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第五章 四角三角
第14話
しおりを挟む「タキさん。話があります。聞いてくれる?」
ブルゼットとの散歩の、本当の目的だと思われる話だろう。重い話でも無さそうだけど、早朝で人が少ないとはいえ、こんなところで立ち話もどうかと思う。
「もうちょっとで公園があるから、そこで聞こうか?」
「はい…まぁ、そんな大した話じゃないけどね。」
「ふぅん。でも、ミコはブルゼットに何か話すことがあるから、2人で行ってこいって言ったんじゃないの?」
「…気付いてたの?」
「気付いてたって程でもないけど、なんとなくそうなのかな?って。」
「ミコさんには敵いませんね。ここに座りましょ?」
「うん…ミコにってなんで?」
「だって、ミコさんは朝ごはん作るからとしか言ってなかったのに、そういうことだって解ったんでしょ?」
「そんなの、誰でも解りそうなものだけど?」
「じゃあ、なんでミコさんに何も聞かなかったの?」
「なんでって…ブルゼットのことをミコが信用してるから2人で行ってこいっていうことな訳で、だからどんな話かは解らないけどミコが話してこいっていうならそういうことなんだろうなって。」
「ほら!そういう風に、タキさんとミコさんは信じ合ってるんだもん。敵わないなって。」
「信じ合ってる?」
「そう。昨日の夜にミコさんと2人で話してたでしょ?その時に、ミコさんはタキさんのこと信じてるんだなって思ったから。」
「ふぅん。」
どんな話をしたのか解らんけど、ずっと一緒に居るっていうことだけは間違いない。ミコの方でそれを解っているから、信じ合ってる。まぁ、俺からしてみりゃ、今更な気もするけど。
「それで、私の話っていうのは、昨日ミコさんと決めたことなんだけど…。」
「うん。」
「決めたことなんだけど…。」
「うん?」
「……。」
昇りつつある朝陽が眩し過ぎて言えなくなってしまったのだろう。仕方ない、手伝ってやるか。
「ブルゼットは俺とえっちしません!」
「えぇっ!?タキさん!?」
「あれ?違った?えっちするの?」
「ち、違いませんけど、よくこんな明るいところで爽やかに言えますね…でも、なんで解ったの?」
「いや、さっき俺の部屋に2人で来た時にそんな感じのこと話してたじゃん。」
「そっか。あの時タキさんは寝た振りしてたんだっけ?」
「うん。だから、ブルゼットが俺の下半身に釘付けだったのも知ってるよ。」
「く、釘付けじゃないから!ちらっと見ただけだから!」
「ほっ…あの後2人が出てから見てみたら、パンツがちょっとズレてたから見えてたかもとか思ってたよ。」
「え?そんな筈は…あ、いえ、ない、ことも、あの、でもない?ような?」
「ま、ブルゼットがえっちなのは置いといて…。」
「そ、そんなもの、遠くにやっちゃって!」
「そんなえっちなブルゼットが俺とえっちしないなんてどういうこと?」
「置いといてないし!…その、私はまだ若いから、せめて卒業してからにしなさいってミコさんが言ったの。」
「まぁ、そんなことだろうと思ってました。でも、えっちなブルゼットにそんなの、耐えられるんでしょうか?」
「頭にえっちな、って付けないで!もう!」
「ブルゼットがえっちをせずに過ごすなんてとても耐えられる気がしないけど、耐えられるの?」
「私が物凄くえっちみたいだ…でも、うん。それ位全然大丈夫。タキさんこそ、耐えられないんじゃない?なんちゃって、うふふっ。」
「あはは、俺は耐えられないよ?」
「えぇっ!?」
「耐えるつもりも無いし。」
「えぇっ!?でもミコさんが…。」
「そう。だから、ミコに止めて貰うよ。」
「あ…。」
身体を張ってでも止めて貰おうじゃないの。
「……タキさんは…。」
「うん?」
「もしもですけど…。」
「うん。」
「もし…もしも、えっちな私がロクラーンに帰ってから耐えられなくて、他の男の人と付き合ったりしてそういうことしちゃったらどうします?」
「どうもしないよ?まぁ、おめでとうって言うかな?」
「えっ?そ、そうですか…あれ?」
「あれ?って何よ?…まぁ?ロクラーンに行って相手の男を探し出して月の無い夜に後ろから襲ってぼこぼこにするし、そのまま引き摺ってってパトニーさんの家の拷問室を借りたりするかもしれないけど、素直におめでとうって言えるよ。」
「…うふふっ、全然おめでとうじゃないです。」
「まぁ正直に言うと…。」
「なぁに?」
「そんなことになる前に口説きに行くかな?」
「…うふふっ、ほんとに?」
「うん。でもこれ、ミコには内緒だぞ?」
「ぷっ!あははっ、無理!もう無理!あはは…。」
そんなに面白いこと言ったか?
