どうしてこうなった 第2章もしくは幕間 ~婚約破棄された公爵令嬢の凱旋~

レイちゃん

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王都の日常

王都の画廊 5

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「何で、公爵家の小切手を男爵の肩書で振り出して、通用するんだ…」

様子を見に来た彼も、三者のサインが揃った小切手を見て呟く。

「失礼ながら、あなた方。
 ご自身の勤め先の、お得意様のご家族状況は把握されておいた方がいいですよ。
 商売の基本ではないですか。」

若い銀行員は少女の方を向き。

「ごきげんよう、男爵閣下。
 ご挨拶が遅れました失礼を御容赦ください。」

「あら、以前どこかでお会いしました?」

「いいえ、お初にお目にかかります。
 しかしながら、そのお召し物…お忍びと推察致しました。
 正装ならともかく、そのお姿でしたので。」

「残念ながら、男爵の会計はどこも火の車よ。
 それなのに貴族の恰好で画廊なんか来たら、高価な絵しか紹介されないじゃない。
 まぁ普通の、見栄を張りたい男爵なら、それでもいいのでしょけれど…
 私は、安価な掘り出し物を、文字通り発掘しに来ただけ。
 おかげでデューイという宝物まで発掘できたわ。
 …デューイ。」

名を呼ばれたデューイが畏まる。

「すみませんお客様。
 貴族様とは存じ上げず、失礼なことを…」

「失礼なこと?
 あなたは微塵も、失礼なことをしなかったわ。
 でもまぁ、奴隷階級はお金でその身を左右されるということを勉強できたわね。」

少女は手元のメモに何かを書く。

「あなたの、この店での最後の仕事です。
 このリストにある作家の作品、在庫全て頂きます。
 5ゴールドあれば大丈夫かしら?」

「多すぎます。
 4ゴールドあれば、おつりが出ます。」

「じゃあそれはあなたが取っておきなさい、支度金よ。
 行き先は北方のベガドリア、毛布と防寒具がいるわね。
 2日で荷物を纏めておきなさい、3日後に迎えを寄こします。
 じゃあ倉庫に行ってらっしゃい。」

デューイが慌てて駆け出していく。
少女は続けて何かをメモに書き、銀行員に手渡す。

「こちらは?」

「優秀なあなたにも、ささやかなギフトを。
 それ、うちの持つ山なのだけれど。
 母上殿はそこに、家族で滞在できる小さな山荘が欲しいみたい。
 昨夜聞いたばかり、父上殿も知らない最速の情報よ。」

「…その意味、解釈しても?」

「あなたがどう解釈するなんて、私は知らないわよ。
 でも、もしあなたが今夜暇なら。
 母上殿は約束できないけれど、家令と執事長は本宅に確保しておくわ。
 今夜の8時でどう?」

「ありがとうございます!
 支店長に報告し、必ずお伺いさせて頂きます!」

腰を折る銀行家に、少女は笑みを絶やさず。

「あなたの名前を伝えておきます、必ず同席するように。
 いい機会よ、しっかり勉強するといいわ。
 将来、私が王都に邸宅を構えることになれば、その時はあなたを指名するわ。」

「よろしければ、今すぐにでもお手伝いさせて頂きますが。」

「それって実家あっての信用でしょ?
 ベガドリア男爵という肩書だけで稟議りんぎが通らないんじゃ、意味がないわ。
 とりあえずお店に戻って、その小切手を処理してきなさいな。
 あ、もし廊下かエントランスに警務官がいたら帰ってもらってね。
 事件性が無いのなら、意味がないわ。」

「心得ました。
 それでは閣下、失礼致します。」

銀行員が部屋を辞し、4人が残され。


「さて。」


少女はニヤリと笑い。

「あなたたちも、彼らと同じように優秀なのよね?
 じゃあ、私が納得できるだけの説明をして頂けるかしら?」
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