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第88話 模擬訓練1 ヒカリある才能
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最後に『セインテッド』から戻り行ったあの会議から数ヶ月が経った。
あれから『所有者』達と行方を完全に眩ましたアークは未だ『セインテッド』に戻らず、現状正当な後継者であるイエナ王女と、その王女の説得により元の、いやそれ以上の立場となったブルーが混乱していた『セインテッド王国』を統治していた。
『あたしが水のルーツに乗っ取られてあんたの前に現れた時は……容赦無く持っていきなさい。その時はあたしも内側から抵抗してみるわ。……それが役に立つかはわからないけど』
『セインテッド』に戻る前にブルーがクリアに告げたその言葉は、彼女なりのけじめだったのだろう。
アークに乗っ取られて行方を眩ました王による混乱を収めるためには『高術師』であるブルー・ティアの力が必要と判断したため、『ディールーツ』のボスであるガウスは水のルーツを持つ事を認めて王国に帰したのだ。
あくまで、『ディールーツ』と手を切ると言う宣告は何者かに操られた王の決断という事としてイエナは国民に今まで通りの関係を存続するという事を宣言したのだった。
一悶着あった『セインテッド』との外交関係はそれでひとまず片付いた。
その間、クリア達が何をしていたかといえば。
当然、行方を眩ましたアーク率いる『所有者』達の捜索をしていたのだが。
「まさかここ数ヶ月、手がかり一つ見つからないなんて……」
そう、何一つとしてアーク達について進展を得られていなかった。
捜索に関しては幹部七人とクリア、そして情報収集部門の全勢力を上げて行っていたのだが、アークは尻尾を掴ませてくれなかった。
そんな中、組織として数少ない収穫と言えば。
「クリア、今日も訓練の相手をお願いできるかな?」
「うん、いいよ。……随分と強くなったよね、ヒカリ」
全ての話を受け入れ、クリア達と共に戦う覚悟を決めたヒカリが戦闘訓練を得てその戦闘センスの頭角を現したことだった。
特に『属性混生能力体質』を自覚したヒカリはほんの少しだが聖属性のエレメントをキャスティングできるようになった。
さらにそれだけではなく。
「ヒカリ君。『属性混生能力体質』であるキミならこれを使いこなせるかもしれない。
故にまだ開発段階だがこれを託そう。是非クリア達の力になってやって欲しい」
そう言ってヒカリが戦闘に加わる事になった際にガウスがヒカリに渡したのは、七つそれぞれに七色の宝石の様な装置が一色ずつ取り付けられた指輪だった。
ガウス曰く、これは元々適性のない属性のエレメントをキャスティングすることができるようになる事を目指して開発を進めていたアイテムの試作品らしい。
光と聖に加え、火・水・風・雷・力・生・間の属性をキャスティング出来る様になったヒカリは今や『七色の光術師』と密かに呼ばれるようになっていた。
ただし、それらを纏めてキャスティングする事は想像以上に負担がかかる上、身体的にはまだまだ未熟なヒカリは未だ実戦による経験を行わせず、クリアをはじめとした『ディールーツ』内の強者に分類される者との模擬戦という訓練でしか経験は積ませていなかった。
今日はクリアが手が開く日だったため、ヒカリが声をかけてきたのだ。
快く引き受けたクリアはヒカリと共に本部内にある訓練所に足を運んでいた。
クリアや幹部がかなり本気を出しても損傷しにくい強度を誇る防壁でできているため、死合レベルの訓練もできる『ディールーツ』の技術の誇る施設の一つだ。
「ヒカリ、今日は自分の限界が今どこまで行ったかわかるまで試してみよう。もちろん、ボクに対しては遠慮はいらないよ」
ヒカリは根っから優しいせいか、驚くほど成長しているとはいえ訓練の中で中々殺傷性の高い術式を行使しない。
もちろんクリアも人の命を奪うような術式を身に付けて欲しいとは思ってはいないが、これから先アークや『所有者』と戦いに巻き込まれるのであれば、自衛の手段は持っていて欲しいとも思う。
故に、クリアは本気で来るようにヒカリに促したのだが。
「だ、だめだよ! もしクリアが酷い目にあったら……」
こんな感じで、いつもヒカリは戦闘訓練時に本気の力を出す事を躊躇ってしまう。
