どうしてこうなった 第2章もしくは幕間 ~婚約破棄された公爵令嬢の凱旋~

レイちゃん

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王宮絵巻

王宮の宴 2

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「男爵閣下、あれでよろしかったでしょうか?」

歩きながら小声で尋ねてくる侍女に、アラスタも小さく頷く。

「完璧よ。
 あなた優秀ね。」

バズル男爵は完全に舞い上がっている。
場末の貧乏男爵が、次席公爵にあそこまで扱われれば無理もない。

しかし、賢ければ、自分の立場をもう少し理解するべきだった。

バズル男爵は、実の娘を差し出してでも筆頭公爵に取り入ろうとしていた。
その実の娘が夜伽を放り出して逃げ出し、相当の顰蹙ひんしゅくを買っているはずだ。
そんな特段の能力も経済力も持たないバズル男爵が。

筆頭公爵と対立している次席公爵と、などしていれば。
それを仮に、筆頭公爵派閥の貴族に目撃されれば、一体どういう解釈をされるか。

メインホールの一角で立ち話ならともかく、廊下の先にあるサロンだ。
まぁ普通、密談と捉えられる。
誤解を解けるほどバズル男爵が優秀であれば良いのだが。

(フィーナも容赦ないなぁ…
 まぁ気持ちは分かるが。
 私もマティスに売られたら…蹴り入れた後で、9ミリ弾を撃ち込むな。)

ついでに逃げながら手りゅう弾でその辺廃墟にして、逃げた後で報復のヘルファイアを撃ち込む。
文字通り地獄の業火に叩き込む程度には怒る。
『もう容赦しないでください!
 娘を変態公爵に売り飛ばす男爵家など、もう滅べばいいんです!
 それに没落貴族家の出身といっても、理由が理由なら、貴族はともかく中堅規模の商家には縁談の問題点にされません!』
フィーナは大声を上げていた。
その怒りの源泉が、実家に対するものか、アラスタの王都招へいにより書類が積みあがったことかは分からないが。

「では閣下、お約束を…」

「あなたに大切なことを教えておくわ。
 一つ、貴族を簡単に信用しないこと。」

アラスタの言葉に一瞬ドキリとした侍女だったが。

「二つ。
 それ以上に、自分を信用してくれた人を容易に裏切らないこと。
 …あの人ね?」

頷く侍女を残し、アラスタは独りの近衛兵に近づく。

「ごきげんよう。」

「はい閣下!
 私に何か御用でしょうか?」

「…ちょっと屈んでくださらない?
 届かないわ。」

背筋を伸ばした兵士を屈ませると、耳打ちする。

「ねぇあなた、お付き合いしている方か婚約者か、配偶者はいらっしゃる?」

「は?」

「いや、ね。」

アラスタは振り返り、軽く右手で視線を促す。

「あなたに一目惚れしちゃった侍女がいるのよ。
 そう、今お辞儀した子ね。
 私のメンツにかけて結婚しろ、なんて言うつもりは毛頭ないわ。
 でも決まった子がいないなら、デートしてあげてくれないかな?」

「は、はぁ。」

「上手くいくかどうかは、もうあなたたちにお任せするわ。
 大人同士ですもの。
 ただ、一つだけ忠告を。
 大丈夫だとは思うのだけれど…
 もし不義理なことした人には、もれなくベガドリアへの赴任辞令をプレゼントするよう上官にお願いしてあげるわね。」




(ま、こんなところよね。)

二人を引き合わせた後、サービスで近衛兵の小隊長にも軽く情報提供しておいた。
王宮で働く者は機密保持のため、その行動は例外なく厳しく制約される。
しかも勤務時間も日中から夜勤まで多種多様、急な呼び出しも少なくない。
なのでシフト調整の出来る上官の心配りは必要不可欠なのだ。
『ありがとうございます閣下!
 あいつは俺たちの弟みたいな奴です。
 責任もっていい報告が出来るよう、侍女長にもお願いします!』
そう言っていたので、その辺は大丈夫だろう。

実際に近衛兵と侍女というカップルは多い。
生活パターンが似ていて、それなりに給金もあり、お互いの仕事への理解もある。
アレスタの実家であるセージ家でも従者同士の結婚は珍しくなかった。

「ベガドリア男爵殿。」

役目を終え帰宅しようとするアラスタを呼び止める声。

「男爵殿の武勇伝、痛快でした。
 いやはや、感服しましたぞ。
 どうか私にも詳しくお聞かせください。」


派閥の子爵伯爵を従え、マティス筆頭公爵が立っていた。
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