きみに××××したい

まつも☆きらら

文字の大きさ
上 下
2 / 12

第2話

しおりを挟む
「お前、本当に覚えたの?」
「覚えた覚えた!帰ってから作ってみるからさ、凜ちゃん見ててよ!」
「え~、また材料買わなくちゃならないじゃん」


料理教室が入っているビルの1階で、喉が渇いた俺は缶コーヒーを自販機で買って飲んでいた。
テーブルと椅子が並び、ちょっとしたロビーのような作りになっているその場所の横を、エレベーターから降りてきた美作先生と鈴木先生が通り過ぎていく。

椅子に座っていた俺に、2人は気付かずに入口へと向かっていた。

「いいじゃん、今日は夕飯も俺作るからさ」
「ほんと?今日は俺が作る日だけど・・・・」
「いいのいいの!凜ちゃんには水ようかん作るの手伝ってもらうから!」
「なんだよ、結局手伝うのかよ―――」

2人が自動扉の向こうへ消え扉が閉まると、声も聞こえなくなった。
俺は、2人の会話に呆然としていた。

―――あれって・・・・あれって、一緒に住んでるってこと・・・・?

そうとしか考えられなかった。
仲のいい友達同士。
ルームシェアしていたとしたって、別に不思議じゃない。
だけど・・・・
鈴木浩也は、美作先生の肩を抱いて歩いていた。
それはまるで、恋人同士が肩を組んで歩いているようにも見えて・・・・
胸が、もやもやした。
もしかして、2人は付き合ってるんじゃないかって・・・・
そんな不安が俺の中に渦巻いていた・・・・。



「・・・暗いっすね、優斗さん」

テレビ局の食堂で黙々とラーメンを食べていたら、いつの間にか亨が前の席に座り俺を見ていた。

「・・・るさい」
「うわ、ひでえ。なに、失恋でもしました?」
「・・・してねえし」

てか、まだ何も始まってなかったんだ。
ちょっと、気になっていただけ。
だから別に―――

「・・・ラーメン、終わってますけど」
「あ」
「・・・重症ですね。飲みにでも行きます?」
「行かない」
「即答かよ!―――あ、大樹さん」

亨の声に顔を上げると、大樹くんがこちらへラーメンの乗ったトレイを持って歩いて来るところだった。

「お疲れ。2人一緒だったの?」
「いや、偶然です。優斗さん、失恋したらしいっすよ」
「え、マジで?」
「亨!余計なこと言うなよ!」
「で、落ち込んでるから慰めてあげようと思ったのに、人の誘い断るんですよ」
「ふはは。あ、俺今日友達と飲む約束してるんだけど、優斗も来る?」
「え・・・・」

俺は驚いて亨と顔を見合わせた。
俺たちの付き合いもかれこれ10年。
気心の知れた仲間と言えないこともないけれど、実はそれほどプライベートの付き合いはない。
大樹くんは特にあまり芸能人とは付き合わない主義らしく、飲みに行くのはもっぱら学生時代の友達とだと言っていた。
だから俺も亨も大樹くんと飲みに行ったことはない。
その大樹くんから誘ってくるなんて・・・・

「え、どうしたの?大樹さん。珍しいね」

亨の言葉に、大樹くんが苦笑する。

「なんだよ、俺だって同僚の心配くらいするわ。今日会うのは中学時代の後輩2人なんだけどさ、気の置けないやつらだから俺が芸能人の友達連れて行っても気にしないと思うし」
「へえ・・・優斗さん、せっかく大樹さんが誘ってくれてるんだから行ってみれば?」
「え、亨は行かねえの?」
「わたし、今日は大事な約束がありますんで」
「・・・・またオンラインゲーム?」

大樹くんの言葉ににやりと笑う亨。

「そういうことです。じゃ、優斗さん、元気出してね。俺、この後取材なんで」

そう言ってさっさと席を立って行ってしまう亨。

「―――あいつ、いつの間にカレー食ってたんだ」

そんなことにも気付かないなんて、俺、そんなにぼんやりしてたんだろうか。

「で、どうする?優斗。来る?」
「あー・・・・そうだね。行こうかな・・・・」
「ん。じゃあ、あとで店の場所メールするよ」
「わかった。―――あ、やべえ、もう時間だ」

食堂の時計を見上げ、俺は慌てて立ち上がった。
今日は午後からスタジオで撮影の予定だった。
遅れたらマネージャーに怒られる!
軽く手を振る大樹くんに手を振り返し、俺は食堂を後にしたのだった・・・・・。




「ここかぁ・・・・なんかおしゃれな店だなぁ」

大樹くんからのメールを頼りについた店はおしゃれな居酒屋で、中に入るとすぐに店員が大樹くんの待つ個室へと案内してくれた。

「どうぞ」
「あ、どうも」

開けられた扉から中へ入る。
すぐに大樹くんが気付いて立ち上がる。
その向かい側に座っていたのは―――

「え―――」
「あ、本当に板野さんだ!」

そこにいたのは、鈴木浩也と―――

「お疲れ様です、板野さん」

にっこり笑って俺を見たのは、美作凜だった・・・・・。
しおりを挟む

処理中です...