もちろん、ヒカリが自分の力に自惚れているわけではない。
それはクリアや幹部達も理解はしていた。
先程も言ったが、ヒカリは実践経験もない上、優しい少女だ。
軽い組み手やキャスティングの練習などは積極的に行うが、本気で来るように言われた際にはどうしても躊躇ってしまうのだ。
だが、それは実戦に投入された際に彼女の判断ミスに繋がり命の危険に晒してしまう可能性がある。
「……ヒカリ、ボク達を思いやるのは結構なことだけど、本気で来るように言われてやらないのは指導してくれている相手に失礼だよ」
クリアとて、あまりヒカリに厳しい事は言いたくない。
巻き込んでしまったという自責の念もあるため本当に戦いたくないというならそれはそれでいい。
しかし、組織の裏側の話を聞いてクリア達と共に戦って力になりたいと決めたのは他でもない、ヒカリ自身だ。
その気持ちに応えるべくクリアや幹部達がアーク達の捜索や他のルーツの回収作業の合間に時間を作って指導しているのにそれでは何よりヒカリ自身のためにならない。
だからこそ、クリアはその代表として、そして大事なヒカリ故に厳しく接すると決めた。
「……ごめんなさい。私頑張るって決めたのに」
「ボクはそのヒカリの気持ちに応えてあげたいんだ。
それに、ほら。あの時も死にそうになりながらもこうしてボクは生きている訳だし」
『本気で来ても大丈夫』
そう伝えたかっただけなのだが。
「それは違うよ! どれだけ私やボスが心配したと思って……!」
——失言だったな。
気持ちを伝えるのが下手なのは自分もだったらしい。
そうクリアは反省しヒカリに謝った。
「ごめん、そういうつもりじゃ無かったんだ。今のは言い方が悪かったね。
でも、その気持ちは嬉しいけどこのままじゃ実戦に出ても足手まといになるだけだ。
乗り越えないといけない事もある。わかってくれるよね?」
「…………うん」
少しの沈黙の後、ヒカリは一度目を閉じて再び開いた。
その目は、彼女が何かに真剣に取り組む時の目だった。
クリアは、ヒカリのこの目が好きだ。
何よりも誰よりも自分のすべき事に本気で取り組む姿勢を見せる彼女は必ずこの目をしている。
故に。
「わかってくれたみたいだね、ありがとう。さあ、おいで!」
「行きます!」
クリアはヒカリの目を見ながら出方を伺った。
あれから『所有者』達と行方を完全に眩ましたアークは未だ『セインテッド』に戻らず、現状正当な後継者であるイエナ王女と、その王女の説得により元の、いやそれ以上の立場となったブルーが混乱していた『セインテッド王国』を統治していた。
『あたしが水のルーツに乗っ取られてあんたの前に現れた時は……容赦無く持っていきなさい。その時はあたしも内側から抵抗してみるわ。……それが役に立つかはわからないけど』
『セインテッド』に戻る前にブルーがクリアに告げたその言葉は、彼女なりのけじめだったのだろう。
アークに乗っ取られて行方を眩ました王による混乱を収めるためには『高術師』であるブルー・ティアの力が必要と判断したため、『ディールーツ』のボスであるガウスは水のルーツを持つ事を認めて王国に帰したのだ。
あくまで、『ディールーツ』と手を切ると言う宣告は何者かに操られた王の決断という事としてイエナは国民に今まで通りの関係を存続するという事を宣言したのだった。
一悶着あった『セインテッド』との外交関係はそれでひとまず片付いた。
その間、クリア達が何をしていたかといえば。
当然、行方を眩ましたアーク率いる『所有者』達の捜索をしていたのだが。
「まさかここ数ヶ月、手がかり一つ見つからないなんて……」
そう、何一つとしてアーク達について進展を得られていなかった。
捜索に関しては幹部七人とクリア、そして情報収集部門の全勢力を上げて行っていたのだが、アークは尻尾を掴ませてくれなかった。
そんな中、組織として数少ない収穫と言えば。
「クリア、今日も訓練の相手をお願いできるかな?」
「うん、いいよ。……随分と強くなったよね、ヒカリ」
全ての話を受け入れ、クリア達と共に戦う覚悟を決めたヒカリが戦闘訓練を得てその戦闘センスの頭角を現したことだった。
特に『属性混生能力体質』を自覚したヒカリはほんの少しだが聖属性のエレメントをキャスティングできるようになった。
さらにそれだけではなく。
