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第五章 ランドルフ伯爵編

第百十二話 臨戦体制に

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「お兄ちゃん、サリーお姉ちゃんはくるかな?」
「うーん、どうだろう。戦闘になるからこないかもしれないね」
「そっか」
「この戦闘が終わったら一息つくはずだから、そしたら会えるよ」

 その日の夜、久々にバルガス様と会えるということで、ミケはサリー様に会えると思っていた。
 俺は今回は戦闘だから、一緒にこないと思っていたが。

「お兄ちゃん、サリーお姉ちゃんって誰?」
「バルガス領にいたときに、お世話になった家の娘さんだよ」
「そうなんだ、ララも会いたいな」
「リリも、リリも会いたい」
「レイアも」

 ララ達も新しい人に会えると思っていた。
 今度、子ども達を連れてバルガス領に行かないと。
 因みにドラコとベリルは既に夢の中。グーグーいびきをかいて寝ている。

 次の日の昼過ぎに、バルガス卿が難民と兵を連れてブルーノ侯爵領にやってきた。
 これで各地に散らばったブルーノ侯爵領の難民は、半分以上帰還できただろう。
 後は土砂崩れとか起きた地域だから、ある程度復興させないと元通りには住めないな。
 久々にあったバルガス様は、相変わらずのダンディだった。

「アルス王子、軍務卿。バルガス馳せ参じました」
「バルガス卿、よく参られた。難民もこれで一息だな」
「サトー殿やビアンカ殿下のおかげて、難民キャンプも問題なく運営ができました」

 アルス王子とガッチリ握手するバルガス卿の後ろに、想像しなかった人がいた。

「サリーお姉ちゃん!」
「ミケちゃん!」

 サリー様が、バルガス卿と一緒についてきたみたいだ。戦闘になるから、てっきり領地にいると思っていた。
 サリー様とミケは、久々に会えてお互いに手を取って喜んでいる。
 と、ここでバルガス様が俺に話しかけてきた。

「サトー殿、相変わらずの大活躍だな。我が領も含めて、既に三つの領を救った事になる」
「いえいえ、これも冒険者を始める時にバルガス様に会えた事から始まりましたから」
「ゴブリンの大群に襲われた所を助けてもらってな。我が領もサトー殿が冒険者を始めたところということで、ここのところ沢山の冒険者が集まっているぞ」
「それは本当ですか?」
「ビルゴの件もあって、ギルドも色々新しい事を始めておる。物流も良くなり、いい事だらけだよ」

 バルガス様はにこやかに俺に話してくれた。
 相変わらずとてもいい人だ。最初に出会った貴族がバルガス様で、本当に良かったよ。
 ここで、ミケとサリー様がこちらにやってきた。
 サリー様をよく見ると、あのとき助けたサンダーホークの雛が肩にとまっている。随分と大きくなったな。

「サトーお兄ちゃん。この子もやっと従魔登録できたんだよ」
「へえ、それは良かった。名前は何てつけたの?」
「ホークちゃんだよ。サンダーホークだからホークってつけたの」

 サリー様は嬉しそうにホークの頭を撫でていた。
 良かった、まともな名前で。
 ミケだったら、ピカ○ュウってつけそうだ。

「お兄ちゃん。サリーお姉ちゃんに、弟か妹ができるんだって」
「サリー、とっても楽しみなの!」
「本当? バルガス様、おめでとうございます」
「はは、少し歳の離れた子だけどな。サトー殿がバスク領にいって直ぐに分かりましてな」

 これはおめでたい。
 バルガス様も顔がデレデレだ。
 子どもが産まれたら、贈り物をしないと。

 その後、応接室で今後の作戦について話し合うことに。
 サリー様は、ララ達と他の難民の子ども達と一緒にいるという。
 バルガス様が連れてきた難民は、さっそく文官候補生が対応にあたっている。
 どうもここから近いところの村らしいので、今日中に村に送り届けるとの事だ。

「バルガス様。お久しぶりにございます。こうして無事に再開できた事を嬉しく思います」
「私からも礼を言わせてくれ。こうして娘に再会できたのも、ひとえにバルガス卿のおかげだ」
「こちらは貴族として当然の事をしたまでです。ブルーノ卿も無事でこうして親子の再会ができた事を、私も嬉しく思います」

 ルキアさんとルキアさんのお父さんがバルガス様に感謝しているが、当たり前の事をしたとさらりというバルガス様。流石バルガス様だ、相変わらずのダンディだ。

「アルス王子、バスク卿もいつでも出撃できると言っております。難民の数が大幅に減ったことで、兵力に余裕が出たとの事です」
「それはありがたい。この先の事も含めて、ここ一帯の治安の安定は急務だからな」
「人神教国でございますね。我が領には幸いとしてワース商会も人神教会もありませんが、闇ギルドの襲撃は実際に起こりました。我が領とて他人事ではございません」
「軍部でも、人神教を信仰する者の発言が目立ってきた。貴族主義に人間主義を高らかに叫ぶ者もいるが、今回の件が片付けば一気に捕縛できよう。もちろん今回の部隊員は、問題のない者ばかりだ」

