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第10話
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店の奥のロッカーなどが置かれた小部屋に入ると、圭ちゃんとさっくんが向かい合って話をしていた。
「あ、タク、ごめんね」
さっくんが俺を見て笑みを浮かべる。
「ううん、いいけど。何?」
「うん、あのさ、柊真がそろそろ来るはずなんだけど―――」
「真田さんなら、さっき来たよ」
俺の言葉に、さっくんが目を見開く。
「え、来たの?」
「うん」
「なんだ。ならいいんだ。駅について、店がわからなかったらメールくれって言っておいたんだけど、メール来ないからさ、もしまだ来てなかったらタクに迎えに行ってもらおうと思ったんだけど」
「―――柊真って、さっき咲也が言ってたお姉さんの彼氏だったって人?」
圭ちゃんがさりげなくそう聞いた。
25歳の圭ちゃんはこのカフェの店長で、爽やかなイケメン。
さっくんが高校生の時この店でアルバイトを始めたんだけど、その時大学生だった圭ちゃんは父親が経営するこのカフェでアルバイトしていて、大学を卒業してからは店長として働いていた。
頭が良くて明るくて、圭ちゃん目当ての客も多いけど―――
その圭ちゃんの想い人は、今目の前にいた。
「うん。後で圭くんにも紹介するよ」
無邪気にそう言って笑うさっくんとは対照的に、圭ちゃんはむっとしている。
ちらりと俺を見るその目は、『なんでそいつがここに来るんだよ?』と聞いているけど、そんなの、俺が聞きたいよ。
最初は真田のことを『変なやつ』と言っていたさっくん。
だけど、あの指輪の1件があってから、すっかりさっくんは真田に心を許していた。
一度心を許すと、とことんその人になつく傾向があるさっくん。
人見知りの激しい性格のため、その差は歴然としていて、見ていてもわかりやすかった。
高校生の、今より華奢で女の子みたいだったさっくんになつかれた当時大学生だった圭ちゃんは、それこそさっくんをめちゃくちゃ可愛がっていて、スペインに留学するという話を聞いた時も、すごく心配して最後まで反対していたくらいだ。
「じゃ、圭くん、俺明日からでいいの?」
さっくんの言葉に、圭ちゃんは手に持っていたシフト表を見た。
「うん。美香が7月いっぱいまではいるから、7月いっぱいは美香が休みの日と、幹雄が休みの日に入ってくれればいいよ。それ以外の日もきてもいいけど。8月からは、ちょっと多めに入ってもらうかも」
美香というのは圭ちゃんの妹で、今大学4年生だった。
ずっとこの店でバイトをしていて、主に調理を担当していたのだが、就職活動のため、バイトは7月いっぱいまでで辞めるらしく、その後をさっくんが引き継ぐことになるらしい。
「了解。大丈夫、今特に予定ないから」
さっくんはそう言って笑うと、圭ちゃんにシフト表のコピーをもらい、部屋を出て行った。
俺もその後に続こうとすると―――
「タク、ちょっと」
圭ちゃんに、引き止められる。
すごく、嫌な予感がする。
予想通り、圭ちゃんはもろに不機嫌そうな顔をして、俺をじっと睨みつけた。
「・・・・・なんすか」
「なんで、咲也は真田ってやつのこと、柊真って呼ぶの」
「本人が、それでいいって言ったみたいですよ。だから、さっくんくんも咲也って呼べって」
「・・・・・お姉さんの、恋人だったんだよな?」
「そう聞いてますよ」
「咲也とは・・・・・関係ないんだよな?」
「だと思いますけど」
「じゃ、何でこの店にまでくんの?」
俺は、小さく溜息をついた。
―――知るかよ!!
