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第七章 降臨
第9話
しおりを挟む実はタキの母ちゃんは天使だった。
てことは、タキは天使の子だ。
タキとオリアちゃんがえっちしたかどうかで世界が崩壊するというのは、おじいちゃんであるところの天使の王様が怒るとかそういう話なんだろう、と思って聞いてみた。
…のだが。
「違うよ。」
「え?違うんですか?」
「ああ。それは全く関係の無い話だ。」
「それじゃどういうことなんです?」
天使が魔族になるっていう話の途中だけど、世界が崩壊するとなるとそんなことも言ってられんし。
「実は、今現在魔族の中である賭けが行われているんだ。」
「何の賭けですか?」
「タキ君と最初にえっちするのは誰か、さ。」
それはまた…。
「下らなくないですか?」
「まぁ確かに賭け自体は下らないな。だが、このことが世界を崩壊させるきっかけになる可能性を持つようになってしまった。」
「どういうことですか?」
賭けで世界が崩壊する?
「この賭けの発案はザラ様だ。皆で賭けましょうと言ったら瞬く間に魔族全体に広まった。」
「皆タキのこと知ってるんですか?」
「ザラ様にタキという名の子供が居る事は当然知っている。」
「それじゃ、タキが博士、姉ちゃん、オリアちゃん、ブルゼットちゃんの誰と最初にって事ですか?」
「いや、デビイも居る。ザラ様はそこに自分を加えた6枠作った。」
そこに自分入れちゃう天使。
「そして、ザラ様は自分に賭けたんだ。掛け金は、6000億ディミ。」
「ろくせんおく!?」
「ち、チウンさん?ザラさんが何故自分を候補に入れたのかは兎も角、そんな大金…大金というか国家予算で出てくる数字ですよ。フリジール城が買えるでしょう。」
「ザラ様は投資で儲かって、その儲かった金で投資をし、繰り返す間に増えるだけ増えたんだよ。今ではフリジールは勿論、ロクラーンまでもザラ様が掌握してるようなものだ。」
すげぇ。
「つまり、タキ君がザラさん以外の子とえっちをすると、投資先から回収していくことになって、投資先が潰れていき、結果として国が崩壊してくってことですか?」
「そういうことだ。しかし、この賭けは流れた。」
「流れたんですか?」
「ああ。掛け金は兎も角、ザラ様が強引にタキ君とえっちをする可能性があるというか、間違い無くするだろうということで反対する声が多く、ザラ様は渋々自分を加えないことを了承した。」
渋々。
「そして、改めて5枠でやり直したところ、ザラ様はミコーディアミックにそのまま6000億入れたんだ。」
「ちょっと賭け方が豪快過ぎませんか?」
「投資の方も、これと決めたら全額どーんと行くスタイルだからな。外せば大損だが、見る目は確かなんだろう。全然外さない。だから賭けの方も豪快なんだろう。」
「しかし、それでもやはり賭けが成立しないと思うのですが?ザラさんが勝っても、他の人が払える訳じゃ無いですよね?」
「勝った者が負けた者の賭けた金を総取りして、比率で計算して分配するから問題無い。勝てるなら高く入れた方が儲かる寸法だ。ザラ様が1番堅いミコーディアミックに入れた結果、他に賭けるとかなり儲かることになって人気となって賭け金が膨らみ、ザラ様に便乗してもそれなりに儲かるとなってそちらも盛り上がり始めた。」
なるほど。
「ただ、少々盛り上がり過ぎてな…有り金以上に大きく張る者が出てきた。今は手持ちが無くて払えなくても、勝てば大儲けだからね。だが、額が額だけに負けたら終わりだ。そこで、負けて支払いの出来ない者は今建ててる城の建設現場で無償労働することになったんだ。」
「チウンさんも賭けてるんですよね?」
「…ああ。オリアに2億だ。」
それで2億に拘ってたんだな。
「因みになんですけど、なんでオリアちゃんに?」
「オリアは、5番目ということで1番人気が低いのだが、私の感覚では全然あり得ると思ったからだ。来ればでかい。そして実際、ぎりぎりなところまで行ったからな。ただ、審議で負けた。」
ここで審議なのか。
「でも、タキとオリアちゃんはえっちしてないんですよね?なのに審議が必要だったんですか?」
「ああ。矢張り額が額で生活が掛かってるから、オリア派としては、何としてもえっちしたことにしたかったんだ。」
「いや、無理でしょ?」
「いや、勝算があったんだ。」
無いでしょ。
「えっちとは何なのか?という点を追い求めれば、えっちをするつもりで接吻を交わせば、それはもう既にえっちではないか?というのが我々の主張だ。」
「大分無理が有ると思いますが。」
「そう思うだろ?だが、確かにそうかも知れんという空気になったんだ。例え今回オリアが無理でも、同じベッドで寝たとか一緒に風呂に入ったとかでも戦える可能性が出てくるからな。だから、反対意見がそれ程出なかった。」
もはやえっちの定義の問題だったか。
「でもそれじゃ、なんで負けたんです?」
「ザラ様だ。」
タキの母ちゃん?
