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第六章 叙爵と極秘作戦

第百六十一話 獣人部隊の活躍と新しい家族

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「サトー、申し訳ないが捕えた襲撃犯を王都に送ってくれないか?」

 翌日朝、軍務卿が俺に護送の依頼をしてきた。
 主犯のゴレス侯爵達は既に王都にいるので、襲撃犯がギース伯爵領にいても意味はない。
 ただ、襲撃犯の人数が多いので、最初に俺がスラタロウとショコラを一緒に連れて行き、戻ったら手分けして護送することにする。
 ということで、スラタロウとショコラと最初に護送する襲撃犯をつれて指定された飛龍の発着所にワープすると、疲れてへたり込んでいたエステル殿下とフローラ様が待っていた。
 エステル殿下の手にはほうきがあったので、大体何があったかは理解できた。

「サトーさん、ご苦労様です。話は聞いていますから、銃撃犯は置いていって下さい」
「分かりました。あの、エステル殿下は……」
「最後の護送の帰りに連れて帰って下さい。不出来な娘で申し訳ないけど、今後もよろしくね」
「あ、はい……」

 フローラ様は、俺に笑顔で言うだけ言ってスタスタと帰っていった。
 それと入れ替わりに入ってきた騎士に、襲撃犯を引き渡していく。
 その間も、エステル殿下は無表情でほうきで床をはいていた。
 うーん、流石に直ぐに連れて帰らせないと。
 俺はスラタロウとショコラで手分けして襲撃犯を連れてきて、帰りにエステル殿下を連れて帰った。
 エステル殿下に生活魔法と聖魔法を使って綺麗にしても、ぼーっとしたまんまだった。
 とりあえず救護テントに連れて行き、寝させることに。
 直ぐに寝息をたてていたが、手の動きはほうきをはいているそのものだ。
 一体、どれだけ罰掃除をさせられたのだろう。
 エステル殿下はこのまま寝かせておこう。

 戻ると、色々な人が手分けして倉庫から一軒屋や旅館に荷物を運んでいた。
 ペンキが乾いたので、住めるように環境を整えていた。
 うーん、これだけ人手があれば俺は不要だな。
 バタバタしている倉庫の片隅で、ダニエル様と書類整理を続ける。

「ようやく住む場所が確保できますね」
「ようやくって、異常な程早いですよ。数ヶ月はテント生活を覚悟していましたから」
  
 苦笑しているダニエル様の横では、昨日の面接で採用された人が早速働いていた。
 地元出身でギース伯爵領の事をよく知っているので、ダニエル様も助かるという。
 ちなみに執務室は、このまま倉庫を流用するという。
 スペースがあくので、パーティションで区切って会議室にもするそうだ。
 まだ荷物が残っているけど、使えるものは使ってほしい。

 お昼になったので仕事を中断して庭に出ると、お屋敷が何かおかしい。
 既に屋根がなくて、二階の一部もないぞ。
 そして、庭には瓦とかが部品ごとに綺麗に並べられている。
 一緒に食事をしているビアンカ殿下に、色々聞いてみた。

「ビアンカ殿下、いくらなんでも解体する速度が早くないですか?」
「妾もそう思う。しかもスラタロウと一部の獣人部隊でやっておる」
「スラタロウはともかくとして、獣人部隊も工兵として優秀なのでは?」
「どうも仕事がない時に、大工やら色々な事をやっていたらしいのう。何人かは、早速軍務卿が国境の方へ連れて行ったぞ」
「そりゃ軍務卿にとっては、喉から手が出るほど欲しい人材だろう」
「しかもブルーノ侯爵領から半日で来ることができる。部隊が帰った後も、ルキアに頼んで手伝って貰うと言っておったのう」

 想像以上に獣人部隊って優秀なのでは?
 芸は身を助けるというが、本当に多方面で役にたっている。
 そして、獣人部隊を見出したルキアさんの評価も上がるわけだ。
 
 夕方になると、ほぼ屋敷の解体は終わっていた。
 細かいものや地下室もあるので、明日も作業を続けるという。
 獣人部隊の人に色々聞いてみた。

「大変だなんてとんでもねえ。逆に俺らが役に立っているのが嬉しいね」
「ちゃんと給料も貰っているし、軍務卿からは国からも手当が出るという」
「今までの苦労を考えると、屁でもねえ。その日食べるのもない時もあったし」
「今じゃ、嫁と子どもに土産を買って帰れる。ルキアのアネキには、本当に感謝しているよ」

 ガハハと笑いながら色々話してくれる。
 スラムの人ともうまく交渉できているみたいだし、このまま順調に人と獣人の調和が進んでいけばいいな。

「サトー様、お話中失礼します」
「いえ。大丈夫ですよ、ヘレーネ様」

 ここで、ヘレーネ様が一人の少女を連れてきた。
 この子は確か魔獣に襲われた時に、全身の調子が悪くて一緒に治した人だ。
 まさか俺の治療が失敗した?

「もしかして、治療で何かありましたか?」
「いえ、治療は完璧でした。しかも元々患っていた病も完治しています」

 治療ではなく別の事らしい。

「この子は元々重い病で、両親にも見捨てられていたとの事です。教会で面倒をみていましたが、正直明日をもわからぬ命でした」
  
 それが、魔獣に襲われて重傷になったところで俺が元の病気を治してしまったと。
 治療した時に感じた全身の悪い所は、そこまでの病だったんだ。

「お願いします。何でもしますので、恩返しをさせて下さい」

 女の子は突然俺に頭を下げてきた。
 既に両親に見放されていて他に行くあてもないので、少女も必死なんだろう。
 
「いいんじゃない? ララちゃん達と同じだと思えば」
「そうですね。こう言ってはなんですが、一種のノブレスオブリージュと思えば」

 そこにようやく回復したエステル殿下とリンさんがやってきて、問題ないと言ってきた。
 ララ達と同じだと思えば、特に構える事はないな。
 ミケも話に気がついてこちらにやってきた。

「お兄ちゃん、そのお姉ちゃんが新しい家族になるの?」
「そうだね、家族になるね」
「わーい。じゃあ、あっちで皆でお話しよう!」
「えっ?」

 少女は、ミケに手を引かれてあっという間にララ達の所に連れて行った。
 ララ達の所には、アメリア様や弟君達もいる。
 コミュニケーション取るには、ちょうどいいな。

「サトー様、すみません。宜しくお願いします」
「ミケちゃんが認めたなら大丈夫でしょう」
「そうですね。意外と悪い人には容赦がないですし」

 新たな家族になった少女を囲いながら、ミケ達は話に花を咲かせていた。
 俺達はその様子を微笑ましく思いながら、遠くから見つめていた。
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