って、怒鳴ってやりたいところだけど・・・・・
怒らせると怖いからな、圭ちゃんは。
「お姉さんが、さっくんのことを心配してたから、様子見に・・・・てことみたいですけど」
「・・・・・まさか、咲也がバイトしてる間中、ずっといるってことないよな?」
「まさか。それはないでしょ。そこまでするやつ―――」
「お前くらいだよな」
―――はいはいそうですよ。
だって、心配じゃん。
さっくんはああ見えて無防備だから。
この店でバイトを始めてから、さっくん目当ての客が増えたって前に圭ちゃんが言ってた。
それが、女の子ばっかりじゃなくって男の客も増えたって。
そうなんだ。
さっくんは、男にももてるんだ。
高校生の時も、一体何人の男に告白されたんだかって言うくらい。
でもさっくんは、自分にそんな魅力があると思ってないから、相手が男だとすぐに油断して隙を見せる。
それが危なっかしくって、俺はいつも気が気じゃない。
それこそ、高校生の時はオオカミの群れの中に羊が1匹いるような状態で、俺は常に目を光らせてなきゃいけなかった。
もちろん外でも同じだ。
さっくんはどこにいても目立つから・・・・・まあこの店にいるときは幹ちゃんや圭ちゃんが目を光らせてるけど。
それでも、たまに変な客に絡まれたりすることがあるから、安心できない。
そういえば・・・・・
「圭ちゃん、あの男は、まだ来てるの?」
「あの男?」
「中・・・・・中原?中嶋?」
「ああ・・・・・中崎だろ?いや、最近は来てないよ。咲也が辞めてからはほとんど来なくなった」
俺はホッとした。
中崎というのは、さっくんのことを『モデルにならないか』としつこく誘っていたこの店の客だ。
どこだかの芸能事務所の社長だなんて言ってたけど、怪しいもんだ。
いつもいやらしい目で舐めまわすようにさっくんを見てた。
思い出しただけでも胸がむかむかしてくる。
「中崎が、もしまた来ても俺らでちゃんとガードするから」
圭ちゃんの言葉に俺は頷き、部屋を出た。
奥の席には真田とさっくんが座っていて、楽しそうに喋っていた。
それを見た圭ちゃんが、むっと顔を顰める。
「咲ちゃんが、コーヒーお代わりだって。―――ねえ、タク」
幹ちゃんが、カウンターの中に入ってくる。
「ん?」
「咲ちゃんさ、顔色悪くない?」
「ああ・・・・・まだ、お葬式終わったばっかりだし。帰国してからちゃんと休んでないからね」
俺も、それは気になってた。
帰国してすぐにお通夜、葬式。
そして休む間もなくアルバイトを始めると言い出したさっくん。
何かしていないと落ち着かないという。
そんなさっくんの気持ちはわからなくもないけれど・・・・・
もともと体が丈夫な方ではないから、心配だった。
昨日だって、熱を出していたのだし。
やっぱり、さっくんの傍にいてちゃんと見てないと。
何かあった時に、自分がさっくんの傍についていたかった・・・・・。
「あ、タク、ごめんね」
さっくんが俺を見て笑みを浮かべる。
「ううん、いいけど。何?」
「うん、あのさ、柊真がそろそろ来るはずなんだけど―――」
「真田さんなら、さっき来たよ」
俺の言葉に、さっくんが目を見開く。
「え、来たの?」
「うん」
「なんだ。ならいいんだ。駅について、店がわからなかったらメールくれって言っておいたんだけど、メール来ないからさ、もしまだ来てなかったらタクに迎えに行ってもらおうと思ったんだけど」
「―――柊真って、さっき咲也が言ってたお姉さんの彼氏だったって人?」
圭ちゃんがさりげなくそう聞いた。
25歳の圭ちゃんはこのカフェの店長で、爽やかなイケメン。
さっくんが高校生の時この店でアルバイトを始めたんだけど、その時大学生だった圭ちゃんは父親が経営するこのカフェでアルバイトしていて、大学を卒業してからは店長として働いていた。
頭が良くて明るくて、圭ちゃん目当ての客も多いけど―――
その圭ちゃんの想い人は、今目の前にいた。
「うん。後で圭くんにも紹介するよ」
無邪気にそう言って笑うさっくんとは対照的に、圭ちゃんはむっとしている。
ちらりと俺を見るその目は、『なんでそいつがここに来るんだよ?』と聞いているけど、そんなの、俺が聞きたいよ。
最初は真田のことを『変なやつ』と言っていたさっくん。
だけど、あの指輪の1件があってから、すっかりさっくんは真田に心を許していた。
一度心を許すと、とことんその人になつく傾向があるさっくん。
人見知りの激しい性格のため、その差は歴然としていて、見ていてもわかりやすかった。
高校生の、今より華奢で女の子みたいだったさっくんになつかれた当時大学生だった圭ちゃんは、それこそさっくんをめちゃくちゃ可愛がっていて、スペインに留学するという話を聞いた時も、すごく心配して最後まで反対していたくらいだ。
