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第五章 四角三角
第15話
しおりを挟むブルゼットを送った後、メラマさんに酒に誘われた。ブルゼットに好きだと言うところを目撃したことをミコに言わない代わりに付き合えとのことだ。でも…。
「ミコには内緒でなくても良いですよ。知ってることだし。」
「へぇ?ならますます楽しみだな。」
楽しみ?
「俺がこんなこと聞くのも変ですけど、怒ったりはしないんですか?」
「怒る?ああ、幼馴染みだから大切にしろみたいなこと?別にそんなの無いよ。子供じゃあるまいし。」
「なるほど。とりあえず、ミコに連絡しても良いですか?」
「ん?ああ、手紙飛ばそうか?」
「いえ、自分で飛ばしますよ。」
メラマさんに会って、飲みに誘われたから帰るの遅くなる由を書いて飛ばす。
「…驚いたな。今の、風のだろ?魔族は我々の魔法とは違うって話だけど…。」
「ミコの魔法紙持ってるんですよ。魔法紙は知ってますよね?」
「ああ。ロクラーンで発行されてるやつだろ?ミコの、っていうのは、ミコが作ったの?」
「はい。だからか解りませんが、ミコに対してしか使えないみたいなんですけど…おっ?」
ー了解。ブルの迎えはどうする?ミコ
「良いらしいです。ただ、遅くても夕方までですけど良いですか?」
「うん?ああ、そんなに拘束したらミコに怒られちゃうからね。タキ君の好きなようにしてくれ。」
「解りました。」
ー夕方までには帰るから一緒に行こうタキ
「ミコはちゃんと手紙飛ばせるようになったんだな。」
「そうみたいですね。前は下手だったって言ってましたけど。」
「エルフは、誰か好きな人が出来れば上手くなるって話があるからね。君のお陰かな?」
「ミコもそう言ってくれました。でも、本当にそういうことがあるん…。」
ーそれなら後でそっちに行くから一緒に行きましょ?ミコ
ーじゃあ家出る時に教えて。場所はその時に知らせる タキ
「まとまったかい?よし。それじゃ、どこか入ろう。何が食べたい?好きな酒とかあれば…。」
「こんな時間ですから、軽いものをつまみながら、強いお酒をのんびりやれるところがあれば…。」
「なるほど。よし、そんな呑兵衛向きの店がある。そこに行こう。」
「お任せします。それで、好きな人が出来たらって本当にそういうことがあるんですか?」
「うん。まぁ、きっかけのひとつに過ぎないけどね。俺達の場合は、人間の魔法と違って、神の言葉を使わないで精霊にちゃんと伝える必要がある。その時の熱意みたいなものかな?それが足りないと上手くいかない。好きな人が出来て、好きな人に見せたいとか伝えたいという気持ちが自然と熱意となって伝わる。その感覚を覚えてしまえば、他の魔法も上手くいくって話さ。」
「なるほど。」
ー了解。メラマに変なこと言わないように聞かないようにミコ
「こう言ってますけど?」
「男の秘密の話を邪魔するなって言っておいて。」
「あはは、怒られちゃいますよ。」
「大丈夫だろ。どれ、俺が飛ばしてみよう。」
メラマさんがさらさらと書いて飛ばす。
「これでよし。それで、ここだ。ちょっと待ってて。」
きぃぃ。
ーどうも、2人で、外の席……。
「…よし、良いそうだ。そっち座ろう。」
角にある小さなレストランの外の席に座る。
「適当に頼んでくるから、ちょっと待ってて。」
そう言ってメラマさんはお店の中に入っていった。
それにしてもお洒落な店だな。大人って感じだ。アッちゃんと来たりするのかな?
