恋人が乗り移った君に恋をした

まつも☆きらら

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第18話

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「咲ちゃん!あぶない!」

カウンターの中に入ってきた咲ちゃんがちょっとした段差につまずき、転びそうになったところを俺は咄嗟に腕を伸ばして支えた。

「あ・・・・ごめん、幹ちゃん」

咲ちゃんが我に返ったように目を見開く。

「いいけど・・・・大丈夫?ここんとこずっと顔色悪いよ?具合、悪いんじゃないの?」

そう。

ここ1週間くらい、咲ちゃんはずっと元気がなくて。

あの、真田さんが来なくなってからずっと・・・・

「あのさ、今日は俺もいるし、雨が降ってて店も暇そうだし、咲ちゃん帰ってもいいよ?」

「でも、今日は圭くんもいなくて、俺まで抜けたら美香ちゃんと幹ちゃんだけになっちゃうじゃん。2人だけじゃ―――」

「大丈夫だよ。咲ちゃんがいない頃には、そんな時もあったしさ。今日みたいに暇な日だったら、2人でも充分回せるから」

ただ、咲ちゃんを1人で帰すのは心配だった。

外は雨が降ってる。

そんなに強くはないけど―――

こんな日に限って、タクは親戚の法事があるからと、今日はまだ来ていなかった。

閉店までには来るって言ってたけど、咲ちゃんはそれまで持ちそうにない気がした。

顔は真っ青で、今にもぶっ倒れそうだ。

だいたい、ちゃんと食べているのかと疑いたくなるほど、この1週間で体も痩せてしまっていた。

「ね、タクに連絡してみようか?ちょっと裏で休んでてさ、タクが来たら送ってもらえば―――」

俺の言葉に、咲ちゃんは首を横に振った。

「いいよ、タクだって忙しいんだし。俺は、1人でも帰れるから」

「でも・・・・」

「ありがと、幹ちゃん。逆に心配かけちゃいそうだし、俺、もう上がるよ。今度、必ず埋め合わせはするからね」

そう言って、咲ちゃんは弱々しく微笑んだ。

「そんなの、いいけど・・・・・じゃあ、本当に気をつけて帰ってね?何かあったら連絡してよ?俺でも、圭ちゃんでも、タクでも・・・・・真田さんでも」

『真田さん』という名前に、咲ちゃんの瞳が一瞬揺れた。

でも、すぐにまた笑顔になって。

「うん、ありがと・・・・」

そう言って、咲ちゃんは裏の部屋へと消えたのだった・・・・・。




「真田先生、なんか今回はいつもの作風と違いますね」

画廊の男が、俺の絵の前に立ち、首を傾げた。

「・・・そうですか?」

「はい。なんか・・・・・いつも細か過ぎて気が遠くなりそうになりますが、今回はなんて言うか・・・・蜃気楼みたいな・・・・・」

「蜃気楼?」

「ええ。見えているのに、はっきり見えないというか・・・・・蜃気楼・・・・幻みたいな・・・・?」

「幻・・・・ですか?」

描いているのは、蜃気楼ではないけれど。

「何か、心境の変化でもありました?恋人と喧嘩したとか」

にやりと笑う男に、俺は目をそらした。

「別に、何も・・・・・」

「そうですか?まあ、何はともあれ、いい作品が出来上がるのを楽しみにしてますよ。じゃ、今日はこの辺で―――」



喧嘩なんて、そんなものじゃない。

だいたい、咲也は恋人なんかじゃない。

俺は1人部屋に残り、絵をじっと見つめ、溜息をついた。

咲也の家から逃げるように帰って来てから1週間。

絵を描くことに集中しようとずっとアトリエにこもっているのに、俺は一向に作業に集中できなかった。

3ヶ月後には個展を開くことになっている。

そろそろ、仕上げにかからなくては間に合わないのに・・・・・・


集中しようと思うと、咲也の顔が頭にチラつく。

それを振り払おうと頭を振ると、今度は夏美の・・・・・いや、咲也の泣き顔が、俺の頭に浮かんで来て、俺を苦しめた。

―――泣くな・・・・・

夏美のために、俺に抱かれてもいいと言った咲也。

それは、夏美のことを想って言った言葉なのに、俺はその言葉を素直に受け止めることができなかった。

『男でも大丈夫』

その咲也の言葉が、俺の胸に突き刺さった。

それは、今までにも男に抱かれたことがあるということなのか。

だとしたら、相手は?

タク?

圭くん?

幹雄くん?

その中の誰でも、俺の知らないやつでも―――

考えただけで、俺は正気じゃいられなくなりそうだった。

俺以外のやつが、咲也に触れるところを想像しただけで―――

叫びだしそうだった。

―――触れるな!!!

―――咲也は、俺の―――!!!

頭を抱え、首を振る。

ダメだ、こんなんじゃ・・・・・



咲也は、どうしているだろう?

自分から背を向けたくせに、たった1週間咲也に会っていないだけで、俺は咲也に会いたくて仕方がなかった。

これ以上かかわっちゃいけないと、わかっているのに―――。

あの中崎という男に、何かされていないだろうか。

カフェでのバイト中は、タクが傍にいるから大丈夫だろう。

帰りも、送ってもらってるはずだ。

俺がいなくたって、あそこには圭くんも幹雄くんもいる。

でも・・・・・・


『カタンッ』


突然絵筆がテーブルから落ち、真っ二つに折れた。

「咲也・・・・?」

胸騒ぎがした。

―――まさか、咲也の身に何か・・・・?

俺は家を飛び出し、あのカフェへ向かった・・・・・・。
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