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第三章 ブルーノ侯爵領

第七十四話 ブルーノ侯爵領に到着

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「サトーさん、じっとしててくださいね」
「サトー様、直ぐに終わりますから」

 現在ブルーノ侯爵領の少し手前、城門に入る前にみんなで変装しています。
 俺は馬車を降りて、外で変装中。
 ルキアさんとマリリさんが俺の化粧をしています。
 他の人は馬車の中で着替え中。何人かが俺がいるのに着替え始めたから、俺は急いで外に出た。
 ミケならともかく、エステル殿下とかは男性の前で着替えるのはまずいでしょう。

「今日は大人しめのドレスでいきましょう」
「令嬢の旅服装がコンセプトです」
「確かにド派手なドレスで旅行はおかしいですね」
「髪はポニーテールにしましょう」
「ぐぬぬ、やはり美人なのじゃ」
「あー、お兄ちゃんがまたお姉ちゃんになった」

 馬車で着替えて降りてきた女性陣も加わって、俺の変装をワイワイやっている。
 手鏡で出来栄えを見ると、昨日よりは大人しめの出来上がり。
 うーん、自分の顔が美女だと違和感ありまくりですね。

「うお、主の匂いだが女性だぞ」
「おー、サトーが女の子だよー」
「「!?」」

 おお、シルとリーフもビックリしているぞ。
 馬なんかビックリして、俺を二度見しているぞ。

「サトーさんは暫く喋らない方がいいですね」
「この声で男声はビックリしますわ」
「お姉ちゃん、しーだよ」

 くそう、ミケまでお姉ちゃんって言ってきた。
 こうなったら、暫くはジェスチャーで切り抜けてやる。

 ということで、無事に変装も完了し、みんなで馬車に乗り込んで出発。
 ちなみにみんなは俺の従者ポジションで、ミケとビアンカ殿下とエステル殿下とリンさんがメイドに変装し、ルキアさんとオリガさんとマリリさんが騎士服だ。
 
 城門に着いたので、入門チェックの順番に並んでいく。

「はい、次の人どうぞー」

 何か適当な門番だな。
 全くやる気を感じられないぞ。

「はい、次の人どうぞー」
「はい、お願いします」
「うほお、美人の一団ですね。この後俺とデートしない?」
「仕事ありますので」
「連れないなあ。良いじゃんよ」
「婚約者がおりますので、それにここの門番は女性をナンパするのが仕事でしょうか? 後ろの方もだいぶ待っておりますよ」
「チッ、わかったよ。ほらオッケーだ」
「有難うございます」

 門番はいきなり従者をしていたオリガさんをナンパをしてきたけど、オリガさんは軽くあしらっていた。
 後ろに並んでいる人からも早くしろと声が上がったので、門番は諦めて俺達を通した。
 というか、手数料を払ったら殆どノーチェックで通されたけど、それも良いのかと思うよ。
 
「感じの悪い門番じゃのう」
「私も何も言えませんわ」

 門から少し進んだ所で、ビアンカ殿下がポロリと漏らした。
 ビアンカ殿下の一言が全てを物語っており、みんなうなづいていた。
 ルキアさんも何とも言えない表情になっていた。
 まさか門番が、あんな行為に及んでくるとは思っていなかったのだろう。
 そしてオリガさんは終始無言だった。
 ナンパをした事もあるが、同じ騎士としてあの仕事ぶりにも怒りがあるのだろう。
 
「まあ、いくら怒っても仕方はないのじゃ。先ずは街の様子を見にいくのじゃ」
「そうですね、ぐるっと見てみますか」
「サトーよ、その顔で男声は気持ち悪いのじゃ。黙っておれ」

 俺が喋った事に対してビアンカ殿下がボロクソに言ってきて、他の人も頷いていた。くそう、みんな酷いよ
 ズーンと気持ちが落ち込んだ俺を放置して、馬車は進んでいく。

 門を過ぎると市場が見え始めてきた。
 見た感じは普通に品物が揃っており、人々も普通に買い物をしている。
 道もそこそこ人や馬車が歩いていて、一見普通の街に見える。
 だが、やはり人に比べると獣人の割合は少ない。バルガス領やバスク領と比較すると、三分の一から四分の一程だ。
 少し先を進むと商会と宿屋が並んでいるエリアに入った。
 ここを行った先がお屋敷で、その周辺に住宅街が集まっているという。

「あれ? あそこにあるのはオース商会ではないですか」
「あ、本当ですね。私は領地と王都の商会にしか行っていませんでしたので、知りませんでした」
「オース商会なら、色々情報が得られそうですね」
「今手紙を書くので、ここの代表に渡してください。確か封蝋もありますよね」
「はい、こちらです」
「よし、これで良いでしょう。あーあ、暫く学園に行っていてその後は騎士の訓練と冒険者活動で、私の持っている情報が古くなっていますわ」
「仕方ありません。オリガと私もお付きで王都に行っていましたので情報が抜けておりました」

