どうしてこうなった 第2章もしくは幕間 ~婚約破棄された公爵令嬢の凱旋~

レイちゃん

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王宮絵巻

王宮の宴 3

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「まずは改めて、男爵殿の戦勝にお喜び申し上げる。」

サロンでアラスタと対面したマティス公爵が頭を下げる。

「とんでもございません、閣下。
 この度の戦勝は私の力ではなく、時の運。
 であれば、それは国王陛下のご威光の賜物であり、王国の勝利ですわ。」

「ハハハ、まさしくその通り。
 しかし、それでも男爵殿の働きあっての勝利。
 いかにして帝国を打ち負かしたのです?」

マティス公爵の問いに、一拍。


「火薬ですわ。」


「火薬…?」

「だって、そうではありませんか。
 帝国の進撃ルートは、ここ数回全く同じですもの。
 であれば予想される地点に火薬を埋め、吹き飛ばせばいいのです。」

「何と…」

「しかし男爵殿、よろしいでしょうか。」

マティス公爵の隣に座る伯爵が声を上げる。

「帝国の軍勢は1万と聞いております。
 侵攻ルートの予測も完璧では無いでしょう。
 それほどの広範囲をカバーするほどの大量の火薬、どこから入手されたのです?」

「簡単です。」

アラスタはニッコリと笑い。


「帝国から買いました。」





「バカな!?
 貴様、帝国から武器を買い付けたのか!?
 国家反逆罪に相当する重罪だぞ!」

思わず立ち上がるマティス公爵を前にしても、アラスタは笑みを崩さず。

「閣下。
 火薬は規制されていないのですよ。」

横に座る伯爵に顔を向けると、応えるように頷く伯爵。
法務部門に属しているので、国際法や国内法には精通している。

「バカな…」

「意外と、盲点なのですよ。
 もちろん剣や鎧を買うことは重罪です。
 そもそも利敵行為ですし、取引自体がスパイ行為ですもの。
 でも、剣は規制されても、は規制されていないんですよ。
 だって、鉄鉱石を何に使うかなど、売り手には管理できないことじゃないですか。」

これも事実である。
交戦中だからと国境を全て閉鎖してしまうと、経済が干上がってしまう。
なので戦場はともかく、今でも王国と帝国を行き来する商人は普通に両国各地で活動している。
スパイのリスクはあるものの、物資が欠乏するリスクを考えると許容するしかない。

「もちろん帝国在住の商家から直接買い付けるのは大問題ですわ。
 けれど、行商人が帝国から仕入れた火薬を買う分には、何の問題もありませんわ。
 だって買う側は、仕入れ先まで関与していませんもの。」

「た、確かに…
 大声を出して、すまなかった…」

「やり方は色々ありますわ。
 仮に火薬そのものが規制されたとして、原材料は?
 他国へ売るはずだった火薬が、帝国の意に反して王国に流れることは?
 まさか帝国だって、全ての物資の行き先を監視することなど不可能でしょう。」

涼しい顔で紅茶に口をつける。

「行商人から聞いた話ですが、帝国の貴族社会においても色々あるそうですわ。
 侵略軍を組織していた貴族家は、いやしくも国王陛下の収穫物で、帝国内で暴利をむさぼっていたようです。
 それなりに周囲の嫉妬や反感は買うでしょうね。
 そうなると、仮にベガドリア男爵家に買い付けられると薄々感づいていたとしても。
 それを無視して、定価で火薬の出荷を決済する貴族家も出てくるそうですわ。
 御用商人でもない流れの行商人ですので、真偽は分かりませんが。」
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