
 そこには、全身ボロボロになりつつも人としての原型を留めた四人の姿と、ほぼ崩壊寸前だが、観客席の誰にも——余波のせいなのか、それともショックによるものか気を失っている者はいた——ダメージを受けている者はおらず。
 
 ——これは……?
 
 ザ・クロは明らかに全員の命を奪うつもりで術式を放っていたはずだ。
 しかし、想像と現実の光景のズレに、クリアは理解が追いついていなかった。
 
 そんなクリアの内情を勝手に読み取ったのか。
 ザ・クロは大きな声で独り言のように言う。
 
「あーあ、残念だねェ! この体が万全だったらとっくに全員消し飛んでたって言うのになァ!」
 
 それは、王国側の者に「次は無い」とけん制するために言ったのだろうか。
 
「……この勝負、我々の負けだな。いや、両者痛み訳と言うべきか」
 
 『所有者ホルダー』達には、クリアが得ている視覚情報から見ても既に意識は無く。
 ぴくりとも動かない四人を見て、王はそう言った。
 
 ……もちろん、クリアの身体ダメージも考慮して、だ。
 
 クリアは薄々勘付いてはいた。
 
 何故、今にも意識が飛びそうな程ダメージを受けた体でザ・クロは——実際にはあまりに一方的な戦い方だったため動き回ったりはしていなかったが——動かし、あれほどの術式を行使できていたのか。
 
 それは、クリアの体を無理やり闇のエレメントをキャスティングして纏わせまるで操り人形マリオネットのように操っていたのだ。
 
 しかし、そのやり方でも徐々にクリアの体は限界に近付いていた。
 
 故に、最後の術式は『所有者ホルダー』四人を死に至らしめるまでに及ばなかったと言う訳だ。
 
 現状、『所有者ホルダー』四人はもう戦えない。
 
 しかし、『ディールーツ』の戦力としてこの場にいるのはクリアだけだ。
 
 王国側の領土であるこの『セインテッド王国』にいる限り、王国側の戦力はまだまだ幾らでも供給されることだろう。
 
 問題はどうやってガウスとミヤ、そしてヒカリをこの場から逃すかだ。
 
 王がグリーンとの協定の条件を反故にしないのであれば、城下街にいる組織の人々は後回しでも大丈夫だが。
 
 ボスであるガウス、その令嬢てあるミヤ、そして少なからずこちら側の事情を知ってしまったヒカリは条件の保護下に当てはまらなくなってしまった。
 
 ——ザ・クロ、ボクの体は後どのぐらい動かせる?
『……後一分ってとこかァ。なにするつもりだァ?』
 ——頼みがあるんだ。
『嫌だと言ったらどォする?』
 
 嫌がらせのように言うザ・クロに、脅し文句のようにクリアは返す。
 
 ——無理やりでも体を奪い返して一緒に心中してあげようか?
『…………』
 
 クリアの返しに、面倒臭そうに無言になるザ・クロ。
 
 ——時間がないんだ。黙ってる暇は無いと思うけど?
『チッ、一つ貸しだからな』
 ——わかった。……そのかわり、ちゃんと生き残れれば、だけどね。
『はん、てめェの組織の医療技術を信じる事だな』
 
 流石に心の中で会話しているだけあって、ザ・クロにはクリアが実行しようとしていることを理解してくれたようだった。
 
 ——それじゃ、いくよ!
 
 クリアの合図と共に、クリアは自らの五感を取り戻した——正確には意識のみだが——ことを実感する。
 
 それは、今までザ・クロに体を明け渡していた事で遮断されていた全身が発する危険信号痛みが教えてくれる。
 
 このままでは、ザ・クロに体を奪われる前と同じくすぐに意識を失う事になる。
 
 ——だからこそ、任せたんだ。
 
 体はもはやクリアの指示通りには動いてくれない。
 
 だが、先程のように体だけザ・クロに無理やり動かしてもらえば。
 
 クリアがザ・クロに無理やり動かしてもらって向かう先は、当然ガウス達の元……ではなく。
 
 ガウス達は未だ兵士に囲まれており、手を取って逃げる事は叶わない。
 
 ——故に。
 
 クリアが目指すのは、この闘技場を覆う謎の遮断している壁の外だった。
 
 そう、それは闘技場のへの出入り口。
 
 クリアの初撃で凹みひび割れた石壁のひびが、闘技場の出入り口内部まで走っていた事をクリアは確認していた。
 
 つまり、出入り口にはその防壁というべきものは存在しない。
 
「っ……!」
 ——痛い、けど……!
 
 今にも飛びそうな意識を繋ぐのは、クリアの大切なモノ。
 
 クリアは出入り口から闘技場の外に飛び出すと、今日唯一体内に残していたあの・・エレメントをキャスティングし、その術式名を叫んだ。
 
「【次元移動のワープ……引き金トリガー】‼︎」
 
 クリアが行使した術式がその効力を発揮した事を認識したのは、ガウスとミヤ、ヒカリが目の前に存在して、この場所が見慣れた場所・・・・・・であると視界から得た情報からだった。
 
作戦ミッション……完了コンプリート
 
 その言葉を最後に、クリアは完全に意識を手放した。
 
 
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