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5話
トーイくんと過ごす時間が当たり前になって、私は忘れていたのだ。
カーテンの先は、大人が定めた18歳未満立入禁止区域であることを――
「……中学生」
「っ!」
登校日の帰りに店へ寄ると森崎さんは普段と変わらぬ様子で昼寝をしていた。だから私は当然のように黒いカーテンをくぐった。
ところが、随分と馴染んでしまったアダルトコーナーの通路の途中で低い声に呼び止められた。
「お前ここで何してる」
恐る恐る振り向くと、そこには鬼の形相で仁王立ちしている森崎さんがいた。
「カーテンに18歳未満立入禁止つって書いてあったよなあ!? お前いくつだ? その目は節穴か? ひらがなで書いとけってか? あ? あ? ああん!?」
「ごごごめんなさいごめんなさい!」
森崎さんは私に顔を近付けて絵に描いたようなチンピラ口調で凄む。
額に深い皺を何本も刻んでおり、鋭い目付きのガンつけとドスのきいた声は一人や二人や百人くらい病院送りにした過去を持っていそうな迫力だ。この人は噂通りの元ヤンだと確信する。
「つーか初犯か? まさか俺が寝てる間に何度も入ってたんじゃねぇだろうな?」
「いっ、いいいえ! そ、そんなことは……!」
その通りですなんて言ったら殺される……命の危険すら感じた私は両手と首を必死でぶんぶん横に振りながら後退していく。
あっという間にレジにぶつかり、トーイくんのことが脳裏を過ぎる。
トーイくんはきっと今レジ裏で息を殺しているだろう。トーイくんまで芋づる式に見付かってしまわないように森崎さんを外に誘導しなければ。
緊迫した空気の中、背後で鍵の開く音がした。
いつもしっかり施錠されているレジ裏の関係者専用ドアだ。CDコーナー近くのドアと同様にバックヤードに繋がっていて、森崎さんの二階の自宅への階段もこの中にあると思われる。
しかしこの店唯一の関係者は私の目の前で怖い顔をした店長の森崎さんだけのはずだ。
一体誰が……私と森崎さんはゆっくりと開いていくドアへと視線を向けた。
そして三人ほぼ同時に「あ……」と声を漏らす。開いたドアの先にいたのは呑気にグミを食べている緊張感のない彼だった。
「冬唯!?」
「叔父さん。もぐもぐ」
「えっ、叔父さん?」
トーイくんは森崎さんに気付いても恐れおののかないばかりか、グミを噛みながら気の抜けた声を出している。
すぐさま森崎さんが「なに勝手に鍵開けてんだ」と怒鳴り、レジに足を乗せた。お気の毒にも自分の店のアダルトコーナーの秘密を知ることとなる。
「な、な、な!?」
次の瞬間、怒りで顔を赤く燃え上がらせた森崎さんの絶叫が店内に響き渡り、女子供相手に容赦のないげんこつが降ってきた。
"私は18禁コーナーに入りました。心から反省しています。高校を卒業するまで入らないと、ここに誓います。"
私に与えられた罰は恥ずかし過ぎる反省文を首にぶら下げながらカーテン前の堅い床に一時間正座で座っていることだった。
まだ五分も経っていないのに隣に座るトーイくんは足が限界らしく、もぞもぞと動いている。その首には"僕"に置き換えられた同文の紙を下げており、更に残りの夏休みの間中店番をすることがトーイくんの罰だった。
さっきげんこつを食らった箇所にたんこぶが出来て痛いし、わざわざこんな人目につく罰を与えたのは他の未成年が同じことをしないよう、見せしめの意だそうだ。鬼畜の所業と言う他ない。
「足痛い。頭痛い」
「森崎さん! 今どき体罰なんて許されると思ってるんですか? 親に言ったら問題になりますよ」
「この店潰れる」
「黙れ、小賢しいガキ共。親になんて説明する気だ! アダルトコーナーに布団敷いて毎日異性と密会してたって言うのか? 言えるもんなら言ってみやがれ!」
「「…………」」
加えて「保護者と学校に報告しないでもらえただけ有り難く思うんだな」と駄目押しのように言われてしまえば、ぐうの音も出ない。