「ふふ…ね?そろそろ帰りましょ?ふふっ、あはは…。」
「なぁ?本当にミコに言うなよ?」
「うふふっ、大丈夫!言いませんから!」
「本当に大丈夫かな…。」
「大丈夫!ね?腕組んでも、あっ!」
避けてみた。
「もう!なんで逃げるの!?」
「本当に内緒にするなら良いぞ?」
「内緒にするから大丈夫。だから良いでしょ?ね?良いってことで!」
…しっかり当ててくるのは嬉しいんだけど、本当に大丈夫かな?
・・・。
ガチャ。
「ただいまさん…。」
「ただいまぁ!」
「おかえりなさい。ブル?話せた?」
「うふふ、ないしょ!」
話せたかどうかまで内緒にするんか。
「本当に!?くっ、くはっ!あはは…タキ君、卒業前は駄目よ?ふふふっ…。」
何を言ってるんだろう?ってまさか…。
「俺、読まれてた?」
「うん、ばっちり!ふふっ!あのね?昨日ミコさんに卒業するまでは、って言われた時に私が、もし2年の間に私に他に恋人が出来たら2番目はどうなるのか聞いたらね?ミコさんが、同じ事タキ君に聞いてみたら?って。それでミコさんが、そしたらタキ君は絶対、俺が口説き落とす!でもこれはミコには内緒だぞ?って言うわよって。」
…なんなの?最近ミコに行動が読まれてる。そして、それを元にからかわれる。
「本当に、ミコには内緒だぞ?って言うんだもん!私おっかしくて!ぷっ、思い出しても笑っちゃう!ミコには内緒だぞ?あはは…。」
「そ…。」
「ブル?あんまりからかってると、良い加減にしないと口塞ぐぞ?って言われちゃうわよ?」
…の辺にしないと、って続けなくて良かった。
いや、良くないだろ。ミコは読み過ぎ、俺読まれ過ぎ。こんな調子だと、いずれ俺の個人的な活動の真っ最中を狙って突撃されてしまう可能性がある。
…まぁそうなったらそうなったで…。
いやいや!何考えてんの!?なんとかしないと!
「えっ?口塞ぐって、え?」
「ブルの良く喋るその可愛い口を…こうだ!」
「んむぅ。」
ミコがブルゼットの顔を両手で挟んで無理矢理口付ける振りをする。ただ、ミコの方が背が低いので、妹がお姉ちゃんにいたずらしてるみたいで妙な感じだ。
「ってなことになるわよ?うふふっ。」
「なるほろ…。」
「ま、ブルにはまだ早いかもね。タキ君のキスはずるいから、へにゃへにゃにされちゃうの。まぁ私はもう慣れたけどね。」
…ほう?それなら…。
「こう言うと今頃タキ君はね?ほう?そんなこと言うミコにキスをしてへにゃへにゃにしてやるぜ!って思ってるわ。うふふっ…ね?タキくんんっ!?」
先読みしてることを言えばやって来ないだろうと思ってたらしいな。甘い!甘過ぎる!
「…ん、んふ…。」
前歯をこじ開けて奥に侵入し、上顎の辺りをくすぐると追い出そうとしてくる。そのまま追い出そうとしてきた奴と戯れる。
「ん…んふ…。」
甘い声が漏れるミコの腰に力が入らなくなってきたので支えてやる。
「んふ…はっ、はぁっ、タキ君?私もう歩けないから、タキ君がベッドに連れてって?」
「良いけどブルゼットは?」
「ブルも一緒に…ブル!?ちちち違うのよ?ほら、あの、ベッドっていうのは、一旦そっちで厳しく注意しないとってことで、うん。ね?」
ベッドで注意ってなんだよ?誤魔化し方下手過ぎだろ。
「……。」
「ブ、ブル?」
「……。」
…ブルゼットは気を失っていた。
・・・。
「タキさん。」
「ん?」
今、ブルゼットをオズの家に送り届けるところだ。
あの後気が付いたブルゼットは俺からちょっぴり離れる様になった。朝ごはんを食べても上の空で、偶に赤い顔で俺の顔を見て、目が合うと目を逸らした。
朝ごはんの後、元々はミコと俺でブルゼットを送る予定だったのだけど、ちょっと問題があるから、俺1人で行ってくれと頼まれた。力の入らない腰の問題か、盛り上がった気分の問題か。
気まずい感じのブルゼットは、腕を組もうとも手を繋いでこようともせず、少し離れて歩いている。ちょっと寂しい。
「ミコさんは、本当は私とタキさんにキスさせようとしてたと思うんです。」
「え?ミコが?」
「うん。昨日の夜に、卒業まで待つんだからキスくらい構わないって言ってたから。」
「なるほど。」
「でも、私はね?断ったの。」
「ふぅん。」
「…なんでって聞かないの?」
「ブルゼットが決めたことなら、それで良いと思うからね…でも、気になってきたから一応聞いても良い?なんで?」
