亡くし屋の少女は死神を雇う。

散花

文字の大きさ
48 / 55
第四章

死神の彼女は行く先を決める。1

しおりを挟む
 オレは家に帰ってもしばらく考え続けていた。彼女の秘密を知って、どうしたらそれを上手く解消させられるのか。そもそもオレが何かを口出してはいけないんじゃないのか。でもあの状況を見るになにか改善することはあるんじゃないのか。とまたひたすらぐるぐると、亞名が話しかけてきていることも知らずに悩み、挙げ句の果てに
「わっかんねーー!!」
と大声を出してしまう。
「ぴゃっ」
と変な声が聞こえてやっと亞名に気づく。
「あ、悪い」
「ううん、……考え事?」
「あー……うん」
ふと疑問に思っていたことを口走る。
「亞名は、ちゃんと生きてるんだよな?」
「? そうだけど」
「生きるのは、辛いか?」
なにを聞いているのか自分でもよくわからなかった。が亞名に聞いてみたくなったんだ。
「死はそこにあるだけって亞名は言ったが、じゃあ生きることに対して亞名はどう思ってるんだ?」
亞名は少し黙って考えてくれていたようだった。それでわからなくなったのか、一度こっちに振ってきた。
「かずとは?」
「オレは、生きていた頃は生きるのに精一杯でそんなこと考えたこともなかったけど。けど今思うと、色々あった。とは思う」
取り戻せた記憶を少し辿ってみる。
「オレも愛歌もさ、亞名に近いというか。親が子供の頃にはいなくなってたから、必死に死なないようにって思ってたかも」
「うん」
「でも実は、死なないように生きる。のと、ちゃんと生きる。ってのは似てるようで違うんじゃないかって最近は思ってる」
「うん」
「前者は、ただ人間の生存本能みたいなのが働いてる感じで、お腹が減ったらなにかを食べたくなるように自分の意志とは関係なくただ生き物としての生きる。だ」
「後者は?」
「後者は、自分で選んで生きるってことかなって」
「選んで?」
「こういうのは贅沢だ。とか紛争地域はどうなんだ。とか言う奴もたぶんいるが、自分で好みの洋服や食べ物を選んだり、生き方を選んで生きていくのが後者。それでオレは生きている間はずっと前者で生きてきた。って思い込んでた」
「違うの?」
「実際、親がいなくなって必死だったのは事実だけど、妹を選んで、自分で働くことを選んで。半強制的だった状況とはいえ、それは自分で選んだ人生だった」
「………………」
「だから愛歌がオレに心配かけたくなくて自殺を選んだのも、ちゃんと生きたから選べたんだって。ちゃんと生きなきゃ選べもしないんだって思うようになった」

「わたしは、選んでると思う?」
 不安げに亞名は聞いた。
「わたしは、死についてはずっと見てきたから。でもそれはちゃんと生きてきた人の選んだ死で。だからそれは悪いことではないと思ってる。死はそこにあるだけ。そう思えたのはその人がちゃんと選んだから? じゃあそれ以外の死は、生きることは、……わからない」
亞名のその言葉を聞いて素直に出た次の言葉。
「だったら、これから選べばいいんじゃないかな」
自分で言って、自分で納得した。
(あぁそうか、彼女はまだ自分では選んでなかったんだ。彼女もまた選択を母親に押し付けようとしていたんだ)
「わからなくても選べるの?」
亞名は聞いた。
「亞名はすでに選んでるよ。オレをここに住まわせたのも亞名だろ?」
「それは……」
「魔女に言われたからだとして、嫌だって答えることもできなくはなかっただろ。亡くし屋だって今まで続けてきたのは自分でそう選んでるからじゃないのか?」
「そうなの?」
「まぁ、オレも死んでから色々あって考えてようやくわかったことだし、さっきも言ったけど生きていた頃はなんにも考えてなかったさ」
「死を選ぶのと、生きることを諦める。のは違うって死神にならなきゃ、亡くし屋の仕事を手伝わなきゃ、わからなかったことかもな」
「?」
「いや、おかげでスッキリしたよ」
「わたしはなにもしてない」
「話すだけでも変わることはあるの」
「そうなんだ、じゃあよかった。あ……」
タイミングよく亞名の携帯はメッセージを受け取った。
「依頼?」
「えっと……あの病院から?」
「じゃあまた行くのか?」
「うん。明日。名前は駿河──」
「え?」
「駿河夢依」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ
ライト文芸
余命半年の夫と記憶喪失の妻のラブストーリー! 愛妻の推しと同じ病にかかった夫は余命半年を告げられる。妻を悲しませたくなく病気を打ち明けられなかったが、病気のことが妻にバレ、妻は家を飛び出す。そして妻は駅の階段から転落し、病院で目覚めると、夫のことを全て忘れていた。妻に悲しい思いをさせたくない夫は妻との離婚を決意し、妻が入院している間に、自分の痕跡を消し出て行くのだった。一ヶ月後、千葉県の海辺の町で生活を始めた夫は妻と遭遇する。なぜか妻はカフェ店員になっていた。はたして二人の運命は? ―――――――― ※第8回ほっこりじんわり大賞奨励賞ありがとうございました!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
 ☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

処理中です...