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第四章 ランドルフ伯爵領攻略に向けて

第九十六話 子ども達の初めての薬草取り

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 ガラガラ。
 王都に向かう街道を馬車で移動中。
 このくらいの距離なら馬に任せてもいいなって思いつつ、御者をしています。

「ミケはミケだよ」
「僕はドラコ」
「ララだよ」
「リリはリリだよ」
「レイア」

 子ども達は、三人の獣人のお姉さんにそれぞれ挨拶をしていた。

「チナです」
「マールです」
「ローゼです」

 うさぎ獣人がチナさんで、猫獣人がマールさん。犬獣人がローゼさんと言うらしい。
 しかし今はギルドにいたときよりもガチガチに緊張していた。

「ビアンカじゃ」
「エステルだよ」

 うん、この二人までは良かった。
 特に王女ともバレていないし。

「リンですわ」
「リンって、バスク領のお嬢様のリン様!」
「あわわ」
「私達が一緒ですみません」
「あの、今は冒険者なのですから気にしないで下さい」

 どうもチナさんがリンさんの事を知っていたらしく、まさか領主様のお嬢さんと一緒になるとは思わなかったらしい。
 マールさんもローゼさんもかなりビックリしていた。
 リンさんの事でこれだけ緊張しているのだから、これでビアンカ殿下とエステル殿下の事を知ったら、倒れてしまうのではないか。

「チナお姉ちゃんは、何で冒険者目指しているの?」

 ミケ、ナイスだ。そのまま話題を変えていけ。

「私は、いとこのお母さんに薬草を届けたくて」
「そうなんだ」

 ミケが相槌うっているけど、いとこのお母さんは病気なのかな?

「私達の所では、私達くらいの年齢で独り立ちするのです。元々私達三人は冒険者を目指していたんですが、中々踏ん切りがつきませんでした」

 そりゃ男の冒険者ならともかく、女の子だから色々な危険があるよね。

「ところが、いとこから手紙があっていとこのお母さんが病気になってしまったとありました」

 いとこからいきなりその内容の手紙が届いたら、そりゃ驚くだろう。

「いとこはブルーノ侯爵領で宿屋をやっているのですが、お母さんが病気になり大変らしいです」

 ブルーノ侯爵領に住んでいるのか。闇ギルドとかを一掃する前は、治療とか受けられない人もいたな。
 特にチナさんは獣人だから、お母さんも獣人の可能性が高いし。

「お金を援助することはできなくて、せめて薬草とかを届ける事ができればと思い、冒険者になることを決意しました」

 チナさんは心の優しい良い子だ。
 それに一緒についてくるマールさんもローゼさんも良い子だ。

「おお、お姉ちゃん凄いね! ミケも薬草取りのお手伝いをするよ」
「ありがとうね、ミケちゃん」

 ミケがガッツポーズしているらしい。
 俺は御者しているから見えないけど。
 チナさんもクスクスしていて、少し気が楽になったかな。

「チナお姉ちゃん、その宿屋ってどんな名前なの?」
「はい、コマドリ亭っていいます」

 おや、その名前は聞いたことあるぞ。
 そういえば宿屋の奥さんはうさぎ獣人だったはず。

「もしかして、チナお姉ちゃんのいとこってマニーさん?」
「そうですよ。って、何でミケちゃんが知っているんですか?」

 おお、チナさんはミケがマニーさんの名前を知っていることにビックリしたようだ。
 そうか、病気の人はあの奥さんの事だったのか。

「チナさん、ちょっとよろしいかしら」
「はい。リン様、何でしょうか」
「実はね、私達は先日までそのコマドリ亭に宿泊していたの」
「え?」
「そしてね、今はここにいないけど私達の仲間が宿の奥さんの治療をしたのよ」
「リン様のお仲間がですか?」
「うん、奥さんはまだ完治はしていないけど、少しずつよくなっているわ」
「リン様、それは本当でしょうか?」
「ええ、本当よ。長く寝込んでいたけどもう大丈夫よ」
「リン様、ありがとうございます!」

