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第86話 聖間戦争8 幕引
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【闇の盾】を喰らい威力を底上げし迫り来る【黒き消去する者】をイクスは避けようともしなかった。
まるでそれは「躱す必要など無い」と言いたげに。
再び【黒き消去する者】はイクスに直撃し、彼を石壁まで押しやり、そのまま石壁を貫通させ大きな穴を空けた。
当然、【無属性】を絡めた【黒き消去する者】からクリアに逃さずイクスはまるで貪り喰らわれるように直撃させた感覚が伝わってくる。
クリアは、既に二度とイクスを実質的に吸収したことになる。
一度目は一撃で戦闘不能にするつもりで。
この時は吸収するつもりは無かったため、聖属性をキャスティングできるイクスなら戦闘不能程度で済むと見越していた。
二度目の今。
イクスの真意を知り、本気の殺意を持って放った【黒き消去する者】は聖属性により補強された石壁すら消し去り、当然その身で直撃を受けたイクスは一部クリアに【吸収】されながらも、その大半は闇のエレメントの質量による攻撃で粉々になっていてもおかしくなかった。
要するに、あの人の命を奪う事に誓約を立てていたクリアが自分の意思でイクスを殺したのだ。
それは、怒りに身を任せたからではなかった。
クリアの想像を確固たるものに、目の前の光景は変えてくれた。
クリアの派手な術式の名残であたりに霧散した闇と舞い上がった土煙が晴れた時に目に映った光景。
大きな穴の空いた石壁の前から、再び平然とイクスがこちらを見ながら歩いている姿だった。
あり得ない光景に、クリアが連れてきた三幹部は衝撃を受けているのをクリアは感知した。
だが、真相を知ったクリアはもう驚くことは無い。
「……本体は何処にいる……〈聖のルーツ〉!」
以前感じたイクス王への違和感の正体を確信して目の前にいるイクスもどきにクリアは問いかけた。
——『これが本当にあの賢王と呼ばれたセインテッド・アーク・イクス王なのか?』
以前に思ったクリアの考えは正しかったようだ。
「……ほう、我が正体に気が付くとは。自力なのかザ・クロの入れ知恵なのかは知らないがそこにたどり着いたことは褒めてやろう、『ホルダー』の小僧」
クリアの事を『ホルダー』と言ったことで、もはや自分の正体を隠すつもりは無いらしい。
無表情で語るそれは、やつの作り物なのだろう。
「自分やレッドさん達の偽物を作って戦わせるなんて……初めからまともに戦うつもりも無かったんですか?」
若干煽り口調で返したクリアは、頭の中では考えたくも無いことを考慮していた。
——恐らく、聖属性は……人を生成できる。
【影の騎士団】に似て非なるものであるその力は実に冒涜的な能力であるとクリアは思った。
先程吸収したレッドとゴールドを構成しているエレメントの分子量が普通の人よりも少なかったのも、初めから使い捨ての駒として戦闘に特化させるだけで他の人としての機能を削ったからなのだろう。
そしてそれは、明らかに人格を持っていた。
つまり、条件が揃い本気になれば能動的に人を生み出す事ができるということ。
しかも赤子からではなく、大人でも本人と遜色無い能力を持った意のままに操れる人形と化したもう一人の本物を。
「何故こんな事を? ボク達が本気で攻め込むと聞いて怖気付いたからですか?」
「なに、そうでもない。初めから【無属性】であり『ホルダー』である貴様が相手なのだ。
わざわざ『所有者』であるやつらと我が正面から戦う必要など無いと思っただけよ。
それで貴様を殺せればよし。ダメなら相応の力を『所有者』が身につけるまで隠し通せればよし、とな」
——保険をかけていたという訳か。
「そもそも、何時からイクス王の体を乗っ取っていたんです?」
「我に答える義務が?」
イクスもどきはそういうと、右の人差し指をすっと呼吸でもするかのように自然に振り下ろした。
——瞬間。
「なっ⁉︎」
「「きゃっ⁉︎」」
前にいるライズと後ろにいるロザリア、シングの三人が悲鳴を上げまるでイクスもどきに頭を垂れるように地面に押し付けられていた。
押し返すこともできないようで、三人に目をやると全く身動きが取れなさそうだった。
「何を……!」
「なに、我が【聖属性】が貴様の【無属性】のように大変優秀なものであるという事を見せておいてやろうと思ってな。
これは力の一旦だ。お得意の【分解】の力でも使って自由にしてやるがいい」
そう言いながら、満足げに踵を返しクリアが空けた穴の方へイクスもどきは足を進めて行く。
「バ……カ……早くやつを追いやがれクリア!」
苦しげな声で言うライズの言葉に、クリアは少しだけ考えると首を振って返し、【無属性】の力を一帯に広げる。
三人を地に伏せさせていたのは、目に映らない多量の風属性のエレメントを聖属性で固めた擬似的な重石だった。
クリアがそれを【分解】して取り除くと、ライズが飛ぶようにクリアの元に来て胸ぐらを掴み叫んだ。
「テメェ! なんであいつを追いかけなかった!」
「やめてください! クリアさんは王を追う意味が無いと判断してあたし達の救出を優先してくれたんじゃないですか!」
クリアの胸ぐらを掴むライズの手を振り解こうとシングが更に手を掴んだ事でよりクリアは揺さぶられることになったが、
状況を理解したのかライズは「……すまねぇ」と一言言って手を離した。
「ライズさんがゴールドさんとちゃんと決着を付けられなくて残念なのはわかります。……悔しいですが、一度本部に戻って作戦を練り直しましょう」
