エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

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第87話 深まる謎

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「そんな……お父上がルーツに……」
 
 本部に戻り次第、再び会議室に関係者一同を集めクリアは現状を説明した。
 
 状況が状況だけに、当然一番に反応したのはイエナだった。
 
 イエナにとって父はルーツに支配されている上、さらには自らが継承したと思われていたルーツが偽物だったことを踏まえると、クリアは完全にルーツに踊らされていたイエナに同情せざるを得なかった。
 
 いつから『セインテッド』は聖のルーツに統治されていたのかは定かではない。
 
「イエナ王女、貴方がルーツを継承したのはいつ頃でした?」
「生誕祭の前日でした。本来は生誕祭の催しの中でやる予定でしたが、『所有者ホルダー』の方々を探すのに早い方がいいだろうとおっしゃられて……」
 
 イエナの答えにクリアは「ふむ……」と顎に手を当て考える。
 
 ルーツの支配から解放するには、本人からルーツを無理やり引き剥がすしかない。
 
 ——ザ・クロの時はボクとミヤの絆があったから何とかなったけど……。
『あァ、ほんとォにあれはビビったぜェ。あんな幼女に体を少しとはいえ取り返されるとはなァ……。だから人間ってのはわからねェ』
 ——……急に出てこないでよ。
 
 そうザ・クロに伝えつつも、クリアは自分とミヤの絆の強さを認められて悪い気はしなかった。
 
『おォ、いいのか? せっかくザ・クロ様が聖のルーツの事について教えてやろうと思ったのによォ』
 ——それを引き合いに出すのはずるいよ。
『なァにがずるいだァ。まァ、教えるにしても条件があるけどなァ』
 ——なに?
『こいつらに説明するのに体を貸しなァ』
 ——……信用、してるよ。
 
 ザ・クロに体を明け渡す事は若干不安もあったが、今のザ・クロはルーツを回収することに関しては協力的だ。
 
 その事だけは信頼できるとクリアは考え、ザ・クロに説明を任せる事にした。
 
「あ、あ、テステス。聞こえているかァ? 俺の名前はザ・クロだァ。よろしくなァ」
 
 クリアの口から突然そんな挨拶が出てきた事で、その場にいた全員が一気にクリアもといザ・クロに注目する。
 
「キミがザ・クロか。直接話すのは初めてだな。私の娘達が世話になったようで」
 
 ガウスがザ・クロにあからさまな敵意を向けつつ挨拶を口にした。
 
 今はクリアの味方サイドについてはいるが、一度ミヤを乗っ取り辛い思いをさせたザ・クロに対して父親として思うところがあるのだろうとクリアはザ・クロを通して思った。
 
「あァ、あの時は俺を起こしてくれてありがとよォ、嬢ちゃん」
「……お兄様の体で好きなように話さないでもらえます? 私達に話があるからお兄様に体を貸してもらったのでしょう。ならば早く話す事を話してお兄様に戻って下さい」
「おやおやァ、随分な物言いだなァ。まァ、別に俺も人間と仲良くするつもりはねェから構わねェけどなァ」
 
 クリアの横に座っていたミヤは、ザ・クロに対して言いたいことを言うと、近くにいるのも嫌なようでガウスの近くの席へと移動していった。
 
 他のメンバーもクリアが任意で体を明け渡したとはいえ、いつ裏切られてもおかしくないと言いたげに緊張と警戒心を剥き出しにしてザ・クロを見ている。
 
「まァ、随分と嫌われているようだが言っとくと全てのルーツがいつ体を乗っ取りに来るかはわからねェからなァ。他の『所有者ホルダー』共も精々気を抜かねェことだァ」
 
 ザ・クロはブルーをチラりと見て警告する様に言う。
 
 ブルーはそんなザ・クロに対し、「ご忠告どうも」とだけ返した。
 
 ——時間がない。ザ・クロ、手短にお願いするよ。
『わかったわかった、それじゃ教えてやるかァ』
 
 ザ・クロの話を要約すると、聖のルーツはルーツの中でもかなり異様な存在であるらしい。
 
 ルーツとしての人格名は『アーク』である。
 
 この名が出た時、いったい何人の人物がその意味に気付き息を飲んだだろう。
 
 『セインテッド王国』王家が代々冠してきた名前が、ルーツの名前そのものだと言う事に。
 
 ——まさか、聖属性のキャスティング能力が王家のみ・・に伝わって来たのは……。
 
 一体いつから聖のルーツ改めアークが『セインテッド』を影から掌握してきたのか、もはや皆目見当もつかなかった。
 
 続いてザ・クロの口から教えられたのは、アークの目的だった。
 
 アークの目的、それは『ホルダー』……つまり、クリアの存在の排除。
 
 ここに来て次々と飛び出す新しい言葉に整理をつけるため一度クリアに戻り、現在知りうる情報を全員に共有した。
 
 一同は驚きながらも、興味深そうに耳を傾けていた。
 
「つまり、ルーツをその身に収めることが本来の役割として生まれたのがクリアだと?」
 
 ガウスが口にすると、ザ・クロが表に出て肯定する。
 
 それ故、クリアはルーツ達から目の敵にされていると。
 
 クリアは自分の出自が不明である理由に納得した。
 
 しかし、それとは別にある事に気付く。
 
 ——何故、『ホルダーボク』という存在が今になって生まれたんだ?
 
 それが偶然とは思えない。
 
 しかし、誰がなんのためにルーツをその身に収める者を生み出したのだろうか。
 
 ルーツを知る度に深まる謎に、クリアは首を傾げる他なかった。
 
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