 商店の立ち並んでいる所の一角に、オース商会の支店があった。
 リンさん達の記憶にはなかったので、どうもここ最近出来た商店だ。
 ここなら正しい情報が得られるだろう。
 そして向かいのお店はどこか見た記憶が。
 周りのお店よりも一回り大きく、馬車がひっきりなしに到着している。

「おや? 向かいの店は店名を直しているが、どうもワース商会っぽいのじゃ」
「看板を付け替えて、営業を続けるつもりだね」
「よくある事じゃ。こう言うのはいたちごっこになるじゃろう。あそこは偵察確定で、確認次第お父様やお兄様に連絡じゃな」
「それで良いと思うよ。あーあ、またお兄ちゃんの気苦労が増えそうだね」

 今付いている看板を急いで別の物に変えているが、変える前の看板にはバッチリワース商会の文字が書かれていた。
 まだ黒と確定した訳ではないしこれからの調査次第だけど、あの手この手を使ってのいたちごっこは続きそうだ。
 俺達の調査でどこまで調べ切れるかを見極めないと。
 ここで、オリガさんが馬車に戻ってきた。

「リン様、面会の準備が出来ました」
「オリガさん、ありがとう。ビアンカ殿下、エステル殿下、サトーさんも向かいましょう」

 あれ? ビアンカ殿下とエステル殿下はわかるけど、俺も一緒に面会? 声出せないけど。
 自分の事を指差すと、みんな当たり前と言う感じでうなづいた。
 側から見ると、俺が令嬢でリンさんとビアンカ殿下とエステル殿下が従えるメイドさんだよ。

 二階にある部屋に通されてそこで待っていると、少し小太りのおじさんが部屋の中に入ってきた。
 頭はバーコード状態で少し寂しいのが哀愁を誘っている。
 俺の頭の髪の毛も、将来もあの様になるのかな……
 お互いに先ずは挨拶を行う。

「リン様、お待たせして申し訳ありません。このブルーノ支店を任されているトルノです。エステル殿下、ビアンカ殿下、並びにサトー様におかれましてもようこそいらっしゃいました」
「この様な格好で失礼します。トルノさん、突然の訪問となり申し訳ありません」
「妾は冒険者としてきておる、過剰な挨拶は不要じゃ」
「そうね、まだ王族としては動かないね」

 手紙に変装の事も書いてあったのか、すんなり話は始まった。
 ビアンカ殿下もエステル殿下も、挨拶は簡略化して話が始まった。
 俺は流石に声を出せないので黙っていたが、トルノさんは普通に喋って良いという。

「こう言ってはなんですが、実は秘密の商談などで変装されてくる方もおります。まあ普通は一眼見てバレるような変装ですが、サトー様はお美しいです。これならそう簡単にはバレないでしょう」
「……ありがとうございます」

 うう、これ以上女装が褒められても嬉しくない。

「不勉強で申し訳ありません。ブルーノ侯爵領にもオース商会の支店があるとは知りませんでした」
「リン様は王都へ行かれてましたから、ご存じないのも致し方ありません。ここ数年はバスク領は交易の中継点として発展しており、我々も支社を各地に出すようになりました」
「それはとても良い事ですね。オース商会の繁栄は、我が領の誇りです」
「そう行って頂き、我々も商売の励みになります」

 確かにバスク領は、多くの人や産物で溢れていた。
 これからも交易は多くなり、発展もする事になるだろうな。

「さて、我々商人の耳は早いもので、昨日のバスク領でのワース商会の件は聞き及んでおります。勿論リン様達の活躍も届いております。そして違法奴隷の件も存じております」
「なら話が早いのじゃ。我々の目的は違法奴隷を含めたこの街の調査、そして領主への対応じゃ」
「我々も協力いたします。ここだけの話ですが、領主が各商会に高額の献金を要求しており、我々も対応に苦慮しております。さらには幅を利かせているワース商会にも献金をしないと、商売の邪魔をするぞと脅されております」
「まるでならずものの集団じゃな。ようやりおるわ」

 ビアンカ殿下も思わず顔をしかめる程に悪どいな。ワース商会はどこに行ってもワース商会だな。
 それに領主からも常に献金を要求されるってどんだけだよ。
 どう考えても裏にお金が流れていますね。
 ここでトルノさんにある提案をしてみよう。

「リンさん、ビアンカ殿下、エステル殿下。オース商会を拠点として情報を集めましょう。ちょうど目の前にワース商会もありますし。トルノさん、情報収集の為に、我々をオース商会の店員として働かせていただく事はできますか? もちろん労働もします」
「なかなか面白いですね。日に一人か二人であれば大丈夫です」
「店員さんなんてやる事がないので新鮮ですね」
「妾も問題はないのじゃ。ついでに商品を売りまくるのじゃ」
「普段剣ばっかりだから、大丈夫かな……」
「初日は俺が働きます。様子をみて他の人も参加の方が良いでしょう」