普段は滅多に客が来ない店だ。今日もあと一時間客が来ませんようにと、私は両手を合わせて神に祈った。
「ねぇ、森崎さんって怖いよね」
「うん。家でもすぐ怒る」
森崎さんがレジに戻ったのを見届けてからトーイくんに小声で話し掛ける。
トーイくんの本名、というよりフルネームは森崎冬唯。両親の仕事の都合で叔父である森崎さんの元に預けられているらしい。
違うクラスだけど、なんと私と同じ学校に四月から通っていたそうだ。
今までトーイくんは森崎さんが店を開けると関係者専用ドアからアダルトコーナーに入り、閉店前に二階の自宅に帰っていたというから気付かれなかったのも頷ける。
「私のせいでトーイくんまで巻き込んじゃってごめんね」
「別にいい。それより明日……」
「おい、まずいぞ。客が来た。多分お前らと同じ学校の中坊だ」
「ええっ!?」
話の途中で慌てた様子の森崎さんが飛んできて、早く紙を隠して立ち上がれというジェスチャーをした。他の未成年への見せしめにすると言っていたのに教えてくれちゃうんだ。
私とトーイくんは反省文を服の中に隠して立ち上がった。足が痺れてふらつくトーイくんを支えながら何食わぬ顔で白黒映画の棚を眺める。
私達の横を通っていったのは確かに同じ中学の先輩のようだ。
先輩が去った後、「明日からは店番してるトーイくんを冷やかしに来るね」と耳打ちすると、トーイくんはまたあの二文字のモールス信号を連続したのだった。
▽
アダルトコーナーレジ裏のトーイくんのくつろぎスペースは、森崎さんの手によって完全撤去されたらしい。
いつの間にか家から消えていた家電などが続々と見付かり、後で家電の数だけげんこつを追加されたとトーイくんが愚痴っていた。
それらは実に段ボール五個分にもなったというから、よくもまあそれだけの量をあの狭い空間に持ち込めたもんだと感心する。
今やあそこはトーイくんの影も形もなくなって、特に語るべき点のない極平凡なアダルトコーナーに戻ってしまったんだろう。
私とトーイくんがその光景を確認出来るのは四年後の話だ。
「同じ学校だったなんてびっくりだよね。トーイくんも登校日に学校行ったんでしょ? 廊下ですれ違ったりしてたのかな」
「僕、学校で眼鏡掛けてる」
「トーイくんって目悪いの?」
「後ろの席だと少し見えにくい」
明日は始業式。一人で店番中のトーイくんと残りの課題を進めながら、これからまた毎日通うことになる学校の話題を振った。
私はレンタルビデオショップモリサキの黒いカーテンの先でしかトーイくんとは会えないと思っていた節がある。
本当は全然そんなことなくて、私にとって一番身近な世界……学校にトーイくんはいた。
それはいつもの私が嫌う面白味のない話だったけど、今は何故だかトーイくんがいる明日からの学校生活が楽しみで仕方なかった。
「それに、いつも俯いて歩いてる」
「……どうして俯いてるの?」
「どうしてだろ。わかんない」
表情に乏しく、声は単調。それでもトーイくんの気持ちを大分読み取れるようになってきた。多分今は寂しいって思ってる。
トーイくんは私の中でもう、"面白い話をしてくれそうな不思議な男の子"じゃなかった。
スターチルドレンの話なんかとっくにしなくなっていたし、アダルトコーナーでしか会えない遠い存在から"同級生の森崎冬唯"という身近な存在になっているのだから。
「じゃあトーイくんが俯いてたら、応答願いますって後ろからタックルしようっと!」
「え……」
「学校でも毎日いっぱいトーイくんに話し掛けに行く予定だからよろしくお願いします」
「…………」
「私忘れ物多いんだ。教科書貸してね」
ツーツーツートツー ツートツートト
ツーツーツートツー ツートツートト
ツーツーツートツー ツートツートト
ツーツーツートツー ツートツートト
笑いながら言うとトーイくんは素早く俯き、スマホを使ってあのモールス信号を繰り返し鳴らす。毎回毎回唐突で、何かの警告音みたいだから心臓に悪い。