 チナさんはリン様からの情報にビックリして、そしていとこのお母さんが良くなっていると聞くと号泣していた。
 チナさんの背中を撫でるマールさんもローゼさんも、目尻に涙を浮かべている。
 きっと心配でたまらなかったのだろうな。
 今は気持ちが落ち着くまで、ゆっくりさせてあげよう。

 やがて馬車は目的の場所に到着。
 チナさんも泣き止んで、赤い目だけど笑顔になっている。
 気持ちも少し軽くなったんだろうな。

「ララとリリとレイアとドラコは、午前中はチナさんと一緒に冒険者のお勉強ね。昼食を食べたら、みんなで薬草取りをしようね」
「ララ頑張る」
「リリもお勉強頑張る」
「レイアも」
「うー、勉強嫌だな」
「じゃあ、ドラコはお留守番だ」
「ううー、じぁあ勉強する」

 ドラコは本当に勉強嫌いなんだな。
 どこかで勉強教えないとだめだ。
 それに対してララとリリとレイアは、既に冒険者の手引きを出して準備万端だ。

「それでは、妾達は行ってくるのじゃ」
「カゴは足りそうですか?」
「多めに持っておる、心配無用じゃ」

 ビアンカ殿下達は準備が終わったので、森の中に入っていった。
 ちなみに周囲の警戒はエステル殿下とシルとベリルでやるそうだ。

 さて、こちらも始めよう。
 街道の脇の草むらにシートを敷いて、みんなで座る。

「そういえば、ドラコはどんな戦闘をするんだ?」
「僕は格闘だよ」

 ドラコは体術で攻撃するタイプらしい。
 どうも武器を持っていないそうなので、鉤爪とかを用意した方がいいな。
 しかしこれは、ミケの格闘戦術の相手にピッタリだな。
 ちなみにチナさんが獣人では珍しい魔法使いで、マールさんが短刀を使うシーフでローゼさんが盾持ちの剣士だ。
 チームとしては中々にバランスが取れている。

「一概に冒険者といっても様々なタイプがある。薬草とか鉱石を採取する人に、魔物を討伐する人に護衛専門の人もいるよ」
「サトーは?」
「うーん、俺達はなんでも屋だね。今日みたいに薬草取りもするし、魔物も倒す。時には護衛もするよ」
「おー、凄い!」

 ドラコから質問があったけど、俺達は本当に何でもやっているな。
 薬草取りなら、タラちゃんとかのお陰でかなり自信あるけど。

「どんな依頼をこなすにしても、事前準備は大切だ。今日は以前に来たことがあるから大丈夫だけど、特に初めて行く場所はその土地の情報や魔物の事等を調べておいた方がいいね。ギルドの窓口でも教えてくれるよ」
「どこのギルドでも大丈夫なんですか?」
「どこの街でもギルドであれば教えてくれるよ」

 初めての薬草取りは、色々調べたな。
 俺も窓口のお姉さんに色々聞いたっけ。

「無理して難しい依頼をしない事も大切だよ。あまりに成果を急ぎすぎても失敗の元だし、依頼内容と実際の内容が違うという事もある。そういう時はギルドに報告しないといけない」

 バスク領ではワース商会が身分を偽って依頼を出していたから、だいぶ問題になったっけ。
 実際に偽装依頼を目にしたから、俺達は依頼を確認するのも慎重になるな。

「あと、どんな依頼をこなす場合でも最悪の事態を想定した方がいい。怪我をしたり、急に食料がなくなったり、野営をすることになったりと。そう考えると、普段持ち歩く荷物は決まってくるよね」
「サトーさん、私たちはチナが回復魔法を使えます」
「でも、もしチナさんの魔力が切れてしまったり、チナさんがいない所で怪我をしたらどうする?」
「それは」
「なので、回復薬に薬草や毒消草などは一通り持っていた方がいい。どの街でも売っている事は多いし、もちろん俺達も持っている」

