記憶を嫌う少年と記憶を探す少女の物語

Rin凜Lin

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第2 少年の過去

シエルとクラウスの関係

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 寝息を立てて眠るシエルとベルから少し間隔を空けて座った。
 クラウスさんも同じように反対側の席へ着いた。
 それと同時に、馬車も動き出した。

「何から話そうかな。」

「シエルがどんな人か知れればなんでも。」

 そう言うとクラウスさんは少し悩んだあと、まぁいいかと語り始めた。

「シエル隊長と僕との出会いは、僕がまだ騎士見習いとして務めている頃だ。当時のシエルはまだ10歳で僕とは9つも下だった。」

 シエルが10歳の時に9歳の差があるってことは……クラウスさんは19歳ってことかな。

「最初にシエルを見た時は、愛想の悪い子供だったなぁ。目を合わせても睨んでくるし、話しかけても無視されるし。もう第一印象最悪。」

 早速知らないシエルが出てきて思わず笑ってしまう。

「でも、シエル隊長は本当に子供?って思うくらいに違っていてね。目の奥に何かどす黒いものが住んでいた。」

 目の奥のどす黒いもの……?
 なんだろ?

「まぁ、何かあったんだろうなっていうのは分かるんだけど、詳しくは聞いてない。───というより聞く余裕が無かったというか……」

 クラウスさんは困った表情を浮かべ、ポリポリと頭を掻いた。

「シエル隊長は天才ってやつでさ。10歳から剣技を学び始めてわずか4年で隊長という座についた。さらにそこから1年で『エイレーネ』にまで選ばれていたし。」

「えいれー……?」

「あ、そっか。ちゃんと説明しなきゃだね。」

 そう言ってクラウスさんはポケットからペンを取り出した。
 そしてペン先を空中で滑らせた。
 すると淡く光る文字が空中に浮かび上がった。

「すごい……!」

 私は思わず文字を指先でつついた。
 これも魔法なのかな……!
 クラウスさんはしばらく色々と書き続けて、出来上がったのは一つの図だった。
 王様が一番上でその下に『エイレーネ』、そして隊長、中隊長、一般騎士、見習い騎士と書かれている。

「まず、この国では王様を守る騎士たちが存在していて、その騎士の中にも階級……いわゆる、上下関係があるんだけど、『エイレーネ』はそれの最頂点。王国で数人しかいない最強の騎士さ。あ、ちなみに隊長はここね。」

 クラウスさんは『エイレーネ』と書かれた図の一つ下を指差しながらそう言った。

「シエルってすごい人だったんだ……!」

「そ。国としてはものすごい戦力だったんだけど、僕たち見習い騎士にとっては手強いライバルでさ。付いていくだけでもう精一杯だったんだよね。正面からシエル隊長に挑めば、魔法は使えないし、かと言って剣で挑もうにも、シエル隊長は剣だけでトップに上り詰めた人だ。当然敵わなかったよね。まぁ、1回だけ挑んでボコボコにされた後、無理だって悟った僕は安牌を取ってシエル隊長にごますってたんだけど。だから未だにシエルって呼んでるんだよね。」

 やっぱりシエルは強いなぁ……

「シエル隊長が辞めてからは側でサポートをしていた僕がトントン拍子で隊長になっちゃって。シエル隊長ほどの実力は無いけど、なんとか頑張ってるよ。」

 クラウスさんはそう言いながら苦笑を浮かべた。
 その時、ふと一つの疑問が頭に浮かんだ。

「そんなにもすごいシエルはどうして『エイレーネ』を辞めちゃったの?」

 その質問を聞いたクラウスさんの表情が少し暗くなった気がした。
 だけど、隠そうとしているのか口角は上がっていて、酷い表情になってしまっている。

「大丈夫……?」

「……やっぱり駄目か。」

 クラウスさんが大きく息を吐いた。
 すると酷かった表情がほんの少し和らぐ。

「隠したくても、忘れたくても、前を向きたくても。記憶ってのは時に厄介だ。」

 クラウスさんは隣で眠っているシエルを見つめる。

「シエル隊長が『エイレーネ』を辞めたのは、彼だけの問題じゃなくてね。」

 クラウスさんの手に力が籠もっていた。

「……仲間を殺されたんだ。」

「えっ。殺され……?」

 私を見つめるその目は悲しみに塗れていて、自然と唾を飲む。

「あの日、シエル隊長が任務から帰ってきた時の顔を今でも忘れない。何もかもを失った人っていうのは本当にどうしょうもなく、そして恐ろしい。でもそれはシエル隊長だけじゃない。僕だって……!」

「もう!もう大丈夫!」

 クラウスさんの苦悶の表情に、私は思わず話を止めた。

「これ以上は聞かない!だからもう思い出さなくていいから!」

 これ以上見てられない。
 そう思って私は止めたはずなのになぜかクラウスさんの口元が緩んだ。

「君は優しいね。」

「そんなこと無いよ。」

「じゃあなんで泣いてるのさ。」

 泣いて……?
 私の瞳からボロボロと涙が溢れていた。
 人を失う痛みなんか知らないはずなのに。
 ……違う。
 私は何故か知っている。
 そうだ、あの夢だ。
 夢で抱きしめてくれた人。
 私はその人が誰かは知らないけど、大切な人だっていうことだけは知っている。
 でも失ってしまった。
 記憶ごと全部。

「私……思い出したいよ……」

「何泣きべそかいているんだ?」

「えっ。」

 隣で眠っていたはずのシエルが起きていた。
 私は咄嗟に涙を拭う。

「クラウスが泣かせたのか?」

「そんな訳……いや、どうだろう。この話をしたせいかもしれないし……というかいつから起きてたの?」

「ついさっきだ。サヘラのでかい声で起きた。」

「ご、ごめん……」

「んで。なんの話をしていたんだ?」

「それはー……そのー……」

 クラウスさんが目を逸らして困った表情を浮かべる。
 もちろんシエルはそれを見逃さない。

「……俺のことか?」

「……うん。シエル隊長の過去を少し。」

 するとシエルは深々とため息をついた。

「わ、私が聞きたいって言ったの!クラウスさんは悪くないよ!」

「それは違うでしょ。僕が勝手に──」

「いや、いい。いずれ聞かれるだろうとは思っていた。」

 あれ?
 怒られるかと思っていたけど、シエルは少し寂しそうな表情を浮かべただけだった。

「……どこまでクラウスに聞いた?」

「えっと、シエルが『エイレーネ』を辞めた理由を聞いていたところ。『エイレーネ』になった経緯までは聞いたよ!シエルがすごく強かったってクラウスさんが!」

「本当か?こいつがそんなことを言うとは思えん。」

「失礼だねー。僕だって褒める時は褒めるよ!」

「どうだか。」

 するとベルまで目を覚ました。
 目を擦って大きく身体を伸ばしている。

「ちょうどいい。この際ベルにも話しておく。詳しいことは伝えていなかった気がしたし。」

 ベルは状況が飲み込めていないのか小首を傾げていた。
 それでも話を聞こうとシエルをじっと見つめていた。

「……もう2年も前の話になる。俺はとある一件でクリティと調査に出かけていた。」
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