 バルガス様と軍務卿が言うとおりに、ランドルフ伯爵の件が片付いたらそう遠くない未来に元凶の人神教国の件がやってくる。
 既に閣僚や王族は色々動いているらしく、この件が片付けば色々な所で動きがあるだろう。

「既にバスク領で保護した子ども達のおかげで、王城内より複数の人神教国の間者を捕まえる事ができた。問題のある貴族の割り出しも完了し、調査も行っている」
「俺はこの件が片付いたら、人神教国から何かしらのアクションがあると思います」
「私もそう思う。そのために今回派遣された部隊は、制圧後のランドルフ伯爵領に暫く駐屯することになるだろう」
「人神教国に睨みをきかすためですね」

 ランドルフ伯爵領への対応は、これからの対応の布石にもなる。
 となると、ほぼランドルフ伯爵は御家断絶になるだろうな。

「明日朝に軍務卿とバスク領に行く一行が出発したら、こちらもランドルフ伯爵に対して動く。王命での領内調査を送り、回答がない場合は三日後の正午に作戦を開始する」
「でも闇ギルドのすることですから、期限前に攻撃を仕掛けてくる可能性がありますよね」
「その可能は十分にありえる。なので、バスク領に行くリーフ達にはこのあと直ぐに出発してもらいたい。護衛にガルフとマルクもつける」
「うーん、危険が伴いますけど仕方無いですね」
「ガルフとマルクには制御の腕輪を外してもらい、いつでもフル戦闘が可能にしてもらう」

 うちの馬なら一頭でも十分に一日以内でバスク領へ着けるけど、これが普通の部隊ならどんなに早くても一日半はかかる。
 あ、ならこういう作戦はどうだろうか。

「アルス王子、今回二つの馬車を用意してリーフ達と併せて軍務卿やヴィル様を一緒に送ります。それなら今日中に主要な方はバスク領へ送り届ける事ができます」
「ふむ、あの馬ならそれも可能か。サトー、馬は一頭でもブルーノ侯爵領に戻ってこれるか?」
「問題ありません。現に街道の道中なら往復した事があります」
「なら問題ないな。軍務卿、悪いが直ぐに出立はできるか?」
「いつでも可能です。しかしそれ程速く走る馬ですか。軍にも欲しいですな」
「速いだけでなく、相当に強いぞ。バスク領でオークを蹴散らしたのを見たときは、流石に私でも驚いたよ」
「なんと、そのような強さも兼ね備えているとは。サトーよ、後でこの件も話をしよう」

 バトルジャンキーの軍務卿にとっては、これだけの強さの馬は是非欲しいのだろう。
 でも、この馬は作戦完了までのレンタルだから、後でバルガス様に相談しないと。

 ということで、急遽リーフとドラコとベリルにホワイトとショコラはバスク領に向かうことに。
 二台の馬車でガルフさんとマルクさんが御者を務め、一緒にバスク領に手伝いに行く人も乗っていく。
 軍務卿とヴィル様の馬車に一般人が乗ることになったが、軍務卿は全く気にしていなかった。
 因みにあのうさぎ獣人の女の子もバスク領に行くらしく、軍務卿と同じ馬車に乗ることになった。
 道中仲良くやってほしい。

「リーフ、後は頼んだよ」
「任せてー、まあ馬もいるし余程の戦力じゃなきゃ相手にならないよー」
「そうだといいんだけどね、ドラコも頑張れよ」
「うん、サトー行ってくるよ」

 こうして強行軍だけど、リーフや軍務卿は急ぎバスク領へ向かった。
 アルス王子曰く、ランドルフ伯爵領に手紙を出すのは予定通りに明日朝。飛龍部隊も今日中にブルーノ侯爵領に到着するという。

「エステル殿下、ビアンカ殿下、リンさん。ことが事だけに、こちらも直ぐに動けるようにしておきましょう」
「サトー、その辺はもう大丈夫だよ」
「妾達は今出撃となってもいけるのじゃ」
「だから心配しないで下さいね」

 流石の三人だ。恐らくオリガさんとマリリさんも大丈夫だろう。

「ミケ、準備はしっかりとね」
「お兄ちゃん、もう大丈夫だよ!」

 ミケの方も何時でもいけるのは助かるな。

「サトーお兄ちゃん。サリーも今回はお手伝いするんだ。これでも聖魔法の練習したんだから」
「ありがとうね。でもお父さんやルキアさんの言うことをちゃんと聞くんだよ」
「ララも大丈夫」
「リリも」
「レイアも」
「みんなもルキアさんの言うことを聞くんだよ」
「「「はーい」」」

 サリー様とララとリリとレイアは、随分と仲良くなったみたいだ。
 まだ子どもだから前線には出せないけど、今回は一緒に頑張って貰わないとな。
 
 街中も慌ただしくなってきた。明日にも戦闘があるかもしれないということで、避難の確認と自治組織の巡回が始まった。
 モルガンさんを筆頭に色々動いているので、今の所は混乱もみられない。
 
 こうして、ランドルフ伯爵領への対応が事実上開始されたのであった。
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