「じゃ、圭くん、俺明日からでいいの?」
さっくんの言葉に、圭ちゃんは手に持っていたシフト表を見た。
「うん。美香が7月いっぱいまではいるから、7月いっぱいは美香が休みの日と、幹雄が休みの日に入ってくれればいいよ。それ以外の日もきてもいいけど。8月からは、ちょっと多めに入ってもらうかも」
美香というのは圭ちゃんの妹で、今大学4年生だった。
ずっとこの店でバイトをしていて、主に調理を担当していたのだが、就職活動のため、バイトは7月いっぱいまでで辞めるらしく、その後をさっくんが引き継ぐことになるらしい。
「了解。大丈夫、今特に予定ないから」
さっくんはそう言って笑うと、圭ちゃんにシフト表のコピーをもらい、部屋を出て行った。
俺もその後に続こうとすると―――
「タク、ちょっと」
圭ちゃんに、引き止められる。
すごく、嫌な予感がする。
予想通り、圭ちゃんはもろに不機嫌そうな顔をして、俺をじっと睨みつけた。
「・・・・・なんすか」
「なんで、咲也は真田ってやつのこと、柊真って呼ぶの」
「本人が、それでいいって言ったみたいですよ。だから、さっくんくんも咲也って呼べって」
「・・・・・お姉さんの、恋人だったんだよな?」
「そう聞いてますよ」
「咲也とは・・・・・関係ないんだよな?」
「だと思いますけど」
「じゃ、何でこの店にまでくんの?」
俺は、小さく溜息をついた。
―――知るかよ!!
って、怒鳴ってやりたいところだけど・・・・・
怒らせると怖いからな、圭ちゃんは。
「お姉さんが、さっくんのことを心配してたから、様子見に・・・・てことみたいですけど」
「・・・・・まさか、咲也がバイトしてる間中、ずっといるってことないよな?」
「まさか。それはないでしょ。そこまでするやつ―――」
「お前くらいだよな」
―――はいはいそうですよ。
だって、心配じゃん。
さっくんはああ見えて無防備だから。
この店でバイトを始めてから、さっくん目当ての客が増えたって前に圭ちゃんが言ってた。
それが、女の子ばっかりじゃなくって男の客も増えたって。
そうなんだ。
さっくんは、男にももてるんだ。
高校生の時も、一体何人の男に告白されたんだかって言うくらい。
でもさっくんは、自分にそんな魅力があると思ってないから、相手が男だとすぐに油断して隙を見せる。
それが危なっかしくって、俺はいつも気が気じゃない。
それこそ、高校生の時はオオカミの群れの中に羊が1匹いるような状態で、俺は常に目を光らせてなきゃいけなかった。
もちろん外でも同じだ。
さっくんはどこにいても目立つから・・・・・まあこの店にいるときは幹ちゃんや圭ちゃんが目を光らせてるけど。
それでも、たまに変な客に絡まれたりすることがあるから、安心できない。
そういえば・・・・・
「圭ちゃん、あの男は、まだ来てるの?」
「あの男?」
「中・・・・・中原?中嶋?」
「ああ・・・・・中崎だろ?いや、最近は来てないよ。咲也が辞めてからはほとんど来なくなった」
俺はホッとした。
中崎というのは、さっくんのことを『モデルにならないか』としつこく誘っていたこの店の客だ。
どこだかの芸能事務所の社長だなんて言ってたけど、怪しいもんだ。
いつもいやらしい目で舐めまわすようにさっくんを見てた。
思い出しただけでも胸がむかむかしてくる。
「中崎が、もしまた来ても俺らでちゃんとガードするから」
圭ちゃんの言葉に俺は頷き、部屋を出た。
奥の席には真田とさっくんが座っていて、楽しそうに喋っていた。
それを見た圭ちゃんが、むっと顔を顰める。
「咲ちゃんが、コーヒーお代わりだって。―――ねえ、タク」
幹ちゃんが、カウンターの中に入ってくる。
「ん?」
「咲ちゃんさ、顔色悪くない?」
「ああ・・・・・まだ、お葬式終わったばっかりだし。帰国してからちゃんと休んでないからね」
俺も、それは気になってた。
帰国してすぐにお通夜、葬式。
そして休む間もなくアルバイトを始めると言い出したさっくん。
何かしていないと落ち着かないという。
そんなさっくんの気持ちはわからなくもないけれど・・・・・
もともと体が丈夫な方ではないから、心配だった。
昨日だって、熱を出していたのだし。
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何かあった時に、自分がさっくんの傍についていたかった・・・・・。
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