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第30話
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家に着き、玄関の扉を開けるとそこに監視役の警官が立っていた。
まだ警察官になって2年目の爽やかな青年だ。
「よお、ご苦労。け―――高部は?」
思わず下の名前で呼びそうになって自分で驚く。
つい昨日まで名字で呼んでたのに。
「あ、今お嬢さんとお話を―――」
「彩名と?あいつ、もう学校終わったのか?」
「風邪気味だとかで早退したようです。2人で話したいと言われたので僕はここで待機を―――」
「風邪?裕子―――妻はいないのか?」
「はい、お嬢さんが帰るちょっと前に買い物に出かけられました」
―――2人で話したいって、いったい何を……
俺はざわつく胸を押さえ、リビングの扉を開けた。
中に入ると、リビングで俺に背を向ける形でソファーに彩名が慧にもたれかかっているのが目に入った。
「―――パパ!」
彩名がパッと慧から離れ、振り向いて目を見開く。
「彩名―――風邪で早退したって?」
「あ、うん、ちょっと微熱で……。さっき、薬飲んだの」
「そうか。それで……慧と2人で話がしたいって」
「あ・・・・えーと」
彩名が頬を染めてうつむく。
それを見て、慧がクスリと笑った。
「心配しないで、和樹さん。友達の恋バナ、聞かされてただけ」
「そうなのか・・・・?」
しかし、それなら2人きりになる必要ないだろう。
「ちょっと込み入ってるらしいんだ。で、他の人には聞かれたくないって」
「ふうん?」
まあ、彩名ももう高校生だもんな。
親に聞かれたくない話だってあるだろうし・・・・。
それにしても、なんだってあんなに密着して話してたんだ。
「だるそうだったから肩貸してたの。彩名ちゃん、そろそろ部屋で寝た方がいいよ。裕子さんにメールしたからそろそろ帰って来るし」
―――この男は、どうしてこう人の考えを先読みするんだろう。
今まさに聞きたい、知りたいと思っていたことを言葉にするんだ・・・・。
「俺、和樹さんと一緒に出てくるから」
「え、行っちゃうの?せっかく早退―――あ、その・・・・」
彩名が慌てて口を押えると、慧がおかしそうにくすくす笑いながら彩名の頭を撫でた。
「帰ってきたらまた話そ。ね?」
「うん・・・・わかった」
彩名は素直にうなずいた。
そんな素直な娘の姿に俺は複雑な気持ちだ。
ついこないだまで俺は慧が自分の家に泊まることに反対で、娘や妻に近づくことを不満に感じていたのに。
今は、慧が誰かの近くにいるのが―――嫌なんだ。
「そのプラネタリウムに石原さんがいるの?」
車の後部座席に座った慧が言った。
「いや、それはわからない。里奈さんの話ではデートで行ったのは1回だけだったが、それ以外でも石原は1人でそこに通っていたらしいから、それならそのプラネタリウムの従業員とも顔見知りだろうし何か知ってるかもしれないだろ?」
「そっか。で、その石原さんが犯人なの?」
「それを今捜査してるんだ。あの日の朝、橋本家にいたのが石原かどうかもわからない。今姿を消してる理由も。わかってるのは里奈さんのストーカーだったってことだ。だからとりあえず直接話を聞く必要がある」
「ふーん。おもしろそうだね」
「面白がるな。遊びじゃないんだぞ」
「ふふ、わかってるよ。でも俺も会って聞きたい。あの時、何を言おうとしたのか」
―――『お前が悪い』―――
そう言って慧を襲ったという石原。
里奈のストーカーである石原が、里奈の一番身近にいる慧を敵視するのはわかる。
だがもし放火殺人の犯人が石原だとしたら、なぜ慧ではなく橋本家の人間を殺したのか。
慧が離れにいたことを知らなかったのだろうか。
慧の居場所を聞き出そうとして失敗して逆上したのか?
