恋人が乗り移った君に恋をした

まつも☆きらら

文字の大きさ
12 / 39

第12話

しおりを挟む
喫茶店で働く咲也は、とても楽しそうでキラキラと輝いて見えた。

顔色こそ悪いけれど、いろんなお客さんとの会話を楽しみながら調理もこなし、優雅にコーヒーを入れる姿に店内の客がみんな見惚れるほど様になっていて。

あのガラの悪い中崎という男がモデルにと誘う気持ちもわからないではなかった。

その中崎とも咲也はそつなく会話をし、決していやな顔を見せなかった。

なんだか、咲也を見ているだけであっという間に時間が過ぎていくみたいだった。

見ていて、飽きることがないというのか。

どうしてそんな気持ちになるのかはわからなかった。

咲也の中に、夏美を見ているからなのか、それとも・・・・・


そしてタクもまた、ずっと咲也を見つめいた。

その瞳には、切なさもにじんでいて・・・・・

俺がタクの顔を見ていると、タクが俺の視線に気づいて顔をしかめた。

「なんすか」

「いや、別に。・・・・・ここのバイトって、何時までだっけ」

「ラストまでだよ。12時。あんたは何時までいるつもり?」

12時・・・・そうか。酒も出すんだもんな、この店。

「特に、決めてなかった。タクは?最後までいるの?」

「俺はそのつもりですよ。帰り、さっくん1人じゃ心配だし」

心配って・・・・・咲也も一応男だけど。

でも、何となく心配する気持ちがわかる。

咲也はどこか儚げで、なぜか守ってやらなければと思わせるんだ。

「咲ちゃんは俺が送ってくからいーっつってんのに」

そう言って、俺たちのグラスに水を注いだのは幹雄くんだ。

「あれ、あなた今日いたんですか」

「ひどっ。遅番だから、7時からなの!俺も今日はラストまでだから、咲ちゃんと一緒に上がりだし、ちゃんと送っていくよ」

「そういうあなたが一番危ないから」

「危ないって何!俺は咲ちゃんに変なこととかしないもん!」

「変なことって何」

くすくすと笑いながら、咲也が椅子を一つ持って、俺らのテーブルに着いた。

「さっくん、休憩?」

「うん。幹ちゃん、ありがと」

咲也の前にパスタの皿とコーヒーを置く幹雄くん。

「いえいえ、ごゆっくり」

幹雄くんも笑顔を向け、それからまた他の客のところへ行った。

「いきなりラストまでなんて大丈夫なの?疲れない?」

俺の言葉に、咲也は笑みを浮かべた。

「大丈夫だよ。これでも体力ある方だし。仕事してた方が時間も早く過ぎるし、返って楽なんだよ」

「でも・・・・・」

「2人は?これからどうすんの?」

咲也の言葉に、俺とタクは顔を見合わせた。

「―――さっくん、俺とこの人、別に一緒に来てるわけじゃないからね」

タクの言葉に、咲也は笑った。

「わかってるよ。けどなんか、仲よさそうに見えるからさ」

「どこが?話なんてほとんどしてないのに」

ちょっと憮然とした態度でタクが言う。

「でもなんか、見ててしっくりくるって言うか・・・・相性、よさそうだよ?」

「「いや、よくはないから!」」

思わずはもったタクと俺を見て、噴き出す咲也。

無邪気な笑顔が可愛くて、胸が高鳴った。

なんだろうな。

胸が苦しい。

ずっと見てたいのに、見てると苦しくなる。

視線がそらせないのに、そらさなくちゃいけないと思う。

―――夏美・・・・・

俺は、どうしたらいい・・・・・?





『―――咲也』

その夜、結局タクと柊真は店が終わるまで残ってて、俺たちは幹ちゃんも含め4人で帰ることになった。

そして俺の家の前で別れて、今風呂に入ろうと洗面所の鏡の前に立ったところだった。

「なっちゃん・・・・」

鏡の中の俺が、なっちゃんの声で話しかける。

顔は俺なのに、表情と声がなっちゃんで、混乱しそうになる。

『バイト、がんばってるね。でも、あんまり無理しないでね』

「無理なんてしてないよ。これからは俺1人で暮らしてかなきゃいけないんだからさ、バイトくらいちゃんとやらなくちゃ」

俺の言葉に、なっちゃんの顔が曇る。

「あ・・・・ごめん。なっちゃんのこと、責めてるんじゃないよ?」

『わかってる・・・・・咲也、でもわたしの保険金もその内下りると思うし、やっぱり無理はしないで』

なっちゃんは、俺の知らない間に俺を受取人にして生命保険に入っていた。

俺のために・・・・・

「・・・・無理はしてないってば。バイト、楽しいんだ。圭くんと幹ちゃんもいるし。あー、今日はタクと柊真も来たよ」

『うん。知ってる・・・・・。柊真には、わたしがお願いしたの。咲也のことが心配だから・・・・・』

「大丈夫なのに・・・・・。それより、なっちゃんはいつまで俺の中にいるの?俺が、なっちゃんをひきとめてるの?」

俺のことが心配だというなっちゃん。

その心配がなくなるまで、なっちゃんは成仏できないんだろうか?

それで、大丈夫なんだろうか?

死後の世界のことなんてよくわからないけど・・・・・

『咲也のせいじゃないの。わたしが、勝手に心配してるだけ。昔から、咲也のことずっと心配してたから、くせになってるのね』

そう言って笑うなっちゃん。

でもその笑顔は、どこか寂しげだった。

「なっちゃん・・・・・?」

『ねえ、咲也・・・・。今度、柊真をここへ呼んでくれる?』

「え?ここって、この家ってこと?」

『そう。やっぱり外じゃなかなか柊真と話ができないから・・・・・ここなら、落ち着いて話せるでしょ?』


―――ああ、そうか・・・・・・

なっちゃんは、柊真と話がしたいんだ。

恋人だった柊真と・・・・・

だから、俺の中に・・・・・

『ときどきで、いいの・・・・・』

「・・・・・わかった。ここに来てもらうよ」

俺の言葉に、なっちゃんは嬉しそうに微笑んだのだった・・・・・。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 2025.4.28 ムーンライトノベルに投稿しました。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―

なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。 ――はずだった。 目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。 時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。 愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。 これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。 「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、 年上αの騎士と本物の愛を掴みます。 全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

愛などもう求めない

一寸光陰
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...