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3 白亜の公爵城 要塞みたいな馬車に乗って

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 ザクソン公爵は、「さっそく今日から来てもらう」という。
 僕も頷く、少しでも早くお金の支援をしてもらう方がいい。

 ザクソン公爵は兄と僕のどちらでもいいという。兄は「おれが行く」と言うけど、「兄さまはアカデミーに戻って優秀な成績で卒業して、我が家を継がなきゃ」まさか兄にあんなことをさせられない。

 あんな目に合うってわかっているのに兄にさせられるわけがない!

 僕は残念ながら、魔力は多いはずなのに使えないし、勉強も剣もどれもパッとしない。体格も劣っているから、騎士にもなれない。

 元々次男だから家を継ぐとかもなく、ちょうど、どこかで雇ってもらおうと考えていた。

 充分手当もくれるみたいだし、「僕が行く」とにっこり笑う。生き残れば将来の何か必要になった時の元手になるだろう。

 もう危険だってわかってるんだから死ぬのを防ぐこともできるんじゃないかな。対策をねらなきゃ。

 子息の凶暴化が治れば契約終了で、子息の前から消える事。
 これも願ったり叶ったりだ。いくら狂暴化が終わってなくなったとしてもあんな恐ろしい男の元で暮らしたくない。僕に伸し掛かる大男の影を思い出して身が震える。

 契約が終わったら何をしよう。お店ができるくらいお金が貯まるかな。それとも南のサウス公国にある竜の渓谷に行って竜を見に行くのもいいなー。

 僕さえ生き残れば、みんながこれで幸せになれる!

 ザクソン公爵は不躾に僕と兄を見て、「そうだな弟君の方がより色がついていない。そちらの方が良かろう」と言った。

 うん? なんなの? 魔力で経験があるかどうか今見られたの? 僕はまだ13歳だから、経験なくてもおかしくないと思うけど?! たぶん前だって年齢=彼女いない歴、童貞歴だけども?! モテない人生送ってきたけど。
 あんたの息子の相手をして、死にましたけど?
 イケメンのザクソン公爵にはこの悲しさはわからないだろう。

 僕はワナワナと指が動くのをなんとか耐えた。
 はっ、てことは兄は何かしらの経験が? いや、ないだろう。どちらでもいいって最初言っていたくらいだから、兄も僕と似たり寄ったりかも。

 兄は僕と違って優しい整った顔立ちに、こう見えてオールマイティな人だから、魔法以外にも実は運動神経も良くて剣も上手いし、アカデミーで鍛えられているから、脱いだらいい体をしている。

 腐っても、落ちぶれていても伯爵家の後継だし、モテるはずだ。魔術も出来るし、うちの兄最高!
 僕が兄を心の中で讃えている間に、話がまとまっていた。

 兄が「やっぱりおれが・・・」って言い出したが断固とめる。
 「情けない兄でごめん」
 泣かないで兄さま。

 兄に母には決して狂暴化の相手をすることを言わないように念を押す。きっと悲しむだろから。
 公爵家で子息の侍従見習いの仕事を与えられたとだけ伝えてもらう。

 僕はザクソン公爵と共に我が家を後にした。


※※


 公爵家から迎えに来た華美ではないが質実剛健で、質の良い部材が使われているってわかる安定感抜群の要塞みたいな馬車に乗って、公爵家まで行く。

 前に座っている公爵の足が随分長いが、僕に当たらないくらい大きな馬車だ。

 同じ王都周辺にあるはずなのに、随分、長い事馬車に乗っている気がする。すでにこの綺麗な街並み自体がザクソン公爵の領地らしい。

 可愛らしいレンガの家がポツポツになって、緑が見えてきて、森になって、森をすぎたら、シンメトリーで整備された広大な庭がでてきた。

 ぼーと整えられた木を眺めていたら、白亜の城みたいなのが見えてきた。入ったことはないけど遠くから見た王城と似ている。

 時の王様の双子の兄弟は仲が良く、お揃いの白亜の城を建てた。その片方がザクソン公爵の城だ。噂では地下で王城と繋がっているって聞いたことがある。

 二つの城はかなり距離があるから、真偽はわからない。

 天に聳えるような高い門を過ぎて、公爵邸の前に馬車がつけられる。馬車から降りると、執事らしき人と、メイドや、男性の使用人がずらっと数えきれないくらいに左右に並んで待っていた。

 僕はうわって緊張しそうになったけど、この人達は僕じゃなくて、公爵のお迎えに来ているだけだって思い直す。

 深呼吸をして、背筋を伸ばして、自然体になるよう振る舞う。後ろで組んだ指が震えたけどばれていないよね。

 執事のロバートさんとメイド頭のマイヤーさんを紹介される。

 白髪で片眼鏡、胸ポケットからハンカチーフと鎖付きの時計が見えている。所作の綺麗な人がロバートさん。

 大柄で眼鏡をかけて髪を後ろで纏めている。落ち着いた機能性を優先しているドレスを着ているのがマイヤーさん。

 僕なんかに頭を下げる必要はないと思うけど、公爵から客人扱いとして紹介されたらそうなるよね。

 「リアム エミュー ライトです。ライト伯爵の次男です」
 二人は微笑みながら頷いている。この人たちは僕が人身御供だって知っているんだろうか。






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