「え?タキの母ちゃんが認めなかっただけで?」
「それは、ザラさんが天使だから意見が通るってことですか?」
「いや、そうでは無い。ザラ様がオリア派以外、いやオリア派すら味方に付けたんだ。」
「そんなこと…どうしたんです?」
「ザラ様は静かにオリア派の意見を聞いていたのだが、おもむろにテーブルの上のさくらんぼを食べて、その小枝を口の中で結び、それを摘んでこう言ったんだ。」
…。
「私は今、さくらんぼの小枝とえっちしたのね。」
…凄い。
もう、凄いとしか言えない。
何が凄いのかは解らないが、凄い。
「その一言で場の空気が明らかに変化した。そして、畳み掛けるように言ったんだ。」
「誰かこれ、欲しい人居る?」
思わず手を上げそうだ。俺もちょっと欲しい。
「皆、男も女も関係無く手を上げた。ザラ様の舌で結ばれたさくらんぼの小枝だからな。だが、ザラ様は、でも残念ね?もし私がこの小枝とえっちしたのだったらそんな大切な相手を誰かにあげるなんて出来ないわね?と言ったんだ。」
「それじゃ欲しい人は、ザラさんと小枝はえっちしてないと言わざるを得ない訳ですね?」
「そうだ。そして当然、そういう意見が全体で広まった。広まったところで、タキとオリアはえっちしたのかしら?って聞いたんだ。そこで審議は終わった…。」
チウンさんは悲痛な面持ちを隠そうともせずに言った。そして気になる小枝の行方。
「ちなみにですけど、結局小枝は誰かが貰ったんですか?」
「ああ。ザラ様は近くのミコーディアミック派の女にやった挙句、その女の頬に口付けして去って行った。羨ましい限りだ。」
…。
「チウンさんも欲しかったんですか?」
小枝も、ほっぺにちゅうも。
「当たり前だ。ザラ様だからな。だが、オリア派が貰うことは無い。オリア派が貰えば、ザラ様は小枝で懐柔したと言われるし、我々は小枝で懐柔されたと言われてしまう。だが、どうにも仕方の無い私はどさくさに紛れてルタドビシャプリスをぼこぼこにすると心に決めたんだ。」
あの酷い仕打ちは八つ当たりだったのか。
「ルタも運が悪かったな…。」
「ルタドビシャプリスがタキ君の家に到着するのが30分、いや15分遅ければ我々は勝ちだったのだぞ?」
勝ちかもしれないけど、結局途中で止められる2人。
「…でも、チウンさん達が勝ってたら世界は崩壊するんですよね?」
そういう意味では、先生は世界を救ったのか。
「そうだな。先に腐敗してるロクラーンが崩壊して、不安定になるフリジールも荒れるだろう。エルフ達も巻き込まれるかも知れん。だが、私達にとってそんなことはどうでも良いのだ。」
どうでも良い?
「それはちょっと冷たくないですか?」
「100年もすればまた落ち着くから良いだろう。」
「いやいや、いやいやいや!俺達人間はそんなに長生きじゃないですから!」
「シンオズ。君達人間は、不定期に崩壊しては再構成することを繰り返している。その原因の殆どが、人間の腐敗だ。それが1度位、タキ君が誰とえっちするかの賭けのせいであったとて誰も気にしはしないのさ。」
「でも、そんな下らない理由でなんて…。」
「下らない理由か…下らない理由で崩壊するなら、どのみち時間の問題だよ。ロクラーンはその内崩壊する。」
え?
「ロクラーンは崩壊するんですか?」
「ああ。パトニー家を継いだグレンパトニーが国内政治の腐敗を無くそうと動いている。」
グレンパトニー?聞いたことがあるような?