「お待たせ。とりあえず飲み物持ってきた。食べ物は後で来るから、とりあえず、乾杯しようか。」
「ありがとうございます。乾杯…良いお店ですね。アッちゃんと来たりするんですか?」
「いや、2人で来たことは無いな。」
「そうなんですか?」
「ああ。前の彼女と偶に来てた店だからね。」
それは連れて来にくいな。
「だけど、もっと前から来てるから、こうやって早目に帰って、独りで飲む時なんかには偶に来るんだ。」
「なるほど…それで、さっきの話に戻るんですけど、好きな人が出来て、それがきっかけになって上手くいくのは解ったんですけど、俺の場合は他の人に手紙を飛ばせなかったんです。それって、ミコの魔法紙だからなんですかね?」
「ミコ以外に飛ばせないの?」
「ええ。やってみたんですけど…。」
「その魔法紙見せて貰える?」
「はい…これです。」
財布に入れておいた小さい紙片を渡す。
「ありがとう…恥ずかしながら魔法紙を見るのが初めてでね。これって何も書いてないけど…。」
「聖水で書いてあるんです。俺はその、魔族だからか、ちょっと温かく感じますけど、まぁ何も書いてないように見えますよね。」
「ああ。これじゃ俺には何も解らないな。後でミコに聞いてみよう…それじゃ、さっきの女の子について聞いても良いかな?まぁ飲んで飲んで。」
「メラマさんも飲んで下さいよ…あの子は、解りやすく言えば、俺が一夫多妻みたいになっちゃってて、その2番目の子です。」
「また凄い話が出てきたな。一夫多妻?」
「魔族が昔そうだったらしいんです。それで、まぁ色々あって、今俺がそういうことになったと。」
「知らないことっていうのは案外多いものだな。ミコは1番目ってことだろうけど、他にも居るのかい?」
「ええ、まぁ。ミコ以外に3人居ます。予定ですけど。」
「予定?」
「まぁ、俺がミコと結婚してから初めてそうなることになってます。」
「ふぅん。さっきの子は人間だよね?」
「そうですね。他の子も人間がもう1人と、ドワーフの子が1人居ます。」
「多種族を股にかけるとか、色男だなぁ。同じ男としては羨ましい限りだ。」
「変なことになっちゃったなって思いますけどね。」
「俺は魔族のことは知らないけど、昔はよくあることだったんだろ?」
「そうらしいんですけどね。」
「もう今ではあまり聞かないことだったの?」
「今では、っていうか、俺はそもそも自分が魔族だって知ったのが最近でして。」
「えっ?なんで?」
「こないだ聞いたかと思うんですけど、魔法で人を治すと記憶を無くしちゃうんです。そのことを知ったのも最近で、それまでは人間だと思ってました。」
「ああ、そんなことを聞いたような…でもそれなら、人間の時にミコを口説き落としたのかい?」
「ええ、まぁ。人間でも良いって言ってくれました。」
「それはそれは、余程君に惚れたんだろう。あいつは昔からずっと、人間は好きにならないって言ってたからね。ほら、お祖父さんが人間だからさ。聞いたかも知れないけど。」
「ええ。でも、リリーディアさんも応援してくれて。」
「リリーディアに会ったのかい?」
「ええ。俺の魔法と記憶のことを聞きに行ったので、その時に。」
「それじゃ、リリーディアも君を認めたんだな。いやはや、君は大したやつさ。ルタが敵う相手じゃないってことだな。」
「その、ルタさんはやっぱり…。」
「ああ。まぁ、ちっちゃい頃ミコと同じ位の奴らは皆ミコを好きだったんだ。今でもってのはルタだけだがね。でもミコにその気が全然無かったから…ま、君は心配しなくても良いだろう。ミコはタキ君にべた惚れみたいだし。」
「そっちの心配はしてませんが、皆さんの幼馴染みの集まりが変な雰囲気にならなければ良いなと。」
「優しいな。でも、そっちの心配も要らないよ。俺達は、まぁタキ君もだけど、この先長いんだ。例え仲違いをして100年会わなくったって、100年後に笑えたら良い。そうだろ?それが死ぬまで仲違いが続くようなら、その程度の仲だったってだけさ。」
「そういうものかも知れませんね。」
「ま、そうは言ってもだ。さっき言ったこととは逆になっちゃうけど、ミコとは末永く仲良くして大事に可愛がってやってくれ。」
「そのつもりですよ。逃げたってまた捕まえますし。」
「ははっ、逃げるなんてことは無いだろうし…おっ、来たか。おーい。」
「…メラマ!あんた騙したでしょ!?」
ミコが怒鳴り込んできた。
「騙してなんかないさ。タキ君好みの女の子が居る店になっただろ?」
「えっ?あっ…あんたねぇ…。」
赤い顔でジト目のミコ。可愛い。俺好みのミコ。
「なんでミコがここに?」
「えっ?いやまぁ…。」
「俺がさっき手紙飛ばしたから、すっ飛んで来たんだろ。」
「なんて書いたんです?」
