転生治癒師の恋物語 〜聖女様と王子様の仲を取り持ったら、別の王子様に気に入られました〜

藤なごみ

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第二話 不思議な空間

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「う、うーん。うん?」

 私は、眩しさに目を眩ませてゆっくりと起き上がった。
 えーっと、私は確か上司に押しつぶされて頭を打って意識を失ったはず。
 しかし、今は周囲が真っ白なそんな空間にいます。
 浮いているのかよく分からない感覚の中、周囲を見回します。
 ここはどこなのか、全く分かりません。

 キラッ!

「きゃっ! なっ、なに?」

 突然私の目の前が眩しく光り輝き、咄嗟に目をつぶりながら腕で光を防いだ。
 光り輝いていたのは数秒だったが、その僅かな時間で目の前の状況が一変していた。
 まるで女神様みたいな服装の金髪ロングヘアの美女が、土下座している金髪男性の背中に足を組んで座っていたのだ。
 えーっと、これはどういうことでしょうか。
 何が何だか分からず、私は思わずぽかーんとしちゃいました。

「エバタリンさん、ですね」
「はっ、はい! そうでふ」
「ふふ、落ち着いて下さい」

 突然目の前の美女に話しかけられちゃったから、思いっきり噛んでしまった。
 うう、美女は問題ないと微笑んでくれているけど、やってしまったと恥ずかしくなって締まった。
 一つ深呼吸をして、心を落ち着かせてから話を聞くことにした。
 すると、美女がとんでもないことを話し始めた。

「エバタリンさん、私たちはあなたに謝らなければなりません。この度は、私の部下のせいで不幸な人生を送ってしまい申し訳ありません」

 美女が私に深々と頭を下げているけど、この土下座状態の人のせいで私が不幸な人生を送ったってどういうことだろうか。
 なんのことだか、さっぱり分かりません。
 そもそも、いったいどういうことなのだろうか。

 パチン。
 シュッ。

「わっ!」
「少し長い話になりますので、お茶を飲みながらにしましょう」

 美女が指をパチリと鳴らすと、目の前に突然高そうなテーブルと椅子が現れた。
 これまた高そうなティーカップには、良い香りのする紅茶が淹れられていた。
 恐る恐る席に座り、勧められるがままに紅茶を一口飲んだ。

「あっ、美味しい……」
「ふふ、それは良かったですわ。とっておきのものを用意しましたから」

 美味しいだけでなく、とても良い香りが鼻を通り抜けた。
 私の表情に、美女はとても満足していた。
 でも、未だに土下座している人の上からは降りなかった。
 私から伺うこともできないし、何よりも断固たる意思ってものが感じられた。
 もう何口か頂き、ティーカップをソーサ―に置いた。
 すると、美女の表情が真面目なものに変わった。
 私も思わず姿勢を正したところで、美女が話を始めた。

「信じられないかもしれませんが、私たちは様々な世界を管理している存在です。その中で起きる色々な事象に対して、日々対応しています」
「えーっと、神様みたいな存在でしょうか」
「そこまで、素晴らしい存在ではありませんが、例としてそのように考えて頂ければ幸いです」

 いきなりの壮大な話に、頭がついて行かなかった。
 例えば小説みたいな話が、目の前で起こっているのだからだ。
 でもこのまま情報を聞くしかないので、そのまま姿勢を正した。

「先ほど日々起きる様々な事象に対して対応しているとお伝えしましたが、実はエバタリンさんが亡くなった事故も予期せぬ事象の一つでした」
「私は亡くなった……死んだのですね……」
「はい、残念ながら脳挫傷で亡くなりました。そして、この死があってはならなかったのです」

 はっきりと自分が死んだと言われ、私はかなりのショックを受けた。
 思わずうつむきそうになったが、ここでふと気になった。
 私の死は、あってはならなかったということだ。
 では、なぜ私は死んでしまったのだろうか。

「結論から申しますと、私が座っているこの部下がエバタリンさんの運命を間違えてしまったからです」
「えっ、私の運命、ですか?」
「ええ、そうです。様々な運命のパターンがありますが、エバタリンさんは大器晩成型でした。もう少しすれば、更迭される予定の代わりの上司となり会社を建て直すスーパーウーマンになっていました。しかし、私の部下が間違えてエバタリンさんの運命を下方修正してしまったのです。そのために、あのような不幸な遭遇と事故が起きてしまいました」

