創世戦争記

歩く姿は社畜

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グラコス王国編 〜燃ゆる水都と暁の章〜

開戦

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 リヴィナベルク城はとても頑丈な白い石でできている。丘の一番高い所に聳える城は巨大な地下空間を保有しており、沢山の物資や人を入れられそうだ。
 あれから二日間、除霊師にリヴィナベルク城に魔人が通れない結界を張るように指示した後、キオネの名義でリヴィナベルク城への避難準備を行うよう命令を下した。キオネ達が〈魔人狩り〉を行ったが、まだ敵が近くに潜んでいる可能性は捨てきれないからだ。
「魔導大砲を城壁に設置しろ!そっち、暇なら桶も用意して!早く!」
 城には人間や他種族の使用人と数名の海竜が残って戦支度の準備を手伝っている。他の海竜は城の外で敵を迎え撃つ準備をしており、キオネはこの城で最も高い塔の屋根から狙撃を試みている。
「エラディオ、魔導モシン・ナガンの在庫は今どのくらいある?」
「全然足りない」
「この国は飛空艇も無いよな」
「今大陸で飛空艇を持ってるのはアネハル連峰だけだよ」
 アレンは舌打ちした。飛竜スカイドラゴンに対抗する術が無い。こちらへ向かっている数は二十とそう多くはない。しかし、飛竜隊ひりゅうたいは全員手練だ。
阿蓮アーリェン、商人の奴ら、全財産持って押し掛けようとしてる!」
 ネメシアが銃を片手にそう叫んだ。一階の広間は馬車に財産を詰め込んだ商人でごった返しており、避難の遅れが生じている。
「全財産って、馬鹿にも程がある!」
 早くから避難を開始していたペータルとその実家のミシェンコフ家が説得を試みるが、もう無駄だ。城の外には行列ができて、戻る事は出来ないのだから。
 仕方無いのでアレンは階段を降りて交渉を持ち掛けた。
「お前ら、〈プロテア〉の拠点を使うか?タダで、とは言わないけど」
 そう言うとペータルの父親を見て言った。
「月、千万エギルダの料金で拠点に店を出せるってのはどうだ?お前らの年商を考えれば端金だろ。ペータルには世話になってるし、ミシェンコフ家は一割引で〈プロテア〉の拠点を使って商売してくれて構わない」
 するとペータルの父親⸺ミシェンコフ家の当主が悪戯っぽくちょび髭を弄りながら笑みを浮かべた。
「もうちょっとまけてくれたら、〈プロテア〉のお役に立ちそうな商品を五割引でお売りしますけど如何です?」
「流石に商人は交渉が上手いなぁ。良いよ、三割でどうだ?」
「成立です。今後とも宜しくお願いします」
 しかし他の商人は納得いかないようだ。
「何でミシェンコフ家だけなんだ!納得いかん!それに今は拠点とか関係無いだろう!」
 ガタガタと喚く商人共にアレンは苛々と手を振って黙らせた。
「元はといえばお前達が考えずに大量の荷物を持ってくるのが悪い!後ろつっかえてんだろ、避難が遅れて死傷者が増えるぞ!」
 そう言うと、商人達は後ろを振り向いた。
「お前達の考え無しな行動のせいで、後ろの奴らは死ぬ。石を投げられて生きる覚悟は出来たか?最悪、殺されるかもな」
 商人達の顔が青褪めた。それを見てアレンはポーチから懐中時計を取り出すと、拠点への扉を開いた。
「土地代として月々千万エギルダ払えば拠点や拠点を介した商売を許可する。これでどうだ?」
 拒否するのならどさくさ紛れに殺す、そう言うような冷たい瞳に商人達はこくこくと頷いた。
 それを見たミシェンコフ当主が笑う。
「閣下はがお上手ですな」
「ありがとう、けど精進しないとね。出来れば穏便にやりたいし」
 そう言うとミシェンコフ当主は荷物を持って扉の向こうへ向かった。
 漸く人の列が流れ始めた頃、城壁から誰かが叫んだ。
「飛竜だー!」
 飛竜の姿が見えれば後は一瞬だ。
「避難民は地下も使え!急げ!」
 アレンは階段を登って上の階へ行くと城壁の上に立った。強風が兵士達の髪や衣服を揺らす。
「竜の弱点は高火力の兵器が無い限りは腹部だ。下から撃ち落とせ」
 海から海竜アクアドラゴン達が蛇のように長い身体を起こし、攻撃の用意を始めた。
 アレンの横にアーサーが立ってアレンに銃を渡す。
「まだ避難が終わってない。このまま始めるのか?」
