恋人が乗り移った君に恋をした

まつも☆きらら

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第9話

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「―――ってぇ・・・・・」

顔をしかめながら腰を擦る咲也に、手を差し出す。

「大丈夫?驚かせてごめん」

「―――いいよ。どうせ、なっちゃんでしょ?」

その言葉に、俺は驚いて咲也の顔を見た。

「え―――俺の話・・・・・信じないんじゃなかったの?」

俺の言葉に、咲也は肩をすくめた。

「―――実際見ちまったら、信じるしかないじゃん」

「え!?見たって、どこで?」

「鏡」

「鏡・・・・・?」

「洗面所で、鏡を見た時に―――鏡の中の俺が、なっちゃんの声で話しかけてきた」

「あ―――なるほど」

いや、でもびっくりしただろうなあ。

鏡の中の自分が、いきなり夏美の声で話し出したら・・・・

「・・・・なっちゃん、なんて言ってた?」

「あ・・・・やっぱり、咲也くんが心配だって。あの、明日行くのって前にアルバイトしてた店だって?」

「うん」

「そこに、俺も行っていいかなぁ」

「え・・・・・」

咲也が訝しげに眉を顰めた。

「夏美が、そこに来る常連客に心配なやつがいるって・・・・・。モデルにならないかって誘われてるって?」

俺の言葉に、咲也はああ、と思い出したように頷いた。

「確かに、変なおっさんがしつこく言って来てたけど・・・・・でも、その店辞めてからもう1年たつし・・・・・もう来てないんじゃないかな」

「それならいいんだけど・・・・またその店でバイトするの?」

「そうしようと思ってるよ。大学からも近いし、店長もいい人だし、働きやすいんだ」

そう言って、咲也が柔らかく笑った。

その笑顔があまりに自然で―――

ドキッとした。

弟なのに、夏美とちっとも似ていないと思っていたのに、ふとした瞬間の表情がやっぱり似ていて。

ソフトなイメージの夏美とは真逆のハードなイメージの咲也。

でも今の笑顔は、すごく柔らかくて・・・・・

咲也の、見えなかった内面を見た気がした・・・・・。

「そういえばさ、あんたは気持ち悪くないの?」

「え・・・・気持ち悪いって、何が?」

「だって、俺の中になっちゃんがいるんだよ?」

「・・・・夏美のこと、気持ち悪いなんて思ったことないけど」

「ちげーよ!俺だってなっちゃんのこと気持ち悪いなんて思ってねえし!」

ちょっとムッとした様子で咲也が俺を睨む。

「じゃなくてさ、その・・・・なっちゃんが俺の中にいるとはいえ、見た目は俺なわけじゃん?」

「うん、そうだね」

「その俺のこと・・・・・抱きしめてるんだよ?それ、平気なの?」

―――ああ、そういう意味か。

ふと、考える。

そういえば、考えたことなかった。

確かに見た目は咲也で、咲也は男なわけだけど。

でも、本当に咲也はきれいで。

それこそ、至近距離で見つめられるとその瞳に吸い込まれそうになる。

それだけでドキドキしたりはするけど・・・・・・

「気持ち悪いと思ったことはないなあ」

と、俺が言うと、咲也は不思議そうに首を傾げて、

「ふーん・・・・・?変わってんね、あんた」

と言ったのだった・・・・・。




翌日、俺は咲也に教えてもらった店に行った。

柔らかいベージュとブラウンを基調とした内装がおしゃれなカフェ。

こじんまりとした店内の奥のテーブルに、小川が座っていた。

入ってきた俺を見るなり、うんざりした表情を見せるのに気付かないふりをして、同じテーブルに座る。

「―――本当に来たんですね」

「うん。咲也は?」

「今、店長と話してます―――けど、何で呼び捨て?」

小川が顔をむっとしかめた。

はは、わかりやすい。

「咲也が、そう呼べって言うから」




それは昨日の帰り際。


玄関で靴を履いていた俺をじっと見ていた咲也が、俺に言った。

『―――あのさ、俺はあんたのことなんて呼べばいい?』

『へ?』

『真田さん?柊真さん?どっちで呼ばれたい?』

『―――えーと・・・・・じゃ、柊真で・・・・・』

『柊真?呼び捨てでいーの?』

『うん』

『わかった。じゃ、俺のことも咲也でいいよ』

『あ、うん』

『じゃあね、柊真。また明日』

『うん、じゃあね、咲也』


なんとなく咲也のペースに乗せられてしまったような形になったが、名前で呼び合うようになったことで、一気に咲也との距離が縮まったような気がして、俺は嬉しかった。

どことなく人を寄せ付けないような雰囲気のある咲也だが、意外と人懐こいところがあるんだなと思った。

「おしゃれな店だね。女の子のお客さんが多いんだ」

窓際の4つのテーブル席は、全て女の子のお客さんで埋まっていた。

他の席も半分は女の子で埋まっていて、どの席もおしゃべりに花が咲いていてにぎやかだった。

「そりゃ、イケメン店長とちゃらいバイトがいるからね」

と、小川が言うと―――

「こら!ちゃらいって言うな!」

という声とともに、小川の頭をぺちんと叩く手が―――

小川の後ろに立っていたのは、茶髪で背の高い、細身の若い男だった。

「久しぶりに顔見せたかと思ったら、早速人の悪口言いやがって」

「いてーな!お前こそ、久しぶりに会った客の頭叩くんじゃねえよ!」

「コーヒー1杯しか頼まねえくせに偉そうにすんなよ!だいたい、咲ちゃんがいなかったら近寄りもしねえじゃねえか」

「あったりまえだろ!コーヒー1杯で800円も取る店なんて、誰が来るか」

「おまえなー」

「あー、うるさいなあ、もう。あ、真田さん、こいつ、園田幹雄そのだみきお。この店でバイトしてるフリーター。幹ちゃん、この人真田さん。咲也くんの姉ちゃんの彼氏だった人」

小川が律儀に紹介してくれる。

「あ、どうも、真田です」

「あ、こんちは。へえ、さくちゃんのねえちゃんの・・・・あ、そういやタク、咲ちゃんが呼んでたけど」

「バカ!それ早く言えよ!」

小川が慌てて席を立つ。

「相変わらず、咲ちゃんには従順なんだよなあ」

「仲いいんだね」

俺の言葉に、園田くんはにっこりと笑った。

「高校が一緒だったんで。咲ちゃんとは、高校生のころから一緒にここでバイトしてたし」

「へえ」

「俺たちさ、男子校だったの。んで、咲ちゃんは俺たちのアイドルみたいな存在でさ、俺も一目惚れだったんだけど、タクのガードがきつくってさぁ。せっかく一緒にバイトするとこまでこぎつけたのに、いっつもあいつに邪魔されんだよなあ」

と、口を尖らせる園田くん。

てか・・・・・あっけらかんと言っちゃうんだなあ。

一目惚れって・・・・・まぁ、相手が咲也ならわからなくもないけど。

「あ、言っとくけど、俺ゲイじゃないよ?今まで好きになったのは女の子ばっかし。でも、咲ちゃんは特別。女の子よりもきれいで、可愛くて、優しいからね」

そう言って、明るく笑う園田くん。

そんな園田くんを見て、俺の胸の奥が、つきんと痛んだ気がした。

なぜだかわからないけれど、俺は、彼がとてもうらやましく思えたのだった・・・・・。

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