 エステル殿下は不安そうだが、リンさんとビアンカ殿下は乗り気だ。
 先ずは俺がやってみて、その結果で他の人にも参加してもらおう。

「調査頂くのでしたら、この街の冒険者ギルドと教会も行かれた方が良いでしょう。国教以外にも海外の教会があります」
「トルノさん、アドバイスありがとうございます」
「街を探索する人と、従魔の探索の二手に分けましょう。そうすれば短時間で情報が集められるでしょう」
「そうじゃのう、手は多い方が良い。足で情報を集めないとな」

 とりあえず捜査の基本方針はこんなもので良いだろう。
 リンさんもビアンカ殿下も問題ないようだ。
 後は今日の宿を決めないと。いい時間になってきた。

「トルノさん。滞在中の宿を紹介いただきたいのですが、どこか良い宿はありますか?」
「ランクは気にせぬ。妾たちは冒険者ゆえ、安宿でも構わぬぞ」

 ビアンカ殿下からも助言があったので、大抵の宿であれば大丈夫だ。
 相部屋とかは気をつけないと。

「それでしたら、オース商会が懇意にしている宿がございます。料理も美味しくてオススメのところです」
「料理が美味しいのは嬉しいな。スラタロウの料理が美味しくて、不味いご飯には不安があるよ」

 エステル殿下は食事に食いついたが、オース商会が懇意にしているのなら間違いないな。
 一回確認は必要だけど、その宿を第一候補としよう。

「話はこんなものでよろしいでしょうか」
「はい、トルノさん、忙しいところありがとうございます」
「いえいえ、ある意味我々の為でもありますので」
「成程な、損得勘定は流石商人と言うわけか」
「左様でございます。ここで私からサトー様へプレゼントがございます」
「リンさんにではなく、俺にですか?」
「はい、間違いなくサトー様のお力になるものでございます」

 トルノさんは俺にプレゼントがあるといって、机に置かれていた予備ベルを鳴らした。
 トルノさんは俺に役に立つというが、一体なんだろう。

「失礼します。お持ちいたしました」
「ありがとう。さあ、サトー様。これを身につけてください」

 職員の人が持ってきたのは、見た目はなんでもない指輪だった。
 この指輪はどんな効果があるのだろうか。
 トルノさんから受け取って、指にはめた。
 お、自動調節機能があるぞ。もしかして魔道具の一種なのかな?

「お待たせしました。あれ?」
「サトーさんの声が女性の声になっています」
「しかも可愛い声じゃ。容姿とよくあっておる」
「へー、これじゃあ全く男とはわからないよ」

 俺の声に違和感あると思ったら、女の子の声に変わっていた。
 みんなびっくりしているけど、自分の声に違和感があってたまらない。

「トルノさん、こちらは何の指輪ですか?」
「ボイスチェンジをおこなう指輪です。実はこれはジョークグッズで、王都では普通に売られている物でして、性能面と安全面共に問題ございません。普通は指輪を身につければ面白おかしい声に変わるのですが、サトー様は見事に女性の声に変わっておりますね」

 こういうグッズは前世でもあったが、どの世界でも考える人はいるんだな。
 しかも俺はそれが見事女性の声になったという。
 これで声が出せるのは良いけど、どんどん自分が男性から女性に向かっていくのが怖いわ。

 これで話し合いは終わり、トルノさんと一緒に宿に向かう事になった。
 お店の前に停めていた馬車にいるルキアさんとオリガさんとマリリさんと合流する。

「みなさん、お待たせしましたわ」
「いえいえ、こちらもついでに買い物を……今、誰が喋りました?」
「私です私」
「もしかしてサトー様ですか?」
「そうですわ」
「「「えー!」」」

 あえて女口調でルキアさん達に話しかけたら、えらくビックリされた。
 そんなにおかしいかな?

「本当に女性にしか見えなくなりましたね」
「私は目の前でおこっている事が信じられません」
「私も同じく……」

 ルキアさん達は未だに俺を見て信じられない様子だ。
 馬車の中を覗くと、ミケやリーフやシルもビックリしている。

「お兄ちゃんが、お姉ちゃんになっちゃったよ」
「流石にこれにはビックリだねー」
「おお、主人が男をやめてしまったのだぞ」

 シル、俺は女になったわけではない。
 中身は男そのものなんだぞ。

「皆様も随分驚かれているようで。宿は三軒隣なのですぐに着きますよ」
「トルノよ。もしかしてあの揉めている所か?」

 トルノさんが宿に案内してくれると言った矢先に、三軒隣の店先でならずもの複数と年配の男性と若い女性が揉めている。
 もしかして、ブルーノ侯爵領に着いて早々に何かフラグが立ったのか?
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