記憶を嫌う少年と記憶を探す少女の物語

Rin凜Lin

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第2 少年の過去

馬車に揺られ

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 ガタガタと揺れる馬車の中。
 真っ暗な外をぼーっと眺める。
 構造上、どうしても隙間風が入り込むため、少し肌寒い。

「馬車って以外と狭いんだね……」

 反対側の席に座るサヘラがそう言った。
 乗る前はあんなに楽しそうにはしゃいでいたのに、今は寒さからか、小刻みに身体を震わせてじっとしている。

「毛布いるか?」

 俺は馬車に配置されている毛布を取り出し、それをサヘラに渡した。

「ありがと。」

「ベルも。」

 サヘラの隣に座っているベルにも毛布を渡そうとしたが、何やら浮かない顔をしている。

「大丈夫か?」

 これから人がたくさん住む街へ向かうんだ。
 過去に人間に酷いことをされたベルにとっては恐怖なんだろう。

「─────。」

 逆に大丈夫なのかと心配された。

「俺はいい。あんまり寒くないから。」

 不安を抱えているというのに、こうして人の気を遣うところはベルの優しさが分かる。
 ……優し過ぎるんだ、ベルは。
 自分のことよりも他人を優先する。
 ハーバルトの件もあって、一定の人に対して恩があるのは分かるが、もう少し誰かに頼ってもいいんじゃないかと思ってしまう。

「……無理はするなよ?」

 そう言うとベルはムスッとした顔をした。

「────────。」

 それはこっちの台詞だと伝えられてしまった。

「─────。」

 そして続けて休むように伝えられた。

 確かにイリスとの戦闘は中々厳しいものだった。
 ベルが戦場に来ていなかったら殺されていたかもしれない。
 ベルの回復魔法ヒールや、騎士団の治療で応急処置はしたものの、無数の切り傷とあざが体に刻まれている。
 ……休むべきなのだろう。
 激しい戦闘は久しぶりで、自身が思っている以上に体が疲れている……と思う。
 するとベルは怒った表情のまま、毛布を俺に差し出してきた。

「……悪いな。」

 毛布を受け取り、それに身を包んだ。

「少しだけ寝る。何かあったら直ぐに起こしてくれ。」

 そう言って壁にもたれ掛かり、目を閉じた。

 記憶喪失のサヘラと出会い、エデュス国との戦闘……そして今は事情聴取の為にフレンリュー国の首都に向かっている。
 最近は色々なことがあった。
 眠りに就くまで、俺は直近の出来事を思い出していた。
 戦闘に関しては、俺の技量の問題だ。
 正直、前と比べて鈍っているとは思う。
 人質を取られたというのもあるが、ここまでズタボロにされたのは久しぶりな気がする。
 ……日頃の訓練を見直すべきかもな……

 だが、それよりも気になるのは、やはりサヘラのことだ。
 サヘラは記憶喪失で何もかも分からない状態だが、確実にエデュス国は彼女を狙っていた。
 さらには隊長だったイリスですら、サヘラについての詳しい情報を知らなかった。
 ここが妙に引っかかる。
 イリスが嘘をついている可能性もあるが、仮に任務の詳細を知らされていないとなると、隊長クラスの人間にも知られたくない極秘のものなのか、それともただの捨て駒にされたか。
 どちらにせよ、他の国までサヘラを追ってきているのだ。
 サヘラとエデュス国は何かしらの関係があると見ていいだろう。
 エデュス国で罪を犯したのか、サヘラは元々奴隷で、主人の元から逃げ出したからなのか。
 様々な候補は挙がるものの、今の段階では明白なものとはならない。
 疑問ばかりが生まれている。
 騎士の連中には頑張ってもらう必要がありそうだ。

 ただベルについてはあまり調べてほしくない。
 人間と妖精の関係は、昔から良くはない。
 この国は比較的温厚だから、ベルが妖精だとバレれたとしても、酷いことをすることは無いと思うのだが、何かしらの処罰を受けることになるだろう。
 不幸中の幸いだったのが、ベルに妖精の羽が無いことか。
 羽が生えていたら、見た目だけで妖精だとバレていた。
 それにベルは魔力を抑える技術も高い。
 後は俺が上手いこと事情を話せば、案外どうにかなるのかもしれない。
 まぁ、この件をクラウスが担当するのであれば多少無理に言っても問題はないだろう。

 ……あの日以来か……城に行くのは。
 昔のことがふと頭に過る。
 
 ──生きて……──

 血に塗れた少女が泣いている。
 あの日、俺は守れなかった。
 守るべき人に守られてしまった。
 もっと俺が強ければ、もっと俺が彼女を引き離していれば、失うことなんて無かったのに。
 俺のせいで何もかもが消えていく。
 かたきを取りたかった。
 だが、俺はあまりにも無力で不器用だった。
 道を踏み外してしまった。
 復讐心だけで動き、奴らと同じ道を辿った。
 あのまま続けていたらきっと戻れなかったと思う。
 
 本当に嫌な記憶だ。
 理不尽に奪ったあいつらに腹が立つ。
 何もできなかった自分に腹が立つ。
 恨み、怒り、後悔……過去を思い出す度に全ての負の感情が湧き出てくる。
 だが、忘れる訳にはいかない。
 この記憶は俺の罪なのだから。
 償うまでは絶対に……
 ……必ず……報いを……

 嫌なことを思い出したからだろうか。
 まるでそれを避けるかのように、突如として睡魔が襲い、俺の意識はここで途切れた。
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