 要するに、元々私は上司と後輩とも会うこともなかったし、顔を合わせないまま上司は更迭されたらしい。
 その後の私の運命よりも、無残にも死んでしまったことが悲しかった。
 そして、この部下は更にミスを犯したという。

「更に部下は、二つのミスを冒しました。一つは、亡くなったエバタリンさんの魂の修復に失敗したことです。これにより、元の世界に転生することもできなくなりました。もう一つが、魂の修復に失敗した結果、本来は赤子から生まれ変わる予定が十五歳の体になってしまったことです」
「えーっと、つまり今の私は十五歳時の体になっているということですか?」
「はい、その通りになります。いま着ている服は、亡くなられた当時のものになります」

 おお、なんということでしょうか。
 ほぼ半分の年齢に戻ったのに、着ているスーツがぴったりだ。
 そういえば、高校入学時から殆ど体格が変わらなかったよなあ。
 ある意味、地味にショックを受けています。
 そして、前世の世界に戻れなくなるなんて、まさしく小説みたいなことが起きているのか。
 はあって、ため息をつくしかできなかった。

「その後、エバタリンさんの魂を私が回収し、可能な限りの修復を行いました。もちろん、運命についても元に戻しております」
「戻したというとこは、十五歳当時の運命ですか?」
「いえ、これから運気が上がるタイミングの状態です。今まで努力を重ねてこられましたが、その努力が報われるタイミングです」

 何だか、ある意味ホッとしてしまった。
 生まれ変わっても不幸のままでは、流石に気が滅入ってしまう。
 しかも、三十路近くまでその状況を知っているのも嫌だった。
 そして、美女は私がこれから行く世界について教えてくれた。

「エバタリンさんにとっては、ゲームやアニメみたいな世界だと思って頂ければよいかと。全ての人ではありませんが、魔法を扱えるものがおります。エバタリンさんは、回復魔法と生活魔法、それに身体能力魔法を扱えます」
「魔法が使えるなんて、まさにゲームやアニメみたいな世界ですね。他には、どんな特徴がありますか?」
「エバタリンさんがいた世界と比較すると、流石にそこまで文明は発展しておりません。近世の欧州を創造してくれればよいかと」

 流石に原始時代だと嫌だったけど、そこそこの文明があるのは助かった。
 何せここ数年の私は、住んでいたアパートに寝に帰っていたようなものだったから、文明の利器というものにあまり触れていなかった。
 あと、せっかく魔法が使えるのなら派手なカッコいい魔法を使いたかった。
 すると、突然私が着ているスーツが光り輝き、本当にゲームで着るような姿に変わった。
 半袖シャツにジャケットを纏い、短パンに太もも丈のストッキングみたいなものを身につけていた。
 そして、意外とごっついブーツを履いていた。
 腰にはショートソードが下げられていて、巾着袋みたいなものもついていた。

「これから向かう世界には、『冒険者』という仕事があります。一種のアルバイトみたいなものだと思って頂ければ助かります。冒険者活動を行い、お金を貯めてからこれからの行動をゆっくりと考えて下さい」
「何事も小さな仕事から、ですね。どんな人がいるか分からないので、十分に気を付けます」
「エバタリンさんなら、きっと大きなことを成し遂げると確信しております。また、普通の市販のものですが巾着みたいな袋は魔法袋となります。様々なものを収納できますので、きっとエバタリンさんの助けになると思います」

 その他にも手短に教えてくれたが、一番興味を持ったのはやはり魔法だった。
 体の中にある魔力循環をすることで、様々な魔法が使えるという。
 そして、ある程度説明が終わった段階で再び私の体が光り輝いた。

「名残惜しいですが、そろそろお時間のようです。エバタリンさんの、これからのご多幸をお祈りいたします」

 美女がニコリと微笑んでくれたけど、そういえばミスをした部下の上にずっと乗ったままだった。
 中々凄い人なんだと思いつつ、数分間の面会が終了した。
 そして私を包む光がより一層強まり、目の前の景色が一変したのだった。
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