記憶を嫌う少年と記憶を探す少女の物語

Rin凜Lin

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1章 出会い

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「さて……どうする?」

 命を懸けた何でもありの戦闘だ。
 人質を取るのも戦略の一部。
 卑怯な手だが、相手を動けなくする合理的な方法だ。
 すると2人の兵士が背後に近づき、俺を拘束するために腕を掴む。
 そしてイリスが動けなくなった俺に近づいた。

「腕はなかなかあるようだが、多勢に無勢。こうなってしまえば手も足も出せんだろう。」

 その言葉と共に、左頬に強い衝撃が走った。
 籠手がついた拳はそれなりに威力がある。
 そこからしばらくイリスは俺を痛めつけ始めた。
 鉄錆の匂いと、血の味が口の中に広がる。

「シエルっ!!離して……!」 

 サヘラが兵士から逃げようと暴れ始める。
 そんな状況下で、俺は深く息を吐いた。
 イリスはこの圧倒的に有利な状況で油断している。
 その証拠にすぐには殺さず、こうして甚振っている。
 ……不愉快だ。

「おい。」

 俺の声にイリスが手を止めた。

「降伏の言葉でも吐くつもりか?」

「いや──」

 俺はイリスの目をじっと見つめる。

「さっさと殺せよ。」

 その言葉にイリスが驚いた表情を見せた。

「人を一人も殺せないのか?情けない野郎だ。」

「なんだと……?」

 イリスが怒りのまま再び殴る。
 口の中の血溜まりを地面に吐きつけ、まだ奴の目を見続ける。

「なんなんだ貴様は!癪に障る……!」

 殴られ続けたが、俺は絶対に倒れなかった。
 エデュス国の奴らは根から腐ってる。
 そんな奴の暴力なんかで倒れる訳にはいかない。
 俺は奴の拳を一度額で受けた。
 籠手の付いた奴の手にダメージは無かったが、衝撃で奴の手が吹っ飛んだ。

「貴様……まだ抵抗する気か!」
 
 こちらの額も割れて血が流れる。

「なら望み通り殺してやる。」

 ようやくイリスが剣を抜き、剣先を俺に向けた。
 ただで死ぬ気はない。
 最後の最後まで抗ってやる。
 この状況を打破するために思考を巡らせていたその時だった。

 カラァン!!

 地面に何かが落ちてきた。

「いっ……!?」

 それと同時にサヘラの近くにいた兵士が変な声を上げ、サヘラから離れた。

「何事だ?」

 イリスが兵士の方へ意識が向いた瞬間、後ろの兵士の一人に後頭部から頭突きをする。
 そして怯んだ一瞬の隙に、掴まれていた腕を解き、もう一人の兵士の手首を掴む。
 そして単純な力だけで奴の手を引いた。
 すると奴の肩は外れ、腕から力が抜けた。

「どけ。」

 解放された俺はサヘラと少女の方へ向かい、怯む兵士たちを殴り飛ばした。
 そして地面に落ちてきたものを拾い、イリスに向けて構えた。
 落ちてきたもの、それは俺の剣だった。

「─────。」    

 サヘラと少女の後ろからベルが現れた。
 ベルがサヘラと少女の近くにいた兵士を魔法で怯ませたようだ。
 それに剣も届けてくれた。

「……よく……ここまで来れたな……」

「─────。」

 誰かさんのせいで警備が薄くなっていたと伝えられた。
 この騒ぎで兵士のほとんどが中央広場に集まったからだろう。
 さらにベルは魔力を極限まで抑え、気配を消していた。
 こちらに集中していた奴らはベルに気づけなかったのだ。
 ベルは俺に近づき、暖かみのある光を浴びせてきた。
 光を浴びた箇所の傷が少しずつ癒えていく。
 ベルの得意な魔法の一つ、『回復魔法ヒール』だ。