 ローズさんから質問があったけど、魔法使いに頼りっきりになるのは良くない。
 自分の身はある程度は自分で守らないといけないからね。

「一回ここで休憩しよう。お茶を淹れてあげる」
「すみません、ありがとうございます」
「お、終わった……」
「ドラコ、まだ終わってないぞ」
「えー!」

 若干一名、早くも燃え尽きているな。
 アイテムボックスから魔道具のコンロとやかんを出して、水を入れてお湯にする。
 おやつはなんにしようかな?
 とりあえず果物にしておこう。
 と、そこにビアンカ殿下達が戻ってきた。

「サトーよ、休憩か?」
「はい、詰め込み過ぎは良くないので」
「ははは、一名頭を使いすぎて煙が出てそうじゃ」
「うー、ビアンカちゃんの意地悪」

 ビアンカ殿下もドラコにツッコミを入れていたが、今のドラコは大の字で寝ており誰にでも分かりやすいくらいに疲れていた。

「まあまあ、適度に休む事は大事ですよ」
「そうそう、ずっと続けるとパフォーマンスが落ちるしね」

 そこにリンさんとエステル殿下も助言を出していた。
 みんなの分も含めてお茶の用意をする。

「ララちゃん、チナお姉ちゃん。お兄ちゃんの説明は分かった?」

 ミケ、その聞き方は俺に対して失礼だぞ。
 ララはよく分かっていない様だが、チナさんは俺の言いたいことが分かったのか苦笑している。

「お兄ちゃんの説明わかりやすかったよ」
「そうですね、実例を混ぜてくれたので理解しやすかったです」

 ほら、ちゃんと理解してくれているぞ。

「それよりもお腹すいちゃったよ」

 おいドラコ、もう腹が減ったのか。燃費が悪いな。
 そして寝ながらゴロゴロしない。チャイナドレスの裾がめくれ上がって、パンツ丸見えだぞ。

「お兄ちゃん、ミケもお腹すいた」
「ララも」
「リリも」
「仕方ない、リンさんもチナさんも早いですが昼食でいいですか?」
「はい、お願いします」
「あの、手伝います」
「勉強で疲れていると思うので、休んでていいですよ」
「じゃあ、私が手伝いますね」
「妾も手伝うとするか」
「レイアもお手伝いする」

 ということで、リンさんとビアンカ殿下とレイアが手伝ってくれることに。
 ちなみにエステル殿下は、子ども達とチナさんに混じっておしゃべりをしている。料理は苦手って言っていたしな。
 そんなに手の込んだ料理は作らないで、ホットドックもどきとスープに果物をカットしたもの。
 それでもみんな美味しいと言ってくれた。
 
「今日は余裕があるけど、普段は出来合いのものだったりするからね」
「部隊だとパンと干し肉とか、本当にあるから。あれ固くて不味いんだよね」
「なんとなく想像できます」

 エステル殿下が苦笑して部隊の食事の事を話してくれたけど、硬いパンに干し肉なんて俺でも士気が下がりそうだよ。

「まあ、今日は料理長がいないしこのくらいで勘弁してください」
「スラタロウの料理は半端なく美味しいからね」
「え、今日の料理でも十分美味しいですけど」
「うちの料理長の料理は美味しいよ。独創的だし王城の料理長よりも上手い気がする」
「そんなに凄いんですか」

 チナさんがびっくりしているけど、確かにスラタロウの料理はうまいからな。
 エステル殿下もそうだけど、ビアンカ殿下も絶賛しているし。
 王城の料理長がどんなかは知らないけど、スラタロウを超える料理人は中々いないだろうな。