これってどういう意味かと聞いても息苦しそうに胸を押さえているトーイくんはそれどころではないみたいだった。
「き、緊急事態」
「どうしたの!? 本当に大丈夫?」
「このままだと心臓が爆発する」
「そ、そんな時限爆弾じゃないんだからさ……」
ツーツーツートツー ツートツートト
ツーツーツートツー ツートツートト
ツーツーツートツー ツートツートト
ツーツーツートツー ツートツートト
ツーツーツートツー ツートツートト
ツーツーツートツー ツートツートト
ツーツーツートツー ツートツートト
「ちょ、ちょっとトーイくん。いい加減このモールス信号の意味教えてよ! 私の心臓も爆発しそうだからーー!」
音量が上がり、スピードを増していくモールス信号につられて心臓の音まで早くなっていく。トーイくんと一緒にいるといつもこうだ。
些細なことでドキドキして、ハート形のグミが気恥ずかしくて。面白そうなスターチルドレンの話はしてくれなくなったのに何でいつもこんなに楽しいのかな。
「すき。夏々が好き」
「……っ! う、え、あ……っ」
なんだかぼんやりとした顔のトーイくんが口を開く。ああ、やっぱりトーイくんってこんなときにも眠たげな目をしてるんだ。
きっと私は今から隕石が落ちてくると告げられても無条件に信じたと思うのだけど、それは全然規模の小さな話だった。しかし、私には地球が滅亡するなんて話よりずっと緊急事態だ。
ツートツー ツート ツーツートツート ツートトツート ツーツーツートツー ツートツートト ツートツー
私も好き。どうぞ。
もはや使い物にならない役立たずの口は捨てる判断をした。トーイくんのスマホを借りて、気付いたばかりの気持ちを電気信号で伝える。
トーイくんの顔はみるみる赤くなっていって今までで一番の笑顔を浮かべた。
「スターチルドレンの使命を果たすためにも、将来は僕と……」
「あ、今後もその設定使うことにしたんだね」
「設定じゃない」
「あはは、ごめんごめん」
近所のレンタルビデオショップモリサキ――
店の奥の黒いカーテンの先に異世界はなかったけれど、私は代わりに初めての恋に出会ったみたいです。
カーテンの先は、大人が定めた18歳未満立入禁止区域であることを――
「……中学生」
「っ!」
登校日の帰りに店へ寄ると森崎さんは普段と変わらぬ様子で昼寝をしていた。だから私は当然のように黒いカーテンをくぐった。
ところが、随分と馴染んでしまったアダルトコーナーの通路の途中で低い声に呼び止められた。
「お前ここで何してる」
恐る恐る振り向くと、そこには鬼の形相で仁王立ちしている森崎さんがいた。
「カーテンに18歳未満立入禁止つって書いてあったよなあ!? お前いくつだ? その目は節穴か? ひらがなで書いとけってか? あ? あ? ああん!?」
「ごごごめんなさいごめんなさい!」
森崎さんは私に顔を近付けて絵に描いたようなチンピラ口調で凄む。
額に深い皺を何本も刻んでおり、鋭い目付きのガンつけとドスのきいた声は一人や二人や百人くらい病院送りにした過去を持っていそうな迫力だ。この人は噂通りの元ヤンだと確信する。
「つーか初犯か? まさか俺が寝てる間に何度も入ってたんじゃねぇだろうな?」
「いっ、いいいえ! そ、そんなことは……!」
その通りですなんて言ったら殺される……命の危険すら感じた私は両手と首を必死でぶんぶん横に振りながら後退していく。
あっという間にレジにぶつかり、トーイくんのことが脳裏を過ぎる。
トーイくんはきっと今レジ裏で息を殺しているだろう。トーイくんまで芋づる式に見付かってしまわないように森崎さんを外に誘導しなければ。
緊迫した空気の中、背後で鍵の開く音がした。
いつもしっかり施錠されているレジ裏の関係者専用ドアだ。CDコーナー近くのドアと同様にバックヤードに繋がっていて、森崎さんの二階の自宅への階段もこの中にあると思われる。
しかしこの店唯一の関係者は私の目の前で怖い顔をした店長の森崎さんだけのはずだ。
一体誰が……私と森崎さんはゆっくりと開いていくドアへと視線を向けた。