「貴様ら……!」

 殴られた兵士がこちらに向かって剣を振りかぶったが、

「がはっ!」

 瞬時に反応し、兵士の頭に鞘に入ったままの剣で突きを放った。
 兵士の被っていた兜にヒビが入り、兵士はその場で倒れ込んだ。

「シエル……ごめん……ごめんね……!」

 サヘラが目に涙を浮かばせながら謝ってきた。
 俺はそんなサヘラの頭に手を置く。

「え?シエ──って痛い痛い痛い痛い!!」

 そして握り潰すかの勢いで、力を込めた。

「逃げなかったお前が悪い。」

「分かった!分かったから離してよぉぉぉぉぉ!!」

 泣きながらそう言われ、手を離した。
 このやり取りにベルは呆れた顔をし、少女はキョトンとしている。

「さっさと脱出するぞ。続きはまた後だ。」

「つ、続きって……またやるの!?」

 サヘラがこちらを睨み付けてきたが、そんなことを気にしている場合ではない。

「逃がす訳が無いだろう?」

 イリスが目の前に立ち塞がった。

「貴様らが解放されたところで、この兵士の数だ。逃げられる訳が無い。」

 最初にここへ来たときよりも兵士の数が増えていた。

「ど、どうするの……?」

 サヘラが少女を抱えながら不安そうに言った。
 こんな状況で策なんて無い……となると方法は一つ。

「強行突破か。」

「行け。」

 兵士たちが群がってこちらに向かってきた。

「多いよ!?本当に大丈夫!?」

 サヘラが声を上げる中、俺は何もせずただ突っ立っていた。

「……さすが。」

 猛進してきた兵士たちは俺たちの少し手前で止まっていた。

「なんだ……壁!?」

 半透明な壁が俺たちを囲っていた。
 ベルが一番得意とする魔法だ。
 妖精の高い魔力で作られたもので、その防御力は非常に高く、破壊というのは難しい。

「け、剣が……!?」

 力を込めて振った兵士の剣が折れるという結果に。

「爆破しろ!この壁を壊せ!」

 様々な方法で破壊を試みる兵士たちだが、全て無駄だろう。
 ……と、見ているだけじゃ駄目だ。
 俺は自身が持っている剣を抜いた。

「ベル。少しの間、2人は任せた。」

 ベルが頷いたのを確認し、俺はイリスに剣先を向ける。
 結構距離はあるが、多分届くだろう。
 俺は極限まで集中力を上げ、タイミングを見計らう。

 ドゴォォォォン!!

 半透明の壁が爆発され、砂塵が上がったとほぼ同時。
 地面を蹴り抜き、イリスに向かって駆け出した。
 壁を壊すのに必死になっていた兵士たちは反応が遅れ、イリスとの距離を詰めるのは簡単だった。

「何……?」

 遠くの方で指示していたイリスだけが俺に気付き、剣を構えた。
 俺は足を止めず、ただ体勢を低くした。

「無策で正面から来るとは……馬鹿な奴だ。」

 イリスは剣を縦に振った。
 ……姿勢を低くしたおかげでうまく攻撃を誘発できたみたいだ。
 剣を受け流し、そのまま距離を詰めながら体当たりをした。
 イリスの体勢が崩れた瞬間、剣を振りかぶる。
 だが流石と言うべきか、イリスは防御の姿勢に入っていた。
 このレベルの兵士ならこれくらいやってみせるだろう。
 それを読んでいた俺は奴の腕を蹴り飛ばす。
 剣は大きく中心線から外れ、奴の顔が見えていた。

「じゃあな。」

 それでも尚、イリスは俺の攻撃を避けようと、剣を持つ俺の右手を見ていた。
 まぁ、それも意味が無いのだが。
 俺は奴の顔に目掛け、石材の瓦礫を持った左手を突き出した。
 剣ばかり警戒していたイリスは、意識外の攻撃に対応できるはずも無く、もろに直撃した。
 瓦礫が割れると同時に、イリス後方へ倒れる。
 そんなイリスに跨り、続けて顔面に拳を叩き込んだ。
 イリスは一瞬抵抗する素振りを見せたが、その一撃で動かなくなった。
 気絶したか。

 端からこいつを殺す気なんか無く、右手の剣はずっとフェイクだった。
 こいつには色々と吐いてもらわないといけない。
 殺してしまっては情報が取れなくなる。

「イリス隊長!!」

「ば、化け物だ……」

 突然隊長が戦闘不能になり、困惑する兵士たち。

「思い出した……!」

 そんな中一人の兵士が声を上げ、震える指でこちらを指してきた。

「し、白い髪に青い瞳のガキ……そして耳に紫色のピアス……間違いない……!フレンリュー騎士団『エイレーネ』の一人、シエル・ルドベキアだ!!」

 それを聞いた兵士たちが騒ぎ始めた。
 知ってるやつがいたのは少し驚いたが、これはこれで好都合だ。
 俺はイリスの上体を無理矢理起こした。

「直に大勢の援軍がここに到着する。」

 そしてイリスの喉仏に剣を向ける。

「ここで戦って全滅するか。こいつを置いて生き延びるか。選べ。」

 援軍が来るなんてハッタリだ。
 だが、俺が隊長と知った今、奴らがそのハッタリを見抜くことは難しかった。

「て、撤退!撤退しろー!!」

「ですが隊長が──」

「相手が悪過ぎる!奴と戦っても、こちらが削られるだけだ!」

 兵士たちはそんなことを言いながら、背を向けて逃げていった。
 根性の無い奴らだ。
 まぁ、引いてくれるのならこちらとしてはありがたい話ではある。
 久々の戦闘で疲れたし。

「─────?」

 ベルが手振りで心配してくれた。

「大丈夫。強いて言うなら腹が減ったかな。」

 ベルは呆れた表情をしながら、一つ息を吐いた。
 そんなベルの後ろでは口を開けて、ポカーンとしている奴もいるが、とにかくこの戦いは終わった。
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