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第八章 ドワーフ自治領

第百八十九話 サザンレイク侯爵の営業トーク

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 お屋敷について面会の手続きを取ると、直ぐに応接室に通された。
 門番さんに王女と伯爵と男爵が会いに来たと言ったら、慌ててお屋敷に走っていった。
 余計な仕事を増やしてすみません。
 冒険者の服装だったのでそれなりの服に着替えたのだが、マチルダとレイアはともかくとしてビアンカ殿下とドラコまで俺の前で堂々と着替えている。
 いくら親しい仲とはいえ、もう少し気を使ってほしい。

 かちゃ。

「ビアンカお姉ちゃんだ!」
「ルーナか、元気じゃったか?」
「うん! ルーナ元気だよ」

 応接室のドアが開いて、小さな女の子がビアンカ殿下に抱きついてきた。
 オレンジ色のショートヘアのこの子が、ウィリアム様の正妻になるルーナ様か。
 とっても明るく活発な女の子で、ウィリアム様繋がりでビアンカ殿下とも知り合いなのだろう。

「おやおや、ルーナはビアンカ殿下に会えて嬉しいのかな?」
「うん! ルーナ、ビアンカお姉ちゃん大好き!」

 応接室に入ってきたサザンレイク侯爵も、孫娘の様子を見て苦笑している。
 ビアンカ殿下は小さい子どもにはとても優しいので、うちの子もよく懐いているよな。
 後で会うということで、ルーナ様はメイドに手を引かれて応接室の外に出ていった。

「すみません、突然お邪魔しまして」
「構わぬよ。陛下からもサトー達は機動力に優れているから、突然現れる事があると言われていてね」
「恐縮です」

 陛下から事前に話がいっていて良かったけど、陛下達も突然現れるからなあ。
 先ずは陛下からの手紙を、サザンレイク侯爵に手渡した。
 サザンレイク侯爵は、受け取った手紙をじっと眺めている。
 そして、紅茶を一口飲んでから話し始めた。

「昨日の話は、簡単にだけど私も聞いている。しかし、実際はこのような内容だったとは。これでは箝口令が出るのも納得だ」
「現場にいた妾も信じがたい光景じゃった。危うく父上と閣僚全てが死ぬところだった」
「恐らく、人神教国はタヌキ侯爵を人体実験に使ったのかと。タヌキ侯爵には本当の効果を知らせずに」
「恐ろしい事だよ。奴らは、人の命を軽く見ている」

 サザンレイク侯爵は、ソファーに寄りかかって目をつぶる。
 想定以上の事が知らされたので、頭の中を整理しているのだろう。

「貴族主義の連中が、内部で権力闘争をしていた可能性があるのじゃ。どうも、トップ二人を蹴落とす事を考えておったようじゃな」
「取り調べの内容を聞いていて、俺も初めて知りました。なので、今回処罰の対象が思ったより少なかったのは、貴族主義の連中でも一部しか動いていなかったということになります」
「その情報は私も掴んでいる。貴族主義の連中でも、中堅どころと領地を持っている奴らは、どうも別の思惑がありそうだ。もしかしたら、自分達の勢力を伸ばすためにタヌキ侯爵のふるい落としを画策し、あえて暴発させた可能性がある」
「何れにせよ、奴らは自己の利益のみを考えているから、周りがどんな被害を受けても気にしない。危険な存在であるのは変わらぬよ」
「だけど、これだけのことをトップがやらかしたので、今は下手に動けないはず。ならば、その間にこちらも力を蓄えておけます」

 お家取潰が数家しかなかったのは、それだけ直接事件に関わったところが少ないと言う結果だ。
 どうも資金協力でとどめたところが多かったらしく、判決も罰金で済んでいる。
 何かと目障りなタヌキ侯爵達をわざと暴発させた可能性もあるが、そこまでの証拠は掴めなかった。
 ただ、余程の蓄財をしていなければ今回の罰金は相当痛いはず。
 暫く大人しくしてくれる事を願うばかりだ。
 とりあえず難しい話はこれでおしまい。

「大きな湖の湖畔に街があって、とても美しいですね」
「我が領地の宝庫だよ。様々な恵みを与えてくれる」
「コテージもあって、沢山の魚がうられていて、休暇でゆっくりしたいと思いました」
「新婚旅行にでもどうだ? サトーの家族が過ごせるコテージを手配するぞ」
「物凄く魅力的な案ですね。検討しておきます」

 中々商売上手な侯爵だ。
 魅力的な提案をしてくる。
 流石中立派のまとめ役だけある。

「今日は他の方はどうされましたか?」
「王都で巡回の任務についています」
「そうですか、残念ですね。せっかく来ていただいたのですから、サザンレイクの食材を堪能頂きたかったのですが」

 あの、そんな言い方をすると反応する人が……

「パパ、皆で食べよう?」

 ああ、外堀を埋められた。
 レイアが俺のズボンを引っ張って見上げてくる。
 サザンレイク侯爵は、ニコニコしてこちらを見ているよ。
 
 ということで連れてきました。

「おさかな美味しいよ!」
「それは良かった。沢山食べてくださいね」
「うん!」

 全員は連れてこられないので、婚約者に爵位持ちに子ども達を連れてきた。
 と言っても、結構な人数だけど。
 ミケを始めとした子ども達は、魚料理を頬張っていた。

「いやー、サザンレイクの景色は素晴らしいね」
「サトーさんと一緒に、コテージに泊まりたいですわ」
「このような光景は、一つの絵のようですわ」

 エステルとリンとフローレンスは、夕日に照らされている湖畔の景色にうっとりしていた。
 
「エステル殿下、新婚旅行に如何ですか?」
「いいね、これは間違いなく候補の一つだよ」

 ああ、サザンレイク侯爵の営業がうまい。
 子ども達は餌付けされているし、婚約者は景色に釘付けになっている。

「皆様、是非ともサザンレイクの魅力を発信して頂ければと」
「いいよ! 王都でもお魚が食べたい!」
「ここに来るまでに幾つかの領地があるから、その領地にもお金を落とせる事になる」

 ミケは食欲で、レイアは経済目的で引き受けると言った。
 どうせ、そこまで広まることはないと思ったが、考えが甘かった。
 知の令嬢お勧めの絶景に、勇者が絶賛した湖の幸の宣伝効果は大きかった。
 何故か聖女が泊まりたいコテージまで宣伝に追加され、夏頃には沢山の王都からの観光客がサザンレイク侯爵領に訪れた。
 経由地も併せて周辺地域の経済効果は大きく、王国も税収が増えて大助かりだった。
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