きみに××××したい

まつも☆きらら

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第5話

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凜の唇は柔らかくって、微かに甘く感じた・・・・・




「優斗さん、気持ち悪いっす」

いつの間にか食堂で俺の前に座っていた亨が、冷めた目で俺を見ていた。

「何かいいことあったんすね」
「・・・うるさいよ、お前」

俺は慌てて目の前のラーメンをすすった。

―――伸びてやがる。

「・・・失恋したんじゃなかったですっけ?」
「してねえわ!」
「あれ?そうなの?」
「盛り上がってるね」

亨の隣に、大樹くんが座った。

「あれ、大樹さんコーヒーだけ?」
「さっき弁当もらって食ったばっかりなんだよ。今日はもうこれで終わりなんだけど、2人がいるかなと思ってさ」
「あれ、そういえば昨日、2人一緒だったんですよね?大樹さんの友達と」
「うん。中学時代の後輩なんだけど・・・・優斗とも、知り合いでさ」
「え、そうなの?」

亨が驚いて俺を見た。

「・・・・料理教室の先生・・・だった」
「ええ!?本当に!?それすごい偶然じゃない。大樹さん、それ知ってたの?」
「うん、俺はその・・・鈴木浩也と美作凜っていうんだけど、浩也から話聞いてて。優斗を驚かせようかなと思ってさ」
「驚いたよ、マジで。でもさ、後輩ってことは年が違うんでしょ?部活か何かで一緒だったの?あの2人と」
「ああ・・・・いや、ちょっと違うんだけど」

そう言って、大樹くんは昔を懐かしむようにちょっと笑った。

「俺、生徒会で会長やってたんだけどさ。体育祭の時に選手宣誓やらされて・・・・自分のクラスに戻ろうとして1年の生徒の列の横を通った時にあいつ―――凜が倒れて」
「倒れた?」
「そう。熱中症で。で、咄嗟に俺があいつを抱き抱えて保険室まで連れてったの」
「かっこいいねえ、さすが大樹さん」

亨が感心したように言う。
たしかにかっこいい。
抱きかかえてっていうのが、ちょっと悔しいけど。

「うちの中学って、体育着は男女共通のデザインなんだけど、あいつの中学の時ってちっちゃくて女の子みたいに華奢で色白でさ。最初完全に女の子だと思ったんだよ」
「へ~、そんなに可愛かったんだ?今は?」

亨が俺を見た。

「・・・今でも可愛いよ。てか、すごい美人」
「マジで?見てみたいなあ、俺も」
「・・・・お前、うるさそうだからいやだ」
「え、あんた友達にそういうこと言う?」
「ふはは。でさ、そのまま保健室でちょっと付き添ってたの。保険の先生が外にいて、救急箱を持って行ってたから先に行って待っててくれって言われてさ。で、ベッドに寝てる凜の顔、なんとなくじっと見てて・・・・すげえ睫毛なげえなとか、色白だから、日に焼けたら大変そうだなとか・・・・・きれいな顔してんなあって・・・・」
「え・・・・大樹さんまさか、保健室でその子のこと・・・・・?」

ウソだろ?
胸の中がもやもやして、気分が悪くなってくる。
俺が黙っていると、大樹くんはちらりと俺を見てからふっと笑った。

「まさか。先生がすぐ来るってわかってて、変なこと出来ねえって。でも、すぐにそこに来たのは先生じゃなくて、浩也だった。息切らして、『凜ちゃん!大丈夫!?』って駆け込んで来て、俺の存在なんか無視して凜の傍に―――あ、こいつら付き合ってんのかなって思ってさ。その時俺、一瞬ショックだったの」
「女の子だと思ってたからね。で、その誤解はすぐに解けたの?」
「ああ。浩也のバカでかい声で凜が起きて、『声でけえよ、バカ』って言ったの。その声は高かったんだけど、言い方で・・・あ、男なんだって」
「わかったんだ」
「一瞬で失恋」
「失恋って言うの、それ」
「失恋でしょ!本当に超可愛かったんだから!」

2人は楽しそうに笑ってたけど。
俺は全然笑えない。
大樹くんが、本当は凜のことが好きだったって・・・・
あの時、部屋で2人で話してた場面がよみがえる。
俺が声をかけなかったら、大樹くんはどうしてた?