「すみません、その人は誰でしたっけ?」
「シンオズやタキ君の通っていた魔法学校の講師だ。」
えっと…。
「ああ!グレンさん!…って、あの人学校辞めちゃったんですか?」
「ああ。タキ君とミコーディアミックが辞めた後に辞めた。これは、グレンパトニーが学校方針について疑問を抱いてのことだが、行動を起こすきっかけは何だと思うかね?」
「きっかけ…ですか?ちょっと思い浮かばないですけど…。」
「彼は、タキ君がある友人の退学について取り消しの直談判をしたことに心を打たれ、学校を疑い、その結果国の腐敗を知り、腐敗した国を1度壊して綺麗に掃除をしてから再建しようとしている。つまり、元を正せば、シンオズがリズィカリフとえっちしたことが原因だな。」
おうふ。なんてこった。
下らない理由だけど、俺のせいと言える訳か。
「あの、それは本当ですか?確かにロクラーン情勢についてはこちらの城でも噂にはなってましたが。」
メラマさんが確認する。
「ああ。まぁ今すぐって訳でも無いだろうが、その内ロクラーンは燃えるだろう。」
そんな…。
「チウンさん?俺、短い間でしたけど、グレンさんには世話になったし、友達も居るんです。ブルゼットちゃんだって困るでしょう。何か、何か俺に出来ることは無いですか?」
「無いよ。」
「え?」
「だから、無いよ。シンオズが行っても止められる訳じゃ無いし、グレンパトニーの掃除も、決して綺麗なやり方とは限らない。そんなところにシンオズが行っても、邪魔になるだけだ。」
「そ、そんな…。」
「もし、どうしてもと言うなら…。」
「何かあるんですか!?」
「祈れ。心から祈れば、もしかしたら意地の悪い天使が何とかしてくれるかも知れんな。」
…そういうことなのか?
まぁでも、確かにタキの母ちゃんに任せるのが1番良い気がする。天使とか魔法を抜きにしてもお金は持ってるみたいだし…あ。
「もしかしてですけど、例えばタキが姉ちゃんとえっちしちゃった場合は?」
「勿論、一気に崩壊へと進む。」
「てことは、何としても博士とえっちして貰わないと困る訳ですね?」
「オリアとして貰わないと私が困る。」
「えぇっ!?今はそういう流れじゃないでしょう!?」
「…とはいえ、もはやほぼ間違い無くザラ様の勝ちとなる流れだ。私はまたザラ様に借金することになるんだ…。」
また?
「チウンさん、他にも借金してるんですか?」
「ああ。もう何億か何十億か解らんがね。」
この人何言ってんの?
「それ、返せるんですか?」
「無理だよ。返す気も無いし。」
この人何言ってんの?
「返さなくても良いんですか?」
「返さなければ、繋がりが消える事は無いだろう?ザラ様の場合多少扱いが酷くなるが、その程度で済むなら安いものだ。」
もう、愛というより信仰みたいだ。
「私に限らず、魔族は皆そう思っている。本当は王にでもなって貰いたいのだが、誰が頼んでも断られてしまう。平等でなければならないという話だからな。」
「それは、ザラさんが魔族になった時の話ですか?」
「ああ、そうだ。大分話が逸れてしまったから戻そうか…と、その前に、タキ君をちゃんとしたところに寝かせよう。」
「タキ?ベッドあるんですか?」
「ああ。そっちの部屋のベッドに寝かせてやってくれ。」
今度はメラマさんも手伝ってくれた。2人でタキを持ち上げて、チウンさんに言われた部屋を開けると、やたら広い部屋があって、やたら大きなベッドがあった。部屋の作りはチウンさんの家っぽくなくて、普通のフリジールっぽい。
…タキが起きたら、さっさと博士とやっちまえって言おう。
「そういえば、メラマさんは博士の幼馴染みなんですよね?タキと博士が、っていうのは気まずくないですか?」
「うーん、俺はそうでも無いかな?俺はカミさんも幼馴染みだからかな?どっちかというと、良かったなって感じ?」
「へぇ…なんか、メラマさんの話もちょっと気になりますね。今度聞かせて貰っても良いですか?」
「こないだその話でミコに怒られたばかりなんだがなぁ…。」
「いよいよ面白そうですね!お酒でも飲みながら聞かせて下さいよ。」
「うーん…よし、良いだろう。その時はタキ君も誘おうよ。話したくなる話が沢山出来たし、聞きたいこともまだまだあるしね。」
「そうですね!」
…。
そうですねは良いけど、そういえば俺、タキにちゃんとお礼言わなきゃ。
あいつが起きたらまずお礼を言って、それから博士とえっちしろって言おう。
その後に飲めば、綺麗なケーキの感想も聞けるし、しばらく酒の肴に困ることは無いな。
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