「…タキさんに、タキさんからちゃんとして欲しいの。」
「…どういうこと?」
「ちゃんと好きになって貰って、タキさんが私とキスしたいって思った時にして欲しいから。」
「…ミコにもそう言ったの?」
「うん。そしたらミコさんは、それなら奪い取るつもりでやってみなさいって笑ってたの。なんか、絶対負けない自信がある感じでね?格好良いなって。」
「ふぅん。」
「だから、私は頑張ろうって思ってたんだけど…。」
「けど?」
「もし私があんなキスされちゃったら、そんなのどうでも良くなっちゃうかもって。だから、ちゃんとタキさんに言っておこうと思って。」
「好きになって、キスしたいって思うまではキスしちゃ駄目ってこと?」
「うん。それを解って貰えるまでは、その、近付くのちょっと怖くて。だから言っておこうと思ったの。もう手繋いでも良いよね?」
「良いって言ってないけど?」
「駄目なの?」
「良いけど、良いの?」
「うん?何が?」
「話は聞いたけど、解ったとは言って無いよ?」
「…あれ?手が離れないのは何故です?」
「俺が握ってるからです。」
「だ、駄目だよ!?駄目だから!これからお仕事だし!うん、お仕事だもん!マキさんにも会うし!」
「マキちゃんとはしたことあるよ。」
「いやいや!だから良いって訳じゃ…マキさんとキスしたことあるの?」
「まぁキスしたというか、奪われたというか…。」
「ふぅん。まぁ、した訳じゃないなら良いけど…。」
「まぁ、ブルゼットにはするけど。」
「だ、駄目だってば!その、私はキスとかするなら、ちゃんと好きになって貰ってからにしたいの!解った?」
「…ブルゼットはなんか少し勘違いしてるみたいだけど。」
「何を?」
「俺は好きでもないのに、律儀に毎朝8時に家を出るようなことはしないよ?」
「えっ?」
「もう会わないって手紙貰った時も、頭ぐちゃぐちゃになっちゃってさ。風呂屋行こうにも気付いたら変なとこに居てさ、大変だったんだから。」
「……。」
「そりゃさ、言い難いけど、ミコの方が好きだったというか、好きだよ。だけど、ブルゼットのことを好きじゃないなんて、そんなことは無いから。」
「……。」
「まぁ?ブルゼットだけを、っていうのは申し訳ないけど無理なんだけどさ。でも、ちゃんと好きだよ。」
「……むぅ。」
ブルゼットは赤い顔で唸ると、俺をひと睨みし、手を振り解き、ぽかぽか叩いてきた。
「ずるい!卑怯者!女たらし!やっぱり最低男!女たらし!」
女たらしって2回言ったぞ。
「まぁさ、そんな訳だから、ぶちゅっと濃厚なやつを…。」
「だだだ駄目に決まってるでしょ!?今そんなことされたら、いや駄目!そうだ急ぐ急ぎますので、もうすぐそこだし!こんなところで!?いえ、ここで良いありがと行ってきます!」
それだけ言い放つと、さっと逃げるようにオズの家に入って行った。最後のは冗談だったのに。好きは好きでも、キスはまだちょっとね…。
それならいつなら良いのか?ってことで考えてみると、別に今でも良いじゃんって思うから不思議。
そんな風に、スキとキスの関係について考えて始めたところで突然声を掛けられた。声を掛けられるのはいつも突然。
「いよっ、女たらし!」
「メラマさん?もしかして見てました?」
「ああ。見掛けたから声掛けようかと思ったんだけど、ミコじゃない女の子連れてるし、何だか面白そうな話してるのも聞こえちゃってね。どう?ミコに内緒にしとくから、その代わりに今から2人で飲まない?」
「まぁ俺は暇なんで良いですけど、メラマさんはお仕事大丈夫なんですか?」
「言って無かったかな?俺は城で魔法の研究をしてるんだ。割と自由だから、詰まった時はさっさと帰って酒を飲むって決めてるんだ。今がその時でね。だから、どう?奢るよ?」
メラマさんか。ミコの幼馴染みで、当然ルタさんとも幼馴染みで、俺がブルゼットと手を繋いでるとことか、もしかしたら好きだって言ってたことも聞こえてる筈。もしかしたら怒られるかもしれないな、ミコを大事にしろとか別れろとか?
でも、そんな風にも見えないし…。
まぁなるようになれ、だな。
魔法の研究なら、もしかしたらミコが働き口を探す時の良い話が聞けるかも知れないし。
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