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第二章 バスク子爵領

第六十五話 事件の後始末

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「さて、残りはお前達二人だな。大人しく縄につくことをお勧めするぞ」
「くっ、あの展開から逆転されるとは。計算違いだよ」
「ああ、正直ヤバかったよ。かなりの犠牲者が出る危険性もあった。でも最後までどうにかなったよ」

 ビルゴに一応の降伏を打診した。
 まあ降伏なんぞしないと思うけどね。
 しかしまあ、本当に途中まではかなり危なかった。
 相手のペースに持ち込まれていたし、実際に防衛ラインを突破された時は本当に焦ったよ。
 闇の魔道士も相当に魔力を消費しているし、ここから一発逆転は難しいだろう。

 おや? 闇の魔道士が何かブツブツと言っている。
 まさか、何かやる気か。

「全員、魔法障壁展開。最大限展開だ」

 バリバリ!

「くそう、ここにきて何という威力だよ」

 闇の魔道士が、最大限レベルで黒い電撃を放ってきた。
 とっさに気がついたから、俺達は何とか全員魔法障壁を展開できたが、騎士の何人かが間に合わず直撃を受けた。
 この状態だと俺も動けないから、騎士の助けにも行けない。

「ちい、これも防いだとは。ここは一旦引くが、次は必ず殺してやる!」

 ビルゴが何か叫んだと思ったら、魔法陣が現れビルゴと闇の魔道士が何処かに転移した。
 くそ、最後の最後で逃げられたぞ。

「うう」
「あぁぁ」

 良かった、電撃の魔法が放たれた時間が短いから、直撃を受けた騎士もまだ息がある。
 早めに治療すれば、まだ助かるかも。

「テリー様、直ぐに騎士の治療を」
「サトー殿、すまない。手を貸してくれ」
「はい、怪我した騎士を一箇所に集めよう。ルキアさん、マリリさん、スラタロウとタコヤキは暫く治療に専念。もしかしたら市民にも怪我人がいるかもしれない」
「サトー様、分かりました」
「こちらは任せてください」

 最初の爆発やその後の戦闘で、周りの商店にも被害が出ている。
 そっちのケアもしないといけないな。
 騎士にお願いしておこう。

「テリー様。オリガさんとガルフさんを騎士につけますので、一緒にあたりの捜索をお願いします」
「ああ、今回の件はこちら側も予想以上の被害だ。周辺の店舗の被害状況も確認しよう」

 周辺の被害を確認と併せて、これだけの討伐した魔物をどうにかしないと。
 特にオーガと魔獣は何かをして能力を上げていたから、回収の上での解析が必要だ。

「アルス王子、オーガと魔獣はどうしますか?」
「私のマジックバックに入れておこう。ワース商会の調べが終わり次第、直ぐに王都で担当者に解析させる。バスガス領の時よりも魔獣の能力が上がっているのが気がかりだ」
「オーガにも何かを使っていたので、これが広まったら大変な事ですよ」
「本当に頭の痛い話だ。サトー達の戦力がないと防げない敵なんて、考えたくもない」

 これからの戦いで、更に能力が上がった敵とは戦いたくないな。
 だけど、ビルゴはかなりしつこいだろうし、更に何か仕掛けて来るだろう。
 最終的にビルゴをどうにかしないと、この件は収まらないだろう。
 ああ、いつになったらのんびり冒険出来るのか。

 さて、回収するものはもう一つある。

「テリー様、幸運にもオーク肉が沢山手に入りました。だけど、どうやって回収しましょうか?」
「今、騎士がギルドと話をしている。この件で仕事を失った冒険者も多い。なら、オークの回収と解体を依頼して日銭にでもしてもらおう」

 流石テリー様。冒険者の救済も考えて動いているとは。
 百頭を超えるオークだ。冒険者も沢山必要だ。
 難民も多いし、直ぐに消費されていくだろう。

「さて、ようやくワース商会の捜査が出来る。手分けして行おう」
「はい。俺とリンさんとビアンカ殿下とエステル殿下、それにマルクさんで捜査に加わります」
「アスル殿下、直ぐに捜査しましょう」