 午後はみんなで薬草取りを行うことにする。
 その前に改めて従魔の紹介をしたが、流石に獣人だけあってアルケニーには驚いていた。
 そんなに怖くないよ。薬草取りの名人だし。
 子ども達はミケとタラちゃんのグループに混じり、チナさんたちはリンさんとビアンカ殿下のグループに混じっている。
 ポチとフランソワがどれが薬草か丁寧に教えていて、子ども達もチナさん達も勉強になっているようだ。
 周囲の警戒は、俺とエステル殿下とローズさんに、シルとベリル。
 一応ベリルは真面目に警戒をしているようだ。さっきまで子ども達やチナさん達にモフモフにされていたが。

「ローズさん、前の茂みから魔物が現れるよ」
「はい!」
「ベリル、攻撃を。その後にローズさんがトドメをさして」
「ウォン」

 前の茂みから蛇型の魔物が出たので、ベリルに攻撃をさせて弱った所をローズさんがトドメをさす。
 攻撃もある程度しっかりできているし、盾の使い方も問題ないな。
 獣人の特性も生かしているし、しっかり経験を積めばいい剣士になりそうだ。

「お兄ちゃん、薬草しまって」
「はいはい、次のカゴだよ」
「妾にも新しいのを」

 そして人数が増えたので、一気に薬草の採取量が増えていく。
 この分なら、チナさんたちが採ったものはそのままギルドに納品してもよさそうだ。

「ちなみに薬草はいくら採っても大丈夫だよ。明日には生えているから」
「先ほど手引きを見ましたが、本当なんですね」

 この世界の七不思議になりそうだ。
 いくら採取しても、次の日には普通に生えている薬草の謎。

「ポチにフランソワ。採っていい薬草と採ってはダメなものも一緒に教えてあげてね」
「わかりました」
「お任せください」

 薬草はスペシャリストに教えてもらうのが一番だ。
 俺には細かい事は分からん。
 流石に採っていい薬草くらいなら分かるけどね。

 日が傾き始めたので、今日はこの辺にしておこう。

「よし、今日はこの辺で終わりにしよう」
「サトー、まだ明るいよ」
「はあ、ドラコは補習だな」
「何で!」
「これから街に帰る時間、ギルドでの手続きする時間。チナさん達は宿なんだから、宿に帰る時間も考えるの」

 はあ、トラコは暫くは勉強だな。
 もしこのまま一人で冒険していたら、大変なことになっていたぞ。

「明日は朝から薬草取りをしようかと思ったけど、ドラコはまた朝から勉強だな」
「そんなー!」
「だったら帰りの馬車の中で、少しでも冊子を読んでおけ。みんなもう読んでいるぞ」
「うー、読書嫌い」

 子ども達とチナさんは馬車に乗り込んで、早速冊子を読んでいる。
 ドラコも少しはみんなを見習って欲しいよ。

「サトーよ、中々手のかかる子どもじゃのう」
「はあ、ミケも素直だったので中々手強いですよ」

 馬車を走らせながら、ビアンカ殿下と話をしている。
 ドラコが一人前の冒険者になるには、まだまだ時間がかかりそうだ。

「サトーさん、明日もご一緒させて下さい」
「明日も薬草取りの予定ですが良いですか?」
「はい、よろしくおねがいします」

 ということで、明日もチナさん達と一緒に活動することに。
 明日朝にギルドで集まる事で、チナさんと別れた。
 ちなみに子ども達は初めての依頼をこなしてお金が入り、とっても嬉しそうだ。

「今日のペースなら、結構な量の薬草が取れそうです」
「不測の事態がなければ、予定通りに行きそうですね」

 お屋敷に向かいながらリンさんと話していたけど、王都に向かう街道は安全だし今の所は問題ないだろうな。
 
 ちなみにお風呂に入って夕食を食べたら、子ども達は直ぐに夢の中へ。
 ララとリリとレイアは朝早く起きたことが原因で、ドラコは勉強していた事が原因。
 ドラコは馬車の中で冊子を読んでいて、ギルドに着いた時には目をまわしていた。頭の処理能力を超えたんだろう。
 さて、俺も寝るとしよう。
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