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第七章 ゴレス侯爵領

第百八十三話 判決と暴走

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「わくわく」
「レイア、わくわくするな。不謹慎じゃ」
「えー」
「あはは……」

 何故かウキウキのレイアに、苦笑する俺とビアンカ殿下とエステル。
 この一週間も、とにかく忙しかった。
 もう人手が全然足りなくて、炊き出しの時はマシュー君やフローレンスも借り出していた。
 マシュー君達は、目を離すとニー達と一緒にこそ泥を捕まえていたりと、とにかく動きたい放題。
 おかげでゴレス領の事は、ほぼスラタロウにお任せ状態。
 計画はできているし、文官も街の人も協力してくれるから問題ないないけど、後でスラタロウに感謝しないといけない。
 街の巡回部隊も忙しいみたいで、街中を動き回っていた。

 ということで、今日はいよいよタヌキ侯爵の裁判。
 先に行われたハゲ伯爵の裁判は、ハゲ伯爵が観念したのかあっさりと終わったらしい。
 結果は勿論死罪にお家取潰であったけど。
 他にも数人の死罪とお家取潰が決まり、多くの家で当主の教会送りに強制当主交代となった。
 ちなみに教会送りとは名ばかりで、実際には王国の南にある孤島の刑務所で終生過ごすという。
 そして強制労働も科せられるので、貴族は殆ど数年以内に天に召されるという。
 さらに高額な罰金も言い渡されたので、残された家は慎ましく真面目に暮らしてほしい。

 そして今回の事件の主犯格である、タヌキ侯爵の裁判が始まった。
 他の家族は教会送りが決定しているので、これが最後の判決言い渡しになる。
 俺は初めて裁判室に入ったが、国王の座る席と被告席は離れており、更に高い壁で遮られている。
 被告席の周りは多くの騎士が固めていて、万が一の事が無いようにしてある。

 そんな中を陛下と閣僚が入ってきて、被告席に囚人服姿のタヌキ侯爵が連れられてきた。
 後ろ手に縛られていて、両脇に加えて後ろにも二人の合計四名の騎士がタヌキ侯爵を囲んでいた。
 他の被告と違いかなり反抗的ということなので、念には念をとの事らしい。

「被告、ロンバード侯爵。面をあげよ」

 宰相が声をかけてもタヌキ侯爵は顔をあげないので、騎士によって無理やり顔をあげさせられた。
 ぎりっと歯を食いしばって、陛下を睨みつけている。

「被告、ロンバード侯爵に対しての罪状を読み上げる。集団犯罪罪で求刑死刑、毒物取締違反で求刑死刑、公衆衛生管理違反で求刑死刑、闇取引違反で求刑死刑、襲撃罪で求刑無期懲役、謁見不敬罪で求刑無期懲役、器物損壊罪で求刑有期刑、暴行罪で求刑有期刑。以上です」

 内務卿が罪状を読み上げた。
 他にも色々あるけど、確実なものだけにしたそうだ。
 それでも死刑案件四つって凄いな。

「続いて、捜索結果の説明をおこなう。ロンバード侯爵邸にて発見された毒物と、王城並びに貴族邸宅にて押収された毒物は、同一のものと断定された。また、闇ギルドの取引書類に残されていたサインは、筆跡鑑定の結果ロンバード侯爵の物と断定された。公衆衛生管理違反や謁見不敬罪に器物損壊罪、並びに暴行罪は現行犯の為に説明不要である」

 軍務卿が捜査結果を読み上げた。あのゴミ屋敷に控室、マチルダへの暴行は説明不要だな。
 毒物鑑定と筆跡鑑定の結果が出たなら、もう罪状は確定だろう。

「被告、ロンバード侯爵。何か言うことはあるか?」
  
 宰相が、タヌキ侯爵に弁解の機会を与えた。
 そうしたら、タヌキ侯爵のマシンガントークが止まらない。

「儂は貴族の中の貴族だ! 何故この程度の事で罰せられなければならぬ。貴族を罰することなどできん。屋敷や王城を汚して何が悪いんだ! 王族だろうが他の貴族だろうが、使えない奴なんて殺されて当然だろう。それは孫だって当然だ。女なのだから大人しくハイハイ言っていれば良いものを、余計な知識を付けやがって!」