そして三人ほぼ同時に「あ……」と声を漏らす。開いたドアの先にいたのは呑気にグミを食べている緊張感のない彼だった。
「冬唯!?」
「叔父さん。もぐもぐ」
「えっ、叔父さん?」
トーイくんは森崎さんに気付いても恐れおののかないばかりか、グミを噛みながら気の抜けた声を出している。
すぐさま森崎さんが「なに勝手に鍵開けてんだ」と怒鳴り、レジに足を乗せた。お気の毒にも自分の店のアダルトコーナーの秘密を知ることとなる。
「な、な、な!?」
次の瞬間、怒りで顔を赤く燃え上がらせた森崎さんの絶叫が店内に響き渡り、女子供相手に容赦のないげんこつが降ってきた。
"私は18禁コーナーに入りました。心から反省しています。高校を卒業するまで入らないと、ここに誓います。"
私に与えられた罰は恥ずかし過ぎる反省文を首にぶら下げながらカーテン前の堅い床に一時間正座で座っていることだった。
まだ五分も経っていないのに隣に座るトーイくんは足が限界らしく、もぞもぞと動いている。その首には"僕"に置き換えられた同文の紙を下げており、更に残りの夏休みの間中店番をすることがトーイくんの罰だった。
さっきげんこつを食らった箇所にたんこぶが出来て痛いし、わざわざこんな人目につく罰を与えたのは他の未成年が同じことをしないよう、見せしめの意だそうだ。鬼畜の所業と言う他ない。
「足痛い。頭痛い」
「森崎さん! 今どき体罰なんて許されると思ってるんですか? 親に言ったら問題になりますよ」
「この店潰れる」
「黙れ、小賢しいガキ共。親になんて説明する気だ! アダルトコーナーに布団敷いて毎日異性と密会してたって言うのか? 言えるもんなら言ってみやがれ!」
「「…………」」
加えて「保護者と学校に報告しないでもらえただけ有り難く思うんだな」と駄目押しのように言われてしまえば、ぐうの音も出ない。
普段は滅多に客が来ない店だ。今日もあと一時間客が来ませんようにと、私は両手を合わせて神に祈った。
「ねぇ、森崎さんって怖いよね」
「うん。家でもすぐ怒る」
森崎さんがレジに戻ったのを見届けてからトーイくんに小声で話し掛ける。
トーイくんの本名、というよりフルネームは森崎冬唯。両親の仕事の都合で叔父である森崎さんの元に預けられているらしい。
違うクラスだけど、なんと私と同じ学校に四月から通っていたそうだ。
今までトーイくんは森崎さんが店を開けると関係者専用ドアからアダルトコーナーに入り、閉店前に二階の自宅に帰っていたというから気付かれなかったのも頷ける。
「私のせいでトーイくんまで巻き込んじゃってごめんね」
「別にいい。それより明日……」
「おい、まずいぞ。客が来た。多分お前らと同じ学校の中坊だ」
「ええっ!?」
話の途中で慌てた様子の森崎さんが飛んできて、早く紙を隠して立ち上がれというジェスチャーをした。他の未成年への見せしめにすると言っていたのに教えてくれちゃうんだ。
私とトーイくんは反省文を服の中に隠して立ち上がった。足が痺れてふらつくトーイくんを支えながら何食わぬ顔で白黒映画の棚を眺める。
私達の横を通っていったのは確かに同じ中学の先輩のようだ。
先輩が去った後、「明日からは店番してるトーイくんを冷やかしに来るね」と耳打ちすると、トーイくんはまたあの二文字のモールス信号を連続したのだった。
▽
アダルトコーナーレジ裏のトーイくんのくつろぎスペースは、森崎さんの手によって完全撤去されたらしい。
いつの間にか家から消えていた家電などが続々と見付かり、後で家電の数だけげんこつを追加されたとトーイくんが愚痴っていた。
それらは実に段ボール五個分にもなったというから、よくもまあそれだけの量をあの狭い空間に持ち込めたもんだと感心する。
今やあそこはトーイくんの影も形もなくなって、特に語るべき点のない極平凡なアダルトコーナーに戻ってしまったんだろう。
私とトーイくんがその光景を確認出来るのは四年後の話だ。