なんの成果も上げられず、悔しさを胸にクリアは三人を連れその場を去る判断を強いられるのだった。
まるでそれは「躱す必要など無い」と言いたげに。
再び【黒き消去する者】はイクスに直撃し、彼を石壁まで押しやり、そのまま石壁を貫通させ大きな穴を空けた。
当然、【無属性】を絡めた【黒き消去する者】からクリアに逃さずイクスはまるで貪り喰らわれるように直撃させた感覚が伝わってくる。
クリアは、既に二度とイクスを実質的に吸収したことになる。
一度目は一撃で戦闘不能にするつもりで。
この時は吸収するつもりは無かったため、聖属性をキャスティングできるイクスなら戦闘不能程度で済むと見越していた。
二度目の今。
イクスの真意を知り、本気の殺意を持って放った【黒き消去する者】は聖属性により補強された石壁すら消し去り、当然その身で直撃を受けたイクスは一部クリアに【吸収】されながらも、その大半は闇のエレメントの質量による攻撃で粉々になっていてもおかしくなかった。
要するに、あの人の命を奪う事に誓約を立てていたクリアが自分の意思でイクスを殺したのだ。
それは、怒りに身を任せたからではなかった。
クリアの想像を確固たるものに、目の前の光景は変えてくれた。
クリアの派手な術式の名残であたりに霧散した闇と舞い上がった土煙が晴れた時に目に映った光景。
大きな穴の空いた石壁の前から、再び平然とイクスがこちらを見ながら歩いている姿だった。
あり得ない光景に、クリアが連れてきた三幹部は衝撃を受けているのをクリアは感知した。
だが、真相を知ったクリアはもう驚くことは無い。
「……本体は何処にいる……〈聖のルーツ〉!」
以前感じたイクス王への違和感の正体を確信して目の前にいるイクスもどきにクリアは問いかけた。
——『これが本当にあの賢王と呼ばれたセインテッド・アーク・イクス王なのか?』
以前に思ったクリアの考えは正しかったようだ。
「……ほう、我が正体に気が付くとは。自力なのかザ・クロの入れ知恵なのかは知らないがそこにたどり着いたことは褒めてやろう、『ホルダー』の小僧」
クリアの事を『ホルダー』と言ったことで、もはや自分の正体を隠すつもりは無いらしい。
無表情で語るそれは、やつの作り物なのだろう。
「自分やレッドさん達の偽物を作って戦わせるなんて……初めからまともに戦うつもりも無かったんですか?」
若干煽り口調で返したクリアは、頭の中では考えたくも無いことを考慮していた。
——恐らく、聖属性は……人を生成できる。
【影の騎士団】に似て非なるものであるその力は実に冒涜的な能力であるとクリアは思った。
先程吸収したレッドとゴールドを構成しているエレメントの分子量が普通の人よりも少なかったのも、初めから使い捨ての駒として戦闘に特化させるだけで他の人としての機能を削ったからなのだろう。
そしてそれは、明らかに人格を持っていた。
つまり、条件が揃い本気になれば能動的に人を生み出す事ができるということ。
しかも赤子からではなく、大人でも本人と遜色無い能力を持った意のままに操れる人形と化したもう一人の本物を。
「何故こんな事を? ボク達が本気で攻め込むと聞いて怖気付いたからですか?」
「なに、そうでもない。初めから【無属性】であり『ホルダー』である貴様が相手なのだ。
わざわざ『所有者』であるやつらと我が正面から戦う必要など無いと思っただけよ。
それで貴様を殺せればよし。ダメなら相応の力を『所有者』が身につけるまで隠し通せればよし、とな」
——保険をかけていたという訳か。
「そもそも、何時からイクス王の体を乗っ取っていたんです?」
「我に答える義務が?」
イクスもどきはそういうと、右の人差し指をすっと呼吸でもするかのように自然に振り下ろした。
——瞬間。
「なっ⁉︎」
「「きゃっ⁉︎」」
前にいるライズと後ろにいるロザリア、シングの三人が悲鳴を上げまるでイクスもどきに頭を垂れるように地面に押し付けられていた。
押し返すこともできないようで、三人に目をやると全く身動きが取れなさそうだった。
「何を……!」
「なに、我が【聖属性】が貴様の【無属性】のように大変優秀なものであるという事を見せておいてやろうと思ってな。
これは力の一旦だ。お得意の【分解】の力でも使って自由にしてやるがいい」
そう言いながら、満足げに踵を返しクリアが空けた穴の方へイクスもどきは足を進めて行く。
「バ……カ……早くやつを追いやがれクリア!」
苦しげな声で言うライズの言葉に、クリアは少しだけ考えると首を振って返し、【無属性】の力を一帯に広げる。
三人を地に伏せさせていたのは、目に映らない多量の風属性のエレメントを聖属性で固めた擬似的な重石だった。
クリアがそれを【分解】して取り除くと、ライズが飛ぶようにクリアの元に来て胸ぐらを掴み叫んだ。
「テメェ! なんであいつを追いかけなかった!」
「やめてください! クリアさんは王を追う意味が無いと判断してあたし達の救出を優先してくれたんじゃないですか!」
クリアの胸ぐらを掴むライズの手を振り解こうとシングが更に手を掴んだ事でよりクリアは揺さぶられることになったが、
状況を理解したのかライズは「……すまねぇ」と一言言って手を離した。
「ライズさんがゴールドさんとちゃんと決着を付けられなくて残念なのはわかります。……悔しいですが、一度本部に戻って作戦を練り直しましょう」
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