 うわあ、最低な責任転嫁だな。自分の事を、恐らく神かなにかだと勘違いしているのかな。
 一気に喋ったからか、ゼエゼエいって汗まみれでむせている。
 そして一息ついて更に喋りだした。

「儂に逆らうのなら、この国なんて滅んでしまえばよい。今頃、市中やゴレス領は火の海だろう」

 くくく、とイヤミな笑いをしているが、そのくらいお見通しです。
 それを防ぐ為に、色々手を打っていたのだから。

「その件について、ロンバード侯爵に教えよう。市中に怪しい集団がおったが、既にリンドウ子爵率いる部隊によって捕らえられている。ゴレス領も同様じゃ。既に今朝に全て捕らえた」
「なっ……!」

 タヌキ侯爵はとってもびっくりしていたけど、そんなに驚く事かな?
 確かに今朝方王都でもゴレス領でも火の手が上がりかけたが、全て制圧された。
 ゴレス領に至っては、またしても怒りの主婦軍団が活躍していたし。
 王都でも、今は重点的に警備をしている。

「ゴレス侯爵、国家反逆罪の現行犯だな。判決を言い渡す」

 あーあ、ここで最高刑の一つを自供しちゃったから、更に罪状が増えちゃった。
 本当にどうしょうもない馬鹿だなあ。
 隣りにいるエステルもレイアも、勿論陛下も閣僚もビアンカ殿下も呆れていた。

「国家反逆罪適用の為、市中引き回しを行い王都広場にて公開処刑の上、さらし首とする。お家取潰の上、全ての財産を没収とする」
「……!」

 タヌキ侯爵は罪状の内容に目を見開いたけど、どう考えてもそれだけの事をやっていると思うけどな。

「……けるな」

 おや、タヌキ侯爵が歯ぎしりをしたと思ったら様子がおかしいぞ。
 前にもこんな光景あったぞ。

「伏せろー!」
「ふざけるナー!!」

 タヌキ侯爵が急に立ち上がり、魔獣化した。
 通常の魔獣よりも三倍は大きいぞ。
 捕まえようとした騎士も、吹き飛ばされている。

「ゥヘブヘ、全テ壊しテやル」

 げへげへと不気味に笑うタヌキ侯爵が、大きく口をあけた。
 いかん、何かをするつもりかわからんがとにかくヤバい気がする。
 俺は陛下や閣僚達の前に立ち、急いで魔法障壁を厚めに展開する。

「ゥエバ!」

 おいおい、タヌキ侯爵が口から光線の様な魔法を放った。
 厚めに魔法障壁を張っていたから大丈夫だったけど、普通の魔法使いでは魔法障壁を破られたぞ。

「ぐ、ぼ、ガ……」

 タヌキ侯爵は一分程怪獣みたいに口から魔法を放っていたけど、急に体が縮んでいき倒れてた。
 慌てて騎士が駆けつけるが、既に死んでいるという。
 あ、壁に打ち付けられた騎士も搬送されているし、怪我は大丈夫そうだ。

「直ぐに研究所に死体をまわせ。また、発表があるまで箝口令をしく」
「「はっ」」

 陛下がすぐさま命令を出し、タヌキ侯爵の死体は軍の研究所に運ばれた。
 箝口令がしかれたが、タヌキ侯爵がやらかした事はそれだけの内容だろう。

「閣僚にエステルにビアンカにサトー、レイアもだな。この後で緊急会議だ」

 陛下はそう言い残すと、直ぐに動き始めた。
 俺達もその後に続いた。
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