「同じ学校だったなんてびっくりだよね。トーイくんも登校日に学校行ったんでしょ? 廊下ですれ違ったりしてたのかな」
「僕、学校で眼鏡掛けてる」
「トーイくんって目悪いの?」
「後ろの席だと少し見えにくい」
明日は始業式。一人で店番中のトーイくんと残りの課題を進めながら、これからまた毎日通うことになる学校の話題を振った。
私はレンタルビデオショップモリサキの黒いカーテンの先でしかトーイくんとは会えないと思っていた節がある。
本当は全然そんなことなくて、私にとって一番身近な世界……学校にトーイくんはいた。
それはいつもの私が嫌う面白味のない話だったけど、今は何故だかトーイくんがいる明日からの学校生活が楽しみで仕方なかった。
「それに、いつも俯いて歩いてる」
「……どうして俯いてるの?」
「どうしてだろ。わかんない」
表情に乏しく、声は単調。それでもトーイくんの気持ちを大分読み取れるようになってきた。多分今は寂しいって思ってる。
トーイくんは私の中でもう、"面白い話をしてくれそうな不思議な男の子"じゃなかった。
スターチルドレンの話なんかとっくにしなくなっていたし、アダルトコーナーでしか会えない遠い存在から"同級生の森崎冬唯"という身近な存在になっているのだから。
「じゃあトーイくんが俯いてたら、応答願いますって後ろからタックルしようっと!」
「え……」
「学校でも毎日いっぱいトーイくんに話し掛けに行く予定だからよろしくお願いします」
「…………」
「私忘れ物多いんだ。教科書貸してね」
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笑いながら言うとトーイくんは素早く俯き、スマホを使ってあのモールス信号を繰り返し鳴らす。毎回毎回唐突で、何かの警告音みたいだから心臓に悪い。
これってどういう意味かと聞いても息苦しそうに胸を押さえているトーイくんはそれどころではないみたいだった。
「き、緊急事態」
「どうしたの!? 本当に大丈夫?」
「このままだと心臓が爆発する」
「そ、そんな時限爆弾じゃないんだからさ……」
ツーツーツートツー ツートツートト
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ツーツーツートツー ツートツートト
ツーツーツートツー ツートツートト
ツーツーツートツー ツートツートト
ツーツーツートツー ツートツートト
ツーツーツートツー ツートツートト
「ちょ、ちょっとトーイくん。いい加減このモールス信号の意味教えてよ! 私の心臓も爆発しそうだからーー!」
音量が上がり、スピードを増していくモールス信号につられて心臓の音まで早くなっていく。トーイくんと一緒にいるといつもこうだ。
些細なことでドキドキして、ハート形のグミが気恥ずかしくて。面白そうなスターチルドレンの話はしてくれなくなったのに何でいつもこんなに楽しいのかな。
「すき。夏々が好き」
「……っ! う、え、あ……っ」
なんだかぼんやりとした顔のトーイくんが口を開く。ああ、やっぱりトーイくんってこんなときにも眠たげな目をしてるんだ。
きっと私は今から隕石が落ちてくると告げられても無条件に信じたと思うのだけど、それは全然規模の小さな話だった。しかし、私には地球が滅亡するなんて話よりずっと緊急事態だ。
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私も好き。どうぞ。
もはや使い物にならない役立たずの口は捨てる判断をした。トーイくんのスマホを借りて、気付いたばかりの気持ちを電気信号で伝える。
トーイくんの顔はみるみる赤くなっていって今までで一番の笑顔を浮かべた。
「スターチルドレンの使命を果たすためにも、将来は僕と……」
「あ、今後もその設定使うことにしたんだね」
「設定じゃない」
「あはは、ごめんごめん」
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