それならあり得る気もするが・・・・。
でもそれなら昨日の夜、慧が一人になったタイミングで殺すチャンスはあったはずだ。
あの暗がりに連れ込んでしまえば通りからは見えにくくなるし、慧は動きづらいドレスとハイヒールだったのだ。
俺が見つけて止める前に殺すことだって可能だったはずだ。
しかしそうはしなかった。
それはなぜなのか・・・・・。
まだ警察官になって2年目の爽やかな青年だ。
「よお、ご苦労。け―――高部は?」
思わず下の名前で呼びそうになって自分で驚く。
つい昨日まで名字で呼んでたのに。
「あ、今お嬢さんとお話を―――」
「彩名と?あいつ、もう学校終わったのか?」
「風邪気味だとかで早退したようです。2人で話したいと言われたので僕はここで待機を―――」
「風邪?裕子―――妻はいないのか?」
「はい、お嬢さんが帰るちょっと前に買い物に出かけられました」
―――2人で話したいって、いったい何を……
俺はざわつく胸を押さえ、リビングの扉を開けた。
中に入ると、リビングで俺に背を向ける形でソファーに彩名が慧にもたれかかっているのが目に入った。
「―――パパ!」
彩名がパッと慧から離れ、振り向いて目を見開く。
「彩名―――風邪で早退したって?」
「あ、うん、ちょっと微熱で……。さっき、薬飲んだの」
「そうか。それで……慧と2人で話がしたいって」
「あ・・・・えーと」
彩名が頬を染めてうつむく。
それを見て、慧がクスリと笑った。
「心配しないで、和樹さん。友達の恋バナ、聞かされてただけ」
「そうなのか・・・・?」
しかし、それなら2人きりになる必要ないだろう。
「ちょっと込み入ってるらしいんだ。で、他の人には聞かれたくないって」
「ふうん?」
まあ、彩名ももう高校生だもんな。
親に聞かれたくない話だってあるだろうし・・・・。
それにしても、なんだってあんなに密着して話してたんだ。
「だるそうだったから肩貸してたの。彩名ちゃん、そろそろ部屋で寝た方がいいよ。裕子さんにメールしたからそろそろ帰って来るし」
―――この男は、どうしてこう人の考えを先読みするんだろう。
今まさに聞きたい、知りたいと思っていたことを言葉にするんだ・・・・。
「俺、和樹さんと一緒に出てくるから」
「え、行っちゃうの?せっかく早退―――あ、その・・・・」
彩名が慌てて口を押えると、慧がおかしそうにくすくす笑いながら彩名の頭を撫でた。
「帰ってきたらまた話そ。ね?」
「うん・・・・わかった」
彩名は素直にうなずいた。
そんな素直な娘の姿に俺は複雑な気持ちだ。
ついこないだまで俺は慧が自分の家に泊まることに反対で、娘や妻に近づくことを不満に感じていたのに。
今は、慧が誰かの近くにいるのが―――嫌なんだ。
「そのプラネタリウムに石原さんがいるの?」
車の後部座席に座った慧が言った。
「いや、それはわからない。里奈さんの話ではデートで行ったのは1回だけだったが、それ以外でも石原は1人でそこに通っていたらしいから、それならそのプラネタリウムの従業員とも顔見知りだろうし何か知ってるかもしれないだろ?」
「そっか。で、その石原さんが犯人なの?」
「それを今捜査してるんだ。あの日の朝、橋本家にいたのが石原かどうかもわからない。今姿を消してる理由も。わかってるのは里奈さんのストーカーだったってことだ。だからとりあえず直接話を聞く必要がある」
「ふーん。おもしろそうだね」
「面白がるな。遊びじゃないんだぞ」
「ふふ、わかってるよ。でも俺も会って聞きたい。あの時、何を言おうとしたのか」
―――『お前が悪い』―――
そう言って慧を襲ったという石原。
里奈のストーカーである石原が、里奈の一番身近にいる慧を敵視するのはわかる。
だがもし放火殺人の犯人が石原だとしたら、なぜ慧ではなく橋本家の人間を殺したのか。
慧が離れにいたことを知らなかったのだろうか。
慧の居場所を聞き出そうとして失敗して逆上したのか?
それならあり得る気もするが・・・・。
でもそれなら昨日の夜、慧が一人になったタイミングで殺すチャンスはあったはずだ。
あの暗がりに連れ込んでしまえば通りからは見えにくくなるし、慧は動きづらいドレスとハイヒールだったのだ。
俺が見つけて止める前に殺すことだって可能だったはずだ。
しかしそうはしなかった。
それはなぜなのか・・・・・。
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