「始めたくないが、嫌でも向こうから来る。歓迎の準備をしないと」
 アーサーは忌々しげに西のかたを見た。
「一昨日、フレデリカとドゥリンに戻るように言った。空間魔法を使いながら戻ってくるらしい」
「分かった」
「しかし、これだけの兵力で足りるのか?」
「いや、全然。だから除霊師さんにあるお願いをした」
 アレンの後ろから除霊師とコンラッドが歩いて来た。
「二千年振りですかね?この術を使うのは」
 そう言うと呪符を三枚取り出して城壁の向こうへ放った。すると、呪符は炎のように赤い鳥へと変貌した。
「式神の朱雀スザクです。地名にもありますよ、苏安スーアンの朱雀池ってね」
 除霊師は更に追加で呪符を二枚取り出すと、アレンとコンラッドの手に貼った。呪符が透明になって消えると口を開く。
「私は常日頃から呪符で身を守っていますが、皆さんはそうじゃないでしょう?初回無料、特別サービスですよ」
 ばたばたと翼が空を打つ音が響き、式神に乗った〈桜狐オウコ〉が空へ飛び立つ。それを見た除霊師がアレンに問う。
「しかし、魔導モシン・ナガンは貴方にとって危険な筈ですよ。まさか魔導書を使うんですか?接近戦になった時に燃えないですかね」
「大丈夫だよ、この前油を掛けて燃やしてみたけど、この通り。綺麗なままだ」
 アーサーが溜息を吐く。
「お前は何をやってんだ」
「海水も掛けてみたし、冷凍金庫にも入れてみた。シミ一つ無い」
「パカフが守ってた本で何やってんだ…」
「もうこの本を防具にしようかな」
「やめろやめろ」
 アーサーとコンラッドがそう言うと、アレンは冗談だと言った。しかし、もう冗談を言っている場合ではない。
「…もう行かないと」
「三人共、気を付けてな。落ちるんじゃないぞ」
「分かってる。アーサー…えーと、叔父さんも気を付けて」
 そう言って朱雀の上に乗ると、アーサーが照れたように頭を掻く。
「往ってくる」
 朱雀が力強く羽撃くと、日の沈む方向に竜の姿が見えた。
 アレンが魔導モシン・ナガンのボルトを操作すると、魔導書がまるで意思を持っているかのようにアレンの横に浮いた。
「先頭を飛んでいるのはヨルムだ。奴のブレスに気を付けろ。溶けるぞ!」
 アレンの号令で人を乗せた式神が飛竜に向って飛んでいく。その速度は飛竜程速くはないが、小回りがよく利く。
 先頭のヨルムが口を開けた瞬間、アレンが乗っている朱雀は身体を大きく傾けてヨルムの下に回り込んだ。銃声が響き、ヨルムの腹にアレンが放った魔力弾が命中する。しかし、ヨルムは銃弾の当たった場所を前脚で掻いた。
「痒いなぁ…アレンさん、僕にそんな攻撃は通用しませんよ」
 アレンは瞬時に理解した。ヨルムの侵攻を阻止できる者はこの場には居ない。被害は大規模な物になる。
「全員、ヨルムより他の飛竜を殺せ!ヨルムに攻撃は効かない!」
 海竜達が口から青い光線を放ち、その隙間を縫うようにアレン達は飛行しながら攻撃した。
「飛竜達よ、散りなさい。ブレス攻撃を行います」
 飛竜達は思い思いの方向へ羽撃くと、靴中で身体を回転させながら飛び回る〈桜狐〉を焼き払う。羽撃きと共に巻き起こる風に、人の肉が焼ける嫌な匂いがした。
「アレンさん、腹部以外の弱点は!?」
 除霊師がアレンの横を朱雀に乗って飛行する。
「目!粘膜の近くが柔らかくなっている!」
「承知しました。〈桜狐〉、目を狙いなさい!」
 銃弾や光線が入り乱れる中、海竜が一体、海中から飛び出して飛竜の後ろ脚に喰らい付くとそのまま深海へ潜り込んだ。
 海竜の存在に目を付けた飛竜の一体が笑う。
「何だ、若造ばかりじゃないか!」
 そう言って〈桜狐〉達の包囲を抜けると、海竜の一体に急接近した。
 急接近に対応出来なかった海竜はそのまま顔面を焼かれると、頸に噛み付かれた。飛竜は悲鳴を上げる海竜を咥えたまま上空へ上がると、頸を圧し折って乱暴に都の方へ放り投げた。
(まずい。この飛竜共にとって、こいつらは餓鬼ガキでしかないんだ)
 別の飛竜が〈桜狐〉を一人、ぱくりと食べた。下半身だけ食われた〈桜狐〉が悍ましい悲鳴を上げる。
♡」
 アレンは改めて痛感した。帝国の戦力と、飛竜の絶対的な強さを。
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