「ヒカリ君。『属性混生能力体質』であるキミならこれを使いこなせるかもしれない。
故にまだ開発段階だがこれを託そう。是非クリア達の力になってやって欲しい」
そう言ってヒカリが戦闘に加わる事になった際にガウスがヒカリに渡したのは、七つそれぞれに七色の宝石の様な装置が一色ずつ取り付けられた指輪だった。
ガウス曰く、これは元々適性のない属性のエレメントをキャスティングすることができるようになる事を目指して開発を進めていたアイテムの試作品らしい。
光と聖に加え、火・水・風・雷・力・生・間の属性をキャスティング出来る様になったヒカリは今や『七色の光術師』と密かに呼ばれるようになっていた。
ただし、それらを纏めてキャスティングする事は想像以上に負担がかかる上、身体的にはまだまだ未熟なヒカリは未だ実戦による経験を行わせず、クリアをはじめとした『ディールーツ』内の強者に分類される者との模擬戦という訓練でしか経験は積ませていなかった。
今日はクリアが手が開く日だったため、ヒカリが声をかけてきたのだ。
快く引き受けたクリアはヒカリと共に本部内にある訓練所に足を運んでいた。
クリアや幹部がかなり本気を出しても損傷しにくい強度を誇る防壁でできているため、死合レベルの訓練もできる『ディールーツ』の技術の誇る施設の一つだ。
「ヒカリ、今日は自分の限界が今どこまで行ったかわかるまで試してみよう。もちろん、ボクに対しては遠慮はいらないよ」
ヒカリは根っから優しいせいか、驚くほど成長しているとはいえ訓練の中で中々殺傷性の高い術式を行使しない。
もちろんクリアも人の命を奪うような術式を身に付けて欲しいとは思ってはいないが、これから先アークや『所有者』と戦いに巻き込まれるのであれば、自衛の手段は持っていて欲しいとも思う。
故に、クリアは本気で来るようにヒカリに促したのだが。
「だ、だめだよ! もしクリアが酷い目にあったら……」
こんな感じで、いつもヒカリは戦闘訓練時に本気の力を出す事を躊躇ってしまう。
もちろん、ヒカリが自分の力に自惚れているわけではない。
それはクリアや幹部達も理解はしていた。
先程も言ったが、ヒカリは実践経験もない上、優しい少女だ。
軽い組み手やキャスティングの練習などは積極的に行うが、本気で来るように言われた際にはどうしても躊躇ってしまうのだ。
だが、それは実戦に投入された際に彼女の判断ミスに繋がり命の危険に晒してしまう可能性がある。
「……ヒカリ、ボク達を思いやるのは結構なことだけど、本気で来るように言われてやらないのは指導してくれている相手に失礼だよ」
クリアとて、あまりヒカリに厳しい事は言いたくない。
巻き込んでしまったという自責の念もあるため本当に戦いたくないというならそれはそれでいい。
しかし、組織の裏側の話を聞いてクリア達と共に戦って力になりたいと決めたのは他でもない、ヒカリ自身だ。
その気持ちに応えるべくクリアや幹部達がアーク達の捜索や他のルーツの回収作業の合間に時間を作って指導しているのにそれでは何よりヒカリ自身のためにならない。
だからこそ、クリアはその代表として、そして大事なヒカリ故に厳しく接すると決めた。
「……ごめんなさい。私頑張るって決めたのに」
「ボクはそのヒカリの気持ちに応えてあげたいんだ。
それに、ほら。あの時も死にそうになりながらもこうしてボクは生きている訳だし」
『本気で来ても大丈夫』
そう伝えたかっただけなのだが。
「それは違うよ! どれだけ私やボスが心配したと思って……!」
——失言だったな。
気持ちを伝えるのが下手なのは自分もだったらしい。
そうクリアは反省しヒカリに謝った。
「ごめん、そういうつもりじゃ無かったんだ。今のは言い方が悪かったね。
でも、その気持ちは嬉しいけどこのままじゃ実戦に出ても足手まといになるだけだ。
乗り越えないといけない事もある。わかってくれるよね?」
「…………うん」
少しの沈黙の後、ヒカリは一度目を閉じて再び開いた。
その目は、彼女が何かに真剣に取り組む時の目だった。
クリアは、ヒカリのこの目が好きだ。
何よりも誰よりも自分のすべき事に本気で取り組む姿勢を見せる彼女は必ずこの目をしている。
故に。
「わかってくれたみたいだね、ありがとう。さあ、おいで!」
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