恋人が乗り移った君に恋をした

まつも☆きらら

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第31話

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「やべえ、もうこんな時間だ」

個展の打ち合わせをして、すぐに帰るつもりだったのに、そのまま食事につきあわされすっかり遅くなってしまった。

店を出たのが8時で、その後も飲みに誘われたがかろうじて断り、今は咲也の家へ向かっているところ。

時間はすでに9時を過ぎていた。

夕方には帰ると咲也に言っていたのに―――

そして、今日はバイトが休みだと言っていたから、きっと1日中タクと一緒にいたはずで。

そのことを考えると、いやでも歩く速度は早まる。




ようやく家につき、リビングに入った俺の目に飛び込んできたのは―――

ソファーに寄りかかって寝るタクと咲也の姿。

タクの腕はしっかりと咲也の肩を抱き、咲也はタクの腕の中で猫のように丸くなり、2人ぴったりと寄り添い眠っていたのだ・・・・・。

リビングの入り口で、固まる俺。

―――なんだ、これ。

俺の手から持っていたバッグが落ち、音をたてた。


「――――ん・・・・?真田さん・・・・?あれ、いつ帰ったんですか?」

「・・・・・今」

「遅かったんですね、夕方ごろってさっくんが言ってたけど・・・・。さっくん、真田さん帰って来たよ」

タクが咲也の肩を優しく揺さぶる。

「んん・・・・、何・・・・・今何時・・・・?」

咲也が目をこすりながら体を起こそうとする。

「え~・・・・9時半・・・・?ずいぶんここで寝ちゃったみたいだね。咲也くん、体痛くない?」

「だいじょぶ・・・・・。柊真、お帰り。ご飯食べてきた?」

「・・・・食ってきた。画廊の人に誘われて―――」

「ふーん・・・・じゃ、タクと俺の分だけ作る」

そう言って立ち上がろうとした咲也の腕を、タクが掴んで抑える。

「俺が作るよ。さっくん、休んでて」

「え、でも・・・・・」

「いいから。チャーハンでいいでしょ?また熱上がっちゃうからさ、ここで座っててよ」

タクの言葉に、俺ははっとする。

動揺していて気付かなかったけど、そういえば顔色があまり良くない。

「咲也、また熱が―――」

「―――ちょっとだけだよ。寝てたから、多分もう下がってる」

「でも無理しちゃダメ。いいから座ってて」

そう言うと、タクはキッチンへと姿を消した。


「・・・座れば?柊真」

立ったままの俺に、咲也が声をかける。

「・・・・今日、ずっと家にいたの?何してたの?」

「え・・・・ゲーム」

「なんで・・・・ここで寝てたの?」

「・・・・2人でずっと寝そべってゲームしてたら、眠くなって。そのまま寝た」

「・・・・あんなに密着して?」

俺の言葉に、咲也が俺を見上げる。

「・・・・何、怒ってるの?」

「べ・・・・つに、怒ってはない。ただ、2人で抱き合うみたいにして寝てたから・・・・」

まるで大事なものを包み込むように咲也を抱きしめていたタク。

咲也も、安心したようにタクの腕の中で丸くなっていて―――

2人の間には入り込めないような、そんな空気を感じてしまっていた。

俺の胸が、きしむように痛む。

「・・・・少し、熱が出てたから・・・・タクが、心配して一緒に寝てくれたんだよ」

「へえ・・・・それって、いつもなの?いつも具合悪くなるとあんな風にくっついて寝るの?」

「―――何なんだよ?さっきから・・・・・。だいたい、今日は夕方ごろには帰るって言ってたじゃん。俺、待ってたのに―――」

「それは―――仕事なんだから、しょうがないだろ?断れないことだってあるんだよ!」

思わず声を荒げてしまう。

咲也の瞳が、一瞬悲しげに揺れた。

「―――そうだね、ごめん」

咲也はそう言うと俺から目をそらし、そこから立ち上がった。

「どこに―――」

「トイレ」

俺の横を通り過ぎる咲也。

ずきずきと、痛む胸。

俺の心は、嫉妬でどうにかなりそうだった。

小さいころからずっと咲也と一緒にいたタク。

2人で過ごした時間の長さは、俺には絶対追いつけないものだ。

そして2人の絆も・・・・・。

大きな溜息が洩れた時―――

『ガタンッ』

風呂場の方から、何かがぶつかる音が―――

「今の音、何?」

キッチンからタクの声。

俺は慌ててリビングを飛び出した。

「咲也!!」

風呂場に行くと、咲也が頭を押さえてしゃがみこんでいた。

「咲也、大丈夫?何してんの?」

咲也がよろよろと立ちあがった。

「・・・・風呂、入れようと思ったんだよ。柊真、汗かいてるから・・・・・」

「んなの、俺がやるのに・・・・見せて」

咲也の肩を掴み、こちらに向かせると、咲也のバツの悪そうな目が俺を見た。

「おでこ・・・・赤くなってるよ」

「足が滑ったんだよ」

前髪でかろうじて隠れそうだけど、結構強く打ってしまったようで腫れそうだった。

「熱、あるんでしょ?おとなしく座ってなよ」

俺の言葉に、咲也がむーっと顔を顰める。

一見クールに見えるのに、こういう表情は一転して子供っぽくなる。

「さっくん?どうし―――うわ、おでこ打ったの?」

タクがひょいと顔を出し、咲也に駆け寄った。

「いたそ・・・・これ、冷やさないと。俺、保冷剤出すからソファーで座ってて。真田さん、悪いけどお風呂のお湯入れといてよ」

「ああ、うん・・・・・」

タクに手を引かれて行ってしまう咲也を見送り・・・・・俺はまた、溜息をついた。


―――あんな顔、させたいんじゃないのにな・・・・・。

咲也は、ちゃんと待っててくれたのに。

俺のために、風呂の準備をしてくれようとしてたのに。


素直になれない俺の心には、寄り添う咲也とタクの姿がこびりついて離れなかった・・・・・。

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