エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

文字の大きさ
87 / 94

第86話 聖間戦争8 幕引

しおりを挟む
 【闇の盾プロテクト・ブラック】を喰らい威力を底上げし迫り来る【黒き消去する者ブラック・デリーター】をイクスは避けようともしなかった。
 
 まるでそれは「躱す必要など無い」と言いたげに。
 
 再び【黒き消去する者ブラック・デリーター】はイクスに直撃し、彼を石壁まで押しやり、そのまま石壁を貫通させ大きな穴を空けた。
 
 当然、【無属性】を絡めた【黒き消去する者ブラック・デリーター】からクリアに逃さずイクスはまるで貪り喰らわれるように直撃させた感覚が伝わってくる。
 
 クリアは、既に二度とイクスを実質的に吸収ころしたことになる。
 
 一度目は一撃で戦闘不能にするつもりで。
 この時は吸収するつもりは無かったため、聖属性をキャスティングできるイクスなら戦闘不能程度で済むと見越していた。
 
 二度目の今。
 
 イクスの真意を知り、本気の殺意を持って放った【黒き消去する者ブラック・デリーター】は聖属性により補強された石壁すら消し去り、当然その身で直撃を受けたイクスは一部クリアに【吸収】されながらも、その大半は闇のエレメントの質量による攻撃で粉々になっていてもおかしくなかった。
 
 要するに、あの人の命を奪う事に誓約を立てていたクリアが自分の意思でイクスを殺したのだ。
 
 それは、怒りに身を任せたからではなかった。
 
 クリアの想像を確固たるものに、目の前の光景は変えてくれた。
 
 クリアの派手な術式いちげき名残なごりであたりに霧散した闇と舞い上がった土煙が晴れた時に目に映った光景。
 
 大きな穴の空いた石壁の前から、再び平然とイクスがこちらを見ながら歩いている姿だった。
 
 あり得ない光景に、クリアが連れてきた三幹部は衝撃を受けているのをクリアは感知した。
 
 だが、真相を知ったクリアはもう驚くことは無い。
 
「……本体は何処にいる……〈聖のルーツ〉!」
 
 以前感じたイクス王への違和感の正体を確信して目の前にいるイクスもどきにクリアは問いかけた。
 
 ——『これが本当にあの賢王と呼ばれたセインテッド・アーク・イクス王なのか?』
 
 以前に思ったクリアの考えは正しかったようだ。
 
「……ほう、我が正体に気が付くとは。自力なのかザ・クロ・・・・の入れ知恵なのかは知らないがそこにたどり着いたことは褒めてやろう、『ホルダー』の小僧」
 
 クリアの事を『ホルダー』と言ったことで、もはや自分の正体を隠すつもりは無いらしい。
 
 無表情で語るそれ・・は、やつの作り物にんぎょうなのだろう。
 
「自分やレッドさん達の偽物を作って戦わせるなんて……初めからまともに戦うつもりも無かったんですか?」
 
 若干煽り口調で返したクリアは、頭の中では考えたくも無いことを考慮していた。
 
 ——恐らく、聖属性は……人を生成できる。
 
 【影の騎士団ドッペル・ナイツ】に似て非なるものであるその力は実に冒涜的な能力であるとクリアは思った。
 
 先程吸収したレッドとゴールドを構成しているエレメントの分子量が普通の人よりも少なかったのも、初めから使い捨ての駒として戦闘に特化させるだけで他の人としての機能を削ったからなのだろう。
 
 そしてそれは、明らかに人格を持っていた。
 
 つまり、条件が揃い本気になれば能動的に人を生み出す事ができるということ。
 
 しかも赤子からではなく、大人でも本人と遜色無い能力を持った意のままに操れる人形と化したもう一人の本物コピーを。
 
「何故こんな事を? ボク達が本気で攻め込むと聞いて怖気付いたからですか?」
「なに、そうでもない。初めから【無属性】であり『ホルダー』である貴様が相手なのだ。
わざわざ『所有者ホルダー』であるやつらと我が正面から戦う必要など無いと思っただけよ。
それで貴様を殺せればよし。ダメなら相応の力を『所有者ホルダー』が身につけるまで隠し通せればよし、とな」
 
 ——保険をかけていたという訳か。
 
「そもそも、何時からイクス王の体を乗っ取っていたんです?」 
「我に答える義務が?」
 
 イクスもどきはそういうと、右の人差し指をすっと呼吸でもするかのように自然に振り下ろした。
 
 ——瞬間。
 
「なっ⁉︎」
「「きゃっ⁉︎」」
 
 前にいるライズと後ろにいるロザリア、シングの三人が悲鳴を上げまるでイクスもどきにこうべを垂れるように地面に押し付けられていた。
 
 押し返すこともできないようで、三人に目をやると全く身動きが取れなさそうだった。
 
「何を……!」
「なに、我が【聖属性】が貴様の【無属性】のように大変優秀なものであるという事を見せておいてやろうと思ってな。
これは力の一旦だ。お得意の【分解】の力でも使って自由にしてやるがいい」
 
 そう言いながら、満足げに踵を返しクリアが空けた穴の方へイクスもどきは足を進めて行く。
 
「バ……カ……早くやつを追いやがれクリア!」
 
 苦しげな声で言うライズの言葉に、クリアは少しだけ考えると首を振って返し、【無属性】の力を一帯に広げる。
 
 三人を地に伏せさせていたのは、目に映らない多量の風属性のエレメントを聖属性で固めた擬似的な重石だった。
 
 クリアがそれを【分解】して取り除くと、ライズが飛ぶようにクリアの元に来て胸ぐらを掴み叫んだ。
 
「テメェ! なんであいつを追いかけなかった!」
「やめてください! クリアさんは王を追う意味が無いと判断してあたし達の救出を優先してくれたんじゃないですか!」
 
 クリアの胸ぐらを掴むライズの手を振り解こうとシングが更に手を掴んだ事でよりクリアは揺さぶられることになったが、
状況を理解したのかライズは「……すまねぇ」と一言言って手を離した。
 
「ライズさんがゴールドさんとちゃんと決着を付けられなくて残念なのはわかります。……悔しいですが、一度本部に戻って作戦を練り直しましょう」
 
 なんの成果も上げられず、悔しさを胸にクリアは三人を連れその場を去る判断を強いられるのだった。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...