「話すな聞くなって書いてあったろう?だから冗談で、タキ君好みの女の子の居る店に行くからそんな話もしないだろうってな。それで、そんなとこ連れてくな!とか返事が来たら、嘘だから大丈夫って飛ばそうと思ってたんだけど、まさか慌てて探し回るとはね。」
メラマさんがくっくと笑っているのを、ミコが睨んでる。
「もう!何軒も入って、恥ずかしいったら無かったわよ!私も飲む!メラマの奢りだからね!」
「仕方無いな、奢らせて頂きます。それで、来たとこ早々だけど、ミコの他に3人もタキ君の嫁さん候補が居るんだって?」
「何よタキ君、そんなこと話したの?」
「いや、俺がさっき、タキ君が女の子連れてるとこ見掛けたんだ。それで、女の子が照れて走って行っちゃったところを捕まえたから、事情を聞こうと思ってな。」
「良い肴になると思っただけじゃないの?」
「否定はせんがね。タキ君とは少し話してみたかったっていうのもある。大事な妹分の恋人だからね。」
「ふん、どうだか。それよりメラマ、アッちゃんにも妹分とか言ってたんじゃないでしょうね?」
そう言ってミコがメラマさんを睨む。
「…それで?ミコはタキ君の周りに女の子が居て大丈夫なのか?さっきの様子だと、相当嫌そうに思えるけど?」
無視するメラマさん。
「誤魔化した…まぁ、その子達にはそれぞれ事情があるのよ。だから、私にとってはもう、家族みたいなものだと思ってるの。そんな訳だから、メラマはこれからもタキ君をそういうお店に連れてったりしちゃ駄目だからね?」
「奥さんの束縛が厳しいな。タキ君?乗り換えるなら早目が良いぞ?さっきの子なんか、綺麗だしスタイルも良いしおしとやかっぽいし、丁度良いじゃないか。」
「でも俺、1番俺好みの子がミコなんで。」
「えっ…と…。」
「それは残念。でも真っ赤な顔して喜ぶミコが見られたのは収穫だな。」
「…もうアッちゃんに言うからね。メラマはそういうお店行ってるって。」
「大人の付き合いがあること位あいつも知ってるさ。それにここ何年か、結婚してからは行ってないしね。」
「ふぅん…あんた達、随分時間掛かったのね。きっかけは何だったの?」
「えぇ?あんまり話したくないなぁ。アジにも怒られちゃうよ。ほら、タキ君もそんなに興味無いよな?な?」
「興味が無いと言うと嘘になります。」
「ほら、タキ君も聞きたがってるし!人にはやりたい放題やった癖に、自分の事は喋らない訳?」
「でも、あんまり気持ちの良い話じゃないと思うぞ?」
「なんでそれで結婚するのよ?良いから聞かせなさいよ。」
「アジに、俺が言ったって絶対言うなよ?」
「解った。」
「…さっきミコが言った通り、アジも妹分の1人だと思ってたんだよ。だから、別の女の子と付き合って別れて、また別の女の子と付き合って別れてを繰り返してたんだ。」
「その間アジは?」
「ご飯作ってくれたり、洗濯してくれたり、掃除してくれたり、朝起こしてくれたり…。」
予想よりひでぇ。
「その時にメラマさんはやっぱりアッちゃんだ、って思わなかったんですか?」
「まぁその、世話好きな妹だなって…。」
「さいってーね。」
「返す言葉が無い。」
「それで?どうやってアジはそのすかぽんたんを落とした訳?」
すかぽんたん。
「最後の彼女に振られた時に言われたんだ。アジみたいな子を妹って言う男に大事にして貰える気がしないってな。それで、俺はアジに対しての感覚が、妹じゃないんじゃないかと思って…。」
「それで、結婚してくれって?」
「いや、アジに相談したんだ。こう言われて振られたんだがどう思う?って。」
すげぇ。こんな鈍い人居るんだ…。
「呆れて物が言えないって本当にあるのね。」
「凄いな。アジも同じ事言ってた。」
そりゃそうだ。
「それで、まぁ…飲もうか。もうちょっと飲まないと話しにくい…。」
そう言ってメラマさんはグラスの酒を飲み干した。
「それでまぁ、怒ったアジが、俺をベッドに放り込んで、寝れば解るだろ!ってな。」
てな。
「それからまぁ、こいつ女だって理解して、そしたらどんどん凄く良い女だと思うようになって、まぁこうなった、と。」
「ブルには絶対聞かせられないわね…。」
口が裂けても言えないやつだ。
「ま、なんだかんだ男女の問題を解決するのに1番手っ取り早いのは確かに寝ることだな。ミコ達は解ってるのかも知れないけどな、はっはっは。」
「えっ?」「えっ?」
「えっ?」
何にも解ってないのは俺達の方だった。
…それはそうと、メラマさんも酔いが進んできたら、おっさんぽいこと言うんだな。まぁ50近いんだもんな。
学長に近いのかと思うと、ちょっと距離を置きたくなる感じ。見た目が爽やかなのが救いだ。
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