 アルス殿下も魔獣とオーガの回収が終わり、ようやくワース商会の捜査が出来る。
 違法奴隷の発覚からここまで来るのに、襲撃もあったから結構な時間がかかったなあ。

 おお、戦闘に夢中だったからそこまで気にしなかったけど、ワース商会の建物が爆発の衝撃でかなりボロボロだ。
 うーん、ビルゴは建物ごと証拠隠滅でもはかったとしか思えない。
 この間の闇の魔道士の時もそうだし、とにかくやつらは証拠隠滅のやり方が激しいなあ。

「サトー様、対応が終わりました」
「ポチありがとう。どうだった?」
「建物はかなりのダメージを負っていますが、何とかなりました。後はならず者を縛り上げています」
「そうか、ありがとう」

 ワース商会の建物の所でポチが待っていた。
 どうやら間に合ったようだ。
 と、ここでリンさんがポチにさせていたことを聞いてきた。

「サトーさん、ポチに何をさせていたのですか?」
「糸を使っての簡易的な建物の補修と、建物に残っていたやつらを拘束してもらったんだよ」
「はー、それだけの指示をあの戦闘の最中で。いつの間にそんな事を指示していたのですか?」
「戦況がこちらに有利になったタイミングだね。アルケニーといえども小さいし、敵も俺達に意識が集中してたから結構簡単に侵入できたみたいですよ」
「ふむ、やはりサトーじゃのう。あの戦況でそこまで考えておったとは」
「そうだね、ビアンカちゃん。それでいて的確に指示出していたし、サトーは敵にまわしたくないな」
「うむ。妾も再度のサンダーウォールをドンピシャで出来たのは心地良かったのじゃ。流石はサトーなのじゃ」

 あら、リンさんにポチにお願いした作戦を話していたら、ビアンカ殿下とエステル殿下が話に入ってきて俺の褒め合いになってきたぞ。

「確かに、今回のサトー殿はよくやってくれたと思う。逆に防衛ラインを突破されたのは、こちらの不手際だ」
「いや、あれだけの戦力を投入されたのです。よく持ちこたえたと思いますよ」
「今後は闇ギルドに関わる案件は、こちらもある程度の人数が必要だな」

 テリー様とアルス王子と話したが、もう闇ギルドは何をしでかすか分からないので。
 戦力も余計に準備したほうがいいな。
 後は極力被害が出ない方法を取らないと。

「リン様、地下に囚われている子どもが複数おります」
「ポチ、それは本当?」
「はい。出来れば女性の方で救出された方がいいでしょう」
「リンさん、ビアンカ殿下、エステル殿下。すみませんが、保護をお願い出来ますか?」
「はい、任せて下さい」
「さっきの子どもの様に、まだ囚われている子がいるんだね」
「サトーよ、毛布をいくつか出してくれ」
「わかりました。少し多めに出します」

 ポチの捜索で発覚した囚われた子どもの救出は、女性陣に任せる事に。
 毛布の他にもタオルとか用意しておこう。
 その間に、俺達は調査開始だ。

「一階は派手に破壊されてますね」
「何の商品があったか、これではわからないぞ」
「重要な物は恐らく二階だろう。一階は騎士に任せよう」

 一階は騎士に任せ、俺とアルス王子とテリー様にマルクさんは、急いで二階に向かう。
 何人かポチの糸で拘束されていたが、爆発の衝撃で怪我もしているようだ。
 二階に向かう途中で建物の中を見たが、ポチが糸で補修してくれたおかげか、見た目はボロボロだが崩れてはいなかった。
 分担して部屋を捜索するが、これは会頭の部屋以外は重要な書類はないな。
 拘束されていて転がっているのを、騎士に回収してもらおう。 

「よし、会頭の部屋に入ろう」
 
 部屋の中の安全を確認して、部屋に突入。
 何人か拘束されているけど、これはポチがやったな。
 窓が空いているけど、恐らく会頭はここから逃げようとしたんだ。
 窓から外を見ると、糸でぐるぐるに拘束された男と側にタラちゃんがいた。
 タラちゃんはこっちに気がついたのか、小さな手を振っていた。
 男の近くには散らばった書類があるが、ホワイトがちょこちょこ動いて懸命に集めていた。

「アルス王子、テリー様、窓から飛び降りた男を従魔が拘束しています。わたしも下におります」
「サトー、わたしも下におりる。恐らくあの書類は顧客リストだ」
「では、ここはわたしとマルクで引き続き確認をしよう。アルス殿下、サトー殿、よろしく頼む」

