どうしてこうなった 第2章もしくは幕間 ~婚約破棄された公爵令嬢の凱旋~

レイちゃん

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王都の日常

王都の画廊 4

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「…は?」

いや、少女が座るのに同行の女性が立ったままなので、母親ではないのだと思った。
なので、お付きの者という関係だとは思った。
しかし、だ。

小切手とは何だ。

絵画を渋るのに、奴隷に高額の小切手を切るのか?
番頭も、デューイすらも驚く中、少女は同行の女性から差し出された小切手に金額を書き、振出人のサインを加える。

「どうぞ、30ゴールドの小切手です。」

受け取った番頭は、一瞬眉をひそめ。

「確認させて頂きます。
 少々、お待ちください。」

相手をデューイに任せると、番頭は彼を促して廊下へと出た。





「おい、これ見てみろ…」

金額は30ゴールド、サインもしっかりとある。
ただ、そのサインがおかしい。

「何ですか、これ…」

「詐欺だろう。
 銀行員と、警務官を呼んで来い。」

そう言いながら番頭は受取人欄にサインを加える。
これで”振出人は、受取人にこの金額を支払う意思表示をする”という体裁が整った。
この瞬間、明確な意思が裏付けされる。
拾ったものか盗んだものか知らないが、この少女は致命的なミスをした。
馬鹿にされたお返しに、社会の厳しさを教えてやる。
番頭はそう思いながら応接室へと戻った。





「失礼します。」

待つこと数分、銀行員がやってきた。
初めて見る顔だ、おそらく新人なのだろう。

「御用を承ります。」


「この小切手です。」


勝ち誇ったような顔で、番頭は小切手を見せる。
その小切手に押されている紋章は、その店でも最大のお得意様だ。
番頭に限らず出納に関わる人間なら、誰しもが知っている。
そしてその際の、振出人のサインは必ずといっていいほど、家令の肩書を持つ男性だ。
使いの侍女が持参することもあるが、振出人のサインはとても重要なものだ。
稀に当主がサインする場合もある。

しかし、少なくとも、こんなデタラメなサインはありえない。

「その小切手の、真偽確認をお願いします。」

エントランスホールには、警務官も待機しているはずだ。
涼しい顔をして紅茶を飲んでいる少女が、どんな顔で言い訳するのか。
番頭は、自分を罠にはめようとした相手を、逆に罠にはめたことを快感に思った。





「あの、恐れ入りますが。
 この小切手、どこかおかしいですか?」


「はぁ!?」

銀行員の言葉に、思わず番頭も声を荒げる。

「こちらの店舗にも小切手の見本券はありますよね。
 ご確認頂きましたか?」

「君は素人か!?
 券が真正なのは分かっている!
 何度も見たことのある、最大のお得意様だ!
 おかしいのは、振出人のサインだ!」

「…そちらの方がサインされたのですよね?
 当行は、正当な小切手として決済しますが。」

平然と答える銀行員。
相変わらず涼しい顔の少女。
番頭は、何かが致命的に間違っているのを感じた。

何かがおかしい。

「その小切手を返してください!」

「銀行のサインして!」

番頭が立ち上がって小切手を取り戻す前に、少女の声に反応した銀行員がサインを入れてしまう。
これで取引は完全に成立してしまった。
一方的に破棄などすれば契約不履行、下手すればこちらが詐欺罪に問われる。

「な、何で…」

愕然とする番頭。
その時、ずっと黙っていたお付きの女性が口を開いた。


「お嬢様、もうよろしいでしょうか。
 申し訳ございませんが…
 お嬢様に対する侮辱、もう耐えられそうにありません…!」
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