「それで仲良くなったの?今でも付き合いあるってすごいね」
「まぁ・・・・会うのは久しぶりだったけど。2人とも外見は大人っぽくなってたけど中身は昔のまんまで、懐かしかったな」

目を細めて笑う大樹くん。

「今度飲みに行くときは亨も誘うから、会ってみたら」
「いいの?じゃあ今度は行くよ。俺もそんな美人なら会ってみたいし」

いつもめんどくさがる亨が、妙に乗り気でまた俺の胸がざわざわする。

「優斗さん、また顔が不機嫌になってますけど」
「うるさい」
「ひどっ」






「凜ちゃん、このネックレス凜ちゃんの?」
「え?」

ソファーの背もたれのところに挟まってたシルバーのネックレスは羽根の形のモチーフがついたシンプルでカッコいいデザインのものだった。

「あ、それ・・・・大樹くんのじゃないかな。昨日、してなかった?」
「大ちゃん?そっか。じゃあどうしようこれ?」
「・・・・渡しとく?」
「え?大ちゃんと会う約束あるの?凜ちゃん」

俺は驚いて凜ちゃんを見る。
昨日、一緒に飲んでた時にそんな話はしてなかった気がしたけど。
と言っても途中から記憶ないけど。
でも、大ちゃんと会うってなった時から気をつけてはいたから・・・・

「してないけど・・・さっき、ライン来てたの。今度また一緒に飲もうって。桜木さん連れてくからって」
「え、桜木亨?なんで?」
「話したら、今度一緒に行きたいって言ってたって」
「へぇ・・・・まぁいいけど。じゃ、2人で会うとかじゃないんだ?」
「え?うん。あ、一応またラインしとくよ、そのネックレスのこと」
「うん」

凜ちゃんがスマホを操作しながらソファーに座る。
俺はそんな凜ちゃんに気付かれないように小さく溜息をついて、キッチンへ飲み物を取りに行った。

久しぶりに会った大ちゃんは本当にかっこよくなっていて、芸能人のオーラもありすごく輝いていた。
だから心配だった。
大ちゃんが凜ちゃんを傷つけるんじゃないかって。
大ちゃんはかっこよくて優しくて、とても頼りになる先輩だった。
俺も大好きだし、凜ちゃんも尊敬してた。
だけど・・・・
大ちゃんの凜ちゃんを見る目に、違和感を感じてた。
2人きりにしちゃいけないんじゃないかって思ってた。
凜ちゃんは昔からどこか危なっかしくて・・・
放っておけなくて俺はいつも凜ちゃんの傍にいた。
それは今も変わらない。
その俺の、勘。
大ちゃんは、凜ちゃんにとって危険だって。

「・・・・浩也ぁ」
「ん?」

ペットボトルを持って戻った俺に、凜ちゃんが話しかける。

「明日・・・・ちょっと、帰り遅くなっても・・・いい?」
「え、いいけど・・・・何?友達となんか約束?」

俺たちは一緒に住んではいるけれど、お互いそれぞれの友達と飲みに行ったりすることも多いし、そんなときは必ずその相手の名前を言うという約束をしていた。
今まで凜ちゃんも俺もそれを隠したことなんてないけど。
だけどこんなふうに、遠慮がちに俺に了解を求めるような言い方、したことなかったのに。
まさか・・・・

「・・・大ちゃんと会うの?」
「え?ううん、ちがうよ。あ、あのネックレスはやっぱり大樹くんのだって。今度会う時に持って来てくれればいいって言ってた」
「あ、そう。え?じゃ、誰?」
「・・・・・・優斗」
「優斗くん?」

見ると、凜ちゃんの頬は微かに赤く染まり、恥ずかしそうに両手で口を押さえていた。

「明日、教室のあと・・・・一緒にご飯行こうって」
「優斗くんが?」
「うん」
「・・・2人で?」
「うん」

マジ?
急展開過ぎて思考がついて行かないんだけど。
2人でごはん。
別にいいけど。
てか、なんで凜ちゃんはこんなに顔真っ赤にしてるの?
まさか・・・・・

想像もしていなかったことに、俺の頭は軽くパニックを起こしていた・・・・。
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