 アルス王子と店の裏側に急いで移動する。
 タラちゃんとホワイトを配置しておいて、本当に良かった。
 爆発を利用して、その隙に逃げようとしたのだな。

「サトーお兄ちゃん。悪いやつを捕まえたよ」
「よくやったよ、タラちゃん」
「まあ自爆したから殆ど何もせずに捕まえたよ。窓から飛び降りたときに、着地に失敗して足折ったみたい」

 おお、確かにこの男の見た目はかなりの太っちょ。
 二階から飛び降りた際の衝撃で、自分の体重を支えきれずに足を折ったのだろうな。
 痛みでフガフガ何か言っているが、気にしないことにしよう。

「ホワイトもありがとうな。やはり顧客リストだ、ホワイト大手柄だぞ」

 ホワイトが集めていたのは、紛れもなく違法奴隷の顧客リストだった。
 しかも誰がいつ何を購入したかまで書いてある。
 そりゃこの会頭も、このリストを持って逃げるわけだ。
 タラちゃんとホワイトの頭を撫でて褒めてあげよう。

「アルス王子、探していたものです」
「ああ、リストにある貴族は貴族権力主義者で王族と対立しているやつらだ。先の復興資金横領に加えて、これでやつらを追求できるぞ」

 これで闇ギルドと繋がった貴族を追求できると、アルス王子は頷いていた。
 不正の証拠だから、貴族も言い逃れできないだろう。
 会頭と思われる太っちょは、騎士によって連行されていった。
 足が折れて痛そうだが、見ない事にしよう。

 後は他に逃走者がいるかだが、タラちゃん経由でヤキトリ達に聞いておこう。

「タラちゃん、ヤキトリ達に他に逃げた人いないか聞いてみて」
「うん……他にいないって、大丈夫だよ」
「そうか、なら監視体制も解除しよう」

 よし、太っちょ以外に逃走者はいないし、捜索はテリー様とアルス王子に任せよう。
 囚われている子どもも気になる。

「アルス王子、ここはアルス王子とテリー様にお任せして良いでしょうか? 囚われた子どもの様子を見に行きたいので」
「こちらは大丈夫だ。重要人物と証拠も押さえてある。既にリストは父上にも連絡した」
「流石アルス王子。では、タラちゃん、ホワイト、行くよ」
「はーい」

 アルス王子に断りを入れて、リンさんに任せている方に向かう。
 あれ? リンさんの周りに子どもが沢山いるような。
 ぱっと見で女の子が多いけど、男の子もいそうだ。

「リンさん、凄い数ですね……」
「はい、地下の狭い所に押し込まれていました」

 あまりの人数に、リンさんも困惑していた。
 現在目の前にいるだけで二十人程、まだ下に十人程いるという。
 幸にして亡くなっている子どもはいないが、痩せ細っている子どもも目立つ。
 そして全てが獣人やエルフなどの希少種の子どもだった。
 念の為、追加で毛布やタオルを出しておこう。
 後は食事もだな、この間大量に買っておいてよかった。

「サトー様、怪我人の治療が完了しました。全員助かりましたよ」
「これだけの子どもが囚われていたんですね」
「周囲の状況把握も終わりました。私も参加します」
「ルキアさん、マリリさん、オリガさん、ありがとうございます。まだ地下に囚われた子どもがいるので、ビアンカ殿下とエステル殿下を手伝ってくれますか?」
「分かりました、オリガさんと直ぐに向かいます」
「ありがとうございます。マリリさんは子ども達の健康チェックお願いできますか?」
「直ぐに行います」

 それぞれが役割を終えてこちらに集まってきた。
 そして、救出された子どもの数の多さにびっくりしている。
 顧客リストの貴族の数が多かったから、これだけの子どもを集めたのだろう。

「スラタロウはお腹に優しい調理をしてくれないか? タコヤキはマリリさんの補助で。タラちゃんとホワイトもお願い」
「分かったよ。治療もやるね」

 従魔にも指示して、治療の手を増やす。
 同時にスラタロウが調理を始めたが、子ども達はスライムが調理を始めたことにびっくりして目が釘つけになっている。
 不安そうな目をしていたが、好奇心の目に変わっていった。
 うん、いい傾向だ。

「サトーよ、まだ子ども達がおるぞ」
「まだ運びますね」

 さて、事件の後始末もそうだが、この子ども達はどうしよう。
 お屋敷にも二人いるし、アルス王子とテリー様にも確認しないと。
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